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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)

12、少年の自分語りはいつの時代も退屈

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 幼い頃に両親が離婚したというその友達は、幼少期を夜の街で過ごしたという。
  彼を引き取った母親が仕事の時だけ、知り合いの『夜になるとおばさんになるおじさん』に預けていたからだ。
  おばさんおじさんがママとして店を構える夜の街は、男が男を愛し、女が女を愛し、またそれ以外がそれ以外を愛したりとややこしくも楽しい街だった。
  大きな目と、実に楽しそうに笑う大きな口。
  見た目の愛らしさもあってか、あるいは自分達が子を持てない寂しさからか、お客さん達は夜更かしなその彼をとても可愛がってくれた。
  自分の頭の上で展開されるドロドロともキャピキャピしたお話を、わかっているのかいないのかただただ聴き、同意を求められればうんそうだねと言えば良かった。
  可愛らしい店子がいると、彼目当てに来る客も増えた。
  彼はただ客の丸太のような太腿に乗って大人達の話を聴き、おじさんママが彼専用に用意してくれたコーヒー牛乳を飲んでいればよかった。


  だがある日、彼はその街でかつて若くて可愛いとちやほやされていた男の子が、年をとってからどうなったかを見て、聞かされた。
  一時的なその街の住人である彼にとって、それはあまり関係のないことだったが、なぜだかとても怖いことのように思えた。
  漠然と、彼の中でこのままではダメだという思いが強くなったという。
  ちょうどおじさんママの店では、昔の洋楽やディスコナンバーのミュージックビデオをテレビから流していた。
  古き良き、皆が浮かれに浮かれ、底抜けに明るかった時代の洋楽MVが。
  彼はそれを覚え、客に披露してみせた。
  耳で覚えた英語歌詞と、目で覚え、天性のリズム感からなるダンスでもって。
  彼のダンスはスクールに通う子供のような決められたステップではなく、客を楽しませることを第一に考えられていた。
  テレビから洪水のように自身に流れこむパフォーマンスやダンスを脳にインプットし、再構築して客前でアウトプットする。

  踊ってみなければどう動くか、自分でもわからないほどだった。
  ほんのお試しでやってみたそれに、客は釘付けになった。
  小さく可愛らしい天才パフォーマーに、客は大層喜んでくれた。
  喜ばれれば嬉しくなり、彼のパフォーマンスの精度はますます上がっていった。
  彼目当ての客は一層増え、周囲の店から出張営業の依頼も来た。

  おじさんママはおもちゃのマイクを買ってきてくれ、客からは子供用テンガロンハットやレトロマイク、子供用スタンドマイクやおもちゃのギターなども差し入れられた。
  金髪ウィッグに子供サイズの革ジャン、子供用レオタードと衣装や小道具は増え続け、客の要求に答えるように芸の幅は広がり、店にある大きな段ボールの一つは彼専用の衣装&小道具箱になった。
  ただ可愛いだけではない彼は、更に街の男達に愛されていった。
  歳も体格も、すべて上である大人を相手にするのは、彼はとても楽しかった。


  だがそのためか、彼は小さい頃から同年代の友達を作るのが下手だった。
  どう接したらいいのか分からなかったのだ。

  母親が新たな伴侶を見つけ、彼は夜の街からはかなり離れた遠くの街へと引っ越したが、学校へ通いだし、集団生活に身を置くとそうもいかなくなる。
  次第に周囲から浮き始め、どうしたらいいか考えた結果、彼は、そうだ、笑いだと思いついた。
  テレビでやっているお笑い芸人のネタやモノマネを習得し、皆の前で披露すると、実は面白いやつということで受け入れてもらえた。
  そうして彼には居場所と立ち位置が出来た。
  集団生活においてのバミリ位置が。
  最初こそトレースだったネタもどんどん自作するようになり、かつて夜の街にいたあの頃のようにどんどん精度も上がってくる。

  それでも彼はすぐに行き詰まった。
  客のレベルがあまりにも低過ぎるのだ。
  精度を上げると、彼らは面白さがわからなくなる。
  女子より精神年齢が低く、幼稚な男子は特にだ。
  結果、程度の低い笑いを提供しなくてはならなくなる。
  どんどんネタの精度を増していく、増していきたい彼にとってそれは苦痛でしか無かった。
  わざわざレベルを下げなくてはならないのが。
  そして、いつしか皆の前ではネタをやらなくなった。
  演者である彼は、客を選ぶようになったのだ。
  自分が、俺様がネタを披露してやるにはふさわしくないと。
  笑いを提供してやるにはあまりにも客が低レベルだと。
  客を選び始めた彼は、単純に年齢をあげればいいと考えた。
  それも六年生などではない。彼らですらわからないかもしれない。
  そうだ、と考えたのが教員達だった。
  まず担任に見せると、生徒達がぽかんとするネタに担任は弾けるように笑った。

  そこから彼は隣のクラスの担任、体育教師、音楽教師、遂には職員室まで出向き、ネタを披露し始めた。
  自分はお笑い芸人になりたいからという嘘まで交えて。
  彼もまた時を同じくして成長する少女のように、笑いという餌を喰って成長し、膨れ上がる獣を解き放ちたかったのだ。
  笑いには様々な知識も必要だ。
  自ら知識を広げると、更にネタの精度を上げ、磨いていく。
  それを教員達に披露する。
  専門的な知識は率先して各教員達に質問をすると、快く応えてもらえた。
  雑談の中から得るものも多く、利発的な彼に教員達は普通の生徒達にはしないような話もしてくれた。
  そんなことを繰り返しているうちに、彼は不名誉な称号を手に入れた。


 「なに?」

  じっとお話を聴いていた響季が問うと、

 「なんだと思う?」

  柿内君がムカツク女子みたいな切り返し方をしてきた。

 「わっかんないよ。ヒントくらはい」
 「与えられたのは、生徒達側からだ」

  コンビニで買ったもう冷めてしまったからあげを食べながら訊くと、そんなヒントを貰い、響季が考える。そして、

 「Teacher’s PET?」

  無駄に良い発音でそう言った。
  柿内君は指をパチンと、乾いた音で鳴らし、

 「ご名答」

  ピッと正解者を指さしてみせた。
  そんな仕草も、ファンキーなゲイボーイのような彼ならなぜか決まった。
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