孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

163.対決 ラグナVS塔のペー

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ヴィスペルティリオ西側の壁、その周辺は今 見るも無残な形で崩し切られていた

周りにあった遺跡は吹き飛ばされ 囲んでいた魔獣は叩き潰され、、あまりの恐ろしさに魔獣もこの穴を通ろうとしないほど 恐ろしい戦いが繰り広げられていたのだ

「うぅがぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

「ギィイィィィィイイイイ!!!」

ぶつかり合う拳の音だけが瓦礫の大地に響く、虚空に衝撃だけが走る…否 超高速で飛び合う両者がぶつかり合っているのだ

戦っているのは二人

「オラァッ!!」
 
「ギヒィイ!やるねぇぇえ!!ラグナぁぁああ!!」

ぶつかる拳と拳に周囲の瓦礫がまとめて吹き飛ぶ…、その中心にいるのは赤髪の青年と黒髪の狂人、…ここが 魔女の弟子側最強の男とコルスコルピ 否 カストリア大陸のアルカナ最強の女の戦いの場、最強と最強がぶつかり合う爆心地なのだ

「お前 最強だなんだって言うだけあってクソ強いな」

「でしょうぁ!アタシが一番強いんだぁ~?」

ラグナは顎を伝う汗を拭う、いや強い 本当に強い

今目の前で戦っている女名をペー…No.16 塔のペー、図書委員という大人しい仮の姿を持ちながらその本性は苛烈にして狂烈、アイン達 大いなるアルカナの組織において、この広大なカストリア大陸最強の幹部と呼ばれる程の女だ

最強の名は伊達じゃねぇ、こいつは間違いなく 一つの組織において最強を名乗ることを許される女だ、手合わせすれば分かる

「ぃひひひ、ラグナも強いなぁ 強いなぁ、こんな強いのあの人以来だぁ」

「あの人?…」

「うん、昔あった人でね こんな感じの人でグワーってすごくて、あ 昔って子供の頃でアタシその人に出会ってアルカナにいてね、それで……」

ペーは身振り手振りで俺に何か伝えようとしている、いや分かるよ?そのあの人とやらに関する過去を話してるんだろうけど

悪い、まっったく内容が伝わない 、話の順序もめちゃくちゃで擬音が多い割に肝心なところは曖昧、何言ってんだこいつ感が八割漂う

「で!、アタシは今の地位について一番強くなったんだぁ?、伝わった?」

「いや全然」

「ぬぐぁぁぁああああ!伝われよぉぉぉ!!!凄いんだからぁぁぁぁあ!!!」

俺に伝わらなかった事への怒りか、或いは俺が真面目に聞いてないと思ったか いやまぁ真面目には聞いてなかったけどさ、ただ 踏んだ地団駄がさっきから地面を砕くのだ

バカスカバカスカと、石畳がまるで畑のように耕されてる、凄まじい脚力だ…頭はあれだが実力は超一級品だぞこいつ

おまけに厄介なのがもう一つ

「ぐぅぅぁぁあああ!ぶっ殺してやるぶっ殺してやる!『ゴーレムクラフト』!」

牙をむきながら拳で地面を撃ち抜くペー、あれはさっきまでの怒りに任せた地団駄ではない 、あれは立派な攻撃…いや あれこそがペーの最たる武器

俺と同格の身体能力を持つアイツが更に厄介になる恐ろしい魔術 それが『ゴーレムクラフト』

「さぁぁあ!出て来い!武装魔像ゴグマゴグ!!、アイツ踏み潰せ!殺せ!」

打ち付けられた箇所から次々と石像が現れる、鋭い爪を持った人型でありながら頭は狼言う禍々しいフォルムの石像、それが一気に十数体は現れるのだ…

あれがただの石像なら可愛いもんなんだが…

「行けー!」

「はぁ、またかよ!」

拳を構えて迎え撃つ、向かってくるんだ あの石像が…

あの石像全てがゴーレムだ、自立で動く石人形 一体一体が硬くそして早く、何より強い…この学園に入学する時戦ったリリアーナ教授のゴーレムのうん千倍強い

まぁ向こうは試験用で、こっちは撃滅用であることを考えると当然なんだが、それを差し引いても…

「くぁっ!強ぇな!おい!」

爪をむき出しにして突っ込んでくるゴーレムを蹴り砕く、ただ砕くだけじゃダメだ 体のどこかに仕込まれたコアを壊さないとこいつら無限に再生して食いかかってくる、しかも一体一体別々の場所に隠されてんだからタチが悪いぜ こいつ!

