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SF・ファンタジー系

曇り空

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世界で唯一、空を味わえるカフェバーを訪ねた。
空を採取する伝統技を持つ民族がいる事から、このカフェバーだけが空を販売する許可を持っている。

「いらっしゃい。」

私が尋ねると観光シーズンが過ぎた事もあり、断崖にある店は落ち着いた雰囲気だった。
招かれるままカウンターに座る。

「どちらから?」

「日本です。」

「ああ、四季がお美しいですね。空をお飲みに?」

「ええ。」

私がそう言うとマスターは窓から身を乗り出し、長い棒で空を綿飴みたいに絡めて採取していく。
それが手際よくシェイクされ、カクテルグラスに注がれた。

「どうぞ。今日の空は個人的にはお薦めです。」

「曇り空が?」

「ええ。曇り空は、堪えた涙が淡く弾け、それでも負けるものかという心の強い味がします。」

私はその空を飲んだ。
何だか少し泣きそうになった。

「人生の様でしょう?」

そう、マスターは静かに微笑んだ。
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