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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)
1、声優ユニットのフリーペーパーを置いてくれるいいビル
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冬の表情が見えてきたその日。
とあるショッピングビルの入口前広場で、何やらイベントの準備が進んでいた。
寒空の下、揃いのウインドブレーカーを着たスタッフによってやたら入念に行われるマイクチェック。
他のスタッフは会議室で使われるような長テーブルを用意し、その上にCDを積んでいく。
首からパスケースを下げたスーツ姿の女性や男性達は特に何もせず、寒そうに腕組みをしているだけだった。
更にその近くでは着ぐるみや法被、安っぽいビジュアル系ファッションなど奇抜な格好をした男性が何人もいたが、
「なんだあれ…。ちょいとカッキーさんっ」
「ああ?」
「なんかやってるみたいですぞっ」
そこに通りがかった響季と柿内君が広場の方を見る。
その日、二人はそのビル内のCDショップで配布していた《てれんれ学園 学級新聞》をもらうため、わざわざ地元から電車でやって来たのだが。
新人声優ユニット てれんれ学園祭実行委員会。
てれんれ学園 学級新聞はその彼女達自身がラジオ番組で作った、フリーペーパーだ。
半年という期限付きユニットだったが、参加した新人声優の名前を世間に知られ、まあまあCDも売れ、滑り込みでメジャーなアニソンライブにも出演出来た。
彼女達はやり残すことはもう何もないとばかりにそこそこに惜しまれつつ、無事解散した。
そんなユニットの残り火たる学級新聞を響季が無事ゲットし、帰ろうとしていた時。
簡単なステージが吹きっさらしのスペースに作られていた。
面白いもん好きの二人にはとても無視出来ない。
「アイドルライブとかじゃないのか」
スタッフと出来上がっていくステージを見て、柿内君が白い息を吐きながら言う。
確かにステージの上には《くれっしぇんどふるむぅーん 新曲発売記念イベント》という看板が掲げられていた。
個人ではなく、おそらく複数人のアイドルグループ。当然二人共聴いたことのない名前だ。
立て看板に貼られたポスターには、女の子数人が安っちい衣裳を着て微笑んでいた。
音の悪いスピーカーからはその子達の新譜らしき曲がエンドレスで流れている。
「こういうひらがなでガード下げて擦り寄ってくるの、あたし嫌いだなあ」
眉を顰め、響季がユニット名のネーミングセンスに一言申すが、
「開始16時…。えっ!?もう始まるじゃん!」
開始時間を見て、広場にある時計台を見て驚く。
これから始まるというのに随分閑散としている。
平日夕方四時という時間ゆえ人が集まらないのか、それともこれから勇者達が様々な理由で仕事を早退し、遠方から駆けつけるのか。
そんな様子と惨状を見て、
「カッキー、見たいよ」
ギラギラした目で響季が言う。
その目は無名アイドルグループが無様に公開処刑される様を見たいと言っていた。
全部ひらがなの、ハードル下げマイナーアイドルユニットを見たいと。
柿内君は白い溜息を一つつくと、はいはい、と承諾した。
そして午後四時を少し過ぎた頃。
「いっくよー!」
ビル本館の隠し扉みたいなドアから出てきたアイドル達が、カラ元気な掛け声とともにステージに駆け上がると、我らがスーパーアイドル達の登場にファン達はうおおお!と湧き立つ。
安っぽい揃いの衣裳と、たった数段の段差と教壇ぐらいのスペース。
それだけが下界とステージを隔てる演出だった。
とりあえず大きな音で客を惹きつけようという作戦なのか、女の子達は特に自己紹介もないまま曲に合わせて歌い、踊りだす。
ファンは勝手知ったるといった動きで振りマネをし、ステージを盛り上げる。
そんな異様な光景を、響季達は離れたベンチに座って見ていたが、
「腰が抜けるほどブスばっかだな」
とりあえず見た目だけで今日知ったアイドルグループにそう評価を下す。
いや、曲も歌声も同じようなものだ。
