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―第九十一話― 夜更かし

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 ……相変わらずベッドが柔らかい。
 少しでも気を抜いたら、すぐにでも眠ってしまいそうだ。
 ……だが。

「……そろそろ時間だよな」

 ぐっと背を伸ばし、勢いよく跳ね起きる。
 窓からはうっすらと月明かりが入っている。
 そりゃあそうだ、今はもう深夜なのだから。
 こんな時間に起きている人間なんて、俺ともう一人・・・・くらいしかいないだろう。

「『潜伏』」

 能力を使い、完全に気配を消す。
 変に警戒されるのも困るからな。
 こういうのは、こっそりと終わらせたほうが良い。



 ……ここか。
 扉の向こうから断続的に若干の魔力を感じる。
 そっと音をたてぬように、扉を開く。

「違う、違う、違う……」

 ぼそぼそとした喋り声が静かな図書室に陰鬱と響いている。
 ……まだ気づかれていないようだな。
 そのまま気付かないでいてくれよ……。

「違う違う違う……!」
「どうも、お昼ぶりです」
「ひぎゃあああああああ!!」

 背後から優しく声をかけると、ルドベキア王子・・・・・・・は飛び上がらんとする勢いで驚き散らかした。

「しっ、誰か起きてしまうかもしれないじゃないですか」
「お、お前、のせいだろ! それに、何しにこんなところに来たんだ!」
「王子の驚いたリアクションを見に」
「ふざけるな!!」
「……とまあ、冗談はここまでにしまして。……王子様、あんたの能力について、少し教えていただけませんか?」

 そう、俺はこのためにわざわざこんな時間まで起きていたのだ。
 嘘が分かり、人探しまでできる能力。
 戦闘に向いているかはわからないが、そこまで汎用性のある能力も珍しい。
 ……少なくとも、俺の能力はそこまではできない。

「……なんで俺の能力なんて教えなきゃいけないんだ?」
「単純に気になっただけですよ」
「……。……誰にも言うなよ?」
「はい」

「俺の能力は、真偽を判別する能力だ」

 ……え?

「そ、それだけですか!?」
「それだけだ」
「じゃ、じゃあ、人探しとかって……」
「東西南北とか左右とかで区切っていって、少しづつ場所を絞っていってる」

 ……まじかよ、おい。
 能力の汎用性とかの問題じゃなくて、使い手が有能過ぎるパターンか。

「……凄いっすね」
「何がだ? 戦闘の役にも立たないような能力だぞ?」
「いや、使いこなしてる王子が、ですよ。その能力をそんな使い方ができるなんてそうそう思いつきませんし、実行するにしても大量の魔力が必要になるはずですから」
「…………」
「頼んでおいてなんですが、無理だけはしないでくださいね。魔力枯渇で王子が倒れるなんて、洒落になりませんから」
「……分かってる」

 ……だろうな。
 あきれ半分で、心の中で呟く。

 そんな事態になった時にばれないよう、こんなところにいるんだろうし。
 こんな奥の方だったら滅多にばれないし、本を読み耽って気付いたら……とかの言い訳ができるからな。

「じゃ、俺はもう眠いんで寝てきます」
「ああ、ゆっくり休んでおけ。明日までに絶対に見つけてやるからな」
「……ありがとうございます」

 さて、王子の能力の秘密も分かったことだし、そろそろ眠ろう。
 ツツジの居場所が分かり次第、すぐに動きたいからな。
 睡眠は大切!!


◆◆◆


 コンコンと控えめなノック音が部屋に響いた。
 ……こんな時間に誰?

「ジャスミン、ちょっといいか?」
「リア!? ちょっと待ってて、今鍵開けるから!!」

 こんな夜遅くに来るなんて、どうしたのだろう。
 ……何か起こったのだろうか。

「ごめんな、急に来ちゃって」
「全然いいわよ。で、どうかしたの?」
「あー、まあ、そのだな……」

 ごにょごにょと、何かを言いたげな表情を浮かべたリアは、やがて覚悟を決めたようにこちらを見据え。

「少し、大切な話があるんだ」


◆◆◆


「……こっちか……?」

 大分場所が絞れてきたな。
 あと三十分もあれば、リアトリスさんの仲間の居場所もわかりそうだ。
 …………。

「貴様、何者だ!?」

 背後から感じる異様な気配に呼び掛ける。
 ……くそっ、ナイフを持ってくるべきだったな。

「ルドベキア王子。単刀直入に言います。殺されたくなければ、我々の後を静かについて来てください」

 ……人攫いか……?

「相手を見誤ったな。俺をそう簡単に攫おうなど……!?」
「もう一度だけ言いましょう」

 本棚の影から出てきたのは、十体以上の魔物。
 ……それも、俺が今までに対峙したことのないような強さを誇るような。

我々・・の後を静かについて来い」
「…………」

 ぐっとこぶしを握り、戦闘態勢をとる。
 サントリナ先生の授業をもう少し真面目に受けてればよかったな……。

「かかって来い、けだものども。そう簡単に攫われなどせんぞ」
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