孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

149.孤独の魔女と一仕事終えて

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パレストロとソーマによる反ラグナ同盟による事件(未遂)は解決した、奴等が本格的に動き出す前にソーマが勘違いして先走ったせいで何もかもが台無しになったからだ

エリスとラグナによりソーマは倒され ベオセルクさんたちによってパレストロ達も倒された、後日分かったことだが実行犯の一人 乳母オリアーナも死んだらしい、動乱最中に巻き込まれて死んだ死因は分かっていないがともあれ死んだらしい

まぁ別に親しい相手じゃないし、エリスからしてみればリオス君達に乱暴を働いた嫌な奴だから特に気にはしない、寧ろその数少ない死人がこちら側から出なかったことに安堵の息が溢れるばかりだ

あれからエリス達は『みんな無事で帰ってきてよかったね&反乱勢力みんなぶっ潰したねやったぜパーティ』を開き みんなで肉やら酒やら楽しみ、ついでにその場でエリスとラグナの関係性についてきちんと説明しておいた

ちょっとした勘違いが大事件の引き金になるかもしれない以上、放置はしない方がいいだろうという判断だ

ちなみにこの後ホリンさんは国王命令で一ヶ月の禁酒が言い渡された……そんなこんなでアルクカースの動乱は幕を閉じた

アルクカースに来て二日でこの騒ぎだ エリスが滞在するこの一ヶ月野相だ一体どんな大事件に巻き込まれ続けるのかと思ったらその後は大した事件もなく平穏な日々を過ごすことが出来ました

師匠と一緒にアルクカースを巡ったり リバダビアさんと遊んだりアスクさんの家に遊びに行ってリオス君達とも遊びましたね

どうやらリオス君達はエリスのことを大層気に入ってくれたらしい顔を出す『えりうー!』『えりうー!』とはしゃいでくれる、クッッッソかわいい

アスクさんも『エリスちゃんがこのままアルクカースに住んでくれたらいいのにぃ』とのほほんと言っていたが、あれは目がガチだった

後は、アルクカースの隣国ホーラックからパーティの招待があり二週間ほどかけてラグナと一緒にそのパーティに参加したこともありました…、ホーラックといえばアルクカースとデルセクトに挟まれる小国…

もしかしてと思って行ってみると、パーティにはメルクさんもいた、どうやら彼女も向こうでは仕事三昧の生活をしているらしく、パーティ会場で会うなり

『そっちも大変だな』と言った目を向けてきた、なんかこう言う場で知り合いに会うのは逆に新鮮ですね、いつもあってるのに不思議な感じです

後帰り際 メルクさんに帰る頃には家の食材もダメになっているだろうし、帰ったら食材を買い足しておいてくれ と言われた

いやそれこの場で言う?国を挙げたパーティの場で休み明けのご飯の話する?、相変わらずのマイペースだ



それから…ああそうでした、ガイランドさん達六隊長にも会いに行きましたね…

あれは、師匠がアルクトゥルス様に会いに行ってエリスだけが残された日のことでした、いきなり六隊長がエリスを囲み

「エリス様!!、先日は 我らの力不足故に御身を危険に晒してしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

ババッ!とエリスを囲みながら頭を下げてきたのだ、先日…あの誘拐の件だ、確かにあの時彼らはエリスの護衛を受けていたが、護衛なんかなくても大丈夫と言いながらまんまと攫われたエリスにも非がある

誰が悪いといえばソーマが悪い、彼らは悪くない ソーマに全て押し付けてしまおう、エリスあいつ嫌いだし

「いいんですよ、結局みんな無事でしたから」

「とはいえ…」

「ねぇガイランド、謝罪は先日したじゃない 何回も謝ったら逆に失礼よ」

そう言いながらガイランドさんを諌めてくれるのは同じ六隊長の一人 踊る鉄球の異名を持つライラさん、先日の誘拐事件の際は率先して戦い 首魁の一人パレストロを見事打倒した功労者の一人だ

「ううむ…」

「それに今日は謝ることが目的で来たわけじゃない」

そう続けるのは傷だらけの大男六隊長の一人ネイト、怖い顔に似合うおっかない声だ…って 謝りに来たわけじゃない?、謝りに来たわけでもないのにエリスは要塞の廊下のど真ん中で囲まれてるの?

「いや実はねぇ?、先日のソーマとの戦いで エリス様の凄まじい、それこそ鬼神の如き戦いぶりを聞及びましてね」

かるーい感じでそう微笑むのは六隊長が一人 針通しのノーマン、相変わらず軽い彼だが 先日の戦いではやはりというかなんというか、得意の馬術で抵抗する反乱勢力を盛大にぶちのめしたらしい、よく見れば…いやよく見なくても分かるがその肩には馬上槍がかけられている

というか鬼神?エリスが?、いやまぁソーマとの戦いの時はもうあったまに来て今までにないくらい暴れましたけども…

「大変失礼なのは理解しているのですが、我等も戦士の端くれ かつてベオセルク総隊長に打ち勝ったその実力、目に焼き付けておきたいんですよ」

弓を抱えた六隊長 パスカルが言うに…まぁつまり、エリスがすごい強いって聞いたから、エリスと戦いたいですって 簡単な内容だ、実にアルクカースらしい

とは言うが、ここにいる六隊長 確かに乳母オリアーナの策にはめられまんまと出し抜かれはしたものの、実力としては一級品だと言う

ガイランドさんは汚名返上言わんばかりに槍を振り 宗覇会のアジトを一人で叩き潰し、ネイトさんはハンマーで副師範を撃破し、ライラさんはさっきも言ったがパレストロを倒している

アルクカース貴族は凄まじく強い、強くなければ権勢を維持できない 故に強い、それを倒してしまうほど強い人達とエリスが戦って…果たして彼らに得るものがあるだろうか

「エリスなんかで…大丈夫ですか?」

「問題ない」

細剣に手を当てる六隊長きっての剣豪レオノーラさんは静かに頷く、何が問題ないのかを説明して欲しいんだが、この人それしかいえないのか?

