剣神と魔神の息子

黒蓮

文字の大きさ
上 下
84 / 244
第五章 能力別対抗試合

予選 9

しおりを挟む
 魔術部門の2次予選は、終始問題なく終えることができ、予定通り出現する100個全ての的を破壊して決勝トーナメント進出を決めた。


お決まりのように出現する的の強度は、今までの予選と違って僕だけ第四楷悌相当のものだったが、今の僕にはまったく苦にもならなかったので、特に指摘することもしなかった。


予選の様子をアーメイ先輩も見ていてくれたようで、終わって演習場を退出しようとしたとき、遠くから大きな声と共に僕に笑顔で手を振ってくれた。そんな先輩を見て、僕も自然と笑みがこぼれ、先輩の元へ駆けるように行ったのだが、何故か近づくと先輩の顔を直視することが出来なくなってしまい、予選を見ていてくれた事へのお礼を伝えるのにチラチラと先輩の顔を盗み見るような態度をとってしまった。


気分を害するかもしれないと分かりつつも、どうしても先輩の目を見て話すことが出来なくなってしまい、顔が熱くなっていることを実感する。


それでも、僕の行動が不審に思われるだろうと、意を決して先輩を正面から見つめようとすると、先輩もチラチラ僕を見るような態度をとっていて、お互いの目が合った瞬間、同じ行動を取っていたことが急に可笑しくなって、2人して笑ってしまった。


その後、アッシュ達にも応援のお礼と予選の結果報告に戻ると、どうやら僕とアーメイ先輩とのやり取りの一部始終を見ていたようで、皆ニヤニヤした表情で「ご馳走さま!」と、手を合わせられてしまった。その時の僕は、恥ずかしさのあまり頬が引きつるような感覚に襲われ、上手く笑えていた自信が無いほどだった。



 そして少し休憩を挟み、15時からの剣武術部門2次予選となった。



「エ、エイダ君、大丈夫かい?」


「は、はい!身体の調子も良いですし、問題ございません!」



演習場に行く前に、アーメイ先輩から僕の体調を気遣ってもらったのだが、先輩に対して変な緊張感を持ってしまい、何故かおかしな敬語で返答してしまった。その様子に呆れたようにジーアが突っ込んできた。



「何やねん!その言葉遣い!君らどんだけウブやねん!!」


「い、いやぁ・・・何でだろう?」


「・・・・・・」



僕はジーアの指摘に何も言い返すことができず、疑問系で聞き返してしまう有り様だった。アーメイ先輩も、ジーアの言葉遣いは結構失礼な物言いだったのだが、それをまったく気にすることが無いどころか、若干頬を赤らめながら俯いて沈黙を貫いていた。そんな変な空気をカリンが変えてくれた。



「ところで、さっきの予選といいエイダの予選の的の強度って、かなり上の楷悌じゃなかった?」



具体的な楷悌までは分かっていないようだが、他の生徒達と比べて的の強度がおかしいということは感じているようだった。



「ははは。まぁ、おそらく第四楷悌だろうね。と言っても、僕には全く問題ないんだけど」



僕はその事自体まるで意に介していないように、カリンに肩をすぼめながら伝えた。その返答に一番反応したのは、予選を見ていてくれたはずのアーメイ先輩だった。



「何っ!?それは本当なのか!?」


「いやいや、アーメイ先輩も俺らと一緒にエイダの予選を見てたじゃ無いですか!」



まるでそんな事分からなかったというように驚く先輩に、アッシュが指摘する。



「す、すまない。ちょっと見ている場所が・・・その・・・皆と違ったようだ・・・」


「???」



言い難くそうに俯きながらボソボソと話す先輩の顔は、何故か真っ赤になっていた。その様子にジーアがこそっと近づき何かを耳打ちすると、先輩は両手で顔を覆いながら「それ以上は止めてくれっ!!」という言葉を残して、どこかへと走り去ってしまった。



「・・・あの、ジーア?先輩に何言ったの?」


「ふふふ、これは女同士の秘密なんや。堪忍な、エイダはん」



ジーアは妖しげな表情で人差し指を唇に持っていくと、片目を閉じながら小首を傾げ、それ以上僕に追及させようとはしなかった。


そうして、予選の担当官が第四楷悌の魔術を使ったことについても、僕が全く気にしていないことで話しは終わりとなった。




 そして、剣武術演習場の一角で木剣を下げながら、予選開始の合図を待つように担当の魔術師達の準備を見つめていた。ちなみに今回の木剣は前回みたいなボロボロな物ではなく、ちゃんとした物だった。


