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57【逢瀬⑩】
しおりを挟む県内に遊園地は一つだけ。
でも、実家が東京にある課長が、家族でこの遊園地に『今日』来る確率は、いったい、どのくらいなんだろうか?
よしんば同じ日に来ることが偶然の産物だとしても、こうして鉢合わせする確率は……。
呆然とする頭の片隅でそんなことをノロノロと考えていたら、さすがに課長。絶句状態からすぐさま回復して営業活動に取り掛かり、やおら飯島さんに向かい合うとニッコリと微笑み口を開いた。
「飯島さん、昨日は、お疲れ様でした。二次会、楽しませていただきました」
「いいえ、こちらこそ。楽しかったですよ、とっても」
課長の鉄壁の営業スマイルVS飯島さんの陽気な好青年スマイル。バチバチと、見えない火花が散ったように感じた……のは気のせいに違いない。
「高橋さんも、遅くまでご苦労様だったね」
スッと視線がかち合い笑顔で言われて、ドキンと鼓動が跳ね上がる。
エレベーターでのキス。コンビニでの会話。
昨夜の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡り、一気に顔が上気する。
「あ、いいえ、ぜんぜん。私も楽しかったです。課長も昨日は、お疲れ様でした!」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりペコリと頭を下げて、ついでに課長の隣の女性にもペコリと挨拶。そのままイスに腰を下ろして、思わず俯く。
うわー、やばい。絶対、顔、赤くなってるよ、これ。
早く、行ってくれないかな、課長。ボロが出る前に行ってください!
針のむしろのこの状況を一刻も早く抜け出したい。その切なる願いは、可愛いエンジェルちゃんの一言で、儚くも砕け散った。
「パパ、真理もここで高橋さんと一緒に、ハンバーガー食べたい!」
はい?
他人の食べているものを見ると、つい食べたくなる。子供ならなおさらだろう。だけど、どうしてよりによって、『私と一緒』なんだ?
課長、ここは、父親の威厳ってヤツでエンジェルちゃんを説き伏せて、この場をすぐさま立ち去って下さいっ!
心の中でそう叫ぶ私の気持ちを察してくれたのか、課長自身もそれはさすがに気まずいと思ったのか、ニコニコと、課長の手を引っ張って天使の笑顔でねだる娘のお願いに、少し困ったように眉根を寄せた。
「真理は、さっきレストランで食べただろう? それに、高橋さんはデート中なんだ。邪魔したら悪いだろう?」
デ、デート!?
確かに、傍目にはそう見えるだろうけど、デート……。
ガーン、と後頭部を殴り飛ばされたようなショックに、かろうじて耐え笑顔を浮かべた。
「俺達は、別にかまわないですよ。ねえ、梓さん」
「えっ!?」
梓さん!?
いきなりの飯島さんの名前呼び攻撃に脳内漂白するも、ハッと我に返り、なんとか言葉をひねり出す。
「あ、はい、良かったら、どうぞ」
私と飯島さんの言葉に『我が意を得たり!』とばかりに、真理ちゃんは、ちょこんと私の隣に腰を下ろした。
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