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第二章 婚約者編
第十一話 思っていたよりも和やかな生活からの……どきどきの初顔合わせ②
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―――と思ってたんだけど……。
その話をする前に、もっと大事な話をフリードリヒ様から聞いてしまい、ひとまずその話は次回に持ち越すことになった。
そう。ついに――。
長らく延期していた国王陛下と王妃殿下への正式な謁見の日取りが決まったのだ。
公務が一先ず落ち着き、やっとお二人に纏まった休息が取れたとのことで、勉強も比較的落ち着いている今が一番
顔合わせに良いのではないか? と提案があったらしい。
これ以上伸ばすのはあまり良くないだろうというのは、ちょうど僕も少し思っていたので、確かに今回は良い機会だと思う。国王陛下が多忙なこともあって先延ばしになっていたとはいえ、おそらく慣れない場所で生活する僕への気遣いもあったんだろうし……ここで僕から難色を示すと、外野から色々と言われかねない。
僕のことを非常識だとか言うくらいなら僕は我慢できるけれど、フリードリヒ様たちに非難が行きかねない以上は、出来る限りそういう種は摘み取っておきたい。
僕はそう改めて覚悟を決めた。
◆◇◆
とはいえ……。緊張はするんだよね……。
ガチガチに緊張した僕は、謁見の間の扉の前で大きく息を吸った。
「トーマ、そんなに気負わなくて良いんだぞ? 今日は外野は一切いないのだから」
父上と母上、兄だけだから気楽にすれば良い――。フリードリヒ様は、緊張から変な動きをする僕を見て心底微笑ましいといった感じでそう言った。
(いや、むしろだからこそ余計に緊張するんですが……)
左手と左足が同時に……みたいなことはさすがに無かったけど、胸の動悸がさっきからすごい。
フリードリヒ様はこの手の緊張とは普段から無縁なのか、僕が半ばパニックなりかけててもずっと不思議そうだった。まぁ、王族だから人前に立つ事には慣れているだろうし、もっと緊張する様な場にもフリードリヒ様は、出ているんだから当然かもしれない。子供の頃から物怖じしないタイプだったみたいだしね。
使用人の皆が冷静に「大丈夫ですよ」と落ち着かせてくれたから、何とか無事に謁見の間までは来れたけれど……。昨日の夜はあまり眠れなかったし、寝不足だ。色々と脳内でシミュレーションをしてみたが、そもそも僕は国王陛下たちがどういう方なのかを良く知らないので、あまり意味がないことに気づいたのは日が昇ってからだったし……。
「上手く話せるかどうか不安なんです」
僕がそう素直に小さく零すと、フリードリヒ様は励ますように僕の手をそっと握った。大きな手は、比較的大きい方である僕の手よりも更に大きくゴツゴツとしている。
「心配しなくても、あの二人はそんな細かいことを気にするような人たちじゃない。そもそも父上もあまり口が上手い方ではないからな。トーマが上手く喋れなくても何も言わないだろう」
「……そうなんですか?」
フリードリヒ様は頷いた。そういえば、前に不器用な人だという話を少し聞いた気がするけど……。
「ああ。俺よりも愛想がないくらいだからな。笑った所を殆ど見たことがない。王妃殿下が父上を助けてくれているからこそ、外交に問題が起きていないといっても過言ではないぞ?」
フリードリヒ様は確かに少なくとも朗らかとかそういう感じのタイプじゃないが、社交性がないわけではないし、愛想は普通といったところだ。笑う事もあるし。しかし、ここまで言われるって国王陛下どれだけ無表情なんだろう……。
ちなみに王妃殿下は、かなりしっかりとした女性らしい。フリードリヒ様との間にあったわだかまりは若干は残ってはいるみたいだけど、肝心のフィン様が王位を継ぐことを望んでいないのもあって、今の関係は意外と良好なのだとフリードリヒ様からは教えてもらった。少なくとも、フリードリヒ様は王妃殿下を憎んではいないようだし、本当に悪くない関係なんだと思う。
「んん……、それに、だな」
話しながら少しずつ緊張が溶けていくのを実感していると、フリードリヒ様がどこか照れた様子で咳ばらいをした。
「……?」
思わず首を傾げると、フリードリヒ様が明後日の方向を向く。見れば耳がほんのりと赤い。
「……トーマには俺がいるだろう? 万が一、トーマを傷つけるようなことを二人が言うようなら、俺が黙っていない」
暖かい手のぬくもりが、手から伝わってくる。少しぎこちないけれど、僕のことを想ってくれているのが分かって、胸の奥が温かくなった。時に平気で気障なセリフを言うこともあれば、今回みたいに照れてしまうこともあるフリードリヒ様に、僕は心底癒されていた。気づけば、緊張なんてどこかに消えていたのだから……不思議だ。
