『凍てつく断崖 ―佐渡・バス事故の真相―』

『凍てつく断崖 ―佐渡・バス事故の真相―』

冬の海は
何も語らない

ただ
砕けたガラスを濡らし
崖下に沈んだ鉄の匂いを
静かに攫っていく

あの日
いつものように走っていた

通院へ向かう老人も
眠そうに窓へ額を寄せた子どもも
観光地図を広げた夫婦も

誰ひとり
終わりへ向かう道だとは
知らなかった

島には
この一本しかない道がある

止まれば暮らせない
走れば壊れていく

誰かが無理をして
誰かが黙り込み
誰かが「仕方ない」と呟いた

その積み重ねの先に
断崖は待っていた

責任は
ひとりの手には収まらない

眠れぬ夜の運転席にも
見て見ぬふりをした会議室にも
数字だけを眺める都会にも

そして
悲劇を消費し続けた
私たちの視線にも

吹雪の夜
海岸線に新しいバスが走る

乗客は少ない

けれど
小さな少女が
震える指で吊革を掴む

もう一度
前へ進むために

凍てついた断崖の先にも
かすかな灯りは残っている

人はきっと
その微かな光を
「希望」と呼ぶのだろう

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