『「役立たず」と切り捨てた元妻は、国家プロジェクトを統括する天才でした 〜私を捨てたあなたの会社、今日で終わりです〜』

あなたの世界の外で

ねえ、覚えている?
あの夜の、やけに乾いた空気を

「お前は役立たずだ」
そう言い切った声の、わずかな震えを

私はただ、
フライパンの火を止めて
冷めていく匂いの中で
あなたの言葉を受け取った

静かに
とても静かに

——世界が違うのだと
あなたが、先に決めたから

 

三年後

あなたのいる場所は、高くて、明るくて
ガラス越しの街は、ずいぶん小さく見えたでしょう

けれどその足元で
音もなく、崩れていくものに
あなたは気づかなかった

カタカタと刻まれていたはずの秩序が
わずかな綻びから、ほどけていく

ログは途切れ
記録は沈み
責任は、行き場を失う

——ねえ
それは本当に、“突然”だった?

 

私はただ、指を置くだけ

絡まった処理をほどき
重なり合った誤りを分け
見えなかったものに、名前を与える

それだけで、世界は戻る

いいえ

正しくは——
戻ってなどいない

 

あなたが立っていた場所が
初めから、脆かっただけ

 

「助けてくれ」

その言葉を聞いたとき
私は、少しだけ考えた

かつて、同じように
言葉を選びながら立っていた自分を

けれど、もう

私は、あの場所にはいない

 

ねえ、拓海

あなたが切り捨てたのは
私じゃない

あなたが理解しようとしなかった世界と
向き合うことから、逃げただけ

 

だから私は、答える

とても静かに
あの日と同じ温度で

 

「あなたの“世界”には、私は不要でしょうから」

 

その言葉は、今

少しだけ意味を変える

 

あなたの世界は、もう終わる

けれど私の世界は、ここから始まる

 

触れた指先が
新しい構造を描き出す

壊れないものを
誤魔化さないものを
誰かを踏み台にしない未来を

 

その中に、あなたの居場所はない

 

ただ、それだけのこと

 

そしてそれが
すべてだった
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