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壊れた音
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その後のことは、思い出したくないものだった。と同時に、忘れてはいけないものだとも思っていた。
何がいけなかったのか、いつからだったのか、あの時を境になのか実はもっと前からだったのか。答え合わせをする勇気のなかった奏一は、自省するばかりで確かなことはわからない。ただ、少しずつ、眞音との仲がぎくしゃくしていった。本当に些細な違和感から始まったせいで、追求する機会も逃していた。そうしたら、いつの間にかどう手をつければいいかわからないほど、わだかまりが大きくなってしまった。
音楽科の実技試験は、他の学科試験よりも一週間後に行われる。夏季休暇直前の最後の学校行事の中で、奏一は愕然とした。
眞音の演奏は最後だった。学年の中でも特に異彩を放っていた眞音のバイオリンは、その日、まったくの別物になっていた。生き生きした音色、艶のある歌い方、目を惹く所作――そのどれもが、失われていた。音を楽しんでいることが周囲に伝わるような、そんな演奏が彼の持ち味だったはずなのに、一切も発現されていなかった。出番を終えて聴いていた他の生徒たちはどよめき、教師も目を見開いた。目を瞑っていたら、確かに下手ではないけれど、それが眞音の演奏だとは誰も思わないだろう。とくに奏一は、あの練習室で聴いたロマンスとの差に強い衝撃を受けていた。
そしてそんな会場の動揺をよそに、眞音は淡々と演奏を終えた。
他の生徒が遠巻きにする中、奏一は眞音に声をかけずにはいられなかった。
「眞音」
眞音は奏一の呼びかけに振り返り、苦笑しておう、と応じた。
「ひどい演奏だろ」
奏一が言葉を掛ける前に、眞音はそう自嘲する。
「どうしたんだ、……らしくない」
「さあ、どうしたんだろうな。オレにもよくわからん」
いやに軽く言う眞音。あの時から、瑠璃の告白の日からそうだった。どこか一線を引かれているような、表面的な眞音の言動。
「眞音、この後、少し時間はあるか」
何をどう言えばいいのか、奏一にはわからない。それでも、このままではいけない、そんな気がして眞音を誘い出そうとした。眞音は、なんだ、と短く問う。
「少し、話たいことがある」
正確に言えば、聞きたいことだった。ここ最近、避けられているような気がするのはなぜか、今日の演奏はどうしたのか、自分が、何か気に障ることをしたのだろうか、と。
「イヤだね」
眞音から返ってきた予想外の言葉に、奏一は面食らってすぐには返事ができなかった。今まで、冗談の調子で一旦断りを入れたりすることはあったが、そんなふうに真顔で一片の余地もなく否定されることはなかった。
「嫌なのか」
駄目ではなく。そう聞きたかったけれど、そこまで言葉にはできなかった。眞音はしばらく奏一を見ていたが、後ろ頭をぐしゃぐしゃにしながら小さく息をついた。
「あぁ……と。わかった聞くよ聞く、だからそんな顔するな」
言われて自分がどんな顔をしていたのかとはっとする奏一に、眞音はすかさず弓を突きつけた。
「そのかわりに、だ。何の話か先に言え」
この前みたいなのはもうごめんだ、と付言する眞音は、いつも自信に満ちいていた彼とは思えないほど力なく笑っていた。
何がいけなかったのか、いつからだったのか、あの時を境になのか実はもっと前からだったのか。答え合わせをする勇気のなかった奏一は、自省するばかりで確かなことはわからない。ただ、少しずつ、眞音との仲がぎくしゃくしていった。本当に些細な違和感から始まったせいで、追求する機会も逃していた。そうしたら、いつの間にかどう手をつければいいかわからないほど、わだかまりが大きくなってしまった。
音楽科の実技試験は、他の学科試験よりも一週間後に行われる。夏季休暇直前の最後の学校行事の中で、奏一は愕然とした。
眞音の演奏は最後だった。学年の中でも特に異彩を放っていた眞音のバイオリンは、その日、まったくの別物になっていた。生き生きした音色、艶のある歌い方、目を惹く所作――そのどれもが、失われていた。音を楽しんでいることが周囲に伝わるような、そんな演奏が彼の持ち味だったはずなのに、一切も発現されていなかった。出番を終えて聴いていた他の生徒たちはどよめき、教師も目を見開いた。目を瞑っていたら、確かに下手ではないけれど、それが眞音の演奏だとは誰も思わないだろう。とくに奏一は、あの練習室で聴いたロマンスとの差に強い衝撃を受けていた。
そしてそんな会場の動揺をよそに、眞音は淡々と演奏を終えた。
他の生徒が遠巻きにする中、奏一は眞音に声をかけずにはいられなかった。
「眞音」
眞音は奏一の呼びかけに振り返り、苦笑しておう、と応じた。
「ひどい演奏だろ」
奏一が言葉を掛ける前に、眞音はそう自嘲する。
「どうしたんだ、……らしくない」
「さあ、どうしたんだろうな。オレにもよくわからん」
いやに軽く言う眞音。あの時から、瑠璃の告白の日からそうだった。どこか一線を引かれているような、表面的な眞音の言動。
「眞音、この後、少し時間はあるか」
何をどう言えばいいのか、奏一にはわからない。それでも、このままではいけない、そんな気がして眞音を誘い出そうとした。眞音は、なんだ、と短く問う。
「少し、話たいことがある」
正確に言えば、聞きたいことだった。ここ最近、避けられているような気がするのはなぜか、今日の演奏はどうしたのか、自分が、何か気に障ることをしたのだろうか、と。
「イヤだね」
眞音から返ってきた予想外の言葉に、奏一は面食らってすぐには返事ができなかった。今まで、冗談の調子で一旦断りを入れたりすることはあったが、そんなふうに真顔で一片の余地もなく否定されることはなかった。
「嫌なのか」
駄目ではなく。そう聞きたかったけれど、そこまで言葉にはできなかった。眞音はしばらく奏一を見ていたが、後ろ頭をぐしゃぐしゃにしながら小さく息をついた。
「あぁ……と。わかった聞くよ聞く、だからそんな顔するな」
言われて自分がどんな顔をしていたのかとはっとする奏一に、眞音はすかさず弓を突きつけた。
「そのかわりに、だ。何の話か先に言え」
この前みたいなのはもうごめんだ、と付言する眞音は、いつも自信に満ちいていた彼とは思えないほど力なく笑っていた。
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