3人の魔術師の準備が整うと僕に一声確認があり、開始の合図とも言える魔術杖を地面に打ち鳴らす音が、3つ同時に響き渡った。



「シッ!」



即座に闘氣を纏い、姿を消すような速度で最初の的に接近する。1次予選と比べると、2倍に広くなった演習場のせいで、的に接近しての攻撃を余儀なくされる剣武術は、的を見つけるまでの早さ、移動の速度が重要だ。



「ハァッ!」



腕を引き絞り、最初の的を単なる突きで苦もなく破壊する。やはりというか、もう当たり前というか、出現している的は全て第四楷悌の土魔術で構成されている。とはいえ、今や自分の表面にうっすらと纏う位の闘氣でもって破壊は問題ない。


これも、ほぼ完璧と言えるくらいの精密な制御で闘氣を操ることが出来るようになったからだろう。薄く纏っているといっても闘氣量が少ないわけではない。密度と質が飛躍的に向上した結果だ。



「フッ!シッ!ハァ!」



 標的の破壊も30個を越えてきたが、未だ僕は余裕をもって捌いている。魔術師の魔力の流れを読み取り、出現場所を事前に把握しつつ、複数の的を破壊していく最短ルートを導き出し、軽やかなステップを踏んで殺到する。


そうして順調に的の破壊をこなしていくが、的の出現に違和感を感じ出したのは50個を越えたあたりだった。



(っ!?演習場の一角に誘導されてる?)



その場所は2つに区切られた剣武術演習場の一方の中央、ちょうど3人の担当魔術師の魔術発動領域が重なるような位置だった。


そしてーーー



「っ!!」



的を破壊した瞬間の身体の硬直を狙うように、僕の背後の地面から槍のような形状にされた土魔術の発動を感じた。



「くっ!」



今までの的の出現傾向から、僕を走り回らすような遠い位置の出現が、急に範囲がせばまるようになった。それどころか、僕の隙を突くようなタイミングで、魔術師達が連携するように観戦している人達からの死角を計算して、僕の身体を貫こうとしてくる。



(あ~もう!タイミングが鬱陶しい!)



僕が躱そうとする場所に、別の魔術師が先回りして魔術の展開を準備してる。そのせいで少しづつ体勢を崩されてしまうのだ。ただ、それでも的を破壊していくペースは衰えること無く、淡々とこなしていくと、合格の線引きである70個を越えたところで今度はあからさまに僕を狙いだした。



(今まではバレないようなやり方だったのに、お構いなしかよ!)



ここまでされるとこっちも考えがあるので、魔術騎士団員の自信を粉砕するように立ち回りを変えた。



『ガギンッ!』


「「「なっ!!?」」」



驚きの声を上げたのは、僕の背後から後頭部を貫くように魔術を展開した者の声だったろうか、それともその様子を固唾を飲んで観戦していた観客の生徒の誰かだっただろうか。


槍のような形状に変化した土魔術は、相手の狙い違わず僕の後頭部に直撃したのだが、あえて避けずに受け止めたのだ。



「おっと、騎士の人?魔術の制御が甘いですね?僕に当たっちゃいましたよ?まぁ、脆い土魔術なんで怪我一つ無いんですが、よくそれで騎士団に入団できましたね?」



僕は侮蔑の籠った眼差しで、魔術を放った騎士を半笑いで嘲笑した。まるで今、後頭部に受けた土魔術など意に介さないように。



「・・・調子に乗るなよ、出来損ないが」



僕の見下した視線を受けて、相手の騎士は憎しみを籠めた声で睨み付けてくる。どうやらこの騎士も、ノアに対する感情はあの先生と一緒のようだ。



「やれやれ・・・何がそうさせるんだか・・・」



ノアの置かれる状況に呆れる言葉を吐き捨てたのだが、どうやら彼らは僕のその言葉を挑発という意味で受け取ってしまったようだ。



「ノアにしては少し実力があるからと、良い気になるなよ!」



僕に向けられたその言葉に、彼らの雰囲気が変わった。3人が一斉に僕を囲うように土魔術を発動させると、アリの這い出る隙間もないような槍の牢獄を作り出してきた。



「全部で30本位かな?これを全部破壊すればこの予選もパーフェクトだね」



何の気負いもなく、それが出来て当然と言う呑気な口調でそう宣言すると、圧倒的な速度で木剣を操り、次の瞬間には細切れにされた土魔術が僕の足元にボロボロと崩れ落ちたのだった。



