『沈黙の令嬢と偽聖女スパイ――王国崩壊までの十日間』

『沈黙の令嬢と偽聖女スパイ――王国崩壊までの十日間』

一日目、
灯りはやわらかく、祝福の香りが満ちていた。
名を呼ばれ、切り離され、
その瞬間に、すべての歯車が正しく噛み合う。
「……承知いたしました」
言葉は静かに沈み、波紋だけが広がる。

二日目、
机の上から消えるものと、
記憶の中へ沈むもの。
触れれば崩れる構造は、
触れた者の手で完成する。

三日目、
わずかな遅れ。
半拍のずれ。
誰も気づかないほどの歪みが、
確実に積み上がる。

四日目、
最適化という名の削減。
整えられた道は、細く、脆く、
一度断てば戻らない。

五日目、
甘い祈りの裏で、
指先が刻む見えない合図。
言葉にならない声だけが、
正確に届いていく。

六日目、
祭りの光、笑い声、音楽。
そのすべての下で、
同時に始まる崩れ。
まだ誰も、それを祝福と呼んでいる。

七日目、
遅れて訪れる理解。
失われたものの輪郭が、
はじめて形を持つ。
だが、掴むには遅すぎる。

八日目、
逃げ道はすでに地図から消え、
開いているはずの扉は閉じている。
見えなかったものが、
ようやく見える位置に現れる。

九日目、
問いと答えが重なる。
なぜ、ではなく、いつから。
そして、すべてが最初からであったと知る。

十日目、
静かな朝。
音はなく、叫びもなく、
ただ結果だけが残る。
愛と呼ばれたものが、
もっとも効率よく、すべてを終わらせた。

そして、沈黙だけが、
最後まで崩れずに残っている。

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