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我が上の星は見えずとも
未来を見つめて
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空を覆う稲光。
フロントガラスを叩く強い雨。
不吉な声を上げる嵐。
晴天の霹靂を表すには良い天気だとフッと笑う。
だが同時に、これこそが自分たちの頭上にある天命なのだと思えた。
兄は運命の人に出会った。
それは間違いない。
義姉さんは兄の胸に輝く星だ。
二人は出会うべくして出会ったのだ。
私はそれを見ていた。
だからわかる。
義姉さんは兄を導く星だ。
いつまでも走り出したら一直線に止まらない子供の様だった兄が、その夢と同じ重さで守りたいと強く願ったかけがえのないもの。
その走りを無理に止める事はなく、時に共に走り、時に諌めて正しい方角を示してくれる。
「……まず、あの狂人と共に走るってのが普通できないんだよ。」
思わずぷぷぷっと吹き出す。
今まで兄に惚れて付き合おうとした人も、仕事面で慕って追いかけてきた人も、皆、最後は力尽きて憔悴して離れて行った。
私は兄弟として長いこと共にあったが、兄の性質を理解している故、可能な限り深く関わらずそれなりに距離をとってきた。
何故なら放っておいても向こうからこちらに向かってくるのだ。
だからある程度距離をとって置かなければ、いざこちらに向かって走って来られた時に危険なのだ。
私は兄に振り回されてきたが、共に走ってきた訳じゃない。
単なるアンカーに過ぎなかった。
突っ走るその人を、どこかにすっ飛んで行って行方知れずにならないようギリギリ繋ぎ止めていたに過ぎない。
「北辰の女神……か……。」
義姉はその異名に違わぬ良い仕事をしてくれた。
身軽といえば聞こえはいいが、素早く動ける兄の中には錘が存在していなかった。
自由で素早い分、兄はどこか存在が軽すぎた。
だからいつか、思い立った様に興味を持った方へ走り出してそのまま消えてしまうような気がしていた。
けれど今、兄の心には義姉さんがいる。
ぽっかりと空いていた兄の中に、義姉さんという星がぴったりと収まり輝いている。
変人には変わりないが存在が安定した。
不安定だった兄が、義姉さんという星を道標に走り始めたのだ。
義姉さんがいる限り、もう、どんなに素早く走り回っても平気だ。
私が無理にブレーキをかけたり、繋ぎ止めておく必要はない。
兄は本当の意味で自由になったのだ。
そして必ず帰らなければならない場所が今の彼には見えている。
もう、どこかに飛んで行って消えてしまう恐れはない。
だから私は安心して二人を最果てへの旅に送り出せると思っていたのだ。
二人ならどこへでも行けるだろうし、二人でなら、どこで終わっても悔いはないだろう。
私自身も空を見上げ、たとえ帰らぬ二人でも、輝く星々のどこかにいると納得できただろう。
けれどどうやらこの地球は、どうしても兄を繋ぎ止めたいようだ。
星に愛される男は、もれなく生まれ育った星にも溺愛されているようだ。
ガイアは私のアンカーとしての力より北辰の力が強いと見るやいなや、何度と、かの導きの女神を人質に取ったのだ。
「どんだけ愛されてんだ……あのバカ兄貴は……。」
私は別に神を信じている訳でもガイア信仰者でもないが、兄の持つ「宇宙の神童」「最も地球に愛された男」と言う異名は伊達ではないと言わざるおえない。
今までいくつも、あわやという事態すら兄は奇跡的に乗り越えてきた。
それについては私自身、見えない何かに感謝してもしきれない。
だが今回ばかりはその愛されすぎている事が仇になった。
大地は兄と義姉の愛をもってこの地に約束をさせた。
その約束に対し、二人がどんな答えを出すのかは私にはわからない。
私はただ、それを見守るだけだ。
「…………嘘だろ……?!」
「マジか……やはり兄弟って事か……。」
