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第八章

エピローグ

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 季節がいくつも移り変わり、政も顔を変えていた。

 かつて自由派と呼ばれていた貴族たちの党派が、新たな政策を世に打ち出していく。そんな中、王都では、初めての試みが催されることになった。

 『宝飾品の展示会』

 今まで宝飾品は、貴族が持つ物とだけ知られていた。互いの地位を誇示するためのものとして、使われていた。

 だが、様々な思想に寛容な党派の風潮が、職人たちの新たな活動の場を作るべく、展示会を開くことにしたのだ。

 平民にも、それらを手にする機会を持てるようにと。

 記念すべき第一回は、広く知らせるためにも王城を会場とした。

 王国のほぼ中央に位置した壮大な建物。普段は閉じられている門が、期間中のみ大きく開かれ、皆を迎えいれる。

 精巧な紋様のアーチを抜けて、開け放たれた重厚な扉の先は、長い廊下からロング・ギャラリーへと続いていた。

 穹窿きゅうりゅう天井に、壁面は白と金箔張り。椅子やテーブルもチラホラあったが、貴族用とされていた。

 飾られているのは、有名な画家の名画に、いろいろな名品と名高い彫刻や宝飾品だった。品は、近隣諸国からも集められた。これを機に、外交も活性化させようとの思いも込められて。

 展示会場は、初めての試みともあって、連日人が絶えない。休息日ともなれば、床が見えないほど見物客で溢れかえる。

 そんな人混みを避けたある日、一人の男性が会場を訪れた。

 彼は、暗めの服装で中に入っていく。

「……」

 ほどなくして、たどり着いた入り口には、早速と大きな絵画が出迎えた。装飾画家の描いた麗美な天使の絵。遠近法を駆使し、天井近くまで使用するほどの大きさだ。

 そこから順に壁沿いを歩いていく。本物と見紛う果物の絵、美しい街の風景画。途中にある銀製の騎馬像は、今にも動き出しそうだ。

 それらを眺める中、男性が、ふと足を止める。

「…………」

 中央に位置し、もっとも人目に触れるであろう、その場所。そんな場所に置かれれば、相当の品でなければ見劣りするだろう。

 だが、そこに飾られた品は、臆することなく堂々とした輝きを放っていた。

 男性が、説明文の書かれた札の題名部分を読む。

「赤き道標……」

 壁に飾られた銀のチェーン。小さな楕円が連なる銀製の留め具に、繋がる台座。そこには様々な宝石と、エナメル細工の飾り板が、等間隔にはめ込まれていた。

 札にある説明には、あるオペラの場面が再現されているという。

「……」

 二人の騎士が出逢った一人の乙女。彼女を巡って争いが起きる。それを止めるために、神が授けた杯。

 その一つ一つの飾り細工を、説明文に合わせて見ていく。

 緻密な塗りが、場面によっては、大胆な色合いを見せていた。

 けれど男性は、最後の場面で違和感を覚えた。直前までと、色合いが違っていたのだ。

 不思議に思い、札の下部、製作者を見る。そこには、合作を示す内容と二人の名が記されていた。

 一人は、ずいぶん昔に亡くなったと書かれ、その下に引き継いだ者の名が続いている。

 男性は納得し、改めて銀製のチェーンへ目を向けた。

 繊細な飾り板に比べ、やはり最後の物だけ、荒さが目立つ。しかし、何故か目を奪われてしまった。

「……」

 場面下で、授けられた杯を二人の騎士が差し出している。だが乙女は、赤い大きな鳥へと姿を変えていた。

 再び説明を読む。

 騎士たちの争いに心を痛めた乙女は、神に願う。争いの種である自分を消して欲しい、と。

 神は、その心を汲み取り、自由へ導く神へと生まれ変わらせた。

 その化身として、赤い鳥の姿を借り、乙女は空へと飛び立ったのだ。かつての自分と同じように、悩む者たちを導くために。

 男性はそれを読んで、また飾り板に顔を向ける。

 雄々しく羽根を広げたその鳥の胸元に、一つの宝石が煌めいていることに気づいた。

 それは最近、ある地区から採れるようになった宝石だった。

 深い緑色の澄んだ宝石。それは、リーベ・ド・ティアと名付けられたという。

 男性はその煌めきを瞳に宿し、小さく、その製作者の名を呟いた。

「……イルティア……ウェンディーズ」

 直後、後ろから名を呼ぶ声が響いた。反射的に振り返る。そこには軽く手を上げて、彼を女性がいた。

 呼び掛けに、男性が歩き出す。

 直後、入れ替わるようにして、後ろから団体が訪れた。男性がいた場所は、あっという間に人の波に埋め尽くされてしまう。

 そんな人混みから離れていく彼の後ろ姿を……赤い鳥が静かに見守っていた。






                           fin.
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