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第八章 今度こそ絶対逃げ切ってやる

軽いジャブから始めましょう

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 緊張で身体が竦みそうになるが、私はそれを必死に抑え込んだ。

「大丈夫だ」

 カイン殿下の声が私を包み込む。護られてる感じがした。小さく頷く。

 覚悟を決めて、私とカイン殿下、そして姿を消した神獣様も一緒に入室する。

 入室した私たちは、国王陛下と王妃殿下にまずは一礼をし、いつもの形式通りの挨拶を述べた。ここまではいつも通り。

 だが違ったのは、国王陛下と王妃殿下の態度だった。

 見た目は変らない。さすが、貴族の頂点にいらっしゃる方ね。でも、私にはわかる。僅かに動く不自然な筋肉の動き。呼吸の回数、そして浅さが。それは、隣にいるカイン殿下もわかっただろう。

「おお、マリエール、もう身体は大丈夫なのか? やっと、元気になったところだろう、すぐに学園には行かなくてもいいのではないか?」

 私の挨拶が終わるやいなや、国王陛下は畳み掛けるように言ってきた。そのまま聞けば、私の身体を心配してのことだと聞こえる。でも私には、制服姿に焦っているように映った。

 なので、軽くジャブをいれてみることにした。確認のために、カイン殿下を見上げる。すると、カイン殿下は小さく頷いた。傍から見たら、私を気遣うように見えるわね。さりげに、手を握ってくるし。

「お気遣いありがとうございます。でも、もう大丈夫ですわ。遅れを取り戻さなければなりませんもの。それで……実は数日前から、学園に顔を出していましたの」

 久し振りの貴族言葉。肩凝るわね。そんなことを思いながら、私は後半、声のトーンをわざと下げた。カイン殿下の手を強く握るオプションもつけて。

「数日前から!?」

 焦った声を上げたのは、王妃殿下。

「はい……」

「会いましたの?」

「いえ、直接には。しかし、声が聞こえる場所にはいました。王女様はお気付きにはならなかったようですけど」

 そう告げる私に、益々焦る王妃殿下。

「そんな報告は受けていませんわ」

 まぁ、受けてはいないでしょうね。変装してたし、魔力も抑えていた。影を騙せるくらいわけないわ。

「いましたわ。王妃殿下は私の特技をお忘れですか?」

 そう尋ねると、王妃殿下は黙り込んでしまった。

「いくら、王室や大聖女様がマリエールの無事を宣言しても、貴族たちは納得しない。ましてや、そのせいで隣国につけいる隙を与えてしまいました。その責任は私にもあります。当然、国王陛下も王妃殿下もありますよね」

 カイン殿下、笑いながら脅迫してるわ。目が全く笑ってないから、尚更怖い。美形だから特にね。

「そのことなら、私たちも苦慮しておるのだ」

 完全に貴族の仮面外れてるわ。よしよし、こちらのペースに持ち込んだ。

「苦慮? おかしなことを仰いますね。否定し、動いていた私を止めようとした方が、何を仰るのですか?」

「やり方が、えげつないから止めたのだ!!」

 そこは賛成だわ。カイン殿下のやり方は容赦ないからね。合理的っていうか、無駄が嫌いっていうか。

「えげつない? それこそ、おかしな話ですね。王室の発表に異義を申しているのに。普通なら、不敬罪で捕まる案件でしょう。でも、国王陛下は不敬罪に問わなかった。それはつまり、遠回しに、マリエールの噂を是としたわけですよね。グリード公爵家にも圧力を掛け丸め込んだ。違いますか?」

 知らなかったわ。丸め込まれたグリード公爵家も公爵家だけどね。一応、義理とはいえ娘なんだけど。でもまぁ仕方ないか、家に寄り付かない娘だものね。ましてや、護衛をまいてたし。面会も拒否してたから、しょうがない。

 愛情なんて不確かなもの、生まれても、すぐに消えていく。残り続けることはないわ。だからこそ、人は必死に残し続けようと頑張る。私はその頑張りを止めただけ。

 あの時にーー。

 思い出す。

 私の命が狙われ犯人が捕まってすぐに、狙った者に会えと言われたことを。その弁明を聞けと言われたことを。

「それは、穏便にことを進めようとしただけだ!! 決して、マリエールを雑に扱おうとは思っておらぬ!!」

 本心はそうかもしれない。しかし、傍から見たらどう映るのか、陛下はわかってはいない。

「ならば、何故、私がカイン殿下の側妃になる話が出ているのですか?」

 だから、こんな話が出てくるのよ。聞いた瞬間、ショックで呆然としたわ。

「何故、その話を!?」

 タラタラと冷や汗を流しながら、陛下は肯定した。

「さっき言いましたわ。私は学園に登校していたと。例えそれが、根もない噂だとしても、学園内に流れている時点でおしまいですわ。それに、その噂を王室やグリード公爵家が否定しない時点で、肯定したと同然です。まさか、国王陛下は私に側妃になれと仰いますか?」

 カイン殿下と私の前で。

「それは……」

 倒れそうなほど真っ青な国王陛下。王妃殿下も言葉を失っている。

 私は溜め息を吐きそうになった。あまりにも情けなくて。言い淀んでいる時点で、その考えが脳裏にあるってことよね。

 私はカイン殿下をもう一度見詰めてから、国王陛下と王妃殿下に視線を戻した。

「私、マリエール・グリードはカイン殿下の側妃には絶対になりませんわ!!」

 それだけは、死んでも嫌だわ。私はこの国の犠牲になるつもりはないの。そう考える時点で、貴族としてはおしまいなんだけどね。

 そして、カイン殿下が口を開く。

 さぁ、ここから一気に畳み掛けていくわよ!!



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