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全然違う雰囲気だよ? 

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 ――――そして俺たちは辿り着いた。黒き闇が覆う地、クローネへ……。
 
「そしてそれは伝説となるのだった……」
「またシロンが何かブツブツ呟いてるニャ……」
「もう疲れたからかまってらんないわ。はぁ……」
「ニャ? ……この町、怖いから引き返すニャ」
「おい、何言ってんだ暗くて何も見えないぞ」
「おおお、おぞましい……おぞましい!」
「ちょっとやめてよ。一体何がいるっていうの……喋り方普通に戻ってるし……」
「ひぃー……ラフィーは食べてもおいしくないですぅ。おお、お願いですおいてかないでぇ……」

 町の入り口でぴたりと歩くのを止めたニャトル。
 そしてその後ろを歩くサルサさんも、地雷フィーさんをおぶりながら尻込みしています。
 一体何がいるっていうんだい? 

「おーーーーい、誰かいますかーーー! 真っ暗で見えませんーー! 俺たち宿が無くて困ってまーす!」

 こういう時はとりあえずでかい声で叫んでみるのが一番って誰かが言ってました。
 近所迷惑? いえ、まだ深夜ではないはずです! 言うなればそう、ナイターの始まる時間くらいに
違いありません! 

「あれ、返事がないなぁ。聞こえてないのかな? ただの屍ですか?」
「シシシシシ、シロン。ひひひ引き返すニャガガガガ」
「何言ってんだ。誰かいるには違いないんだろう? ここで引き返したら元の木阿弥でご飯も
食べれないじゃないか。俺は先に行くぞ!」

 真っ暗な町の中に足を踏み入れると、そこは、輪郭だけわかるような真っ黒い町でした。
 建物の輪郭はわかります。しかし人らしい人は見えません。
 一体何に怯えてるって言うんだニャトルは。

「おいおめえ……白いな」
「おや? 人……人……うーん、見えない」
「白いのが入って来たって?」
「本当だ白い。赤いのも混じってるが白い」
「おいおい本当かよ。白いのって」
「え? え? えー?」
「こいつは随分と勇気があるなぁ。白から黒になりにきたのか?」
「あの、いえ、そのですね。見えない……俺たちシローネの町のシロコロネって宿屋に
行こうとしたら道に迷っちゃって……仲間がそこに……」
「ああん? シロコロネだぁ? そんな白そうな宿、知らねえな。それよりどうよ。
クロコロリって宿にとまってけや」
「今ならまだ泊まれるぜ。ヒッヒッヒ」
「ああ。うめえ料理も食えるし宿代も安いぜ。キョキョキョ」
「早く行かないと宿がうまっちまうかもな? ゲッヘッヘッヘッヘ」
「あのー、笑い方が典型的に怖いんですけど」
「おいおい。そうやって笑い方をバカにしたりするのはよくないって、教わらなかったのか? 
ウヒャハハハハハハ」
「いえあのですね……見えないとこから笑い声が聞こえたら不気味じゃないですかぁ!」
『ちげえねえ』
「皆さんわかってるなら姿を見せてくださいよ。俺には全然見えないんです!」
「しょうがねえなぁ。俺たち黒い町ってのは、見えるってことを嫌うんだよ。白いやつらとは違ってな」
「あっちでも見えませんでしたよ? 人の気配も無いし」
「おめえさっきから何か勘違いしてねえか。ここはな……」
「人なんて種族は極わずかしか住んでねえのさ」
「俺たちは」
「シロネ族とクロネ族。風景と同化して暮らす種族の集まりよ!」
「久しぶりの来客だぁ。もてなしてやろうぜえ……キョキョキョ」

 そこで俺は気づきました。俺の白い体の地面。そこに伸びる影に! 

「まさか、あなたたちは影? 影そのもの?」
「お、気づいたか。そうだよ。俺たちは影で移動、生活をしてるのさ」
「ここに住んでる人間は六人しかいねえ。白い方に三人、黒い方に三人だけだ」
「クロコロリまで案内してやる。後ろの奴らも連れて来な」
「あれ、案外いい人……」
「だから言ってるだろ。俺たちゃ人じゃねえ。クロネ族と呼べ」
「案外、いいクロネ……?」
「そうそう、それでいい。キョキョキョ」

 ――こうして俺は、サルサさんとダメ猫を説得し、彼らについて行くことになりました。
 当然サルサさんは怖がってます。
 ダメ猫は影に映る顔のようなものまではっきり見えているようで、もっとびびってます。
 でも、怖いかなー? 俺は前世のゲームとかで、喋る影なんて沢山しっていたからなー。

 テレビからでてくる人とかより怖くないよ! 大丈夫! 
 しかし道中真っ暗過ぎて音を頼りにしないと全然進めません。
 ニャトルに一応先導してもらい、サルサさんは俺の尻尾を片手でつかんでます。
 道案内には俺の白が良く目立つ! 纏いし炎とか使ってもいいんだけど、火を使ったら怒られそうなので
やめています。

「ここだ。おい、シャドーを解け。客連れてきたぞ。クロマ」
「ほ、本当ですかコゲクロさん! いやーーうちにお客さんが来てくれるなんて嬉しい! 今開けますね!」
「ちっ。この中は眩しいから好きじゃねえんだよ。それじゃな!」
「あ、あのー。ありがとうございました! このご恩はいずれ!」
「お? 恩はいいから体を黒くしてこい。黒はいいぞ。キョキョキョ」
「んじゃ俺たちも帰るわ。解散解散。いやー楽しかったぜぇ」
「しっかしここ最近は来客が頻繁にくるようになったなぁ。ちっとも俺たちに気付かないけどよ」
「まったくだぜぇ。あの犬っころのように気合いれて話しかけてくる奴がちっともいねえ。コソコソな
奴ばっかでつまらんかったな」
「あ、あのー。その話って後で詳しく聞かせてもらえません?」
「おう? いいぞ。後で遊びに行ってやる。キョキョキョ」
「えーと、たしかコゲクロさんでしたっけ。よろしくお願いします!」
「あんた、何で普通に話せるのよ……怖くないの? 影と話してるのよ……」
「見えないものは怖くありません! 全然大丈夫いい人……じゃない、いいクロネさんです!」
「キョキョキョ。面白い犬だな。んじゃ、また後でな!」