「エリス様はあと数日でアルクカースから帰ってしまうと聞きました、その前に 出来れば一度お手合わせを願えませんか?」

「……ううーん」

確かにエリスは後数日でコルスコルピに帰る、予定を遅らせることもできるが予定を遅らせなきゃいけない理由もないし 普通に帰るつもりだ

その前に、一つ…腕試しをしておくのも良いのではないだろうか、ソーマと戦って理解したが、長い学園生活で エリスは惚けている、実戦の空気を忘れている これは著しい弱体化だ

なら、帰る前に盛大に戦っておいたほうがいいか、せっかくアルクカースに来たんだ、肉だけでなく戦いもまた楽しもうか

「分かりました、では そこの訓練場でいいですか?」

「おお!、ありがとうございます!」

それぞれの武器を持ち色めき立つ隊長達、アルクカース屈指の戦士達にエリスはどこまで通用するか、分からないが 物は試しにやってみよう


そう思い、訓練場に場を移し エリスは六隊長達と向かい合い…………







…………まぁ、内容は割愛し結果だけ言いましょう


勝ちました、エリスは六隊長相手に常に優位に立ち 一人一人撃破した後、最後は6人全員相手にして勝つことが出来ました、はっきり言いましょう六隊長は凄まじく強いです

一人一人がソーマより強いです、エリスの体感になりますが ガイランドさん達隊長ならば、以前エリスがアルクカースに来た時 継承戦の頃のホリンさんに匹敵か 或いは上回るほどだ、流石に今はもっと強くなっているだろうが

それでもエリスが過去戦ってきた敵の中では上位に入る強さだ

そんな相手と戦って エリスは余裕…とまでは行きませんが勝てました、強くなっているんです エリスの知らぬ間にエリス自身はかなり強くなっている、…間違いなく マレウスにいた頃より強い

どうしてだ?、あれから大して修行もしてないのに、鈍ってると思ったら寧ろ強くなっていた、理由は分からない もしかしたら師匠の言うように学園生活は知らぬ間にエリスに力を与えたのでしょうか

「大丈夫ですか?ガイランドさん ネイトさん ライラさん」

「まさか…これほどとは」

「分かってはいたが、まだ敵わないか」

眼前には武器を地面につき 膝を立てる六隊長の姿がある、どちらの勝利か判断する審判はいないが、それでもどちらが勝ったかは明白である

六隊長の強さは凄まじい、恐らく武器はカロケリの優良な金属を使って作られた特別製か、オマケに付与魔術も二式まで操れる、強い 凄まじく強い、逆にエリスが誇らしくなるほどだ、こんな人達がラグナを守ってくれているとは 有り難い

「孤独の魔女の弟子の名は伊達ではないですね」

「いやぁ、それでももう少し戦えると思ったんですが」

「流石はラグナ様に認められた方だ、いい経験になった」

「そう言ってくれるとエリス的にも嬉しいです、立てますか?」

「…問題ない」

ボロボロになりながらも 治癒も受けずに立ち上がる六隊長、タフだな…煌王火雷招とかぶち込んだんだが…、昔は一撃必殺の威力だと思ったけど 最近はちょっと火力不足感が否めないな

「あの隊長達が 総掛かりでも…」

「噂に違わない強さだ…」

「あの方とラグナ様が組んで出た継承戦…見たかったな」


ふと、周りを見てみるとエリス達の周りにはギャラリー…いやそんな上品なもんじゃないな、野次馬が集ってる、エリスと隊長達の戦う姿を見てワラワラと集まってくるところを見るに 余程目立っていたらしい

「凄まじい強さですね、エリス様 貴方ならもう討滅戦士団の方々とも互角に戦えるでしょう」

いやいやガイランドさんや?無茶言わないで欲しい

流石にあのレベルは無理だ 昔リオンさんと戦ったことがあるが、正直あの人の強さは異常だった、今やっても勝てないだろう そりゃ前よりは善戦できるだろうけどさ

「無理ですよ、あの人達強いですからね」

「強いのは当然ですよ、この国最強の軍団なんですから」

そう この国最強ということはこのカストリア大陸最強ということ、よく旅に出たばかりの頃のエリスは恐れ知らずにも挑めたものだ

今のエリスが昔のエリスの無鉄砲を見たら 羽交い締めして止めるところだよ

「おい!、何集まって訓練サボってんだ!、休憩の号令なんざ 出した覚えがねぇぞ?」

「やべっ…!」

「ひっ!、総隊長!」

「さ さぁ、訓練に戻るかなぁ!」

そんな野次馬も突如響く号令により散っていく、勇猛なアルクカース戦士が恐れ逃げ去る存在などこの国には数える程度しかいない、というかエリスも一瞬ビビって逃げそうになったくらいだ

「ベオセルクさん」

「ん?、エリス…お前こんなところで何やってんだ、遊びに来るような場所じゃないだろ」

「すみません!総隊長!我等がエリス様に手合わせを申し込んだのです!」

王牙戦士団最強の男にして総隊長 ベオセルクさんの到来に場の空気は変わる、エリスの姿を見るなり訝しむもガイランドさんの話を聞きなんとなく納得する…いや ムッと顔を歪める

