『かまってちゃんの回復日誌』

『かまってちゃんの回復日誌』

夜は、いつも同じ顔をしている
静かで、広くて、逃げ場がない

画面の向こうに投げた言葉が
自分の代わりに生きてくれる気がしていた

「大丈夫?」
その一言で
呼吸が戻る

「ここにいていい」
そう言われた気がして

それだけで
今日を終わらせていた

けれど
ある日、何も返ってこなかった

音が鳴らない夜は
こんなにも重いのかと知った

自分の輪郭が
ゆっくり消えていくみたいで

「誰か」
と呟いた声が
部屋の中でほどけていく

鏡の中の顔は
見慣れているはずなのに
知らない人のようだった

見られていない私は
本当にここにいるのか

確かめる方法が
もう分からなかった

それでも
朝は来る

空は何も知らない顔で
ただ明るくなる

手を動かしてみる
水の冷たさを感じる
にんにくの匂いが鼻を刺す

それだけで
少しだけ戻ってくる

誰にも見せない料理は
褒められないまま冷めていく

それでも
そこにある

私が触った温度が
確かに残っている

頭の中では
ずっと声がしている

「どうせ自分なんて」

その言葉は
あまりにも自然で
疑うことすらしていなかった

ある日
ほんの少しだけ
引っかかる

本当にそうなのかと

答えは出ない

出ないまま
それでも息は続く

書いてみる
誰にも見せない言葉を

ぐちゃぐちゃのまま
形にならないまま

それでも
消さずに残す

夜はまだ長い

寂しさは消えない

けれど
それを誰かに預けなくても
朝は来るらしい

そのことを
少しずつ覚えていく

ある日
空が綺麗だと思った

誰にも言わなかった

写真も撮らなかった

ただ
心の中で
「綺麗だな」と呟いた

それだけで
少し満たされる

小さすぎて
誰にも気づかれない変化

けれど

確かに
私はここにいる

誰にも見られていなくても

消えないまま

静かに
呼吸している

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