私の叩きだしたスコアに全員が唖然としていた。
それに少しムスッとして振り返る。
「……あんな馬鹿と一緒にすんな。迷惑だ。」
だから嫌だったんだよと心の中で思う。
あの後どんな話し合いがあったか私は知らない。
ただ結果として義姉さんは搭乗を辞退した。
その為、急遽、メンバーの中で希望者による二次選抜が行われる事になった。
やっと兄の子守りから卒業できると思っていた私はただただため息をつく。
常に程々を見極めていたが、世界きっての狂人達と競り合わなくてはならないのだ。
今回ばかりは全力を出し切って当たらなければ、流石に厳しい。
それでも約束は約束だから致し方ない。
あまり乗り気でもなさそうなのに選抜に参加し、その上、今まで出していない数字を出すものだから皆が不思議そうに私を見ている。
そこに人の気も知らず、何故か上機嫌な馬鹿が絡んできた。
「当然当然!俺の弟だぞ?!」
「……うぜぇ。離れろ。」
「何で~?!お兄ちゃんに対して酷くない?!」
「ひでぇのはてめぇの頭だ!ボケ!!」
流石にその時には、私は生涯この兄の子守をする羽目になるのかもしれないと悟り始めていた。
色々な想いを抱え、八つ当たりとばかりに兄を背負投る。
綺麗に決まった技を見て周囲が爆笑していた。
その中には義姉さんの姿もあった。
痛がりながら体を起こした兄の目が自然と義姉さんに向かう。
どこにいても、たとえどんなに離れても、兄はきっと義姉さんを見つけるだろう。
そんな気がした。
その心に導きの星が輝く。
二人は夢を捨てたのではない。
その目を見ればわかる。
欲張りで行動派の二人はどちらも選んだだけだ。
それを手分けして行うと言うだけなのだ。
お互いを信じて、その夢を守り合う強さ。
兄は義姉さんの為に夢を諦める事はない。
義姉さんは兄との愛の為に強くその足でこの大地を踏みしめている。
そしていつか兄はこの星へと戻るだろう。
義姉さんに導かれ、必ずここに戻ってくる。
義姉さんこそが、兄の心星だから。
私はそれを遠目に見守りながら、長い旅の事を少しだけ考え始めていた。
フロントガラスを叩く強い雨。
不吉な声を上げる嵐。
晴天の霹靂を表すには良い天気だとフッと笑う。
だが同時に、これこそが自分たちの頭上にある天命なのだと思えた。
兄は運命の人に出会った。
それは間違いない。
義姉さんは兄の胸に輝く星だ。
二人は出会うべくして出会ったのだ。
私はそれを見ていた。
だからわかる。
義姉さんは兄を導く星だ。
いつまでも走り出したら一直線に止まらない子供の様だった兄が、その夢と同じ重さで守りたいと強く願ったかけがえのないもの。
その走りを無理に止める事はなく、時に共に走り、時に諌めて正しい方角を示してくれる。
「……まず、あの狂人と共に走るってのが普通できないんだよ。」
思わずぷぷぷっと吹き出す。
今まで兄に惚れて付き合おうとした人も、仕事面で慕って追いかけてきた人も、皆、最後は力尽きて憔悴して離れて行った。
私は兄弟として長いこと共にあったが、兄の性質を理解している故、可能な限り深く関わらずそれなりに距離をとってきた。
何故なら放っておいても向こうからこちらに向かってくるのだ。
だからある程度距離をとって置かなければ、いざこちらに向かって走って来られた時に危険なのだ。
私は兄に振り回されてきたが、共に走ってきた訳じゃない。
単なるアンカーに過ぎなかった。
突っ走るその人を、どこかにすっ飛んで行って行方知れずにならないようギリギリ繋ぎ止めていたに過ぎない。
「北辰の女神……か……。」
義姉はその異名に違わぬ良い仕事をしてくれた。
身軽といえば聞こえはいいが、素早く動ける兄の中には錘が存在していなかった。
自由で素早い分、兄はどこか存在が軽すぎた。
だからいつか、思い立った様に興味を持った方へ走り出してそのまま消えてしまうような気がしていた。
けれど今、兄の心には義姉さんがいる。
ぽっかりと空いていた兄の中に、義姉さんという星がぴったりと収まり輝いている。
