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12 思い出す ※前戯
しおりを挟むふと、ジョーが話をすり替えてごまかそうとしている、と気がついた。
聞かないといけないことを覚えているうちに、とその場に正座をしてジョーを見つめる。
「説明してくれ。
どうしておれを四日まで家に帰らせたくないのか。
ガキとはなんなのか。
お披露目、子作りとはどういうことだ。
いいや、まず何もかもの前に、おれはお前の嫁になることを了承してない!」
「……おお?最後のは聞き捨てならねえなぁ」
獣の唸り声のような低い声と共に、みしり、と部屋が軋んだような気がした。
暖かいと思っていた室内が、寒いと感じる。
背中を伝っていったのは冷や汗だ。
するりと音がしそうな勢いでジョーが服を脱ぎ捨て、全裸を晒す。
その体が一瞬で、青みがかってつるつると光る緑色の肌に変わり、体の厚みが増して、背中にずっしりと重たそうな甲羅を背負い、頭に皿を乗せた河童の姿に変わった。
その股間には何も生えてない。
……え?
河童がゆっくりと腰を屈めて、おれの目をじっとりと見つめてくると、背筋を伝う寒気がひどくなる。
恐怖か?
自分の体が何に反応しているのか知りたくて、黄色の瞳を睨み返した。
「昨夜は嫁になるって言っただろうが、なんで嫌なんだ?」
「言わされたような言葉には責任を持てない、おれは寺を継いで血を残さないといけないんだ」
「シゲの後継がシゲの子供じゃなくても、構わねえだろうが」
「っ、それは」
「まあ、でも安心した。
男同士で己が河童だから、が理由じゃねえなら、いっくらでも懐柔のしようはあるからな」
しまった、そっちが問題だと言えばよかったのか、と気がついたけれど、もう手遅れだった。
なぜかは分からないけれど、おれは河童のジョーとのキスや、昨夜の行為に嫌悪感を覚えていない。
嫌悪感も拒否感も覚えないことを、とても不思議だとは思っているけれど。
拒絶する理由を色々と考えても、思ってもいないことが口から出てくるはずがない。
自分は同性愛者ではないはずで、嫌悪感を覚えていないからと言って、これが恋愛感情だとも思えない。
強いていうなら、魅入られている、とでも言うか。
ゲームに夢中になる子供の気分だ。
自分で制御できない未知のものに、ズブズブに溺れているような。
「……おれが、家を出るためにジョーを利用している、って言ったら?」
「そんなん知ってる」
「え……?」
「んー、昨夜の薬が効きすぎたか、初めてだからって多く使いすぎたな、ごめんなシゲ。
相手が人間だろうが動物だろうが、尻から腕を突っ込んで尻子玉を引っこ抜くのに使う薬だからな。
何でもかんでも気持ちよく感じさせて、使い方によっては廃人になっちまう」
「その薬で、おれが狂ってしまったってことか?」
なんでそんなもの使ってんだよ!
だから、昨日の記憶が吹っ飛んだ、って?
おれが廃人になるところだった?
……でも今のおれは、思い出している。
昨夜、ジョーとの間に何があったのかを、思い出せているはずだ。
「どこまで思い出した?」
河童の姿なのに、不安そうな口調につられて、黄色い瞳を見つめてしまう。
さっきまでの威圧するような気配は鳴りを潜めて、黄色の瞳を温めた蜂蜜のようにとろりと溶かして、甘い雰囲気で見つめられると困ってしまう。
言えと?
おれの口から、ジョーと何をしたのか、覚えてることを言えって?
「どこまでって……そんなこと言えるかっ」
「あ"ー悪い、シゲがしっかり者で初で恥ずかしがりな甘え下手だってことを忘れてた。
今から、昨夜やったことをもう一回すっから、覚えてたら伝えてくれよ」
「え?何をするって?」
「だから、薬の使用量は最低限にして、昨日と同じことヤるって言ってんだよ」
「薬は、使わないといけないのか?」
「……気にすんの、そこか?」
ジョーになんとも言えない表情でそう言われ、他にどこに文句を言うんだよ?と見上げてみれば、ニィと頬が二つに裂けるほどの満面の笑顔を浮かべられた。
「河童の魔羅を受け入れるのは、嫌じゃねえのか?」
「っ……あ!?」
思いつきもしなかった。
普通なら、一番にそれを思うだろうに。
おれは男なのに、尻の穴にちんこを突っ込まれることを、嫌だと思ってない?