「テメェらエリスの扱い分かってるか?」  

「うっ…国賓です」

「国賓!?エリスがですか!?、いやいやエリスはそんな大層なもんじゃ…」

「お前自身が大層なもんでなくても 魔女と国王が直々に国に誘ったらそれは国賓だ、というか国賓って扱いにしないと外からやってきた人間をそうホイホイフリードリスの中に入れられるか、王城は公共施設じゃねぇ」

たしかに…、エリスこういう場所に来なれてたせいであんまり意識なかったけど、ここ王様の家だもんな、お邪魔しますって入ろうもんならつまみ出されるか 最悪牢屋行きもあり得る、牢屋にはこの間入ったばかりだから少し間を開けたい

「しかし、ガイランドに勝ったか 」
 
「はい、エリスも得るものが多い戦いでした」

「そうか、…コイツらは俺の軍団でも屈指の戦士だ それを相手に余裕の風吹かすとは、気にくわねぇな」

「…え?気にくわない?」

「ああ、あんなでも俺の部下だからな」

なんて言いながらベオセルクさんは首をコキコキお鳴らしになりながらこちらに歩いてくる

ちょっと…ちょっと待ってくださいよ?なんか話の流れおかしいぞ?、なんで手をフリーにしてるんですかベオセルクさん、なんでエリスから離れていくんですかガイランドさん!

「どうだ、折角隊長六人抜きしたんだ…総隊長の俺ともやってけよ」

ひえぇぇ、やっぱり…勘弁願いたい もうあんな絶望的な戦いはしたくない、だって強いもんこの人!シャレにならないくらい強いもん!、エリスの今まで戦った相手の中で五本 下手したら三本の指には入るぐらい強いもん!

けど、周りを見る…もう空気は戦う流れだ、断れる空気じゃない 空気なんか無視してスゴスゴ逃げ去りたいが、…ううむ

ある意味では、ちょうどいいんじゃないか?エリスの今まで戦った相手の中でもトップクラスの相手、それと再戦できる機会ってのはまぁない それはつまりあの時のエリスと今のエリスの比較を 身を以て感じられるんじゃないか

そう思うと悪い話じゃないように思えてきたぞ?

「…………」

「どうだ?やるか?、やるなら早く決めろ 俺ぁ忙しいんだ」

「では、お願いします…ベオセルクさん」

「おう…」

ベオセルクさんがそう軽く返事をすると 周りの野次馬がかなり距離をとってこちらを見る、ガイランドさんもこれでもかってくらい 離れる、まるで そこまで離れないと危険と言わんばかりに

…怖いな、いやけど エリスは六隊長全員を相手して勝ってるんだ、なら一瞬でボコボコってことはないだろう、もしかしたら勝てるかもしれないし

「前俺に勝ったからって 油断すんなよ?、当然強くなってるし…俺ぁガイランド達全員を相手取っても 秒だ」

「秒…」

エリスでも全員倒すのに十分くらいかかったのに、これ やばいかも…っ!

「あ!おい!エリス!どこ行くんだよ!」

「距離取らせてください!、ハンデくださいよハンデ!」

「別にいいが…」

そう言ってエリスは離れられるだけ離れる、目と鼻の先にベオセルクさんがいる状態じゃ勝ち目がない、なのでベオセルクさんから離れに離れ 大声でも少し声が聞き取り辛い程距離を取る…これだけ離れれば いけるか?

「その程度でいいのか?」 

こんなにも離れているのに、彼のその低い声は しっかりと聞き取れた……

「じゃあ、もういいよな?…行くぜ?」

そういうとベオセルクさんはゆっくりと四つ足をついて獣のように構える、…あれ?そういえば昔使ってた鎖もう武器には使えないのか?、そう 一瞬よぎった疑問は直ぐに解決する

もう、必要ない…ってことなんだ

「っすぅー…っこぉー…」

彼は 大きく息を吐き 全てを吐き出し、魔力を滾らせると こう言うのだ、エリスが今一番聞きたくない言葉を

「魔力…覚醒」

揺れる 大地が、吹き出る ベオセルクさんの体から血よりも赤き紅の魔力が、色と質量を伴い 彼の体を撫でるようにまとわりつく、まるで 真紅の毛皮のように風に揺れ ベオセルクさんを覆うのだ…

魔力覚醒…、それは間違いなく グロリアーナさんや運命のコフが使ったものと同じ…

「だ 第二段階!?!?」

「…覚醒『紅駒赤狼獣憺』」

それは 正しく真紅の餓獣、四足を突く 人外の怪物埒外の化け物…、エリスが未だ至れていない究極の高み、第二段階 魔力逆流…!

ダメだこれ、勝てないわ 逃げよう、悲鳴あげながら逃げたら許してくれるかな

「行くぜ…?」

「来ないでください!!!」

「今更待ったなんざ かけるんじゃねぇぇぇぇ!!!!」

刹那 飛んできた、放たれる矢の如く体を細め 振るわれる刃のように素早くこちらに…!

