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3-16.目覚め

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 私は、いつの間にか屋上に立っていた。
 夕陽がさしている。微かに拭いている風が心地良い。そして、現実感が無い。

 私の記憶が確かなら、全て上手く行った。
 だけど、あまりにも、あっさりしている。

 とても怪しいゲートを潜る抜けた。
 途中、真っ白な世界で巫女様と出会った。そこで白狐が先読みの力を奪ったと知り恐怖した。

 その後、幽世に到着した。
 私は恐怖で下ばかり見ていた。

 次の瞬間、気味の悪い場所で一人きり。

 勇気を出して移動したら鬼と出会った。
 そして大きな鬼の元に連れて行かれた。
 
 大ピンチ。食べられちゃう。
 そんな時に再び彼が現れた。

 彼は黒鬼を圧倒した。
 だけど元の場所に戻った瞬間、光の矢で串刺しにされた。

 白狐が現れた。
 あの恐ろしい妖怪は、ヒトの脚を投げた。

「……タマちゃん」

 と、彼は言った。
 私には何も分からないけど、状況から察するに、タマちゃんという友人を白狐の元へ向かわせていたのだろう。その結果、返り討ちにあってしまった。

 彼は怒っていた。
 そして、たまたま私達を覗いていた狐の妖怪を拘束した。

 恐ろしい「調教」が始まった。
 グロテスクな触手が、女の人の姿をした妖怪を三次元的に這い回った。

 私は、それを見て──


「どうした?」


 声を掛けられた。
 何度も聞いた自信に満ちた声。

 私は目を向ける。
 夕陽を背にした美少女の姿が、そこにあった。

「運命から解き放たれたのだ。もっと嬉しそうな顔をしろ」
「……運命」

 そうだ、そうだよ。
 私は今日死ぬ運命だった。

「現実感が無いか?」
「……それ、先読みの力?」

 まるで私の心を見透かしたような声。
 今の彼は、私の体に入っている。多分だけど、私には先読みの力があった。でも私は未熟だから、その力を使いこなせなかった。だけど彼は違った。

「特別な力など必要ない」

 しかし彼は私の言葉を否定する。
 そして、得意気な瞳に私の姿を映した。

「貴様は運が良かった。俺と出会った時点で、この未来は確定していた」

 彼は相変わらず自信に満ち溢れた口調で言った。
 だけどその言葉は、ほんの少しだけ寂しそうに聞こえた。

「さて」

 私の「寂しそう」という感覚を否定するかのように、彼は明るい笑みを浮かべる。

「俺達の入れ替わりだが明日には元に戻る。その間、苦労をかけることを謝罪する」
「謝罪だなんて、そんな……」
「ひとつだ」

 彼はピンと人差し指を立てた。

「ひとつ、望みを言え」
「……望み?」
「ああ。俺の力が及ぶ限りで、なんでもひとつ、叶えることを約束する」
「……なんでも?」
「ああ、なんでもだ」

 その言葉を聞いた途端、私は何か、体の奥底が熱くなるのを感じた。

 これまでずっと諦めていたことがある。
 私は十八歳を迎える前に死ぬ。だから将来の夢など抱くだけ無駄。

 だけど、生き残った。
 私はこれから先も生きることができる。

 まだ実感は無い。
 それでも、これだけは分かる。

 やりたいことを我慢する必要は無い。
 これから先、私は自由だ。だから、私は──

「……ふへっ」

 私は、

「……あの、妖怪を調教した触手、出せる?」
「ん? ああ、キャサリンならいつでも召び出せるぞ?」
「出して!」

 私は!

「私を! 調教して!」

 欲望のままに生きる!

「……ほ、ほぅ?」

 私は彼に近付き、思いの丈を吐露する。

「最初は、なんて残酷な光景なのだろうと思った。でも途中から身体が熱くなって、気が付いたの。いつの間にか、自分の姿を重ねていた」

 思い出す。

「気持ちよさそうだった」

 お腹から下が、どうしようもなく熱い。

「だから、お願い。私を、あなたの──」

 口を塞がれた。
 彼はどこか引き攣った表情をして、私に言う。

「一日、時間を置こう」

 いいえ、無駄よ。
 どれだけ時間を置いても、この気持ちは変わらないわ。

「元の姿に戻った後、改めて俺の元へ来い」

 彼はウインクをした。
 そして、次の瞬間には姿を消した。

「……あれ?」

 私は周囲を見る。誰も居ない。
 思わず夢でも見ていたかのような気持ちになった。

 だけど、私の体は、まだ戻っていない。
 この有り得ない「入れ替わり」が、夢ではなかったことを証明している。

「……ふへっ」

 想像する。
 明日から、私は、どうなっちゃうのだろう。

 世界一かわいい私の体。
 どんなふうに、虐められちゃうのだろう。

 それは、一体……どれ程の快感なのだろう。

「……カメラ、買わなきゃ」

 
 かくして私は生贄という運命から解き放たれた。
 
 彼は、私の英雄だ。
 命を救って、夢をくれた。

 これから先、私は夢のために生きる。
 ふへっ、ふへへ、ふぇへへへ…………。







【あとがき】
 ファンタジー全然わからん……。
 行き当たりばったりな話を単行本一冊分も読んで頂き、ありがとうございます。

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