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その声がいつも魂の叫びでありますように

22、どんどん出てくる、はたらかぬくるま

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 モラルの範囲内で食べれるだけルームのお菓子を食べ、響季達は最初のイベント会場へ向かった。
  まずははたらかないミニカー展だ。

 「デカッ!ちっさ!」

  はたらかないミニカー展。それが行われているイベントホールに足を踏み入れた響季が、両極端の感想を述べる。
  普段はライブなどにも使われるその会場はかなりの広さだったが、そこにあるのはちんまいちんまいミニカー達だ。

 「うわー、すっごい」

  広々とした会場にはサイトで見たような高速サービスエリアや、立体交差、工事現場、建設現場、カーレース場、ガソリンスタンド、コイン洗車場などがジオラマで再現されていた。
  当然ミニカーもその中に組み込まれている。

 「ねえっ、れいちゃんっ。あ、あれ?」

  すごいねえと隣にいるはずの少女に興奮気味に話しかけようとして、響季はその子がいないことに気付く。
  零児は事故現場ジオラマに夢中だった。
  翼の生えたハイパーレスキュー車。 救助作業に邪魔な野次馬や新聞記者を抱えて退けていく、蜘蛛形カー。事故車満載カーキャリア。いまだ回収されてない、ぐしゃぐしゃに大破したミニカー達。
  それらに、トランペットを欲しがる黒人少年ばりに目を奪われていた。

 「適当に見てるよー?」
 「うん」

  そう背中に呼びかけると、こちらも向かずに零児が返事をする。
  やれやれと思いつつも、その方が自分達らしいかと別れて各自好きに見ることにしたが、

 「うわあ、なんじゃこれ」

  鎮座するオブジェに響季が後ずさる。
  巨大なドクターイエローの頭部分だけが飾られていた。
  シュッとしたやつ、ペコーってなってるやつ、すんごいシュッとしてペコーッてなってるやつ、団子っ鼻のやつの4つが車両側をくっつけるようにして十字型に飾られている。
  まるで生首だけを繋げたようで、見様によってはグロテスクだ。

 「なんか目ぇちかちかする」

  中に入っての写真撮影も出来るようだが、真っ黄色のオブジェは目が痛くなり、響季は回避するようにして他のエリアを見て回ると、

 「ほおほお、これは」

  様々な国、年代のミニ戦車が並び、多少のミリオタ魂を刺激するゾーンがあり、ホットウィールなどお父さん世代を刺激するゾーンがあった。 

 「結構はたらいてない?」
 「おわっ、れいちゃん。…せやね」

  スッと響季の後ろから近づき、合流した零児がラインナップを見て言う。
  確かにはたらかない、と言いつつもきちんとはたらいている車が多く、ミニカー展というよりジオラマが主体になっているようにも見える。

 「ああ、あっちか」

  会場内を歩いていた響季が、前方に目当てのものを見つける。
  はたらかないミニカーゾーンもきちんと展開されていた。
  ジオラマではなく、駐車スペースのような小さな区画で。
  夜逃げ専門引っ越し車、カチカチエゲレスパン屋や、カビ臭おしぼりトラック、洗濯物が干されたはしご車、ショベル部分にしろくまがお昼寝しているショベルカーなどがある。
  更にドクロマークの描かれた給食運搬車、屋根部分に悪の戦闘員らしきものが張り付いた幼稚園バス、サッカー選手を乗せて走るリリーフカーなどがあり、

 「まあ、そうなっちゃう感じですよねー」

  地続きで並べられたラインナップを見て響季が言う。
  そこには痛ベンツ、痛ランボルギーニ、痛タンクローリーなどの痛車系が並んでいた。
  今人気なアニメの絵をあしらっただけの、ある種一番展開しやすいジャンルだ。

 「…イベント名先行型イベントとか」
 「そうなのかな」

  零児の言葉に、響季が首をひねりつつも納得する。
  はたらかないくるまというネーミングだけが会議で通り、じゃあと用意したらあまり集まらなかったのでその他のもので穴埋めしたのかもしれない。
  なんだかなと思いながらも響季はそれらを見ていたが、

 「はっ!ヤバイ!買うもの買わなっ!」

  文句をこぼしつつ何時間居ても、眺めていても飽きそうにないが、実際はそうも言ってられない。
  買いたいものを、声優ラジオ番組が作ったミニラッピングバスを買って次のイベントに移動しなくてはならないのだ。

