「1万円の預金」

「1万円の預金」

笑い声の奥で
値踏みされていたのは
誰だったのか

グラスの縁に揺れる
軽い言葉
「一万円でいいからさ」
それは冗談の顔をして
人を切り分ける刃だった

古びた背中は
何も語らず
ただ、静かに
時の重みを纏っていた

翌朝
窓口に差し出されたのは
数字ではなく
積み重ねられた年月と
失われなかった誇り

桁の多さに
凍りついたのは
空気ではない
人を見る目の浅さだった

一万円は
小さな額のはずなのに
あの日の言葉を量るには
あまりにも重い

通帳に刻まれたのは
残高ではなく
問いかけだ

あなたは
誰を見ているのか

肩書きか
数字か
それとも

目の前にいる
ひとりの人間か

そして今日もまた
どこかで
静かに預けられる

信頼という名の
見えない金額が

気づく者だけが
それを受け取る

たった
一万円からでも

24h.ポイント 846pt
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小説 1,641 位 / 219,279件 現代文学 17 位 / 9,163件

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