「『旋風圏跳』!!」

極限集中の跳躍詠唱を用い、咄嗟に風を纏うと共に空へと飛び上がる、真っ向勝負では勝てない 距離を詰めておいてよかった、目の前だったら一瞬で…

「おせぇな」

「ひっ!?」

咄嗟に反転し 背後に腕を突き出し防御する、と同時に全身を貫く衝撃 まるで大岩でも降ってきたかのような重撃が体を 骨を 芯を揺さぶり、風を纏うエリスの体はいとも容易く叩き落される

速すぎて確認出来なかったが、居た エリスの背後に…ベオセルクさんが、あの一瞬で飛び上がりエリスに追いつき 剰え背後までとったのか!?速すぎる、極限集中でも見えなかった

それはつまり、エリスの目ではアレは追えない…、というかどういう軌道で飛んできたんだ?ちょっと不可解だ

「ぐぅっ!」

身を翻し、地面に叩きつけられる寸前で受け身を取る、今更逃げられない もう戦いは始まった、このまま逃げ腰のまま負けれ恥をかくのは師匠の方だ、師匠の顔に泥は塗れない!

敵うか敵わないかではなく、どちらが強いかでもなく、ただ戦いである以上、やることはひとつしかないのだ!

「負けませんよ…!」

「はっ!その顔だよ!俺に勝ったお前は!その顔をしていた!!、その顔のテメェに!会いたかったんだよ!俺はァッ!」
 
落ち着け、目に見えない速度なんてあるものか 、ベオセルクさんより速く 音速間近で動くメルカバだって倒せたんだ…!

集中すれば見えるはずだ、あんなにも濃い魔力を身に纏っているんだから、より一層集中力を研ぎ澄ませる すると…見える 感じる、辛うじて

あの赤の軌道が少しだけ見える、そこから予測すれば…

「オラァッ!!」

「ここ!」

咄嗟に飛びのいた瞬間 エリスが立っていた場所が 地面が弾け隆起する、否 飛んできたんだベオセルクさんの蹴りが、アホか!殺す気かこの人!

「『エアロック』!!」

魔術を用い ベオセルクさんの周囲に昔の空気の層を…壁を作る、あの動きをなんとかしないと勝ち目がない

「それは見飽きた!!」

しかし ベオセルクさんがその場で旋回し 尻尾でも振るうかのような回し蹴りを一度放てばエリスの壁は脆くも崩れ去る、だがいい その動き…壁を破壊するために足を止めるその一瞬が欲しかった!

「水界写す閑雅たる水面鏡に、我が意によって降り注ぐ驟雨の如く眼前を打ち立て流麗なる怒濤の力を指し示す『水旋狂濤白浪』!」

「っ…」

足を止めたベオセルクさんに襲いかかる怒濤の白浪 、水による面攻撃 例えどれだけ速く逃げようとも、水から逃れようと思えば行き先は限られる、そう例えば

「っと!」

上!、見えている!ならば…!

「起きろ紅炎、燃ゆる瞋恚は万界を焼き尽くし尚飽く事なく烈日と共に全てを苛む、立ち上る火柱は暁角となり、我が怒り…体現せよ『眩耀灼炎火法』!」

水の次に撃つのは炎 爆炎だ、それを放つのはベオセルさんにではない、彼の下で未だ荒れ狂う膨大な量の水、それを激烈な火炎で焼き 一気に沸騰させ蒸発させる

湯気だ 湯煙だ、あれだけあった水は一気に沸騰し蒸発しその体積は膨れ上がり全て白煙となる

だからなんだと 周りから見ている人間は思うかもしれない、だが 湯気とは上へ登る物 熱とは上に逃げていく

ならば、湯気よりも熱よりも速く上空へ逃げていたベオセルクさんに襲いかかるは必定!、瞬く間に炎の如き熱を持った水蒸気はベオセルクさんを覆い尽くす

その熱は炎とは違い 触れれば熱水となって肌にまとわりつき皮膚を焼き続け、肺に取り込めば火傷は免れない

人体一つ壊すとなれば、炎よりもなお恐ろしい高熱の水蒸気がベオセルクさんを襲う、逃げ場のない空中で蒸しあげてやる!

「ッハハハーーー!!」 

と思ったら直ぐに抜けてきた、空中じゃ足場なんてないはずなのに どうやって水蒸気を抜けてきたんだと言わんばかりの速度で横に飛ぶベオセルクさん、体から湯気を放っていることから直撃はしたと思うんだが …効いてる感じないな

と思ったらこの人あれだ、爆炎で炙っても平然と動いてきたじゃん、ラグナも熱には強かったし アルクカース人は炎熱耐性とかあるのかな

まぁいい、態々蒸気をチョイスしたのは次に繋げるため!

「我が吐息は凍露齎し、輝ける氷礫は命すらも凍み氷る『氷々白息』!」

大きく息を吸い 吐き出すは白い吹雪、極寒の冷気を吹き出しベオセルクさんへ吹きかける、蒸気に包まれた体は濡れる なんて態々言うまでもないが、水とは温めれば蒸気となり 冷やせば氷となる

冷気とは動きを奪う、全身を覆う水気は氷 彼からその素早さを奪う、その為の布石!

「前と違って色々使うな…」

あの時から色々手数も増えましたからね!、アルクカース人は寒さに弱い!筈!濡れた体ではこの冷気は堪えよう、そうすればもうあの高速移動はできないはずだ、

なんて 吹雪を吹きかけながら

エリスは一瞬 緊張の糸が、解れてしまった

想定していた連撃が決まり、油断した 一瞬…本当に一瞬だ、瞬きよりもなお短い期間の安堵、…エリスよりも格上の彼がそれを見逃すはずもなく

「ッッッッーーー!!!!」

飛ぶ、赤き瞬矢が紅の光芒を残し飛ぶ しかし、軌道がおかしい、中空で鋭角に曲がるのだ カクカクと曲がるのだ、ただ飛び上がっただけじゃああはならない いくら身体能力が凄まじいからって、あんな…

「くぅぉぁぁああ!!!」

違う!、ベオセルクさんの体を覆うあの魔力 ただの魔力じゃない、質量がある つまり触れるんだ、あれを足場にしているんだ!