変人には変わりないが存在が安定した。
不安定だった兄が、義姉さんという星を道標に走り始めたのだ。
義姉さんがいる限り、もう、どんなに素早く走り回っても平気だ。
私が無理にブレーキをかけたり、繋ぎ止めておく必要はない。
兄は本当の意味で自由になったのだ。
そして必ず帰らなければならない場所が今の彼には見えている。
もう、どこかに飛んで行って消えてしまう恐れはない。
だから私は安心して二人を最果てへの旅に送り出せると思っていたのだ。
二人ならどこへでも行けるだろうし、二人でなら、どこで終わっても悔いはないだろう。
私自身も空を見上げ、たとえ帰らぬ二人でも、輝く星々のどこかにいると納得できただろう。
けれどどうやらこの地球は、どうしても兄を繋ぎ止めたいようだ。
星に愛される男は、もれなく生まれ育った星にも溺愛されているようだ。
ガイアは私のアンカーとしての力より北辰の力が強いと見るやいなや、何度と、かの導きの女神を人質に取ったのだ。
「どんだけ愛されてんだ……あのバカ兄貴は……。」
私は別に神を信じている訳でもガイア信仰者でもないが、兄の持つ「宇宙の神童」「最も地球に愛された男」と言う異名は伊達ではないと言わざるおえない。
今までいくつも、あわやという事態すら兄は奇跡的に乗り越えてきた。
それについては私自身、見えない何かに感謝してもしきれない。
だが今回ばかりはその愛されすぎている事が仇になった。
大地は兄と義姉の愛をもってこの地に約束をさせた。
その約束に対し、二人がどんな答えを出すのかは私にはわからない。
私はただ、それを見守るだけだ。
「…………嘘だろ……?!」
「マジか……やはり兄弟って事か……。」
私の叩きだしたスコアに全員が唖然としていた。
それに少しムスッとして振り返る。
「……あんな馬鹿と一緒にすんな。迷惑だ。」
だから嫌だったんだよと心の中で思う。
あの後どんな話し合いがあったか私は知らない。
ただ結果として義姉さんは搭乗を辞退した。
その為、急遽、メンバーの中で希望者による二次選抜が行われる事になった。
やっと兄の子守りから卒業できると思っていた私はただただため息をつく。
常に程々を見極めていたが、世界きっての狂人達と競り合わなくてはならないのだ。
今回ばかりは全力を出し切って当たらなければ、流石に厳しい。
それでも約束は約束だから致し方ない。
あまり乗り気でもなさそうなのに選抜に参加し、その上、今まで出していない数字を出すものだから皆が不思議そうに私を見ている。
そこに人の気も知らず、何故か上機嫌な馬鹿が絡んできた。
「当然当然!俺の弟だぞ?!」
「……うぜぇ。離れろ。」
「何で~?!お兄ちゃんに対して酷くない?!」
「ひでぇのはてめぇの頭だ!ボケ!!」
流石にその時には、私は生涯この兄の子守をする羽目になるのかもしれないと悟り始めていた。
色々な想いを抱え、八つ当たりとばかりに兄を背負投る。
綺麗に決まった技を見て周囲が爆笑していた。
その中には義姉さんの姿もあった。
痛がりながら体を起こした兄の目が自然と義姉さんに向かう。
どこにいても、たとえどんなに離れても、兄はきっと義姉さんを見つけるだろう。
そんな気がした。
その心に導きの星が輝く。
二人は夢を捨てたのではない。
その目を見ればわかる。
欲張りで行動派の二人はどちらも選んだだけだ。
それを手分けして行うと言うだけなのだ。
お互いを信じて、その夢を守り合う強さ。
兄は義姉さんの為に夢を諦める事はない。
義姉さんは兄との愛の為に強くその足でこの大地を踏みしめている。
そしていつか兄はこの星へと戻るだろう。
義姉さんに導かれ、必ずここに戻ってくる。
義姉さんこそが、兄の心星だから。
私はそれを遠目に見守りながら、長い旅の事を少しだけ考え始めていた。
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