オメガの香り

みこと

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僕は無事に安定期に入り、つわりも治まった。
つわりが酷かったのでスーパーのバイトは辞めて今は専業主婦だ。
慎一郎も大学がほとんどリモートなので樹貴を保育園に送った後はずっと二人きりだ。

「ねぇ、慎一郎。樹貴、保育園通えなくなるかも。」

「え?何でだ?」

「だって僕が働いてないから。仕事してる人が優先なんだよ。」

「そうか。それは困ったな。」

二人で役所に行ったりしてみたけどやはり退園になるようだ。幼稚園を勧められた。

「仕方ないよね。空きが待ってる人たちもたくさんいるし。でも樹貴になんて言おう。」

「本当のことを話すしかないな。幼稚園も探さないと。」

「うん…。」

せっかく慣れたのに。親の都合でかわいそうだな。
樹貴に弟か妹ができると話したら『知ってるよ。僕どっちでも良いって言ったでしょ』と言われて驚いた。 
まだつわりが来る前だったのに樹貴は分かっていたんだ。
子どもって不思議だな。
その樹貴は自分の絵本やおもちゃを貸してあげると嬉しそうに準備している。
あんなに喜んでくれているのに、そのせいで保育園が通えなくなると知ったらショックを受けるかもしれない。
そう思ってしょんぼりしてると慎一郎が優しく抱きしめてくれた。

「でも家族みんなで過ごせるのが一番だろ?樹貴も分かってくれる。」

「そうだね。」

「樹里…。」

ちゅっちゅっとキスしてきた。

「僕、掃除とかしないと。」

「後で俺がやるから…。ちょっとだけ。」

つわりが終わっても慎一郎は家事のほとんどをやってくれる。むしろ僕が動き回ると怒るのだ。

「樹里の体力は全部俺に使ってくれ。」

あっという間にシャツのボタンを外して服を脱がされる。

「あ、今日もするの?」

「先生は毎日でも良いって言っただろ?夫婦が愛し合うと赤ちゃんも喜ぶって。樹里、少しお腹が出てきたな。」

「うん。」

慎一郎は愛おしそうに僕のお腹に頬擦りをする。

「今からお母さんと愛し合うからな。少しうるさくするぞ。」

「もう、赤ちゃんに変なこと言わないでよ。」

「変なことじゃないだろ。なぁ。お母さんは恥ずかしがり屋だな。」

お腹に話しかけながら撫でたりキスしたりする。

「ベッドに行こう。」

僕をソファーから軽々と抱き上げると寝室へ運んだ。
毎日するけど僕に負担がかからないように優しく丁寧に抱いてくれる。気持ち良くて心も身体も満たされて幸せだ。
慎一郎は何度か僕の中で果てて、僕も気持ち良くてうとうとして眠ってしまった。
眠る直前に、僕がもう寝たと思った慎一郎がベッドから出てスマホをいじっているのが見えた。あまり見ない光景だからなのかすごく気になったけどそのまま眠りについた。



「樹貴、お父さん知らない?」

「え?さっきベランダで電話してたよ。」

え?何でベランダで?
最近こそこそ電話やメールをしていることが多い。
どうしたんだろう。

「慎一郎…。」

「うわっ!樹里!どうしたんだ。」

ベランダで電話をしている慎一郎に声をかけた。
そんなに驚くことないのに…。すごい慌てふためいてスマホをしまっている。

「どうもしないけど…。」

「そ、そうか。あ、俺、ちょっと出かけてくる。」

「え?うん。」

「夕方には帰るから。」

バタバタと支度をして出かけてしまった。
せっかくの日曜日なのに。
樹貴と二人で出かけようかな。

「樹貴、お母さんと出かける?」

「ううん。大丈夫。お母さん、大変でしょ?」

樹貴はすごく気を遣ってくれている。本当はどこに出かけたいはずだ。…いつもみたいに三人で。
でも慎一郎は上の空で忙しそうだ。


夕方買い物袋を抱えて慎一郎が帰ってきた。
いつも通り夕飯を作ってくれて後片付けや樹貴をお風呂に入れてくれる。
今日は寝かしつけもしてくれた。
でも何か違う。慎一郎はそわそわしたり考え込んだりしている時がある。

「お風呂入ってくるね。」

「手伝うか?」

「大丈夫。」





「ふぅ…。」

湯船に浸かりながら考える。
慎一郎は何かおかしい。
やっぱり急に父親になるなんてプレッシャーなのかな。
それとも他に好きな人でもできたんだろうか。
僕から見ても慎一郎はカッコいいし、頭も良いし、家柄だって良い。引くてあまたなのは分かる。

「出よう…。」

ダメだ。悪いことばかり考えてしまう。
それに長湯は禁物だ。のぼせたりしたら大変だし。

お風呂から上がると慎一郎が冷たいルイボスティーを淹れてくれた。

「ノンカフェインだから妊婦にも良いって。」

「ありがとう。」

こんなに優しいのに…。
違う人のところにいっちゃうかもしれない。
ずっと長い間、樹貴と二人でいることが普通だったのに、いつのまにか三人でいることがが当たり前になってきていたんだ。
慎一郎が他の人のところにいっちゃったらどうしよう。
僕はちゃんと身を引くことができるかな。
想像したらポロリと涙がこぼれた。

「えっ!じゅ樹里?どうしたんだ⁉︎」

「慎一郎が…。」

「え?え?俺が?俺がどうした?」

「他に良い人がいるの?」

「はぁ?な、何言ってるんだ!」

僕は勇気を出して言ってみた。
最近の慎一郎がおかしいこと。もし、他に好きな人でもいるならちゃんと言って欲しいって。
泣きながらだから上手く伝えられなかったかもしれない。

「違う!そんなことある訳ない。俺はおまえだけだ。おまえと子どもたちが何よりも大事なんだ。」

「慎一郎…。本当?」

「ああ。不安にさせてごめんな。実は、その…。決まるまで黙っていようと思ったんだけど…。」

そう言って慎一郎はスマホの画面を見せてくれた。

「何これ、住宅会社の営業…?」

「そうだ。家を建てようと思って。」

「えーーっ!」

「驚かそうと思って黙ってたんだ。」

「家?」

慎一郎は頷いてパソコンを持って来た。
営業担当者とのやり取りのメールやモデルハウスの写真だ。

「家族が増えるだろ?これから先ももっと増えるかもしれないし。今日は土地の確認とか契約の説明を聞きに行ってたんだ。」

「そっか。ごめん。変なこと言って。」

「いや、俺が悪い。ストレスが一番ダメなのに。本当にごめん。驚かせて喜ばそうと思って。」

「ううん。でも驚いたよ。」

慎一郎は大きな手で涙を拭ってくれる。そのまま何度も何度もキスをした

「本当にごめん。俺が愛してるのは樹里だけだ。これからも先もずっと。」

「うん。僕も。」

「はぁ、失敗したな。樹里を悲しませるなんて…。」

「ふふ。もう良いよ。それから今回のことで慎一郎に隠し事は向かないのは分かった。」

「そうだな。よし、仲直りしよう。そしてもっと愛を深めないと。俺が樹里を愛してるのも分かってもらわないとな。」

ニヤリと笑って僕をゆっくりソファーに押し倒した。



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