極道恋事情

一園木蓮

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封印せし宝物

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 その後、高台から香港の街を眺めたいという紫月の希望で、一同はピークトラムに乗ることになった。
 ピークトラムとは香港で歴史のある登山用の乗り物だ。一大観光地のひとつ、ビクトリアピークへ向かうケーブルカーで、街並みを一望できる山頂まで運んでくれる。登上する際の傾斜角度は飛行機が離陸する時と同じくらいあるそうだ。
「ほええ、なんかどこそこ綺麗になってんなぁ。俺らがまだガキんちょの頃にいっぺんだけ遼と親父たちと乗ったことがあったよね」
 懐かしいなぁと紫月が瞳を輝かせている。その頃から比べると、乗車口までの道のりもまるで別物のように整備されていて驚かされる。改札口はもちろんのこと、乗車口までの道も非常に綺麗になっていてすっかり別次元だ。
「すっげ! 天井が透けて見えるようになってる!」
 当時もこんなんだったっけと紫月はまるで子供に戻ったかのようなはしゃぎようだ。
「そういえば私も香港に住んでいながらピークトラムに乗ることなど滅多にないですからねぇ」
 鄧海も物珍しげに車内を眺めている。まあ地元の者にとっては案外そんなものなのかも知れないが、それ以前にマフィアのファミリーがこうした観光用の乗り物に乗ることなどおおよそ無いといったところなのだろう。
 冰もまた、周にぴったりと寄り添われながら乗車していたが、車窓からの景色を眺めながらどことなくソワソワと落ち着かない様子であった。何を隠そう、紫月がこのピークトラムに乗りたいと言ったのも、それが周と冰の思い出の場所のひとつだからだ。先程公園で食べた饅頭も然り、皆で十五年前に周らが辿った場所を巡っているのである。
 案の定、冰は何かを感じ取っている様子だし、何よりも周の出立ちからして当時を彷彿とさせる装いだ。こうして少しずつ自然に思い出を再現していく中で、もしかしたら冰の記憶の扉に何らかの影響を与えられるかも知れないと思ってのことだった。

 山頂にはピークタワーという特徴のある形の建物が象徴的で、その巨大さにも目を見張らされる。観光地なので人であふれていたが、そこから見下ろす香港の街並みはまさに絶景といえた。
 周らはなるべく観光客が少ない箇所を選んでゆっくりと散策して歩いた。時刻はちょうど午後のティータイムから夕刻へと差し掛かったところだった。もうあと少しすると夜景をお目当てに人々でごった返すだろうが、今はちょうど観光客も夜景ツアー前の夕食タイムに向かう頃合いだろう、比較的人影も少ない。
 紫月らは記念写真を撮ったりしながら観光客に混じってはしゃいでいる。その様子を見つめながら、冰は喉元まで出掛かっている記憶の一端を、懸命に手繰り寄せようとしていた。
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