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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)
11、ぼさっとしてんな!バブルが再来するぜ!
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「ぃざがんがんがんがんがんがんがんがんがーん」
「おうおーう、おうおーぅ」
営業先の三年教室で。
柿内君と響季は、皆一度は聞いたことがある漫才コンテストの口くち出囃子とともに登場した。
いつもと趣向の違う出方と出演者の人数に、客はぽかんとした表情と期待を込めた目で見る。
だが。
響季達は完全に三年生達を置いてきぼりにした。
二人は体育で使ったマフラータオルをマラボー代わりにして首に巻き、ショーパブのような安っちいショーを披露した。
柿内君がファンキーな声で、中学生が知らないような古びた洋楽を教卓の端で歌い、それに合わせて響季が箒をマイクスタンド付きのレトロマイクに見立てて口パクショーをやってみせる。
マラボータオルを怪しげに身体に這わせ、見えないレビュウ用扇を振り回し、箒をポールダンスのポールに見立てて踊る。近くにあった上級生の椅子を使ってのバーレスクショーもやってみせた。
チープで、有り合わせのモノで作ったそんなショー。
べしゃりトークでもコントでもない、今一番二人が面白いと思うことをやってみせた。
それは最近掃除の時間にいつも二人がやっている即興ショーパブごっこだった。
楽しくて仕方ないため、いつも学級委員系女子に「二人共真面目に掃除してよ!」と怒られていた。
二人にしか見えないミラーボールと、妖艶なピンク色のライトが昼休みの中学生二人を照らす。
が、三年生達は呆気にとられる。野次ることすら忘れて。
中学生達は披露されるどのネタにもハマらない。
そんなものを見たこともなく興味もない男子達は特にだ。
一部勘のいい女子だけがハマるが、大半がついてこれないでいた。
「ねーえっ!?今日くらいはバブルが再来しちゃってもいいんじゃないッ!?」
「ハハっ!!そいつは名案だッ!!」
「ヒュー!!踊りましょー!!」
そんなバブルギャグを二人が飛ばしてディスコステップを踏んでも、バブルの恩恵どころかそのとばっちりの中で生まれた中学生達は一切ピンと来ない。
活き活きとネタを披露する二人を見て、響季の面白さに目をつけた力ある三年男子が気付く。
この下級生女子のネタは本来、自分には早過ぎたのだと。
BGM代わりにして聞き流していた一人漫談。
実際にはあんなもの序の口だったのだ。
セーブして、自分達のレベルに合わせたネタをやっていたのだ。やってくれていたのだと。
もっとこんなわけのわからないネタが出来たのだ。
しかし敢えて見せなかった。
こちらが理解出来ないと思って。それが、頭の足らない三年男子には理解出来た。
同時に、そのショーが面白いと思えるにはやはり彼も子供過ぎた。
「本日はお足元の悪い中ありがとうございましたー。お帰りの際には是非アンケートも書いていってくださーい」
「♪てーっててーてれれれ、てーってれてーてれれ、てーてーてーてれーれーれー」
響季が客の労をねぎらい、有りもしないアンケートの告知をすると、柿内君が口で奏でる蒲田行進曲と共に二人は足並みの揃った行進で教室を後にした。
自分達が面白いと思うことをやりきり、もう二度と来ない、呼ばれないであろう営業先を。
営業で三年生達を唖然とさせてから、響季と柿内君はますます一緒の時間を過ごすようになった。
放課後は柿内君がクレイジーなタクシーゲームのテーマ曲を教室にあった拡声器で歌い、響季がそれに箒ギターを合わせてセッションしたり。
さくらやだのヨドバシだの石丸だのヤマダだのコジマだの、日本にあまたある電機店のテーマ曲を歌い、適当な振りを付けて踊ってみたり。
「あたしゃね、何もアンタが憎くて言ってんじゃあないのよ。まったく、世も末よねぇー」
