44 / 115
第2章 教会の子供たち
第14話
しおりを挟む
庭から来た神父を見た途端、少年はビクリと肩を震わせそのまま回れ右する。
「えっ、きみ?」
思わず呼び止めたけれど無駄だった。
彼はさっきまで一人では帰りづらそうにしていたのに、今は脱兎のごとく去っていき、ドアの向こうへ消えてしまった。
ユァンは唖然として、閉じたドアを見つめる。
「どうしたね?」
後ろから来た神父がユァンの肩に手を乗せた。
「あ……」
不穏な空気を感じ、ユァンは恐る恐る振り向く。
銀色の仮面が燭台の灯りを映し、ゆらゆらと不気味な光を反射していた。
「友達は行ってしまったのかね?」
神父の声が聞いてくる。友達とはさっきの少年のことだろう。
「彼はシスターからご用を言いつかっていたのを思い出して……それで先に……」
彼が挨拶もなく帰っていったことを責められてはいけない。
そんな思いから、ユァンはとっさに言い訳した。
「……そうか、まあいい」
銀仮面の向こうの目がすっと細められる。
「じゃあ、君は1人か」
「え……?」
嫌な予感がして周りを見ると、いつの間にか広間に子供はいなくなっていた。
「おいで、私と一緒に花火をしよう」
神父に手を握られる。
(ど、どうしよう……2人で過ごしたら、さすがに正体に気づかれる!)
だからといって、手を振りほどく勇気もユァンにはない。
そして対応に困っているうちに、神父に手を引かれて庭へ連れ出された。
春の夜、木々に囲まれた庭は暗く、まだ少し肌寒い。
遠くでパチパチと、手持ち花火の音がした。
庭木の向こうに見える花火の光が遠い。
子供たちが遊んでいるのとは、別の方角の庭に出てきてしまったようだ。
「みんなのところへ行きましょう……」
ユァンは神父の注意を逸らそうと、人の集まっている方へ行こうとする。
ところが神父が手をつかんだまま放そうとしなかった。
「あの……?」
「それより私と話をしよう」
そのまま低い木の下に引き込まれる。
入り組んだ枝に、匂い立つ赤い花がついていた。
「君は、神を信じるかな?」
耳の後ろでペティエ神父の声がした。
「……はい、ブラザー……」
返事をすると、耳の後ろに笑うような吐息がかかる。
「こっちを向いて、仮面を取ってごらん」
ユァンは振り返ることができなかった。
ここで仮面を取るわけにはいかない。
「どうした? 顔は見せたくないのか?」
養護院の制服を着ているユァンの肩の上に、ペティエ神父が単語顎を乗せてくる。
仮面に覆われていない神父の口元が、ざらりとした感触とともにユァンの頬にぶつかった。
「えっ、きみ?」
思わず呼び止めたけれど無駄だった。
彼はさっきまで一人では帰りづらそうにしていたのに、今は脱兎のごとく去っていき、ドアの向こうへ消えてしまった。
ユァンは唖然として、閉じたドアを見つめる。
「どうしたね?」
後ろから来た神父がユァンの肩に手を乗せた。
「あ……」
不穏な空気を感じ、ユァンは恐る恐る振り向く。
銀色の仮面が燭台の灯りを映し、ゆらゆらと不気味な光を反射していた。
「友達は行ってしまったのかね?」
神父の声が聞いてくる。友達とはさっきの少年のことだろう。
「彼はシスターからご用を言いつかっていたのを思い出して……それで先に……」
彼が挨拶もなく帰っていったことを責められてはいけない。
そんな思いから、ユァンはとっさに言い訳した。
「……そうか、まあいい」
銀仮面の向こうの目がすっと細められる。
「じゃあ、君は1人か」
「え……?」
嫌な予感がして周りを見ると、いつの間にか広間に子供はいなくなっていた。
「おいで、私と一緒に花火をしよう」
神父に手を握られる。
(ど、どうしよう……2人で過ごしたら、さすがに正体に気づかれる!)
だからといって、手を振りほどく勇気もユァンにはない。
そして対応に困っているうちに、神父に手を引かれて庭へ連れ出された。
春の夜、木々に囲まれた庭は暗く、まだ少し肌寒い。
遠くでパチパチと、手持ち花火の音がした。
庭木の向こうに見える花火の光が遠い。
子供たちが遊んでいるのとは、別の方角の庭に出てきてしまったようだ。
「みんなのところへ行きましょう……」
ユァンは神父の注意を逸らそうと、人の集まっている方へ行こうとする。
ところが神父が手をつかんだまま放そうとしなかった。
「あの……?」
「それより私と話をしよう」
そのまま低い木の下に引き込まれる。
入り組んだ枝に、匂い立つ赤い花がついていた。
「君は、神を信じるかな?」
耳の後ろでペティエ神父の声がした。
「……はい、ブラザー……」
返事をすると、耳の後ろに笑うような吐息がかかる。
「こっちを向いて、仮面を取ってごらん」
ユァンは振り返ることができなかった。
ここで仮面を取るわけにはいかない。
「どうした? 顔は見せたくないのか?」
養護院の制服を着ているユァンの肩の上に、ペティエ神父が単語顎を乗せてくる。
仮面に覆われていない神父の口元が、ざらりとした感触とともにユァンの頬にぶつかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
85
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる