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完結編 月の獅子の目は彼の者に
断章 ある当主の悪夢
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成人を迎えた日の朝、父には、かつては自分にも兄がいたのだと、私の兄とそっくりな笑顔を浮かべる肖像画を見せられた。
隣には祖父の兄と紹介された肖像画が飾られ。そのまた隣には、目元、口元、顔の輪郭、何処か兄と似通った数多くの肖像画が部屋全体に飾られている。
共通しているのは皆子供か、青年の姿で、父のように歳月の重ねた姿の絵は一枚も無い。
皆その姿になる前に死んだと告げられた、理由はわからないと、ただ皆死んだと、不明確な答えに理解ができなかった。
では、私の兄は? と振り向いた先には、ホコリっぽいと文句を垂れるだらしのない格好の兄が祖父に叱られていた、少しホッとした自分がいる。
拗ねて部屋を退室した兄に向けて、祖父も父も口を揃えて言った、これは奇跡だと。
歴代で一番長生きするのではないかと嬉しそうに言った、意味が分からない、その言い方では、それでは、まるで。
死ぬことを前提に話をしているようではないか?。
恐怖をを覚えた、まるでそれが普通なのだと、兄が生きていることそのものが異端だと語る親に、不信感を持った私はひとつ、決意をした。
子供は作らない、作るなら兄が嫁を迎えて、そのまま愛を育くめばいい、兄が当主を務めればいい、私はその補佐だ、そうだそれがいい。
歴代の家の当主は弟だという常識も、兄が私よりも長生きすれば覆る。
私は結婚をしない、私は子供を作らない。
そのはずだった、はずだったのだ。
満月の夜。
大きな月の下開かれた夜会、その日私は妻を娶った、なぜその流れに行き着いたのか、記憶を辿ろうとすれば頭にもやがかかる。
月に、見られていた、それだけは覚えている。
兄は生きている、他国に出向いて好き勝手に動いている、怪しい魔術師と行動を共にしていようが、問題をいくつも起こそうがどうでもいい。
生きている、ただそれだけでいい。
満月の夜。
子供が生まれた、双子だ、生まれてしまった。
子供は作る予定はなかった、寝台は別にした、妻用にと屋敷を建てた、夫婦としての営みはしないと伝え、妻からも了承を得ていた。
丸い、大きな月だったことは覚えている、だがそれ以降の記憶はとても、おぼろげだ。
私は生まれた子供を前に、絶望していた、だが子供に、赤ん坊に罪はない、断じてだ。
私は長男をニッキー、次男リアンと名付けた。
名前に対する特別な意味はない、ただ健やかに育ち、健康なまま成人を迎えてくれれば、それでいい。
愛情というものが何かはわからないが模範的な父親として務めた。
時折兄が顔を出しては子供たちにちょっかいをかけ泣かしていた、当然それなりの制裁を与えた。
そんな生活を数年続け、思いの外気に入っていることに気づいた。
それならばそれでいい。何処かのんびりとしているニッキーにしっかりとした性格の婚約者を作らねば、誰がいいだろうか。
リアンにもやりたいことを探さねば、私の大事な息子達だ、きっと才能に恵まれているのだろう。
私は月に良い印象がない、故になんとなくだが、子供たちの寝室のカーテンを厚いのに変え、夜はけっして開けてはいけないと教えた。
二人が十歳になる前夜、その日は満月だった。
朝、起きてきたニッキーの顔に、何処か見覚えがあった。
数十年前の、あの日の朝の兄とそっくりな、何かを諦めたような、子供がしてはいけない表情をしていた。
ニッキーを書斎に呼び寄せ、何があったのかを訪ねた、悪夢でも見たのか、寝つきが悪かったのか、そのまた悪いものでも見たのかと言葉を並べ、そして返ってきた言葉に、私は恐怖を感じた。
“七、八年後に死ぬみたいです、僕“
何を言っているんだ?
なにを、言っているんだ? ひどい悪夢を見ているのか?
子どもたちの成人した姿を見たい、そんなささやかな願いも叶えてはくれないのか?
どうすれば、いいのだ、私は、なにをすればニッキーは助かる? 昨日まであんなにもわんぱくだったこの子から消えた笑顔を、どうしたら私は取り戻せる?
“お父様、僕ね、思ったんです“
なにをだ?
“僕が大人になる前に死んだら、みんな僕のことをちゃんと覚えていてくれるのかなって“
……なにを、当たり前の事を、覚えているに決まっているじゃないか。
“僕が死んで数年はきっとしっかりと覚えてるのかもだけど、十年、二十年して僕の声も、性格ももしかしたら、顔以外の全部を忘れられちゃうのかもしれないって思ったら、ちょっと悲しいかなーて思って、だから僕決めたんです“
なにをだ……?
“みんなに忘れられないような大きなことをして、お城にそれを記録してもらって、それを見て僕はこんな事をしたんだって、友達やお父様にずっと、ずっと覚えていて貰いたいんです、それでようやく僕は心置きなく死ねるんじゃないかなって“
……ニッキー。
“なんでしょう“
軽々しく、死ぬなんて言わないでくれ。
“ごめんなさい でもお父様“
なんだ?