「それよりお姐さん、この前お風呂屋さん行った帰りに貸したラーメン代40円、返してちょうだいよ」
「なによそれ」
「あらやだ。始まりましたよぉーッ!!皆さぁーんッ!!ひびきお姐さんお得意のおとぼけ大作戦ッ!!」
「ミントチョコ饅頭」
「ミントチョコ饅頭。あれすごいわよねー。裏の工場直売のお菓子屋さんのでしょ?かりんとう饅頭にミントチョコ入れるなんて誰が考えたのかしら」
日本が誇るコメディアン二人の、話をはぐらかして貸したお金をなかなか返さない芸者コントを完璧なまでにマスターしてみたり。
自分達だけが面白いと思うことをやりたいようにやって、中二の放課後という人生で一番楽しい時間を好き勝手むちゃくちゃに過ごした。
そんな日々を過ごしていたある日。
二人は中学生らしく、学校帰りに河原の芝生に寝っ転がり、風に吹かれていた。
数分前まで土手でやっていた段ボールサーフィンに飽きたからだ。
今はやらしてやらして!と段ボールをねだった小学生達がその遊びに興じていた。
ヒャアー!だの、ギヒャー!だの、小学生男子特有の楽し過ぎる時の奇声をあげて。
それを、響季は芝生に寝転がりながら見ていた。
胸の辺りで手を組み、顔だけを小学生達の方に向けて。
そろそろやめさせた方がいいのか?怪我をしたら自分達のせいにならないか?と、小学生には少々危険な遊びにハラハラしていた。
更に、それを柿内君が寝転がって見つめていた。
遊び疲れて今はまったりタイムだったが、小学生を見守る響季に、なんだか自分が置いてきぼりを食らったようだった。だから、
「ひぃー…」
つい、彼女の愛称であるひー坊と呼びそうになってやめた。
それはかつて、目をかけてくれていた力ある三年男子の呼び方だった。
目をかけられている時はクラスにもその名で呼んでいる男子はいた。
今は関係を断ち切ったが、当時響季は彼に気に入られていた。
呼んでいたのはそのパワーバランスの裾野に乗ろうとしていた奴らだ。
先輩のお気に入りと仲が良ければ、こちらにも目をかけてもらえるかもしれないと思っていたらしい。
そんな奴らと、柿内君は同じになりたくなかったので、
「ひぃー…、びき」
なんとも中途半端な、間の抜けた呼び捨てになってしまった。
「なに?そのや~まだみたいの」
野球漫画の主人公みたいな呼ばれ方に、呼ばれた本人がこちらに寝返りを打ちながらへははっと笑う。
やっとこっちを向いてくれたことに安堵しつつも、柿内君はそうだなと照れ臭そうに笑うが、
「響季」
笑いで出来た隙間に入り込むようにして、仲の良いクラスメイトを名前で呼んだ。
いつもの片瀬ではない。唐突な下の名前での呼び捨て。
充分気を遣ったようで、それは自然な距離の詰め方だった。
だがいくら自然でも、呼ばれた方はそれが初めてのことだとはっきりわかった。
ふうん?と響季がなんだか楽しそうに視線を巡らす。
「あんまり居ないよね。中学生で、女の子のファーストネーム呼び捨てに出来る男の子って」
まだ少年である柿内君にはそれが褒めているのか、遠回しに呼び捨てになんかするなと言っているのか分からなかった。
だから鈍感な振りをしておいた。
「まあ、響季って、ちょっと男みたいな名前だしな」
「うわ、ショックだなー。ご両親が一生懸命考えて付けてくれた名前だよ?まあ男の子に間違えられたこととかあるけどさ」
「そりゃあご苦労なことですな」
広げようもない、わりとどうでもよさそうな苦労話を柿内君が適当に受け流す。
河原を渡って風がさらりと流れてきた。
放課後の、遊び疲れた身体には心地いい。
普段から五月蝿いぐらいに密着して騒いでいる二人は、喋っていなくても苦にはならない。
なのでその話題は響季にとっては本当に気まぐれだった。
「カッキーはどんなコだったの?小さい頃」
そう、幼少期の話を聴いてみる。
まだ中学生の二人が振り返る、子供の頃の話。
柿内君の胸がずぐ、と鳴る。
その話は、誰にも話したくない、けれどしたくてたまらない話だった。
「俺は…」
だがそう言ったきり彼は口を噤んでしまった。そして、
「俺より…、俺の友達の話をしていいか」
「へ?」
いきなりなんだと思いつつも、
