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新人魔女と師匠の共同研究(2)

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 リゼの話によれば、妖精や精霊の類と虹の雫の関係については分からないとのこと。それでもそれを信じてしまうほどに、虹の雫は魅力的な素材なのだと珍しくリゼが力説していた。

 リゼが虹の雫を見つけた時に完全に花に魅了されなかったのは、一輪しか見つけることが出来ず、それをあっという間に消費してしまったかららしい。仮にリッカのように数本も咲く花たちを見つけていれば、間違いなく骨の髄まで魅了されてしまっていただろう。まるで悪魔の誘いに乗ってしまったように。

 真剣な顔でそう話したリゼの声を思い出して、リッカはブルリと身震いした。

(あの時、フェンがそばに居てくれて本当に良かった。わたし一人だったらどうなっていたことか)

 リッカがフェンにチラリと視線を向けると、美味しそうに水を飲んでいたフェンも視線を上げた。

「すっかりなくなってしまいました」

 名残惜しそうに言うフェンにリッカは思わず笑い声をこぼす。

「美味しかった?」
「はい。とても」
「ふふっ、良かった。でももう終わりよ。あとは研究に使うのだから」

 そして、リッカは再び虹の雫をじっと見つめた。虹の雫を採取できたことは本当に幸運だった。花自体に何らかの魔力が備わっていることは確かなのだ。これからじっくりと観察していこう。きっと花の特性や性質も判明するはず。そうすれば、素材としての最良の活用方法も思いつくかもしれない。

 リッカは鞄の中から魔力阻害用のゴーグルとゴムの手袋を取り出すと、さっと装着する。虹の雫は高魔力を秘めているので、直接触れたり、直接視認することは危険であると判断したリゼの指示であった。

「さてと、観察を始めるわよ!」

 リッカはそっとトングを瓶の中へ差し入れ虹の雫を水中から取り出す。そしてまじまじと観察を始めた。

(本当に綺麗……)

 虹の雫をじっくりと見つめるその横顔は、まるで宝物をうっとりと見つめているようだ。太陽に透かして見たり、様々な角度から観察したり、指でツンツンと突いてみたり。そうしてリッカは虹の雫に夢中になっていた。

「リッカ様……」
「……あ、あれ?」

 フェンの声に我に返ったリッカは首を傾げる。

(わたし今……何をしていたの?)

 頭がぼんやりとする。まるで夢の中にいたかのように現実味のない状態が続いたような気がしたのだ。そして、ふいにリッカの心に不安がよぎる。

(まさか、魔力阻害の装備をしていても魅了されかけたの?)

 リッカは慌てて花を水中に戻した。
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