よくある安っぽい萌え系アイドルソング。
歌声も内輪のカラオケでも上手いと言われるか怪しいレベル。
「眼鏡貸してくれ」
曲が二番に移ったあたりで柿内君がそう言い、響季が自分が掛けていた視力矯正具を渡すと、
「うぶえっ」
掛けた柿内君が眼鏡酔いしてみせる。
要はそんなことをするぐらいに二人は暇だった。
知らないアイドルの知らない曲。
それは人を魅了するほどの力もなく、ダンスもただやっているだけでキレがない。
見るべきもの、聴くべきものがないパフォーマンスだった。
そしてそれに熱狂するファン。部外者は見守るしか術が無い。
柿内君は眼鏡を外すと、
「さぶいぼすごいな」
「さすが視力2、0」
さぶいぼという言い方に笑いつつ、響季が親友の良すぎる視力を誉める。
アイドル達は寒空の下で半袖ホットパンツという格好だった。鳥肌も立つだろう。
そんなおふざけをしたり、観察をしたりしてしまうくらい二人は退屈だった。
ライブが始まってからファンは振り真似をしたり奇声をあげたりと、思い思いの方法で応援していたが、
「彼らは日常の何かを発散してるの?」
そんな彼らを見て響季が言う。
内に秘めた鬱屈したものを、アイドルの応援にかこつけて放出しているように見えた。
チェックシャツ率と眼鏡率が高く、奇抜な格好をした組には顔出しNGなのかダサいサングラスやカラスマスクを付けた者もいる。
ナポレオンジャケットやテンガロンハットなど、普段着に適さないアイテムを身につけているのはアイドル達に印象付ける作戦だろうか。
うりゃほいだのよっしゃいくぞーだの野太い奇声をあげる者共を、響季が眼鏡の奥で細めた目で見る。
そこには応援という行為以上の、妙な一体感と漲る何かがあった。
「友達とか仲間がいなくて…、そんな彼らがやっと見つけた自分らしくなれる場所」
「プロファイリングするなよ」
なんとなくで響季がバックボーンを想像し、やたらそういうことをするなと柿内君が諭し、
「スタッフと客の数一緒くらいだね」
更にスタッフ陣も見てみる。
ビル側のイベントスタッフとアイドル達側のスタッフ。あとは奇声を発し過ぎる者達に威力を発する警備の人か。
数少ない観客には、何かやるらしいと訳も分からず来たらしき幼女とお母さんもいたが、早々に離れるタイミングを伺っていた。
とあるショッピングビルの入口前広場で、何やらイベントの準備が進んでいた。
寒空の下、揃いのウインドブレーカーを着たスタッフによってやたら入念に行われるマイクチェック。
他のスタッフは会議室で使われるような長テーブルを用意し、その上にCDを積んでいく。
首からパスケースを下げたスーツ姿の女性や男性達は特に何もせず、寒そうに腕組みをしているだけだった。
更にその近くでは着ぐるみや法被、安っぽいビジュアル系ファッションなど奇抜な格好をした男性が何人もいたが、
「なんだあれ…。ちょいとカッキーさんっ」
「ああ?」
「なんかやってるみたいですぞっ」
そこに通りがかった響季と柿内君が広場の方を見る。
その日、二人はそのビル内のCDショップで配布していた《てれんれ学園 学級新聞》をもらうため、わざわざ地元から電車でやって来たのだが。
新人声優ユニット てれんれ学園祭実行委員会。
てれんれ学園 学級新聞はその彼女達自身がラジオ番組で作った、フリーペーパーだ。
半年という期限付きユニットだったが、参加した新人声優の名前を世間に知られ、まあまあCDも売れ、滑り込みでメジャーなアニソンライブにも出演出来た。
彼女達はやり残すことはもう何もないとばかりにそこそこに惜しまれつつ、無事解散した。
そんなユニットの残り火たる学級新聞を響季が無事ゲットし、帰ろうとしていた時。
簡単なステージが吹きっさらしのスペースに作られていた。
面白いもん好きの二人にはとても無視出来ない。
「アイドルライブとかじゃないのか」
スタッフと出来上がっていくステージを見て、柿内君が白い息を吐きながら言う。
確かにステージの上には《くれっしぇんどふるむぅーん 新曲発売記念イベント》という看板が掲げられていた。
個人ではなく、おそらく複数人のアイドルグループ。当然二人共聴いたことのない名前だ。
立て看板に貼られたポスターには、女の子数人が安っちい衣裳を着て微笑んでいた。