「まあ、どうぞ?」
彼のことなので響季は先を促した。
おそらく、何かきっと面白い話なのだろうと。
そして柿内君は話してくれた。
あくまで、友達の話を。
「おうおーう、おうおーぅ」
営業先の三年教室で。
柿内君と響季は、皆一度は聞いたことがある漫才コンテストの口くち出囃子とともに登場した。
いつもと趣向の違う出方と出演者の人数に、客はぽかんとした表情と期待を込めた目で見る。
だが。
響季達は完全に三年生達を置いてきぼりにした。
二人は体育で使ったマフラータオルをマラボー代わりにして首に巻き、ショーパブのような安っちいショーを披露した。
柿内君がファンキーな声で、中学生が知らないような古びた洋楽を教卓の端で歌い、それに合わせて響季が箒をマイクスタンド付きのレトロマイクに見立てて口パクショーをやってみせる。
マラボータオルを怪しげに身体に這わせ、見えないレビュウ用扇を振り回し、箒をポールダンスのポールに見立てて踊る。近くにあった上級生の椅子を使ってのバーレスクショーもやってみせた。
チープで、有り合わせのモノで作ったそんなショー。
べしゃりトークでもコントでもない、今一番二人が面白いと思うことをやってみせた。
それは最近掃除の時間にいつも二人がやっている即興ショーパブごっこだった。
楽しくて仕方ないため、いつも学級委員系女子に「二人共真面目に掃除してよ!」と怒られていた。
二人にしか見えないミラーボールと、妖艶なピンク色のライトが昼休みの中学生二人を照らす。
が、三年生達は呆気にとられる。野次ることすら忘れて。
中学生達は披露されるどのネタにもハマらない。
そんなものを見たこともなく興味もない男子達は特にだ。
一部勘のいい女子だけがハマるが、大半がついてこれないでいた。
「ねーえっ!?今日くらいはバブルが再来しちゃってもいいんじゃないッ!?」
「ハハっ!!そいつは名案だッ!!」
「ヒュー!!踊りましょー!!」
そんなバブルギャグを二人が飛ばしてディスコステップを踏んでも、バブルの恩恵どころかそのとばっちりの中で生まれた中学生達は一切ピンと来ない。
活き活きとネタを披露する二人を見て、響季の面白さに目をつけた力ある三年男子が気付く。
この下級生女子のネタは本来、自分には早過ぎたのだと。
BGM代わりにして聞き流していた一人漫談。
実際にはあんなもの序の口だったのだ。
セーブして、自分達のレベルに合わせたネタをやっていたのだ。やってくれていたのだと。
もっとこんなわけのわからないネタが出来たのだ。
しかし敢えて見せなかった。
こちらが理解出来ないと思って。それが、頭の足らない三年男子には理解出来た。
同時に、そのショーが面白いと思えるにはやはり彼も子供過ぎた。
「本日はお足元の悪い中ありがとうございましたー。お帰りの際には是非アンケートも書いていってくださーい」
「♪てーっててーてれれれ、てーってれてーてれれ、てーてーてーてれーれーれー」
響季が客の労をねぎらい、有りもしないアンケートの告知をすると、柿内君が口で奏でる蒲田行進曲と共に二人は足並みの揃った行進で教室を後にした。
自分達が面白いと思うことをやりきり、もう二度と来ない、呼ばれないであろう営業先を。
営業で三年生達を唖然とさせてから、響季と柿内君はますます一緒の時間を過ごすようになった。
放課後は柿内君がクレイジーなタクシーゲームのテーマ曲を教室にあった拡声器で歌い、響季がそれに箒ギターを合わせてセッションしたり。
さくらやだのヨドバシだの石丸だのヤマダだのコジマだの、日本にあまたある電機店のテーマ曲を歌い、適当な振りを付けて踊ってみたり。
「あたしゃね、何もアンタが憎くて言ってんじゃあないのよ。まったく、世も末よねぇー」
「それよりお姐さん、この前お風呂屋さん行った帰りに貸したラーメン代40円、返してちょうだいよ」
「なによそれ」
「あらやだ。始まりましたよぉーッ!!皆さぁーんッ!!ひびきお姐さんお得意のおとぼけ大作戦ッ!!」
「ミントチョコ饅頭」
