『論破の嫁:お義母様、その理屈は通用しません』

『論破の嫁

—お義母様、その理屈は通用しません—』

湯のみの縁に
指の温度が残る

その向こうで
「常識」という名の声が落ちる

遅い
気が利かない
嫁とはそういうもの

言葉は
繰り返されるほど
事実の顔をする

私はうなずかなかった

ただ
数を並べる

時間
費用
結果

「手伝いではなく
成果で判断を」

静かに置いたその一行で
空気がずれる

---

冷蔵庫の中を覗く手
勝手に開かれる境界

不潔だと指さす声

私は
写真を一枚差し出す

去年の日付
乾いた食材

「基準を、揃えませんか」

言葉は短いほど
逃げ場を失う

---

お金の話になると
声は強くなる

家族だから
当然だから

私は
数字を開く

積み重ねた記録は
誰の味方もしない

ただ
嘘を許さない

---

作法
伝統
しきたり

覚えているふりの手元

私は
一度だけ頭を下げてから言う

「基本に戻りましょうか」

形が崩れる音が
静かに広がる

---

「孫はまだか」

その言葉は
場を凍らせるには十分だった

私は
凍らなかった

確率
統計
原因

「事実は、こちらです」

沈黙は
初めて味方になる

---

見えない場所で
作られる物語

かわいそうな姑
冷たい嫁

私は
何も言わなかった

ただ
記録を並べる

言葉ではなく
現実で

---

裏切りは
声を伴わない

ただ
積み上がる

「家族だから」

その言葉が
一番深く切る

私は
その構造ごと
切り離す

---

「老後は頼むわね」

予約のように
差し出される未来

私は
紙を置く

記録された言葉
積み重なった否定

「関係が成立していません」

それだけで足りる

---

最後の日

涙は
遅れてやってくる

「ごめんなさい」
「許して」

その言葉を
私は測らない

ただ
一つだけ返す

「その前提、誤りです」

---

窓の外
風が動く

何も支配しない空気

私は歩く

勝ったのではない

離れただけ

それだけで

十分だった




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