魔力覚醒すると 異能じみた能力を授かる場合が多い、グロリアーナさんなら黒曜の鎧 コフなら風との一体化、ベオセルクさんは 質量を持つ魔力を常に纏う物…

これが、第二段階…まさしく人の段階を超えた力…!

「惚けるな!」

「あ…ごがぁっ!?」

観察に集中しすぎた、棒立ちで防御もしないエリスを見逃してくれる程ベオセルクさんって優しい?否だ、神速の蹴りがエリスの土手っ腹を打ち飛ばす、防御しても腕が痺れるような一撃が腹に…、内臓が歪み肺が潰れ空気が外へと出る

息が出来ない 息が出来なれば詠唱が出来ない、詠唱が出来なければ戦えない、戦えなければ抵抗出来ない、抵抗出来なければ……

「オラオラオラオラ!!!抵抗してみろやぁ!!ぶっ殺すぞ!!!」

乱れ飛ぶ打撃、その乱打を前にエリスが出来ることと言えば意識をなんとかつなぎ止めることだけだが、これもまぁ時間の問題だろ

ああ、思い出す継承戦を…前もこうやって滅多打ちにされたな、あの時はラグナが助けてくれた今回はエリス一人だ、ちょっとはやれるかと思ったが全然相手にならんな、エリスは確かに強くなったが まだまだと言うことだ

まだ強い奴はいる、それが分かっただけでもよしにしよう…あ、今の一撃は良くないよベオセルクさん、こめかみに打ち込まれる一撃 ああこれは気絶するな…

まだまだ…強くならないと…

………………………………………………………………

「ハッ!?」

ふと、気がつくとエリスはベッドの上だった 、さっきまでベオセルクさんにボコボコにされていたはずなのに、次の瞬間にはフカフカのベッドの上だ

死んだか?天国か?ここ

「あ、気がついた?エリスちゃん」

「たううー!、えりうー」

ベッドの脇にはアスクさんが、ベッドの上にはリオス君とクレーちゃん、女神と天使がいる これは死んだな、天国だもんここ

なんて冗談も程々に、治癒術師のアスクさんがいると言うことはここは多分医務室とかだろうな、大方あのまま殴り倒されて ここに担ぎ込まれたんだろう

体を見ると …傷はない、アスクさんが治してくれたっぽいな 感謝しないと

「ありがとうございます、アスクさん…」

「ううん、いいの ベオセルクさんがやり過ぎてしまったみたいだから、尻拭いも妻の役目だよ!」

やり過ぎだよ、あの人加減とか出来ないっぽいのは分かってたけど、気絶するまで殴り倒すか?普通、国賓じゃないの?エリス

なんて苦笑いしながら体を起こすと…

「………………」

ベオセルクさんがいた、医務室の床に正座して物凄い申し訳なさそうに俯いていた 、多分…怒られたんだろうな、誰にって 隣に立ってるラクレスさんに、相変わらず謎の鉄仮面を被ってるからどう言う表情なのかは分からないけど、多分 怒られたんだと思う

「すまなかった…、やり過ぎた」

「いえ、エリスの力不足が原因ですから…まぁ、びっくりしましたが」

「ベオセルクは既にアルクカース最強のデニーロを上回る力を持っている、今現在 正真正銘のアルクカース最強の男だ、…それが本気で戦えば どうなるか、本人も分かっていただろうにね」

珍しくラクレスさんの言葉に棘がある、エリスのことを思っと言うより、ラクレスさんもドン引きするほどエリスはボロボロだったんだろう

しかし、いや やっぱりと言うべきか、ベオセルクさん 今このアルクカースで最強なのか、デニーロさんもかなりの老齢、要塞にも顔を出していないみたいだし もう戦士は引退したのかな

だとすると ベオセルクさんはグロリアーナさんやタリアテッレさんと並んだことになるのか、アジメク最強の人間が今誰なのか分からないが 少なくともデイビッドさんでないことは確かだ あの人じゃ悪いがベオセルクさんと互角に戦えるとは思えない

「ベオセルクさん 第二段階に入ったんですね」

「その第二段階とやらが何かは分からんが、例の魔力覚醒のことか?…まぁな」

魔力覚醒に至る例はかなり稀有だという、師匠はエリスなら行けると言っているが…気になるな

「どうやって第二段階に入ったのか、聞いてもいいですか?」

もしかしたら、第一段階の壁を超えるヒントをもらえるかもしれない、そう期待を込めてベオセルクさんを見るが…彼は徐に首を傾げ

「どうやってって、…特に何も?行けるなーって気がしてやったらいけた」

なんじゃそりゃ、…いや 条件を満たしたら感覚的に行ける気がするということか?、だとするとエリスはどうだ?、少なくとも今は行ける気がしない

「何か 他にないんですか?、こう…これをやったらとか ああしたら とか」
 
「特別なことは何もしてねぇよ、お前みたいに修行してるわけじゃないしな」

マジか、修行しないでそれとか…ちょっと嫉妬で狂いそうになる、これが天才か…、するとベオセルクさんがふと、何かに気がついたかのようにそう言えばと口にすると…

「そういや、魔力覚醒したのは…こいつらが生まれた頃か」

「こいつら?リオス君とクレーちゃんですか?」

時期的にラグナが学園を出たすぐ後か、しかし子供が生まれたら魔力覚醒するのか?だとするとエリスも産んだ方がいいのか?、そのために師匠はエリスを学園にやった?婚活させるために?んなアホな

