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アニラジを聴いて笑ってる僕らは略(乗り換え連絡通路)

13、忍法 処世術オネエ!

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 教員達にネタを披露していると、生徒達から彼は先生に取り入ろうとしているという噂が立ち始めた。
  彼はまた孤立した。
  同じクラスの生徒に何かをやってみせても、誰も見てくれない。笑わない。
  ようやく状況を理解した彼は、もうこんなやつらの機嫌を取る必要などないと切り捨てた。
  あんな幼稚で馬鹿な奴らの。たった30数人の輩を。
  ネタを披露するのはもう少し奴らが成長したらでいい。
  見せてやるのはその頃だと彼は決めた。

  それまで、彼はただただ自分の技量を磨くことに専念した。
  大人が集まる場に率先して出向き、見聞を広めた。
  本を読み、映画を見て、音楽を聴き、街へ出て、知識を吸収する。
  やることがたくさんあった。
  ダンス、歌、エンターテイメントに繋がる全て。
  手本となる全てのものを模倣し習得し、ありとあらゆるものを吸収した。


 「それから?」
 「それから…、そいつは、雑誌のネタコーナーに投稿することにハマり始めたんだ」
 「……ほう」

  ごろりと寝転がって響季が姿勢を変える。
  急にハンドルを切ったような展開。
  彼の友達の話がどう転がっていくのか、そもそも話自体に興味が有るのかないのか響季自身わからなかった。



  様々なものを吸収し終えた彼は、同年代の、ようやく成長した子供達と合流することにした。
  ちょうど学年が切り替わり、クラス替えがあるタイミングに。
  そのためには奴らとの間にある垣根を壊さなくてはならない。
  そこで彼はオネエキャラという、自分にとっては使ってはならない切り札を使った。
  まずは女子から近づき、敵とみなされないようコミュニティに属した。
  見てくれは決して悪くなく、話してみれば人畜無害な上に知識が豊富でクレバーな少年はあっさり受け入れられた。

  色気づいてきた女の子達は彼に恋バナを展開し、彼はオネエキャラで切り返し、うんうんと話を聞き、こうした方がいいと思うワと男の子と女の子のちょうど中間地点からアドバイスした。
  夜の街で培った聞き上手スキルが時を経て役立っていた。
  それを見ても、色気づいてきた少年達は時間を置いてやっただけあって、流石にやーい、男なのに女子と仲良くするヤーツなんて野次りはしない。
  むしろ女子と仲の良い彼をパイプに、気になる女子との仲を深めていった。
  幼くとも男女の心の機微を読み取るなど、彼にとっては造作もなかった。


  こうして、彼は学校生活を円満に送れるようになった。
  だが心の何処かでは悔やんでいた。
  彼は夜の街に育てられたのに、そこにいた人達を利用したのだ。
  特徴、仕草、喋り方、利発さ。何より底抜けの明るさ。
  五感で学んだそれを、自分を守るための武器にした。
  営業カマキャラ、ビジネスゲイボーイとなった彼は、懺悔を求めるようにかつて育った街を訪れた。

  幼い頃に引っ越したため、あんなにも遠く感じた街は、電車に乗ればすぐだった。
  昼間の夜の街はかつて見た時よりひどくくすんで見えたが、その中を歩き、彼はお世話になった店を探しあてた。
  店の場所も名前も変わっていたが、母親代わりだったおじさんママは快く迎えてくれ、成長した彼に牛乳多めのカルアミルクを出してくれた。
  そして彼はまたその街へ忍びこむようにして通い、芸の肥やしとなるものを蓄えていった。


  そしてある日。
  彼はその店にたまたま置いてあった、客の忘れ物らしきゲイ雑誌を手に取った。
  グラビアや様々な場所への潜入記、デオドラントアイテム紹介、パートナーとの老後プラン、文通コーナーなど。
  読み物としてもなかなか興味深い雑誌だったが、その中に読者投稿ページがあった。
  哀愁ゲイ川柳、こんなハッテン場は嫌だ、ウルフ兄貴に相談コーナー。
  色々なコーナーが用意されているページに、彼はほんの気まぐれでメールを送ってみた。
  翌月。街にある本屋でその雑誌の最新号を立ち読みしてみた彼は、自分が送ったメールが採用されたことを知る。

  その時のことを、一生忘れないだろうと彼は言ったらしい。
  チェーン店でもない、普通の雑誌が極端に少ない寂れた本屋の片隅で。
  その街ではすでに顔の知れた彼は、ファニーな店主にも気さくに挨拶されるほどだった。
  が、本来その雑誌のセクシャルにも、購買年齢層にも該当しない小学生が送ったメールが採用され、この街や全国の書店にその雑誌が置かれている。
  持っていたケータイの送信ボックスには全く同じ文面のメールがある。添えられたペンネームも彼自身が考えたものだ。
  それを、彼以外はおそらく誰も知らない。
  七色アフロヘアーの本屋の店主も。
  成長した彼に、怪しげな目線と手つきで迫ってくる男達も。
  その完全犯罪ぶりに、彼はどうしようもないくらいに心が踊ったという。
  喚き立てたい、誰かに知らせたい、教えてやりたい。
  この雑誌のこのページに載っているのは自分が送ったメールだと。
  カルアミルクを飲みながら片手間に送ってやったメールだと。 

  しかしその悪戯は絶対に知られてはいけないと彼は思っていた。
  それはこの街にいるからこそだ。
  だが同時に、小さな頃からどこにも居場所がないと感じていた彼は、はっきりと、自分はここにいるという爪跡が遺せたという。
  たとえそれが誰にも気づかれない、読み棄てられ、消費される紙の上だったとしても。
  それ以来、彼は様々な雑誌の読者ページを荒らしまくっているという。
  当然、今も。
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