 「販売コーナーは…、あ、あれか。デカっ!」

  会場の一画には番号とアルファベットが振られた海外のスーパーみたいな背の高い棚がいくつもあり、そこに無数のミニカーが並べられ、販売されていた。
  海外サイズの大きめなプラスチックの買い物かごと、それを載せるためのこれまた大きなカートが、どうぞ大人買いしてくださいとばかりに用意されている。
  圧巻とも言えるそのスケールに響季がぼけっと見ていると、

 「あっちもすごい」

  零児が別方向を指差す。
  そこにも大きな棚がいくつも並べられ、こちらは図書館の書棚みたいにキャスター付きの梯子が設置されている。
  大人が夢中でその梯子をガラガラさせ、欲しいミニカーを次々カゴに入れていた。
  こんな無数のミニカーの中から一台を探すとなると中々大変だ。

 「この中から探すのかぁ」

  そう言って響季が目当てのミニラッピングバスを探すが、

 「うお」

  それはすぐに見つかった。
  わざわざ別コーナーが設けられ、恐ろしいほどの数のミニラッピングバスがピラミッド状に、まさに山となって積まれていた。
  ちょっと張り切り過ぎじゃないのというぐらいの量だ。
  マニアは物珍しさから買って行ってくれるかもしれないが、買う大多数は番組ファンだろう。
  公録での販売やネット販売もするらしいが、全く関係ないイベントまでわざわざ出向き、買いに来るだろうか。

 「ううむ」

  そう考えつつも、その山を崩すべく響季が一つ、横から零児も一つ手に取る。
  だが深夜のラッピングバスはそれなりに人気番組だ。
  リスナーがわんさかやって来てそれなりには売れるだろう、と響季は信じていた。