いやいや、グロリアーナさんは子供いないし、なんなら師匠達にも子供はいない……と 思う、分からないけどさ

「子供が産まれて…それを抱きしめるアスクを見てたら、俺も いつまでもいい加減にしてられないなって思ってさ…、掴みかけた幸せを 守って 守り続けるには力がいる、何からもどんなものからも俺が守る そう心から思ってたら、自然と力が湧いてきてな」

「心から……」

心だ、結局 そこなんだ…ベオセルクさんは心から守る力を欲した そして得た、それが魔力覚醒なんだ…、今エリスに足りないのはそれなのか、心から 戦う理由…

エリスだって 生半可な気持ちで強くなってない、今まで中途半端な気持ちで戦ってきたわけじゃない、それでも足りないのか 何か…もっと この胸の内に秘める、秘めさせる何かがいるのか

「ふふふ、ベオセルクさんにそこまで想われてると実感すると 照れちゃうなぁ」

「パーパー!」

「あーうー」

「俺はいつもお前達を想ってるさ、父ちゃんはお前らを守るためなら 何にでもなるしどれだけでも強くなるし、何とだって戦ってやる…愛してるさ」

そう言いながら立ち上がり、アスクさんとリオス君とクレーちゃん 家族をみんな揃って抱きしめるベオセルクさん、なんか…いいなぁ 家族って

或いは…ハーメアもそう想っていたのか?、でも 結果としてエリスは守られなかった…置いていかれた、ハーメアはそのことを後悔していたらしいけど、結局ハーメアが愛したのは弟のスティクスの方だ……

……弟か…

「ラクレスさん ベオセルクさん」

「あん?なんだ」

「何かな?」

「弟のこと、好きですか?」

ラクレスさんとベオセルクさんは、何やらキョトンとしながら首を傾げお互いを見合うと

「当たり前だ、兄貴ってのはそういうもんだ、理屈や理由じゃなく 弟を守るもんだからな」

「ああ、ラグナも…当然 ホリンもベオセルクも、普段は小生意気でなんだこいつと思いはすれど、憎みきれはしないあたり 私も彼らが大好きなのだろうな」

そっか、そういうもんか…そういうもんなのか、エリスはスティクスを愛せるだろうか、頭が冷えて 今彼を思っても、仲良くなれる気はしないな 彼が間違ったことをしたわけじゃない、間違ってるのはエリスの方だ

それでも、感情で如何に思おうとも 嫌な記憶もまた同時にフラッシュバックする彼の顔は、どうにも苦手だな

「エリス!!!!」

刹那、医務室の扉が跳ね飛ばされ天井にぶつかり砕け散る、何事!とラクレスさんは腰の剣に静かに手を当て すぐに手を離す、入ってきた人間の顔を見たからだ

「エリス!!医務室に担ぎ込まれたと聞いたが無事か!」

「ラグナ、大丈夫ですよ エリスはこの通りへっちゃらです」

「何もなければ医務室になんか運ばれるか!!」

ラグナだ、今の時間は仕事中だろうに それを放り投げてきてくれたらしい、ラグナの顔はもう真っ青 エリスが死んだくらいの勢いだ…

「何があったんだ!!」

「いえ、ただベオセルクさんと手合わせをして 負けてしまって」

「ベオセルク兄様と!?、兄様!手合わせで相手を医務室送りとか何考えてるんですか!!」

「うっ、…何って 家族の事と仕事の事、あと今日の晩飯の事考えてる」

「そういうことを言ってるんじゃありません!!」

ラグナの剣幕にさずかにタジタジなようでムムムと申し訳なさそうに更に縮こまる、子供たちはそんな父の情けない姿を見てキャッキャはしゃぎ、ラクレスさんもまた やや口元を緩ませる、仕方のない弟たちだと言わんばかりに

「ホリン姉様の件もそうでしたがみんなもっとエリスを大切にしてください!、アルクカースのノリに付き合わせるのは可哀想です!」

「そうだな、お前のお嫁さまだものな、ラグナ」

「ちょっ!ラクレス兄様まで…」

「ラグナー!!、もういいでしょー!!謝るからお酒飲ませてー!!、手が震えるー!!」

「ホリン姉様!?」

気がつけば酒の禁断症状で全身震えるホリンさんも医務室に乱入し泣きながらラグナに抱きつく、そんな様を見てラクレスさまはより笑い ベオセルクさんは将来ああなるなよと子供達に言い聞かせる

アルクース四人兄弟、昔は継承戦で争った仲だが 彼らの関係は元より良好だった…だがこうして四人揃ってワイワイはしゃいでいるのを見るのは初めてだな

…これが家族、これが兄弟か…兄がいて弟がいて 親がいて 子供がいる、エリスが初めて見る家族という形…、羨ましくも思うも何処かで 遠くに感じる

その中心にいるラグナもまた、幸せなんだろう…その顔を見ればわかるよ、まぁ そんな顔を見ていたらエリスも幸せになれるんだから彼はすごいな

家族…か、この旅が終わったら もう一度ステュクス に会ってみるか、今度は母のこととか抜きにして、彼は会ってくれるかな こんな最悪最低で自分勝手な姉でも …

…………………………………………………………

「また酒か」

「いいじゃねぇか、飲もうぜ お前と飲める機会なんか滅多にねぇんだ、だからこうやって秘蔵のコレクション全部ぶちまけやってるだろ?」

要塞フリードリスの頂点 最も見晴らしの良い屋上にズラリと空の酒瓶が並ぶ、その中心で向かい合いながら地べたに腰を下ろす二人の魔女 レグルスとアルクトゥルスは腰を下ろしながら酒瓶を煽る

