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Act.10 いざ、敵の本拠地へ

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 俺たちの縁者……グルシエス家中の者たちが殺した、は分かる。
 四大精霊が殺した、も分かる。
 ……でも、リアンも、なのか?
 歴代ユグドラシルの全ての記憶を持って生まれたとはいえ、まだ生まれて一年にも満たないのに……。

「……リアンも、人間を殺すのに躊躇いを持たなかったんだな」

 そう、ぽつりと口から出た。それを聞いたクリストファー様が俺の顔を覗き込んでくる。

「ユグドラシルって、歴代のユグドラシル全員の記憶を受け継いで生まれるんでしょ? だったら精霊の本性を顕したリアンは、他の精霊と同じように自分に害をなそうとしてくる人間に対して、容赦なんかしないはずだよ。俺たちに懐いてるのは、あくまで今のユグドラシルが僕たちを選んで自分を預けたから。グルシエスの屋敷にいる人間に懐っこいのも、いざというときは俺たちを守るだろうって一応の信用をしてるから。見た目が子供だからって、精神と能力まで未熟だと思わない方がいいよ」
「……そう、ですね」

 ……そう、リアンは生まれたばかりで見た目は幼いとはいえ、精霊だ。
 だから、無条件で人間に助力するなんてことはないって分かってる。
 あくまで、俺とクリストファー様が、今代のユグドラシルに選ばれた。だからリアンと適合した。ただそれだけなんだ。
 ……だけれど、まだアンナ様やミハイル様と同じくらいの見た目のリアンが、容赦なく権能を振るって人間を屠る、という場面をどうも想像しづらい。
 俺自身が敵を殺すのは、いくらでも想像できるのにな……。

 黙りこくってしまった俺を、クリストファー様がベッドの方に押しやった。
 テーブルの妖精達に言う。

「じゃあ、人が寝静まった頃……そうだな、ゼロの刻を目安に行動開始ってことで。ラタトスクは俺たちの道案内、パッセルはどっかその辺で隠れてる四大たちに伝令ね」
『おう!』
『ちゅちゅん!』
「じゃ、俺たちは時間まで仮眠でもしよっか」

 そう言って、クリストファー様は靴を脱いでベッドに上がる。
 上掛けをめくったかと思うと、立ち尽くしている俺に向かって笑いかけつつ、横をぽすぽすと叩いてきた。
 ……いや、だから、シングルサイズなんですよ。いくらクリストファー様が華奢とはいえ、成人の男二人が入ったらめちゃくちゃ狭いはずなんですよ……?
 という念を存分にこめて見つめる。
 だが、クリストファー様は笑みを緩めない。

 ……分かっている。こういうときは、クリストファー様は絶対折れない。こっちが折れるのを待っているんだ。
 テーブルの方から、ラタトスクの緊張した視線が刺さってくる。
 逆にパッセルは羽繕いしながらリラックス中だ。デイヴィッド様付きのカルムと契約している妖精だもんな。こういう空気は慣れっこだろう。

 仕方ないなあ……。

「分かりましたよ……」

 思わずため息まで出てしまったが仕方ない。狭っ苦しくて寝苦しくても、それは俺の責任じゃないしな。
 クリストファー様が端に寄って空いたスペースに潜り込む。
 すぐに上掛けが掛けられ、隙間なく抱きしめられた。
 って、なんで俺が腕枕される側なんだ!? 重かったり痛かったりしないのか!?
 へっへっへ、とクリストファー様の喜んでいる声がする。……何でだ。

「ねえ、ディラン」
「……はい」
「無事に帰れたらさ、話したいことがあるんだ」

 ……誰だ、ランプの光を最低限に絞ったのは!
 パッセル……、じゃないか。
 ラタトスク……、は魔道具ランプの消し方なんて知らないだろう。
 じゃあクリストファー様が遠隔操作でもしたってのか!? ……いや、その可能性が一番高いか。

「……分かりました」

 ともかく、密着した体温と耳元に吹き込まれた囁き声と室内の薄暗さで、どことなく緊張してしまう。
 この鼓動だって、いったいどっちのものなのやら。
 それにしても、話したいこと、か……。何となく、想像は付くけど……。
 ……あー、ダメだ、ちょっと眠たくなってきた。
 予定じゃ、夜中ずっと動き回るだろうから、少しでも寝ておかないと……。
 ……頭、撫でられるの……きもちいいなぁ……。

「……ふふ、かーわいい……」

 ……かわいくないです……。
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