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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
気持ちはありがたいのですが
しおりを挟む「…………これは、どういうことですか?」
朝起きると、古いテーブルの上に真っ白なクロスが掛けられ、食べられない程の朝食が用意されていました。側には昨日の侍女が立っています。
「おはようございます、マリエール様。朝食の準備が整っております。さぁ、どうぞ」
どうぞって言われても座れない。
だってこれ、本宅からくすねてきたものだよね。だったら……私は侍女の、ううん違う、アンナさんの気持ちは受け取れない。それがアンナさんのためだから。
昨日、余計なこと言わなければよかった。言わなければ、アンナさんが危ない橋を渡ることもなかったのに。
「アンナさん。これ、どこから持って来たの? 本宅からですね。なら、私は受け取れません。本宅に戻して下さい。……アンナさんの気持ちは嬉しいですわ。だからこそ、この気持ちを受け取るわけにはいかないの。ごめんなさい、アンナさん」
頭を下げ謝った。胸の奥がギュッと締め付けられながら。頭にあの時の光景がまざまざと過ぎった。
私のせいで鞭打たれ、乱暴に放り出された侍女の姿を。
放り出されたのは三年前。
まだ私が離れに追いやられて間もない頃だった。
その時から、食事や身の回りのことは、最低限のものしか与えられていなかった。それを不憫に思った侍女が、内緒で食べ物をくれた。優しい人だった。私はその優しさに縋ってしまったの。ほんと馬鹿だったわ。
前世を思い出したばかりで不安定な時期だったから特に。
内緒でこっそり食べていた時にソフィアがやって来たの。最低最悪なタイミングだよね。
後は想像出来るでしょ。
屑にバレて無一文で侍女は外に放り出された。私のせいだ。私が縋らなければ彼女は追い出されることはなかった筈。
もうあんな間違いを犯したら駄目なのに、また私のミスで犯してしまった。更に強く胸が締め付けられる。なのに……
「私の名をご存知だったのですね」
責められて当然なのに、返ってきたのは穏やかな声音だった。
怒ってないの……? 不愉快に思ってないの? 優しさを無下にしたんだよ。
「……一度、挨拶を受けましたから」
戸惑いながらも答える。
王妃教育のたまものか、人の名前は一度聞いたら忘れないようになった。最早、特技の域かな。
「ご心配なく。この食事の材料全て、公爵家からは出ていません。なので、ご安心下さい、マリエール様」
返ってきた返事は予想もしていないものだった。
「公爵家から出てない? だったらどこから出ているのです?」
それが明らかになるまで、手を付けれません。アンナさんのためにも。
「王太子妃の費用からですのでご安心下さい」
「本当に?」
「はい。もしものために、王妃様から幾ばくかお預かりしておりました」
あり得ない話じゃない。だとしたら、アンナがつかえていた王族って……もしかして、
「アンナさんは、王妃様につかえていたのですか?」
「はい。それよりも、折角の食事が冷めてしまいます。詳しい話は行きの馬車の中で。お早くお召し上がりを。そして私のことは、アンナとお呼び下さい」
その話が本当か嘘か、私には確かめる手段が今はない。
だけどここまで言われて、さすがに断ることは出来ないよ。美味しそうな匂いで、さっきからずっとお腹が鳴りっぱだし。ほんと恥ずかしいわ。淑女としては落第ね。食べ出したら止まらないよ~~。
美味しそうに頬張る私を、アンナは表情を変えることなく見詰めている。でもその目は、とても優しいものだった。
こんな豪華な食事食べ切れないよ。胃が驚いてお腹痛くなっちゃう。冬だから、今晩まで外に置いといても大丈夫だよね。だけど、虫が来ないようにしとかなきゃ。早速取り掛からないとね。厳重に。
「……何をやってるんです?」
アンナには、私が何を仕出したのか分からなかったようね。尋ねてきます。
「晩に残りを食べるので、虫が入らないようにしてるだけですわ」
特にGだけは冬でも出るので。対処しとかないと。今は動きが鈍いですが、攻撃すると奴らは突っ込んで来ます。ほんと、厄介なやつです。やつらは最強の生き物と断言出来るわ。
なので素直にそう答えると、アンナに涙ぐまれました。
えっ、だって、勿体ないじゃないですか。
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