爪を屈んで避けると共に蹴りで顎を砕き 続けざまに拳の連打でコアごと跡形もなく吹き飛ばす、それと共に組みついてくる別のゴーレムの腕を握り投げ飛ばしながら粉砕し、足元に転がるコアを踏み潰す

「師匠直伝奥義!龍山砕き!」

鋭い踏み込みと共に体重移動を利用し全身を使い肩でゴーレムを砕く、こいつらを砕くだけならわけないんだ…わけないんだが

「ヒャッッハァァアァァッッッ!!!」

「ぐっ!?」

ゴーレムの隙間を縫って飛んでくるペーの膝蹴りを受け血を吐き吹き飛ぶ、こう言う雑魚を出してくるタイプの魔術師は本体は弱いって相場で決まってんだが、ペーは違う

強力なゴーレムを出しておきながら本体も強い、剣も弾き返す俺の肉体を砕く程の膂力を持つのだ、それが無限に雑魚を沸かせながらその攻勢に紛れて突っ込んでくる…これ以上ないくらい厄介な戦い方だ、出してくる雑魚も弱くねぇってのがなお問題だよ!

「っっ…ふぅー!、だけど 厄介なだけだ!勝てねぇ戦いでもねぇ!!」

「おひひっ!くるねぇっ!ラグナ!」

吹き飛ばされそうになるのを片足でこらえて放つ 連撃 連拳 連打、ペーが侍らせるゴーレムたちを打ち付ける豪雨の如く打ち据える、硬いには硬いが所詮石だ 岩くらいなら軽く砕ける

連拳の雨を浴びコアごと消し飛ぶゴーレム達…が

「あはははっ!効かない効かないぃ!アンタのヘナチョコパンチなんか屁でもないもんねぇー!!」

ペーだけは違った、ゴーレムが成す術なく消しとばされる中こいつだけは俺の連打を一発一発丁寧に弾き返していたのだ、そして

「脳味噌ぶちまけて惨めに死ねぇぇぇぇぇぃぃいいいい!!」

ペーの足元が炸裂する、蹴り上げだ ただその場で踏み込んだだけで石の地面が弾けたのだ 、速く 重鋭い蹴りが俺の顎を蹴り抜く 凄まじい威力だ、俺でなきゃマジに頭弾けてたぞ

「くぅぅ…、ぅー…はぁー、俺も効いてないもんね」

ただ、吹っ飛ばされるのはなんとか堪える、踏み縛ってその場で堪え不敵に笑う、正直効いてるが 、んなもん馬鹿正直に教えてやる理由はねぇからな

「はえ~~!アタシのマジキック食らって人の形留めてたのシン以来だぁ…、やっぱ強いんだねぇ、まぁ~シンは直ぐに反撃してきたけどなぁ~」

マジかよ、今の食らって直ぐにやり返せる奴がいるのかよ…、シン…確か審判のシンとか言う名前のやつがアルカナの幹部にいたな、幹部の中で上から二番目強いとか言う

アルカナのナンバーは全部で21…、つまりNo.16であるペーより強い奴が少なくとも後五人はいるってことだ、ゾクゾクしてくら

「でもさでもさ、ラグナぁ お前本気じゃないだろう?、使ってないだろう 魔術を…」

「無しでも行けると思ったからな」

「無理だよお!アタシに魔術無しで勝つなんてさぁ!ほら 使いなよ、そのくらいは待ってあげるからさぁ~」

ペーはニタニタ笑いながら言う、付与魔術を使えと…けど、使わない理由は二つある

一つは負荷だ、なんのかんの言っても肉体付与は負担がでかい、短期決戦のキメに使うなら問題ないが、長期戦となると分からない、俺の体がどれだけ付与魔術に耐えられるかが不明だ