音の悪いスピーカーからはその子達の新譜らしき曲がエンドレスで流れている。
「こういうひらがなでガード下げて擦り寄ってくるの、あたし嫌いだなあ」
眉を顰め、響季がユニット名のネーミングセンスに一言申すが、
「開始16時…。えっ!?もう始まるじゃん!」
開始時間を見て、広場にある時計台を見て驚く。
これから始まるというのに随分閑散としている。
平日夕方四時という時間ゆえ人が集まらないのか、それともこれから勇者達が様々な理由で仕事を早退し、遠方から駆けつけるのか。
そんな様子と惨状を見て、
「カッキー、見たいよ」
ギラギラした目で響季が言う。
その目は無名アイドルグループが無様に公開処刑される様を見たいと言っていた。
全部ひらがなの、ハードル下げマイナーアイドルユニットを見たいと。
柿内君は白い溜息を一つつくと、はいはい、と承諾した。
そして午後四時を少し過ぎた頃。
「いっくよー!」
ビル本館の隠し扉みたいなドアから出てきたアイドル達が、カラ元気な掛け声とともにステージに駆け上がると、我らがスーパーアイドル達の登場にファン達はうおおお!と湧き立つ。
安っぽい揃いの衣裳と、たった数段の段差と教壇ぐらいのスペース。
それだけが下界とステージを隔てる演出だった。
とりあえず大きな音で客を惹きつけようという作戦なのか、女の子達は特に自己紹介もないまま曲に合わせて歌い、踊りだす。
ファンは勝手知ったるといった動きで振りマネをし、ステージを盛り上げる。
そんな異様な光景を、響季達は離れたベンチに座って見ていたが、
「腰が抜けるほどブスばっかだな」
とりあえず見た目だけで今日知ったアイドルグループにそう評価を下す。
いや、曲も歌声も同じようなものだ。
よくある安っぽい萌え系アイドルソング。
歌声も内輪のカラオケでも上手いと言われるか怪しいレベル。
「眼鏡貸してくれ」
曲が二番に移ったあたりで柿内君がそう言い、響季が自分が掛けていた視力矯正具を渡すと、
「うぶえっ」
掛けた柿内君が眼鏡酔いしてみせる。
要はそんなことをするぐらいに二人は暇だった。
知らないアイドルの知らない曲。
それは人を魅了するほどの力もなく、ダンスもただやっているだけでキレがない。
見るべきもの、聴くべきものがないパフォーマンスだった。
そしてそれに熱狂するファン。部外者は見守るしか術が無い。
柿内君は眼鏡を外すと、
「さぶいぼすごいな」
「さすが視力2、0」
さぶいぼという言い方に笑いつつ、響季が親友の良すぎる視力を誉める。
アイドル達は寒空の下で半袖ホットパンツという格好だった。鳥肌も立つだろう。
そんなおふざけをしたり、観察をしたりしてしまうくらい二人は退屈だった。
ライブが始まってからファンは振り真似をしたり奇声をあげたりと、思い思いの方法で応援していたが、
「彼らは日常の何かを発散してるの?」
そんな彼らを見て響季が言う。
内に秘めた鬱屈したものを、アイドルの応援にかこつけて放出しているように見えた。
チェックシャツ率と眼鏡率が高く、奇抜な格好をした組には顔出しNGなのかダサいサングラスやカラスマスクを付けた者もいる。
ナポレオンジャケットやテンガロンハットなど、普段着に適さないアイテムを身につけているのはアイドル達に印象付ける作戦だろうか。
うりゃほいだのよっしゃいくぞーだの野太い奇声をあげる者共を、響季が眼鏡の奥で細めた目で見る。
そこには応援という行為以上の、妙な一体感と漲る何かがあった。
「友達とか仲間がいなくて…、そんな彼らがやっと見つけた自分らしくなれる場所」
「プロファイリングするなよ」
なんとなくで響季がバックボーンを想像し、やたらそういうことをするなと柿内君が諭し、
「スタッフと客の数一緒くらいだね」
更にスタッフ陣も見てみる。
ビル側のイベントスタッフとアイドル達側のスタッフ。あとは奇声を発し過ぎる者達に威力を発する警備の人か。
数少ない観客には、何かやるらしいと訳も分からず来たらしき幼女とお母さんもいたが、早々に離れるタイミングを伺っていた。
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