“それなら僕は、どうしたらいいのかな、たった八年しかないんだよ? “
あぁ……あああぁ、すまない、すまないニッキー。
私にも、わからない。
隣には祖父の兄と紹介された肖像画が飾られ。そのまた隣には、目元、口元、顔の輪郭、何処か兄と似通った数多くの肖像画が部屋全体に飾られている。
共通しているのは皆子供か、青年の姿で、父のように歳月の重ねた姿の絵は一枚も無い。
皆その姿になる前に死んだと告げられた、理由はわからないと、ただ皆死んだと、不明確な答えに理解ができなかった。
では、私の兄は? と振り向いた先には、ホコリっぽいと文句を垂れるだらしのない格好の兄が祖父に叱られていた、少しホッとした自分がいる。
拗ねて部屋を退室した兄に向けて、祖父も父も口を揃えて言った、これは奇跡だと。
歴代で一番長生きするのではないかと嬉しそうに言った、意味が分からない、その言い方では、それでは、まるで。
死ぬことを前提に話をしているようではないか?。
恐怖をを覚えた、まるでそれが普通なのだと、兄が生きていることそのものが異端だと語る親に、不信感を持った私はひとつ、決意をした。
子供は作らない、作るなら兄が嫁を迎えて、そのまま愛を育くめばいい、兄が当主を務めればいい、私はその補佐だ、そうだそれがいい。
歴代の家の当主は弟だという常識も、兄が私よりも長生きすれば覆る。
私は結婚をしない、私は子供を作らない。
そのはずだった、はずだったのだ。
満月の夜。
大きな月の下開かれた夜会、その日私は妻を娶った、なぜその流れに行き着いたのか、記憶を辿ろうとすれば頭にもやがかかる。
月に、見られていた、それだけは覚えている。
兄は生きている、他国に出向いて好き勝手に動いている、怪しい魔術師と行動を共にしていようが、問題をいくつも起こそうがどうでもいい。
生きている、ただそれだけでいい。
満月の夜。
子供が生まれた、双子だ、生まれてしまった。
子供は作る予定はなかった、寝台は別にした、妻用にと屋敷を建てた、夫婦としての営みはしないと伝え、妻からも了承を得ていた。
丸い、大きな月だったことは覚えている、だがそれ以降の記憶はとても、おぼろげだ。
私は生まれた子供を前に、絶望していた、だが子供に、赤ん坊に罪はない、断じてだ。
私は長男をニッキー、次男リアンと名付けた。
名前に対する特別な意味はない、ただ健やかに育ち、健康なまま成人を迎えてくれれば、それでいい。
愛情というものが何かはわからないが模範的な父親として務めた。
時折兄が顔を出しては子供たちにちょっかいをかけ泣かしていた、当然それなりの制裁を与えた。
そんな生活を数年続け、思いの外気に入っていることに気づいた。
それならばそれでいい。何処かのんびりとしているニッキーにしっかりとした性格の婚約者を作らねば、誰がいいだろうか。
リアンにもやりたいことを探さねば、私の大事な息子達だ、きっと才能に恵まれているのだろう。
私は月に良い印象がない、故になんとなくだが、子供たちの寝室のカーテンを厚いのに変え、夜はけっして開けてはいけないと教えた。
二人が十歳になる前夜、その日は満月だった。
朝、起きてきたニッキーの顔に、何処か見覚えがあった。
数十年前の、あの日の朝の兄とそっくりな、何かを諦めたような、子供がしてはいけない表情をしていた。
ニッキーを書斎に呼び寄せ、何があったのかを訪ねた、悪夢でも見たのか、寝つきが悪かったのか、そのまた悪いものでも見たのかと言葉を並べ、そして返ってきた言葉に、私は恐怖を感じた。
“七、八年後に死ぬみたいです、僕“
何を言っているんだ?
なにを、言っているんだ? ひどい悪夢を見ているのか?
子どもたちの成人した姿を見たい、そんなささやかな願いも叶えてはくれないのか?
どうすれば、いいのだ、私は、なにをすればニッキーは助かる? 昨日まであんなにもわんぱくだったこの子から消えた笑顔を、どうしたら私は取り戻せる?
“お父様、僕ね、思ったんです“
なにをだ?
“僕が大人になる前に死んだら、みんな僕のことをちゃんと覚えていてくれるのかなって“
……なにを、当たり前の事を、覚えているに決まっているじゃないか。
“僕が死んで数年はきっとしっかりと覚えてるのかもだけど、十年、二十年して僕の声も、性格ももしかしたら、顔以外の全部を忘れられちゃうのかもしれないって思ったら、ちょっと悲しいかなーて思って、だから僕決めたんです“
なにをだ……?
“みんなに忘れられないような大きなことをして、お城にそれを記録してもらって、それを見て僕はこんな事をしたんだって、友達やお父様にずっと、ずっと覚えていて貰いたいんです、それでようやく僕は心置きなく死ねるんじゃないかなって“
……ニッキー。
“なんでしょう“
軽々しく、死ぬなんて言わないでくれ。
“ごめんなさい でもお父様“
なんだ?
“それなら僕は、どうしたらいいのかな、たった八年しかないんだよ? “
あぁ……あああぁ、すまない、すまないニッキー。
私にも、わからない。
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