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第三章 超ハードモードの人生に終止符を
広がった溝
しおりを挟む本棚の影には、こちらを伺う本モドキ。
当然、床にも本棚にも本モドキ。
縄梯子を降りると正体不明の魔物の影。
ましてや、室内には、明かりを灯すもの一つ置いていないときたよ。う~~んどうしようか? 本は燃えせないし。そんなことを考えていると、殿下がポツリと呟いた。
「取り敢えず、降りて確かめるしかないな」と。
「そんなこと、認められると思うのですか!? 私が行きます」
すかさず、インディー様が反応する。
いやいや、インディー様の気持ちと立場はよくわかるけど、実際問題、この場合はインディー様より殿下が適任よね。なんせ、経験値が桁違い。インディー様もそれなりに強いけど、ただ強いだけ。それは魔物戦では通用しない。罠の件とは違う。
「カイン殿下が降りた直後に私も降りますね」
「マリエール様!!」
物凄い表情でインディー様が私に詰め寄る。普段が無表情に近いから尚怖いわ。
「先を進むのに最良の判断をしたまでです」
「それは、私が弱いということですか?」
声が低い低い。完全に矜持を刺激したみたいね。インディー様の強さは抜きん出てるし、それにみなうだけの努力もしている。その姿を見たことはないけど、それぐらい一緒にいればわかるわ。
「弱くはありませんよ。ただ、魔物と対峙した回数はどれくらいありますか?」
「それなりに対峙しましたが」
そうでしょうね。
「それは百回ぐらいですか? なら、話になりませんね。少なくとも、私はその百倍は経験を積んでますわ。殿下はその遥か上をいきますよ」
「なっ!? そんな見え透いた嘘を吐かなくても」
当然の反応よね。だって、インディー様が知っている私と殿下は今世だけ。十数年だけだもの。
「マリエール。一、ニ、三で」
殿下はインディー様を無視する形で私にそう告げる。こんな所でグズグズするわけにはいかないからね。
「わかりましたわ。三で行きますね」
私がそう言うと、殿下は頷く。
「背中を任した」
殿下はインディー様ではなく私にそう告げた。インディー様の息を飲む音が聞こえた。気にはなったけど、そこまで気を配る余裕はなかった。溝が少し広がった気がする。
「承りましたわ」
「よし」
殿下はそう言うと同時に飛び降りた。きっちり三秒後に私も飛び降りる。自身に結界を張って。
殿下は飛び降りると同時に炎で地面を焼き尽くした。
うん。これ、結界を張っていなかったらマジ死んでたわ。そのレベルだよ。でもまぁ、これが一番的確な判断だよね。飛び降りた先の安全は確保しないといけないし、上手くいけば、魔物にダメージを与えることも出来る。
三階ぐらいの高さだった。着地する前に風魔法で衝撃を軽減。
「私のすること残ってなさそうですね」
目の前には、大蛇が丸焦げになって息絶えている。完全な消し炭状態。
「いや、ありそうだぞ」
「そうですね」
四方八方から視線を感じるもの。私はそう告げると、殿下と私の四方に魔法陣を展開。風が刃になって周囲を切り刻む。バタバタと落ちてくるのは蛇の残骸。それを殿下が燃やしていく。
「蛇はあの糞女神の眷属だからな」
少々うんざり気味の殿下。数が多いからね。でも頭を倒してたことで、逃げ出したのもいる。眷属であっても、神位は低いからね。高かったら、逃げ出すなんてありえないわ。自由に動かせるのは限りがあるし。あっでも、隠し扉から出られないようにはしてるわよ。当然。こんな数の蛇が地上に出て来たら混乱するわ。誰でもね。
それにしても、こんな地下空間は蛇にとって一番快適で自分の攻撃を活かせる場所よね。本当、面倒だわ。気持ち悪い。シューシューいってるのが聞こえるし。
「一掃する」
「あっ。炎は駄目ですよ。空気が薄くなりますから」
「わかった」
そう答えると、殿下は巨大な水球を二個作る。それが地下空間に広がり満たした。
「うわっ。えげつない攻撃」
属にいう、水責めてやつね。どんな魔物でも、普通の蛇でも、毒蛇でも、呼吸が出来なくなったら死ぬわ。私たちは結界内にいるから大丈夫だけど。
時間にして五分。
水中にプカプカと浮いている、蛇、蛇、蛇。精神抉るわ……。中にはまだ動いているのもいる。仕方ない。可哀想だけど。私は小さな魔法陣を水中に描く。その瞬間、雷が水中内を走った。
「どっちがえげつないんだ」
若干引き気味で呟く殿下。
「そんなの、決まってるじゃないですか。殿下でしょ」
私は少し不貞腐れながら言った。
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