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Act.7 世界樹の精霊と俺たちの真実
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『確かに、お前は一度死んだ。体から魂が離れ、こちらに来たのは揺るぎようのない事実だ』
「……やはり……」
『今は、リアンが自分の体液を混ぜた魔法薬で、体の損傷は全て回復している。だが、お前の魂が入るに耐えられるほどにはまだ回復していない。そのため、お前の体は更なる癒やしのために眠りについている状態だ』
「……魂が入るのに耐えられる強度?」
なんだそれ。体が回復したら大丈夫なんじゃないのか?
説明の合間にサンドイッチを食べ終わったユグドラシルは、スコーンにジャムを塗りたくっていた。
『……人間は魔力を伸ばすのに、どういう訓練をしている?』
「えっ、ええと……、魔力を空にするまで使い切るようにして、睡眠中に回復させる……ことで、魔力を貯めるキャパシティを拡大させる方法が一般的かと……。もちろん、どこまで大きくなるかは個人差がありますけど」
『そうか、私の知っていることは今の世でも通用する方法なのだな』
「……これが一体?」
ジャムの上にクロテッドクリームも山盛りにしたスコーンを食べ終わり、紅茶を飲んだユグドラシル。
ナッツ入りのバターケーキを手にしながら、今の世の人間にとっては結構な爆弾発言をしたのだった。
『お前と、お前のパートナーはな。生まれたばかりでまだ未熟な苗木とはいえ、私が斃れた後のユグドラシルたるリアンの力が多分に含まれた体液……、もっと言うならば、世界樹の樹液と言えるものを、怪我を癒やす魔法薬と共にその身に取り込んだのだ』
「世界樹の樹液!?」
びっくりした。本気でびっくりした。
椅子をひっくり返す勢いで立ち上がってしまうぐらいにはびっくりした。
何故なら。
「世界樹の樹液なんて、魔法薬や錬金術、魔科学分野において、どれだけの金額を積んでもまず手に入らないと言われる希少中の希少素材じゃないですか!!」
『ほう……そのように言われているのか』
「そうですよ!! そもそも、世界樹のことはマナ・ユリエ教団が取り仕切っているんです! 世界樹の葉、世界樹の朝露、世界樹の樹液は、教団が許可した上じゃないと、魔法薬の精製どころか採取すら許されないんですよ!」
『勝手に採取するとどうなるんだ?』
「そいつは無断採取したとして、教団に情報を全て抜き取られた上、依頼者や関係者もろとも教団騎士団に処刑されるんです!」
『ほぉん』
……全く興味のないような、冷めた顔でバターケーキをもごもごと咀嚼しているユグドラシル。
……まあ、確かにそうだ。世界樹素材の無断採取に対する処罰なんて、教団側……人間が勝手に決めたことだ。
だからといって、興味なさ過ぎなのでは? と思わなくもない。
俺はため息をついた。ひっくり返してしまった椅子は、知らない間にきちんと立っていた。
その椅子に座り直しながら、俺は片手で頭を抱える。
「……まずい……。このことがバレたら、俺とクリストファー様が教団にとって最悪の犯罪者の仲間入りだ……」
その呻きを聞いたのか、ユグドラシルがふぅむ、と考え始めた。
『人間達の勝手でお前達が罪人になるのは、さすがに忍びないな……。ならば、こうしよう』
「?」
『数年に一回ほど教皇やフィオベルハムの者から、教団や国に多大な貢献をした者に、褒賞として朝露や葉を採取させてほしいと言われることがあるんだ』
「……魔法薬学者とか、そっちの方面の人にですか?」
『それは私は分からん。興味もないしな。だが、そういうことがあるのは事実だ』
「はい……」
『ならば、』
ニヤリ、と中性的な美貌に似合わない、悪どい笑顔を浮かべた。
『私の若苗を育てているお前たちこそ、世界の摂理、精霊たちから認められた人間ということ。私が個人的な判断でお前達に恵みを与えるのに、何の咎めがあるというんだ?』
俺は開いた口が塞がらなかった。
そういう抜け道があるのか? ていうかいいのか!?
『そもそも私の眷族たちなんぞ、勝手に朝露やら樹液やらを飲んでいるんだ。若苗がお前達に自らの樹液を与えることのどこがおかしい?』
ガトーショコラを摘まみながら、ユグドラシルは続ける。
『お前が納得いかないなら、精霊の始祖・オヴェロンと妖精慈母・ティーニアにお伺いを立ててみてもいいぞ。十中八九、勝手にしろと言われるだろうがな。このケーキを賭けてもいい』
そう言って、ユグドラシルは俺のデザート皿に白いクリームのケーキを乗せる。
俺は精霊と妖精のビッグネームがさらりと出てきたことに、更に口が閉まらなくなった。
精霊の始祖・オヴェロンと妖精の全ての産みの母・ティーニアは、数万年前の頃から存在していたと言われる存在だ。
つまり、神族に最も近い存在だ。精霊たちよりも格が上ということになる。
『初代聖女はティーニアのお気に入りであったらしいし、オヴェロンも彼女のことを〝かく面白き娘〟と評しているようだからな。私の初代の記憶を参照すればだが』
「は、はぁ……」
『その後継者であるお前達を救う為に自らの樹液を用いたリアンを、オヴェロンもティーニアも責めるどころか褒め称えるだろうさ』
ユグドラシルは、残り4分の1のガトーショコラにさくっとフォークを突き刺し、無造作に口の中に運んだ。
「……やはり……」
『今は、リアンが自分の体液を混ぜた魔法薬で、体の損傷は全て回復している。だが、お前の魂が入るに耐えられるほどにはまだ回復していない。そのため、お前の体は更なる癒やしのために眠りについている状態だ』
「……魂が入るのに耐えられる強度?」
なんだそれ。体が回復したら大丈夫なんじゃないのか?