「「「・・・は?」」」



彼らは予期しない現実に、気の抜けたような声を同時に発したようだった。おそらく余程自信のある攻撃だったのだろうが、僕が難なく打ち払った事実に理解が追い付いていないのかもしれない。



「いや~、残りの標的を一気に発動してくれて手間が省けましたよ!これで予選は終わりですか?」



ほうけている彼らに、何も気にしていないという感じで語り掛けると、一人が素早く正気を取り戻した。



「あ、あぁ、そうだ。君の実力的に言って一度に出現させても問題ないだろうと考えてね!しかし、我々の思った通りだったね!」



彼は観戦している生徒達にも聞こえるように、大きな声を上げて自分達の行動を弁解していた。とはいえ、そんな事を主張しなくても周りのほとんどは、この騎士達と同じ思考でノアである僕を排除したいと考えていると思った。



「ええ!お陰でかなり時間を残して終えることが出来ましたよ!まぁ、僕にとって目の前を飛ぶ羽虫を軽く払う程度の労力でしたから」



渾身の笑顔でそう伝える僕に、ギリリと彼らが歯軋りしている音が聞こえてきた。それでも騎士達は笑顔を取り繕うと、予選の突破を宣言した。



「ふ、ふふん。そうだろうね。では、君の2次予選は終了だ。おめでとう。決勝トーナメント進出だ」


「どうも、ありがとうございます!では!」



そう言って颯爽と演習場をあとにする僕には、背後から突き刺さるような視線が投げつけられていた。



 演習場から離れると、心配した表情で僕に駆け寄ってくるアーメイ先輩の姿が目に映った。



「エイダ君!大丈夫かっ!?」



先輩はそう言いながら僕の背後に回り込むと、後頭部付近を擦って怪我がないか丹念に確認しているようだった。



「ア、アーメイ先輩、僕は大丈夫ですよ?怪我もしていませんから」


「そ、そうか?一瞬、君の後頭部に直撃したように見えたのだが、躱していたのか?」


「あ、いえ、ちゃんと直撃してましたよ?」


「・・・?」



さも当然という僕の反応に、先輩は理解が追い付かない表情で停止していた。



「その、闘氣で完全に防いだので、怪我はしていないという意味なんです」


「闘氣で完全に?すまない、私の見間違いでなければ、あの屑共は君に第四楷悌の土魔術を放っていたようなのだが?」



先輩は怒気を含んだ声音で、僕を担当していた魔術騎士達をそう表現していた。



「はい、その認識で間違いないです。ただ、彼らには僕の防御力を突破できるだけの力量が無かったというだけですよ」


「そ、そうなのか。しかし、君ほどの実力があれば、あの一撃も余裕をもって避けられたのではないか?」



先輩の指摘に、僕は素直に頷いた。



「そうですね。ただ、僕も彼らのやり方には、ちょっとカチンときてしまいましたので・・・」



悪びれることなく、冗談めかしながら理由を告げると、先輩は真剣な表情で僕に言い募ってきた。



「確かに、あの者共の行いは騎士の精神にも反するだろう。しかし、私は君が怪我をしたと思い・・・いや、もしかしたらそのまま君を失う、なんて事になれば私は・・・」



瞳に涙を浮かべて訴えてくる先輩の様子に、僕は自分の行動を省みる。先輩は真剣に僕の事を心配して涙まで浮かべてくれているのだ、その涙を見て僕は二度と大切な人に涙を流させるような行動はしないようにしようと心に誓った。



「すみません、アーメイ先輩。僕はもう、先輩を悲しませるような行動は取りません!」


「・・・約束だぞ?」


「はい!だから、涙を拭いてください」



そう言いながら先輩からプレゼントされた純白のハンカチを先輩に差し出すと、柔らかな笑顔を浮かべてそっと受け取って涙を拭った。何故だか僕にとって先輩のその仕草がとても綺麗で、いつまでも見続けていたいと思ってしまった。


それはきっと、大切な人が僕の為に涙してくれた事への感動だったのかもしれない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1

箱入りの魔法使い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:10

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2,971

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:823pt お気に入り:783

【完結】お嬢様だけがそれを知らない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:162

出雲死柏手

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:3

mの手記

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:646pt お気に入り:0

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,805pt お気に入り:3,750

桜天女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:0

親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

BL / 完結 24h.ポイント:591pt お気に入り:20

処理中です...