そしてもう一つは、底を見せたくない…付与魔術は俺の切り札だ、それを切れば後はない、戦いってのは 先に底を見せた方の負けだからな

後はない…が、このまま出し惜しみしてたら 使う頃にはそもそも俺の体力がなくなってる可能性があるな

(出し惜しみするだけ損か…しゃあなし)

仕方なしと息を吐き、魔力を解放する…相手は敵方最強の戦力 それ相手に出し惜しみなんて、そもそも馬鹿だったな

「分かったよ、使うよ…」

「ほんと!じゃあアタシも本気出したげるよ」

あれで本気じゃなかったのか…、こりゃ 面白い戦いになりそうだ

「……砕拳遮る物は無く、 斬蹴阻む物無し、武を以て天を落とし 武を以て地を戴く、我が四肢よ剛力を宿せ  『十二開神・来光烈拳道』っ!」

一つ 気合いを入れるように力を込めて己の体に魔術を付与する、パワーもスピードも俺の限界を超えて跳ね上がる、正真正銘の戦闘形態を取れば 地面が震え衝撃で地面が割れる

「ぇえへへへ…いいなぁ、そうじゃないとさぁ」

しかし、それを見てもペーは動じない まるでそのくらい想定内だと言わんばかりだ、そのくらいならなんとかなると笑いながらペーも構えると

「じゃあお返しにアタシもやろーっと!…マジのマジマジ!『ゴーレムクラフト』ぉ~!」

するとペーは両手を広げながらゴーレムを作り出す、周囲の岩が隆起し盛り上がり形を作る、たださっきまでと違うのはコアを中心に体が作られるのではない

ペーを中心に岩が漂い、まるで鎧のようにその体に張り付くのだ…

「アハハハハハ!これがアタシのマジマジ!極限肉体武装コンゴウニオウ!」

ペーの体は岩を纏い その上に更に巨大な体を作っていく、まるで筋骨隆々な男性の体、10メートルはあろう逆三角形を作るムキムキバキバキのマッシヴボディをペーは身に纏うのだ

……ただ

「そのデザインもっとなんとかならなかったのか?」

10メートルはある筋肉質な男性の体の頭部に当たる部分にはペーの小さな頭がチョンと乗ってる、…すげーアンバランス…、だって地平線みたいな肩幅の真ん中に小さな頭が満面の笑みでこっちを見てるんだ

むしろ逆に動きづらくないのか?

「カッチョいいだろぉ?さいッっこうだろぅ?、男の筋肉とは即ち生命の躍動であり象徴、それを無機質な石で再現した所とか自信があるんだぁ?、美しき芸術に生命性は欠かせない んだ生を表した作品も死を模した作品も同じ輝きを放つのはどちらも人に命を実感させるからさ、命という曖昧で不透明なものに色と形を与えるのはいつだって芸術であり それを作り出す人間のことを芸術家と呼ぶ、つまりアタシはこの世で一番の芸術家ァ~」

「お前…もしかして芸術とか分かる口なのか?」

「アタシは芸術家だからねぇ~、それも一番の」

そう言えばこいつの作るゴーレムはどれもパッと作られたものでありながら全てデザインがちゃんとしている、そういう目で見ればこのペーが纏うゴーレムアーマーも、一種の彫刻としてみれば非常に芸術的であることがわかる

意外だな、こいつにそう言う面があったとは…

「芸術にはいつも創造と破壊が纏わりつく、作り壊し 壊し作るのが芸術家、誰よりも作るのが上手いアタシは、当然………」

するとペーはその巨大な体を滑らかに動かし、拳を握る…っ、来るか!!