さゆきとめぐみの深夜のラッピングバス

 パーソナリティ 榛葉 さゆき/保呂草 恵
ラッピングバス売上報告と、相方がイベント行った話を知らない体で聴くパーソナリティと、濃厚な販促回

 榛葉 「あっ!そいでぇ、この前バス売ったじゃないすか。ミニカー展で」
 保呂草「何?廃バス?(笑)」
 榛葉 「違いますよ!ラッピングバス!ミニバス!」
 保呂草「ミニバスケ?」
 榛葉 「違いますっ!」
 保呂草「ああ、ポートボールね(笑)」
 榛葉 「違いますからっ!(笑)現実から目を背けないっ!」
 保呂草「(笑)はいぃ…」
 榛葉 「(笑)えー、なんと、当番組で作ったミニバス…、在庫ダダ余りですッッ!!!(超エコー)」
 保呂草「ええーっ!!(笑)まさかの」
 榛葉 「まさかのダダ余りですっ!(笑)」
 保呂草「うわあー。もう踊るしかないじゃん」
 榛葉 「そう…、いや、ちょっ、違うっ!(笑)なんで!!」
 保呂草「よいしょお。♪ダッダあーまりっ!あ、そーれ。ハイっ、みなさんもご一緒にっ」
 榛葉 「♪ダッダあーまりっ!あ、どした。ってバカッッ!!(笑)」
 保呂草「(笑)」
 榛葉 「(笑)バカバカッ!笑ってる場合じゃないんですよ!なんすかっ、ダダ余り音頭って!」
 保呂草「だから踊ろうよみんなで。過剰在庫音頭。輪になって。ミニカー囲んで。ミニカー燃やして」
 榛葉 「(笑)いやだからイベント…、燃やさないで!!作った商品!じゃなくてイベントやるじゃないですか!この番組!公録!」
 保呂草「そう、やるじゃん。だから…、ああぁ…、お、ううん…」
 榛葉 「えっ?なに?急にどうした!?(笑)おなかいたいの?」
 保呂草「なんか…、さっきポートボールって言ったら、私小学生の頃ポートボール大っっ嫌いだったこと思い出して急にブルーになった(笑)」
 榛葉 「知りませんよっ!(笑)テンション下げないでくださいよ!」
 保呂草「あああーっ、きらいだったぁー。きらいだったぁぁー、ポートボール。ボールが当たりそうになるのと人にボール投げるのが嫌やったわぁー。普通にバスケやりたかったわぁー」
 榛葉 「どーでもいい!(笑)」
 保呂草「おなかいたいわぁぁーっ。ぽんぽんいたいわぁぁーっ」
 榛葉 「もうっ、あとでヒマシ油でも飲んでっ。で、えーと、あー、なんだ(笑)だから公録でっ」
 保呂草「あっ、そうだよそこで売れば」
 榛葉 「そこで売る分はもう確保してんすよ。ミニカー展で売れなかったのとは別に」
 保呂草「おおう…。過剰在庫(笑)」
 榛葉 「もうねっ、作り過ぎなんすよ(笑)そんな売れねーからホント。一部の好事家にしか売れないんですよ」
 保呂草「リスナーさん以外買わないでしょだって(笑)」
 榛葉 「それをぉ、なんかスタッフはミニカー展だからっつってよくわかんないカーでも、マニアの方々がついでに買うんじゃないかって」
 保呂草「ああ、限定品ですぞっつって。えっ?アレ?アナタイベント行ってきたの?」
 榛葉 「行きましたっ!行ってきました!」
 保呂草「いつの間に(笑)」
 榛葉 「すーんごい楽しかった」
 保呂草「(笑)楽しんでる」
 榛葉 「楽しんだ楽しんだっ!これあの今日持ってきたんですけど。入場するとこで貰えるミニカーですね」
 保呂草「ねー、なんか変形するやつ。私こういうの壊しそうでさっきからあんま触ってないんだけど」
 榛葉 「(笑)」
 保呂草「へえー。イベントどんな感じだったの?」
 榛葉 「あのー、はたらかないって言ってる割にはわりと働いてる車が多かった」
 保呂草「我々より?」
 榛葉 「我々より(笑)あとジオラマとかがすーごいあって、新幹線の…、なんだっけ、ドクターイエロー?の頭だけ形状違いで4つあったりして。そこだけめっちゃ黄色っ」
 保呂草「(笑)」
 榛葉 「目ぇチカチカするけどご利益ありそうだから写真撮ってこうと思って。あとジオラマん中で写真撮れるゾーンもあったりとか。親子とか、お父さんがはしゃいじゃっててやっぱ」
 保呂草「あー。好きそうなんか、お父さん(笑)」
 榛葉 「ミニカーもカゴいっぱい欲しいの買ってるんですよ!魅力的な商品共を」
 保呂草「ああ、ウチのよりもね(笑)」
 榛葉 「それがスゴイ数売ってて。棚がいくつもガンガンガンガン!って並んでて」
 保呂草「へえーっ」
 榛葉 「なんかコロコロついた梯子みたいので棚移動して買ったりとか。だからそっちのがお客さんもう欲しくて、それ目当てで来てるから余計なのとかたぶん買わないんですよ。だからウチのヤツはもう……、ね(笑)」
 保呂草「ウチのはどれぐらい売ってたの?」
 榛葉 「もう山で売ってた。山っていうかちょっとしたピラミッドみたいになって積まれてました」
 保呂草「(笑)」
 榛葉 「そのピラミッドがもう崩れてないの。崩されてないの」
 保呂草「ああ。もう、ガチーって」
 榛葉 「ちょっとだけ山削れてる感じで。もうホント、お買い上げ戴いた方ありがとうございます」
 保呂草「(笑)えー?じゃあ公録でお一人様2つ買っても、…捌けない」
 榛葉 「捌けない捌けないっ!だから保存用と鑑賞用と、普段遊ぶ用と買ってください」
 保呂草「プップーて。縁側とかで遊ばせるように?」
 榛葉 「あの、障子のミゾ?敷居?のとこ走らせる用とか。あと甥っ子にあげる用」
 保呂草「甥っ子限定なんだ(笑)」
 榛葉 「ここのリスナーさんどうせ子供いないでしょ!わりと大人多いけど!」
 保呂草「なんで未婚決定なのさ!(笑)」



 「時間だ」
 「えっ!?もう?」

  先程のショーウィンドウ越しにトランペットを眺める黒人少年ぶりはどこへやら。零児は見えない腕時計を指でつつくと、売り場をじっくり見ていた響季にもう行くぞと言う。
  展示されていたミニカーがそのまま売られていたので、欲しいなと思う反面、買ったら最後、大人買いお父さん達のようになりそうだったので眺めるだけにした。
  片腕には注射跡がある。荷物も少ない方がいい。予定はまだ折り返し地点だ。
  そして、ここからが本日の本命イベントだった。
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