自分のことなのに、自分が信じられなくて愕然とした。
「あーなんか、すっげ安心した。
記憶は無くなっても、気持ちは変わってねえんだな?
本当にシゲは可愛いなぁ」
昨日の記憶がちょっと足りない以外にも、他におかしなところはないか?と更に腰を屈めてくるジョー。
気のせいではなく、さっきまで生えてなかったはずのものが、彼の股間で頭をもちあげているのが見えた。
おれの発言の何かが引き金になったってのは感じとれても、何がジョーの琴線に触れたのかが分からない。
「待った、いや待って、無理だって!」
「無理じゃねえ」
のしかかられるようにジョーに肩を掴まれた。
大きな水かきがあって、鋭い鉤爪の生えた分厚い手には、人の体くらいなら簡単に引き裂ける力があるから、動かない方が良い。
……なんで、おれはそんなことを知ってるんだ?
「……っあ、ん……」
正座から腰を上げた両膝立ちのまま、ジョーに肩を掴まれてキスをする。
ちゅる、じゅるり、ちゅくと音を立てて、口の中をジョーの黒くぬめる舌で撫で回されると、頭の芯がふやけたようにぼうっとしてくる。
ほのかに甘い味と爽やかな風味と共に口の中に注がれた、ジョーの体内で生成された体液を飲み下すと、尻の穴がむずむずとしてくる。
え?……体内で生成?ってなんだ?
「……はぁっ」
息継ぎって、どうやるんだった?
ジョーの人ではあり得ないほどに長い舌は、おれの喉の奥まで入り込んでくるので、うまく息ができない。
昨夜はどうしてたんだっけ?
キス、気持ちいい。
すごく好き。
優しくしてくれるジョーが好きだ。
もっとして欲しい。
考えられなくてぼんやりとしていく頭で、ふわふわと揺れる視界で世界を見ながら考える。
「ああもう、これだけでトロットロのエロ顔になっちまうのかよ」
キュウっと嬉しそうに細められた黄色い瞳が半月のようで、それを見るなり胸の奥で心臓が暴れ出す。
ドキドキと心臓が踊るたびに、ジョーが抱きしめてくれるのが嬉しい、もっとおれを見て、とどこかで声がする。
離れてしまった口が寂しい。
ジョーとおれの間に隙間があるなんて、いやだ。
「そんな可愛い顔で拗ねるなって、何にも心配いらねぇよ」
そんなことを呟きながら、ジョーが再び戻ってきてくれた。
分厚くて冷たい手が、全身を余すことなく撫でてくれて、暖かな室内でゆっくりと溶けていくアイスの気持ちを味わう。
とろりと喉を伝っていく甘みが、鼻の奥を抜ける爽やかな香味が心地よい。
気がつけば服がなくなっていて、ジョーとおれは布団の上に座り込んで、裸で抱き合っていた。
ジョーの青緑色の肌と、おれのごく普通の日焼けしてない男の肌。
表皮がつるつるしているのに硬くて分厚いのは、巨大な甲羅が邪魔で服を着る習慣がないからかもしれない。
冷たくて分厚い河童の手が、鋭い鉤爪が、おれを傷つけないようにと繊細に動くのを見るだけで、勃ちあがって腹についているものがひくひくと震えてしまう。
大切に優しくされていると知るだけで、何もかもが快感に置き換えられる。
「……ぁあっ」
カリリ、と爪の先で胸の先端を引っ掻かれてつぶされて、そのままこねるようにされると、腰が勝手にカクカクと前後に動く。
刺激が強いだけで気持ちよくないのに、これがいずれ快感につながるという予感があった。
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