「壊すのも一番上手いんだぁぁぁぁああ!!!!」

来る と思った瞬間には既にその拳を振るわれていた、あんな鈍重そうな見た目の癖してあんまりにも速い、ペー本来のスピードが大幅に強化されている、付与魔術を使って受け止めるのがやっとな速度だ

オマケに

「ぐぅっ…お 重たい…」

岩で作られた拳をクロスガードで防ぐ、ただそれだけで全身の骨が異音をあげる

鈍重そうな見た目の通り、力は強く オマケに物理的重い、小柄で軽かったペーの弱点が全て消えている、付与魔術を使ってなけりゃ今頃ぺしゃんこだった

「あっはぁ!軽くぶっ壊すから簡単に壊れないでよねぇっ!!!」

「どっちだよ!」

なんて言っている次の瞬間にはペーの巨大な腕が俺の体を掴み、小石でも投げるかのように俺を投げ飛ばすのだ、合理もクソもないただの投げだと言うのに その凄まじい威力を前に俺はなす術無く飛ばされ続け

ようやく止まることが出来たのは、進路上にあった遺跡を5つほど倒壊させた後だった、ただ投げただけで建造物五つもぶっこ抜く程の威力が出る 、あのアホみたいな見てくれの割にクソ強えなおい!

「あはははははぁー!待て待て待て待てぇ!」

「この図体で走ってくんな!」

崩れる瓦礫の中から這い出ると既にペーはこちら目掛けて走ってきていた、巨大なマッスルボディでドスドス音を立ててこちらに走る様はまさに怪物、迫力がハンパねぇ

「いつまでも一方的に好きにさせて…」

そんなペーに対し、頭を向け…所謂クラウチングスタートの姿勢で足に力を込めて

「堪るかよッッ!!」

飛ぶ 跳躍する、ペーに向け全霊で飛びながら身を翻し足を突き出す、所謂飛び蹴り…いや 

「跳鷹飛空脚ッ!」

超高度から鋭角に滑空し獲物を仕留める鷹の如き飛空脚、あのゴーレムボディも他のゴーレムと同じ材質は岩、なら ぶっ壊して叩き砕いで 中身引き摺り出してやる!

「ひょあっ!?速ッ!?」

付与魔術を纏った状態での全霊の蹴り、それは今までの俺の蹴りとは段違いだ、音さえも置き去りにする一閃の飛び蹴りにペーも反応出来ず、この足はそのデカイ図体のど真ん中をぶち抜き…

「っておい、ぶっ壊すどころか…貫通もいかねぇかよ!、さっきまでの硬度が違い過ぎねぇか!?」

しかし、この蹴りはペーの体を多少後ろへ吹き飛ばすに留まり、足はその岩の体に少しめり込むだけで壊れも砕けもしない、さっきまでと硬さが違い過ぎる、ってかこっちは付与魔術使ってんだぞ、切り札の…

「ゴーレムはコアの強さと大きさによってその力の大小を変える、さっきまでのゴーレムは手に収まるビー玉サイズのコアだったからねぇ、でも…今のコアは私自身 人間一人分のサイズ!、硬さが違うのは当たり前だろぉぉぉおおお????」

ゴーレムの胸に突き刺さる俺を その両手でしっかりと握る込むペー、捕まった …っ!

「ってか技名いいねぇ!アタシもマネしよーっと!」

「ちょっ!テメェ 離せ…!ち 力強ぇ!?」

この俺がパワーで押し負けてる、掴む腕を振り払おうにも ペーの握力が強すぎて抜け出せない、やきもきしている間にもペーは両手で俺の体を高く掲げ…

「ひっさーつ!、ぶっ殺しバズーカァッ!」

「なっ……」

叩きつけられる、片手で投げられただけでも遺跡をいくつもぶち抜くほどの力だったのに、今度は両手で 思い切り地面へ叩きつけられるのだ

地面が 国が 芯から震える、火山でも爆発したかのような衝撃が轟きラグナの体は瓦礫も 遺跡も 地面さえも吹き飛ばし星へと叩き込まれる


「あーっははははははは!アタシが一番強いんだぁ~?」

ヴィスペルティリオ南部の遺跡群は全て吹き飛び 後には巨大なクレーターだけが残る、とても一人の人間によって引き起こされたとは思えないほど絶大な爆心地のど真ん中で元凶たるペーが笑う