「はい……!」
僕が満面の笑みでそう言うと、フリードリヒ様も満足そうに笑った。
その話をする前に、もっと大事な話をフリードリヒ様から聞いてしまい、ひとまずその話は次回に持ち越すことになった。
そう。ついに――。
長らく延期していた国王陛下と王妃殿下への正式な謁見の日取りが決まったのだ。
公務が一先ず落ち着き、やっとお二人に纏まった休息が取れたとのことで、勉強も比較的落ち着いている今が一番
顔合わせに良いのではないか? と提案があったらしい。
これ以上伸ばすのはあまり良くないだろうというのは、ちょうど僕も少し思っていたので、確かに今回は良い機会だと思う。国王陛下が多忙なこともあって先延ばしになっていたとはいえ、おそらく慣れない場所で生活する僕への気遣いもあったんだろうし……ここで僕から難色を示すと、外野から色々と言われかねない。
僕のことを非常識だとか言うくらいなら僕は我慢できるけれど、フリードリヒ様たちに非難が行きかねない以上は、出来る限りそういう種は摘み取っておきたい。
僕はそう改めて覚悟を決めた。
◆◇◆
とはいえ……。緊張はするんだよね……。
ガチガチに緊張した僕は、謁見の間の扉の前で大きく息を吸った。
「トーマ、そんなに気負わなくて良いんだぞ? 今日は外野は一切いないのだから」
父上と母上、兄だけだから気楽にすれば良い――。フリードリヒ様は、緊張から変な動きをする僕を見て心底微笑ましいといった感じでそう言った。
(いや、むしろだからこそ余計に緊張するんですが……)
左手と左足が同時に……みたいなことはさすがに無かったけど、胸の動悸がさっきからすごい。
フリードリヒ様はこの手の緊張とは普段から無縁なのか、僕が半ばパニックなりかけててもずっと不思議そうだった。まぁ、王族だから人前に立つ事には慣れているだろうし、もっと緊張する様な場にもフリードリヒ様は、出ているんだから当然かもしれない。子供の頃から物怖じしないタイプだったみたいだしね。
使用人の皆が冷静に「大丈夫ですよ」と落ち着かせてくれたから、何とか無事に謁見の間までは来れたけれど……。昨日の夜はあまり眠れなかったし、寝不足だ。色々と脳内でシミュレーションをしてみたが、そもそも僕は国王陛下たちがどういう方なのかを良く知らないので、あまり意味がないことに気づいたのは日が昇ってからだったし……。
「上手く話せるかどうか不安なんです」
僕がそう素直に小さく零すと、フリードリヒ様は励ますように僕の手をそっと握った。大きな手は、比較的大きい方である僕の手よりも更に大きくゴツゴツとしている。
「心配しなくても、あの二人はそんな細かいことを気にするような人たちじゃない。そもそも父上もあまり口が上手い方ではないからな。トーマが上手く喋れなくても何も言わないだろう」
「……そうなんですか?」
フリードリヒ様は頷いた。そういえば、前に不器用な人だという話を少し聞いた気がするけど……。
「ああ。俺よりも愛想がないくらいだからな。笑った所を殆ど見たことがない。王妃殿下が父上を助けてくれているからこそ、外交に問題が起きていないといっても過言ではないぞ?」
フリードリヒ様は確かに少なくとも朗らかとかそういう感じのタイプじゃないが、社交性がないわけではないし、愛想は普通といったところだ。笑う事もあるし。しかし、ここまで言われるって国王陛下どれだけ無表情なんだろう……。
ちなみに王妃殿下は、かなりしっかりとした女性らしい。フリードリヒ様との間にあったわだかまりは若干は残ってはいるみたいだけど、肝心のフィン様が王位を継ぐことを望んでいないのもあって、今の関係は意外と良好なのだとフリードリヒ様からは教えてもらった。少なくとも、フリードリヒ様は王妃殿下を憎んではいないようだし、本当に悪くない関係なんだと思う。
「んん……、それに、だな」
話しながら少しずつ緊張が溶けていくのを実感していると、フリードリヒ様がどこか照れた様子で咳ばらいをした。
「……?」
思わず首を傾げると、フリードリヒ様が明後日の方向を向く。見れば耳がほんのりと赤い。
「……トーマには俺がいるだろう? 万が一、トーマを傷つけるようなことを二人が言うようなら、俺が黙っていない」
暖かい手のぬくもりが、手から伝わってくる。少しぎこちないけれど、僕のことを想ってくれているのが分かって、胸の奥が温かくなった。時に平気で気障なセリフを言うこともあれば、今回みたいに照れてしまうこともあるフリードリヒ様に、僕は心底癒されていた。気づけば、緊張なんてどこかに消えていたのだから……不思議だ。
「はい……!」
僕が満面の笑みでそう言うと、フリードリヒ様も満足そうに笑った。
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