「ミントチョコ饅頭。あれすごいわよねー。裏の工場直売のお菓子屋さんのでしょ?かりんとう饅頭にミントチョコ入れるなんて誰が考えたのかしら」
日本が誇るコメディアン二人の、話をはぐらかして貸したお金をなかなか返さない芸者コントを完璧なまでにマスターしてみたり。
自分達だけが面白いと思うことをやりたいようにやって、中二の放課後という人生で一番楽しい時間を好き勝手むちゃくちゃに過ごした。
そんな日々を過ごしていたある日。
二人は中学生らしく、学校帰りに河原の芝生に寝っ転がり、風に吹かれていた。
数分前まで土手でやっていた段ボールサーフィンに飽きたからだ。
今はやらしてやらして!と段ボールをねだった小学生達がその遊びに興じていた。
ヒャアー!だの、ギヒャー!だの、小学生男子特有の楽し過ぎる時の奇声をあげて。
それを、響季は芝生に寝転がりながら見ていた。
胸の辺りで手を組み、顔だけを小学生達の方に向けて。
そろそろやめさせた方がいいのか?怪我をしたら自分達のせいにならないか?と、小学生には少々危険な遊びにハラハラしていた。
更に、それを柿内君が寝転がって見つめていた。
遊び疲れて今はまったりタイムだったが、小学生を見守る響季に、なんだか自分が置いてきぼりを食らったようだった。だから、
「ひぃー…」
つい、彼女の愛称であるひー坊と呼びそうになってやめた。
それはかつて、目をかけてくれていた力ある三年男子の呼び方だった。
目をかけられている時はクラスにもその名で呼んでいる男子はいた。
今は関係を断ち切ったが、当時響季は彼に気に入られていた。
呼んでいたのはそのパワーバランスの裾野に乗ろうとしていた奴らだ。
先輩のお気に入りと仲が良ければ、こちらにも目をかけてもらえるかもしれないと思っていたらしい。
そんな奴らと、柿内君は同じになりたくなかったので、
「ひぃー…、びき」
なんとも中途半端な、間の抜けた呼び捨てになってしまった。
「なに?そのや~まだみたいの」
野球漫画の主人公みたいな呼ばれ方に、呼ばれた本人がこちらに寝返りを打ちながらへははっと笑う。
やっとこっちを向いてくれたことに安堵しつつも、柿内君はそうだなと照れ臭そうに笑うが、
「響季」
笑いで出来た隙間に入り込むようにして、仲の良いクラスメイトを名前で呼んだ。
いつもの片瀬ではない。唐突な下の名前での呼び捨て。
充分気を遣ったようで、それは自然な距離の詰め方だった。
だがいくら自然でも、呼ばれた方はそれが初めてのことだとはっきりわかった。
ふうん?と響季がなんだか楽しそうに視線を巡らす。
「あんまり居ないよね。中学生で、女の子のファーストネーム呼び捨てに出来る男の子って」
まだ少年である柿内君にはそれが褒めているのか、遠回しに呼び捨てになんかするなと言っているのか分からなかった。
だから鈍感な振りをしておいた。
「まあ、響季って、ちょっと男みたいな名前だしな」
「うわ、ショックだなー。ご両親が一生懸命考えて付けてくれた名前だよ?まあ男の子に間違えられたこととかあるけどさ」
「そりゃあご苦労なことですな」
広げようもない、わりとどうでもよさそうな苦労話を柿内君が適当に受け流す。
河原を渡って風がさらりと流れてきた。
放課後の、遊び疲れた身体には心地いい。
普段から五月蝿いぐらいに密着して騒いでいる二人は、喋っていなくても苦にはならない。
なのでその話題は響季にとっては本当に気まぐれだった。
「カッキーはどんなコだったの?小さい頃」
そう、幼少期の話を聴いてみる。
まだ中学生の二人が振り返る、子供の頃の話。
柿内君の胸がずぐ、と鳴る。
その話は、誰にも話したくない、けれどしたくてたまらない話だった。
「俺は…」
だがそう言ったきり彼は口を噤んでしまった。そして、
「俺より…、俺の友達の話をしていいか」
「へ?」
いきなりなんだと思いつつも、
「まあ、どうぞ?」
彼のことなので響季は先を促した。
おそらく、何かきっと面白い話なのだろうと。
そして柿内君は話してくれた。
あくまで、友達の話を。
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