「いくら飲んでも我等は酔えんだろう」

「酔うために飲んでるわけじゃねぇ?、それにお前 酒好きだろ?」

「コーヒーの方が好きだ」

「あんな豆の煮汁のどこがいいのかねぇ、オレ様にはわからんぜ」

ギシシと凶悪に笑うアルクトゥルスを見てため息をつく、こいつは風情や風流というものが理解出来んからな、コーヒーを飲むなら酒を飲む 酒がないなら水でいいやって奴だ、そういうバカみたいなところは昔から変わらん

…まぁ、こんなバカでも 私の無二の親友なのだがな…、それと二人きりでこうして飲むのも まぁ久しぶりだ、アルクもそう思ってくれているのか ここ最近はいつも飲みに付き合わされている

別に酒も嫌いじゃないからいいんだが、グラスも用意されず下品にラッパ飲みなんてしていればどんな名酒美酒もそこらの駄酒と変わらなくなるだろうに

「ん…?」

ふと、適当に手に取った酒を口に含んだ瞬間 思わず声を上げてしまう、美味い…ここまで飲んだ酒の中で一番美味いぞこれ

「美味いか?」

「ああ、…これだけ異様に美味い」

「そりゃアルシャラ…いや今はエトワールだったか?、そこの酒だ」

エトワールのか、ポルデューク大陸にある魔女大国で演劇や芸術が隆盛している美の国だ、それと同時に酒の名産地でもあり、あそこだけ酒造技術他よりも数倍優れているんだ、いつぞやも飲んだが やはりエトワールの酒は美味い

「エトワールか、この酒が飲めるなら これから向かうのが楽しみだな」

「そういやコルスコルピの次はエトワールだったか?、まぁ あそこはお気楽な国だし、ポルデュークの空気に慣れるにゃ丁度いいだろ、すげー寒いがな」

「分かっている、…しかし エトワールと言えば、プロキオンか」

プロキオン…エトワールの魔女にして 閃光の魔女の名を冠する女だ、エトワールに赴けば奴とも会えるだろう、プロキオンはいい…少なくとも魔女の中でも屈指の人格者だ

スピカやアンタレスのように面倒くさくなく フォーマルハウトやアルクトゥルスのように自分勝手でもない、優しく 気回しが出来 石に躓いたら真っ先に手を取ってくれる女だ

「プロキオンか…、久しく会ってねぇし 話にも聞かないな」

「それはお前が外の話に興味がないからだろう」

「それもそうだけどよ、何より アイツが国のトップに立ってない ってのもあるんだよな」

プロキオンは他の魔女と違い 国を治めていない、彼女はエトワール騎士団の総騎士団長として国王に仕えているんだ、まぁ らしいと言えばらしい、彼女は国を治めるって感じじゃない

むしろナイトだ、夜じゃない 騎士様って感じだ、口元にバラとか加えてそうな そんなキザな女だが、輝くような美貌と非の打ち所がない人格が それを様にしている、故に似合う騎士という職が

「プロキオン…もう戦ってみてぇな、あいつの剣技 もう一度見てみたい」

…世界最強の剣豪といえば誰か といえば、コルスコルピのタリアテッレかエトワールのマリアニールが話に出るが、それは飽くまで魔女を除いての話、魔女も含めれば世界最強の剣豪はプロキオンだ

剣を使わせれば あの女に勝る存在はいない、本人は剣士ではなく騎士だよ!と訂正するが、どうでもいい 正直どっちでも

「まぁ、プロキオンに会った よろしく言っといてくれや」

「ああ、バカがバカ言ってたって伝えておく」

「それじゃどの魔女かわかんねぇだろ」
  
確かに、バカが該当する魔女が多過ぎるな、じゃあ筋肉バカにしておくか?

「……懐かしいな、こんな会話もよ」

「確かにな、昔は こんなくだらん話ばかりしていたな」

「ああ、世界の行く末とかさ国の事とか未来のこととか、全部どうでもよかった今だけ楽しければよかった、けどいつのまにか今が後回しになりそのうち楽しければどうでもよくなり、自分のことさえ勘定に入れなくなった」

「後悔しているか?、今のあり方を」

「さぁな、もうわかんねぇ…」

やや寂しそうにボトルをグイッと持ち上げるアルクトゥルス、…国も治めず責任を果たそうとしない私を責めないんだなお前は、それとも私には任せられんか?私がシリウスの…

いやそれは関係ないな、コイツらはそんなこと気にしない、そう思ってるなら 私は殺されている、世界と天秤にかけて私は選ばれている、それは嬉しいような 悲しいような、どうしようもなく矛盾しているような…

「昔っていやあよ、ラグナ達 どう思う?」

「どう?どうと言われても分からんな」

「惚けんなよ、分かってんだろ?…アイツら 昔のオレ様達と同じ形になり始めている、オレ様達が教えるまでもなく 集い オレ様達と同じポジションで戦い始めている」

「ああ、あれのことか…まぁ まだ未熟だし、何よりラグナはお前じゃなく カノープスのポジションに立っている」

つまり ラグナがリーダーだ、カノープスのようにリーダーとしてみんなをまとめ デティがスピカのように皆を癒し  メルクリウスがフォーマルハウトのように責任を問い、エリスが私のようにリーダーを支える、そっくりだ 昔の私達に

