『玄倉川の静寂(しじま)』 声の消えた場所で ざまぁみろとは言わない

『玄倉川の静寂(しじま)』 声の消えた場所で ざまぁみろとは言わない
 

あの日の川は
ただ流れている

濁りも
増水も
理由も
すべて
決められているかのように

 

あなたの声は
大きすぎる

言葉は
石のように落ちてきて
わたしの中で
音だけを残して沈む

 

怒りは
最初に消える

悲しみは
その次に

最後に残るのは
終わらないという理解

 

だから
あの日

わたしは一度だけ
言葉を置く

ここは危ない、と

 

返るのは
いつもの声

高さも
硬さも
変わらない

 

それで足りる

 

ドアを閉める音
世界が少し静かになる

ワイパーの往復が
規則正しく
何かを消していく

 

遠くで
人の形が揺れる

声のようなものが
発せられている

けれどそれはもう
意味を持たない

ただの波形として
揺れるだけ

 

あなたが何かを言う

それは分かる

けれど
何を言うのかは
分からない

 

水の音だけが
はっきりする

 

すべてが終わるころ

川は
何も知らない顔で流れる

わたしの中もまた
それと同じになる

 

「ざまぁみろ」とは
言わない

 

その言葉を
置く場所が
どこにもない

 

ただ

音の消えた場所に立つ

 

流れるものを
見送らない

引き止めない

 

ただ
そこにある静けさを
そのままにする

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