 クロコロリという謎の宿屋に案内された俺たち。
 宿の中に入ると……そこは黒いピアノ塗装のような美しい宿でした。
 凄い。何という美しい光沢のある家具たちでしょう。
 こんないい宿屋があったなんて。
 そしてここには明かりがあり……優しそうな青年がいました。

「ついに見つけた! 人、人ですよサルサさん!」
「ああ……私たち、ようやく休めるのね……何かもう、どっと疲れたわ……」
「あの、いらっしゃいませー。ああ……人型のお客様なんて何年ぶりだろう。感激、感激ですよこれは……
私はクロマと申します。お客様は全部で何名ですか?」
「二名よ。見たらわかるでしょ。そっちのはペットの犬と猫よ」
「わん」
「ニャー」
「ええとそちらの方々は召喚獣ですね。自立型とは珍しいですが、宿代はいいので
お食事代は頂きますよ」
「あら、話が分かるわね。一泊いくらかしら」
「食事代が四名で銀貨八枚。宿泊はお二人分で銀貨二枚。合計銀貨十枚です」
「わかった、払うわ……もう疲れてるし直ぐ休みたいの」
「サルサさんが値切る力もないなんて」
「十分ご納得いく部屋だと思います。さぁどうぞ」

 案内された部屋に入ると納得です。これはいいお部屋です。
 何せ……何もかもピアノ塗装のように輝いている家具。
 そしてベッドには黒いカーテン付き。高級感が違います。
 枕も黒。
 布団も黒。
 外の景色なんてありません。真っ黒です。

「俺たち、墨汁の中に紛れ込んだようですね……」
「お食事は部屋までお持ちしますか? それとも食事処で?」
「もう動きたくないから部屋まで持ってきてくれるかしら」
「畏まりました。直ぐご用意しますので少々お待ちくださいね」
「はぁ……なんか、無になれるベッドですぅ……」
「なんか嫌な予感がするニャ……」
「奇遇だな。俺もだ」
「私もよ……ここまで黒いならきっと……」

 俺たちは料理を待ちました。
 どんな真っ黒こげな料理が出てくるのかを……待つこと一時間程です。しかぁーし! 
 その期待、裏切られた! 

「お待たせしました」
『何ーーー!』
「あれ? どうかなさいました?」

 全員声を揃えて何ーの大合唱です。何って何だ? 
 黒いのはお盆だけ! 後は見事な色付き料理の数々! 
 魚はいい感じに焼け、香ばしい匂いを発しています。
 お酒までついていました。びっくりです。黒いお盆の上に透明に光る飲み物! 

「いやー驚いたでしょう? 何もかも黒くて。この町に越してきてもう八年になりますけど。
こっちの町の住民は本当、いいクロネさんたちばかりですよ」
「笑い方が無償に怖かったんですが……」
「あはは。それは私も最初思いました。すっごく怖かったんですけど、ここで宿をだしたら
本当に親切丁寧な方たちで驚きましたよ」
「よくここで宿をやろうと思ったわね……」
「それには黒より深い事情がありまして。聞いていかれます?」
「いえ、遠慮しておくわ……それより、美味しいわね。ここでやっててお客なんてくるの?」
「人はほとんど来ないですね。ここは魔族も立ち入れる場所ですから、闇の眷属や闇のモンスターなんかがよく宿泊に来ます」
「へ、へえ……私たち、ここから無事に帰れるのかしら……」
「こここ、怖いニャ……闇のモンスター……絶対強い奴にゃ」
「だだだ大丈夫だって。宿屋だぞここはセーブすれば絶対安全だ」
「セーブって何ですかぁ……はむ、美味しいですぅ……」
「いざってときはラフィーを囮にして逃げましょう」
「それがいいニャ……」
「何でですかぁ……はむ。美味しいですぅ……」
「ははは……大丈夫ですよ。この町で争いごとなんて起こせば、クロネ族の方々が黙ってはいませんから。
でもそういえば最近何か聞いたような……とはいえ、先ほど皆さんをここへ連れてきてくれた
コゲクロさんはとってもお強いんですよ」
「あわわわわ……あの鋭く光る眼を持つ影ニャ……怖かったニャ……」
「コゲクロさんって眼、光るんですか? 初めてしりました。よく見える眼をお持ちなんですね」
「ふふん。ニャトルにかかれば何でもお見通しニャ!」
「それはいいけどあんた、そっちのおかず食べないならもらうわよ」
「皆さんて割とシュールな関係なんですね……」
「そっちのダメ猫のやり取りはおいといてですね。ええとクロマさん。俺たち実はこの町に
仕事で来たんですよ。その相談も兼ねて後でコゲクロさんにも話を聞くつもりなんですが」
「おや、そうだったんですか。でしたら私にもお話を聞かせてもらえませんか? この町に
住んでいると俗世に疎くて」
「ええ。実は……」

 俺たちはクロマさんにここへ来た目的を話し始めた。



「ようやく宿にたどり着けたわね」
「怖かったニャ……」
「私もこんな町だとは知らなかったですぅ……」
「くっ。これが影の実力者ってやつなのか……中二病心をくすぐるぜ」
「違う影じゃないかしら。それって」


 また来週っ!?  
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