運命を知っているオメガ

riiko

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本編

7、本能

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 ボケッとした俺に沙也加ちゃんが言った。

「見た? 西条君がいる。ガラス越しだからまだ平気だけど、同じ空気吸っただけですごく嫌な顔されるから気をつけて。オメガをバカにしているし大嫌いなんだって。だから今日の全校集会はサボってもオメガなら怒られないよ、むしろ出た方が後々怖いことになりそうだから」
「あれがオメガ嫌いで有名な、西条……なの?」

 あれは何というか、魔王だ。

「えっ! 初めて見たの? あそこにいるのが西条君。あんなかっこいいからそれでもつがいになりたいってオメガいるんだって、私はごめんだよ。オメガをバカにするようなアルファなんて絶対嫌、まさ君もオメガなんだから、早くここを出よう」
「あっ、うん」

 彼女に引きずられるようにその場を去った。

 でもどうしてこんなにも心臓が煩いのだろう。あいつの、西条の顔をちらりと見ただけで震えるような歓喜と、彼に近づきたいという思いが急に芽生えた。

 オメガだから? 彼はオメガをそういう虜にさせる能力でも持っているのか? 彼女はプンプンと怒って、彼にどうしようもなく惹かれる……みたいな態度はまるでない。

「ねぇ、沙也加ちゃんは西条見ても大丈夫なの? だって、あんなに怖いのにそれでも一部のオメガは彼の魅力に逆らえなくてヒート起きちゃうんでしょ? そんなやばいフェロモン持っているなら、オメガなら誰でもヤバくなっちゃうんじゃないの?」

 俺たち二人は教室で話をしていた。このクラスには俺と彼女だけがオメガだったから、その他の生徒はまじめに全校集会の最中だった。そして呆れたように俺の言葉に何言っているのって言った。

「そんなわけないじゃん! ああっまさ君はベータ寄りの生き方していたんだっけ?」
「それ、関係ある? でも俺オメガ的な考えよくわからないんだよね」
「そっか、西条君は強い抑制剤飲んでいるから、私は彼の匂いを感じたことは一度もないよ。普通アルファならすれ違うだけで何かしらフェロモンの香りをオメガなら感じるから、まさ君だって櫻井君の香りはわかるでしょ」

 あぁ、たしかに。櫻井に俺の匂いわからないかって聞かれた日から意識してみたら、いい香りがした。前はその匂いがフェロモンだとは意識してなかったけど、あれが柔軟剤ではないのならあいつのフェロモンなんだろう。ああいう類の香りのことを言うのか。

「私たちオメガの匂いも薬を飲んでいる西条君にはわからないんじゃないかな。流石に発情していたら少しは感じると思うけど、彼がラット、つまりオメガの匂いに発情することは無いんだよ。オメガだって匂いのしない彼に近づいただけではヒートが起こらない」
「でも、西条ってなんどもオメガのフェロモンレイプにあっているんじゃ?」

 そんなことを櫻井が言っていた。

「ああ、正しくはオメガがわざと発情促進剤を彼の前で打って、発情してヒートに乗っかって彼に抱いてもらおうとしたやつね。誰一人成功してないらしいよ、彼は軽くあしらって決してオメガを抱かない。そしてそんな犯罪行為をしたオメガも皆、それなりの制裁を受けてるって話みたいよ」
「へ、へぇ……」

 制裁って……。それよりそんな人権無視した行為をするオメガもやべぇな。

「仮に西条君を見て誘発剤を使わずに素の状態で発情するなら、それは運命の相手だけじゃない? だから彼とつがいになりたいオメガたちは自分こそ彼の前で発情したオメガだから、たった一人の運命の相手だ! っていうでっち上げで襲うんだね、でも肝心の西条君がラット起こさないんじゃ、それはただのフェロモンレイプだからね。浅はかなオメガたちだよね、運命の相手をそんな芝居でだませるわけないのに、それで私たちまともなオメガの株まで下がるんだから、嫌になっちゃう」
「……」
まさ君、大丈夫? なんだかさっきから顔色が赤くなったり青くなったり忙しいよ、保健室連れて行ってあげようか?」

 彼女は心配そうな顔で俺を見ていた。

「ううん、なんかアルファとオメガの闇みたいな話だなと思って、ちょとビビっただけだから」
「そう? でもまさ君は発情自体まだなんだもんね、深く考えなくても近くにずっと櫻井君がいるんだから大丈夫だよ」
「ん? 櫻井?」
「彼とつがいになるんでしょ?」

 なんだ!? それ。

「えっ、えええぇぇぇっ! なにそれっ」
「うわっ、びっくりした! 急に大きな声出さないでよぅ」
「あっ、ごめんっ、でも、無いから! 俺はそもそも誰ともつがいにならないし」

 彼女は怪訝な顔で俺を見てから何か納得したのか、そうなんだねと言った。だから俺はすぐに話題を変えて話をしていたらクラスの奴らが続々と入ってきたので、そこで俺たちの話は終わった。
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