「…いつぞや言ったよな、ラグナ達は いつかのオレ様達と同じように何か使命を背負いいつか 世界の為に戦う定めにあるってよ」

「言ったな、運命とは恐ろしいものだ」

「…オレ様達が不老になったのはいつ頃か覚えてるか?」

「忘れるか、私達が二十六の時だ…まさか ラグナ達が二十六になった時何かあると?」

「さぁな、でも ここまで続くとどうにもな…」

そんなもの誰にも分からない、だが 確かにこのまま行けばエリス達は私達と同じ道を辿る、それは即ち 不老となり 神にも近しい存在となり、世界を救い世界の人柱になることを意味する

二十六か、今エリスは十四だ …あと十二年以上先のことだ、そもそもエリスとラグナ いや他の人間も年齢が違う、結局いつ来るのかは分からないが…

「その時が来たら オレ様達は弟子を守る為に戦うつもりだが、なぁレグルス …オレ様はその時 シリウスが蘇るんじゃないかと思ってる」

「何をバカな…ありえん」

「さてどうかな、…どんな形にせよシリウスはまた蘇る筈だ」

「何故そう言い切れる、何かあるのか?」

「確証はない、だがきっとオレ様達がまだ生きているのは まだオレ様達の運命が終わってないからだ」

私達の運命…それはシリウスを打ち倒すことだ、だが まだ我々が生きているのは、きっとまだシリウスとの決着が終わっていないからだ、まだシリウスは完全に消滅していない 今も蘇ろうと手を尽くしている…

なり それが終わったら私達は消えるのかと言われれば分からんが、それでも シリウスを連れて行くのは私達の役目なんだろうな

「この世の人間にはみんな役目がある、その役目に殉ずるか否かは自由だが それでも役目はある…それが終わるまでは死ねんのだろうな」

「馬鹿馬鹿しい理屈だ、私はそうとは思わん」

「お前はそうだろうな、そう思うだろうな お前なら」

「………………」

そういう事言うのか アルク…、それ私気にしてるの知ってるのに…残酷なやつだなお前は、だが私は役目云々など気にすることはないと思っている、でなければ産まれた意味を果たした私はもう死んでいる 私はその為に作られたんだから

それを生かしたのは、お前達だろうに…

「悪ぃ、変な話した 気にすんな」

「むぅ…気にするぞアルク」

「だははは、悪い悪い」

全くコイツは…

「じゃあよ、変な話ついでに一ついいか?」

「なんだ、あんまり私を傷つけるなよ 泣くぞ」

「もう泣けねぇくせに、…コルスコルピに帰ったら アンタレスに会え」

「……?、何故だ」

「…………」

アルクは静かに酒を仰ぐ、まるで 話すかどうか迷っているようだ、考えず話すコイツが悩むほどの話?アンタレスに何があるんだ

「早く言え!」

「…アンタレスの様子はどうだった?」

「ん?、普通だったが」

「だろうな、…だが 多分もうすぐ暴走する」

「は?」

なんで、それをお前がわかるんだ…いやそうじゃない、そもそもアンタレスに暴走の兆候はなかった、暴走の兆候は分かる 私は見たことがあるから、誰よりも 側で見ていたから

「何故だ…、アンタレスに暴走の兆候は…」

「レグルス、その暴走はお前の見立てだろ?オレ様のもフォーマルハウトのも アンタレスのも、…アンタレス曰く暴走じゃねぇそうだ」

「なんだと…じゃあ、なんなんだ」

「さぁな」

「おい!そこまで言っておいてそれはないだろ!!」

「これはアンタレスの受け売りだ、あいつは今回の一件について 何かを知っている」

そんなこと私には何も言っていなかったぞ、喋るそぶりもなかったのに 何故アルクには言ったんだ…、アンタレスはそんなことするやつじゃない、私にはいつも 何かを話すときは真っ先に…

「…………」

「別にアンタレスはお前が嫌いだから黙ってたわけじゃねぇ、何か…気になることがあるみたいだぜ?、本当はこの事も黙ってるように言われたが、オレ様はお前も知るべきだと思っている」

「何か何かってなんなんだ」

「知らねーよ、アンタレスに聞け お前に問い詰められればアイツだって答える筈だ、お前にゃ甘いからな」

「………………そうか」

…何があるかは分からない、私暴走という見立てが間違っていたというのなら、アルク達が暴れたのは何故なんだ、何故アンタレスがそれを知っている…、まぁいい 聞けというなら聞くまでだ、帰ったらアンタレスに聞くとしよう

「話すだけ話して、自分は何も知りませんはないだろうアルク」

「ん?、だははは悪ぃ~」

「本当に悪いと思ってるのか…全く」

「思ってるよ、ん…」

するとアルクは不敵に笑いながら手に持つボトルをこちらに向ける…

「なんだよ」

「お前あと数日でコルスコルピに帰るんだろ?、だからさ 約束だ…またこうして一緒に飲もうな、絶対」

「……そんなことか」

また一緒にか、…そんなもの約束されるまでもないが、そうだな…

「分かったよ、約束だ」

「へへへ、絶対な」

差し出されたボトルに私の酒瓶をぶつけ 乾杯すると共にそれを仰ぎ飲む、…なんだかんだ言っても 私はやはりアルクが一番好きだな、我が友よ 必ずもう一度こうして飲もう

いや、次があるなら 出来るなら…八人でまた…………

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