説明の合間にサンドイッチを食べ終わったユグドラシルは、スコーンにジャムを塗りたくっていた。
『……人間は魔力を伸ばすのに、どういう訓練をしている?』
「えっ、ええと……、魔力を空にするまで使い切るようにして、睡眠中に回復させる……ことで、魔力を貯めるキャパシティを拡大させる方法が一般的かと……。もちろん、どこまで大きくなるかは個人差がありますけど」
『そうか、私の知っていることは今の世でも通用する方法なのだな』
「……これが一体?」
ジャムの上にクロテッドクリームも山盛りにしたスコーンを食べ終わり、紅茶を飲んだユグドラシル。
ナッツ入りのバターケーキを手にしながら、今の世の人間にとっては結構な爆弾発言をしたのだった。
『お前と、お前のパートナーはな。生まれたばかりでまだ未熟な苗木とはいえ、私が斃れた後のユグドラシルたるリアンの力が多分に含まれた体液……、もっと言うならば、世界樹の樹液と言えるものを、怪我を癒やす魔法薬と共にその身に取り込んだのだ』
「世界樹の樹液!?」
びっくりした。本気でびっくりした。
椅子をひっくり返す勢いで立ち上がってしまうぐらいにはびっくりした。
何故なら。
「世界樹の樹液なんて、魔法薬や錬金術、魔科学分野において、どれだけの金額を積んでもまず手に入らないと言われる希少中の希少素材じゃないですか!!」
『ほう……そのように言われているのか』
「そうですよ!! そもそも、世界樹のことはマナ・ユリエ教団が取り仕切っているんです! 世界樹の葉、世界樹の朝露、世界樹の樹液は、教団が許可した上じゃないと、魔法薬の精製どころか採取すら許されないんですよ!」
『勝手に採取するとどうなるんだ?』
「そいつは無断採取したとして、教団に情報を全て抜き取られた上、依頼者や関係者もろとも教団騎士団に処刑されるんです!」
『ほぉん』
……全く興味のないような、冷めた顔でバターケーキをもごもごと咀嚼しているユグドラシル。
……まあ、確かにそうだ。世界樹素材の無断採取に対する処罰なんて、教団側……人間が勝手に決めたことだ。
だからといって、興味なさ過ぎなのでは? と思わなくもない。
俺はため息をついた。ひっくり返してしまった椅子は、知らない間にきちんと立っていた。
その椅子に座り直しながら、俺は片手で頭を抱える。
「……まずい……。このことがバレたら、俺とクリストファー様が教団にとって最悪の犯罪者の仲間入りだ……」
その呻きを聞いたのか、ユグドラシルがふぅむ、と考え始めた。
『人間達の勝手でお前達が罪人になるのは、さすがに忍びないな……。ならば、こうしよう』
「?」
『数年に一回ほど教皇やフィオベルハムの者から、教団や国に多大な貢献をした者に、褒賞として朝露や葉を採取させてほしいと言われることがあるんだ』
「……魔法薬学者とか、そっちの方面の人にですか?」
『それは私は分からん。興味もないしな。だが、そういうことがあるのは事実だ』
「はい……」
『ならば、』
ニヤリ、と中性的な美貌に似合わない、悪どい笑顔を浮かべた。
『私の若苗を育てているお前たちこそ、世界の摂理、精霊たちから認められた人間ということ。私が個人的な判断でお前達に恵みを与えるのに、何の咎めがあるというんだ?』
俺は開いた口が塞がらなかった。
そういう抜け道があるのか? ていうかいいのか!?
『そもそも私の眷族たちなんぞ、勝手に朝露やら樹液やらを飲んでいるんだ。若苗がお前達に自らの樹液を与えることのどこがおかしい?』
ガトーショコラを摘まみながら、ユグドラシルは続ける。
『お前が納得いかないなら、精霊の始祖・オヴェロンと妖精慈母・ティーニアにお伺いを立ててみてもいいぞ。十中八九、勝手にしろと言われるだろうがな。このケーキを賭けてもいい』
そう言って、ユグドラシルは俺のデザート皿に白いクリームのケーキを乗せる。
俺は精霊と妖精のビッグネームがさらりと出てきたことに、更に口が閉まらなくなった。
精霊の始祖・オヴェロンと妖精の全ての産みの母・ティーニアは、数万年前の頃から存在していたと言われる存在だ。
つまり、神族に最も近い存在だ。精霊たちよりも格が上ということになる。
『初代聖女はティーニアのお気に入りであったらしいし、オヴェロンも彼女のことを〝かく面白き娘〟と評しているようだからな。私の初代の記憶を参照すればだが』
「は、はぁ……」
『その後継者であるお前達を救う為に自らの樹液を用いたリアンを、オヴェロンもティーニアも責めるどころか褒め称えるだろうさ』
ユグドラシルは、残り4分の1のガトーショコラにさくっとフォークを突き刺し、無造作に口の中に運んだ。
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