「がはっ…くっ…そ、痛ぇな…」

そんな爆心地の中心でズタボロのラグナは起き上がる、あの威力の叩きつけを食らいながらもなお起き上がり、口元から垂れる血を拭う…

助かった というより、ペーの力とラグナの防御力に対して 地面が柔らかすぎた、と言っても地面の材質は堅牢な岩なのだが 、それでもだ、今この場において岩なんざ綿と変わらない

「はははぁ!まだ起きるんだ!なら、容赦しないよぉ~!ぶっ殺しラーッシュ!」

「ペッ…ああ、何度でも起きるさ!」

口の中に溜まった血と折れた歯を吐き出し、巨拳によるペーのラッシュと向かい合う、俺は今 仲間に他を託してここに立ってんだ!

仲間も今頃命張ってる!なら、それを任せた俺が!この程度で倒れられるかよ!

「師範直伝!猛虎総拳連打ッ!」

怒涛の連打と波濤の連打がぶつかり合う、ペーの巨大な拳とラグナの人の拳が激突する、何十 何百とただただ力を叩き込むだけの乱打戦が繰り広げられる

純粋な拳による力勝負 速さ勝負、時間にして30秒 短いようで二人には長すぎるそんな乱打戦を制したのは…

「オラァッ!」

「なぬぅっ!!?」

ラグナだ、パワー勝負において 力で劣るラグナは明確に不利、だが それは一発と一発の勝負、十発 百発の乱打戦ともなると、話は変わる

ペーはこの強力なパワーを実現するために 体を大きくし過ぎた、対するラグナは人間サイズ その巨大な体で狙うには小さ過ぎる、故にペーは一発一発を撃つそのほんの僅かな時間を 小さな的に狙いを定める という無駄な時間を費やしてしまった

ならば 無駄のないラグナが次第に押し返すは道理、ペーが一撃撃つまでの間にラグナは十発撃てる、故に ラグナの拳がペーの巨大な拳を砕くは必然

「あぁぁぁぁあ!!!アタシの手がぁぁ!!」

「お前!、確かに強いが戦術面じゃ素人もいいところだな!」

「なにをおう!、…あれ?ラグナどこ行った?」

一瞬 ペーが砕けた自分の腕に気をとられた瞬間、その一瞬でラグナの姿がペーの前から消える、慌てて首を回して探すが居ないのだ

「ど どこぉっ!?」

「ここだよ!」

声がした、ペーの足元から、見逃していた?違う ペーは自分の体があまりにも大き過ぎて足元が見えないのだ、無駄に体を大きくし過ぎた弊害をラグナに見抜かれ足元に回られたんだ

「ちょっ!、足元に回られたら見えない…!出てこーい!出てきやがれー!!!」

慌ててペーも足をジタバタ振り回して抵抗するが、どこにいるかも分からない相手には当たらない 、ラグナはそんな闇雲な蹴りを全て避け…掴む、両手と体を使ってペーの右足 軸足を

「あれ?なんか足が動かない?」

「デカイ体に通ってない神経、もっと考えて体作りな!」

岩体には神経が通っていない、故にペーは何をされても何も感じない、それはある意味何をされても痛くないとも取れるが、逆に言えば見えないところで何をされても分からない

ラグナは全身に力を込める、両腕でペーの足を掴み…持ち上げる

「ぐぅぅぅうぅぅぁぁああぁぁあああ!!」

「お?おお?アタシ浮いてる?浮いてるよぉ~!」

まるで巨木を引っこ抜き 投げ飛ばすが如く、力込め 圧倒的に剛力を以ってしてペーの体を持ち上げぐるりと一つ回転させ、先ほどのお返しとばかりに投げ飛ばす、付与魔術とラグナの力全てを使い ペーの体を真横に クレーターの壁目掛けぶっ飛ばす

「巨木砕き投げ!」

漆黒の巨人であるペーの体をその身一つで投げ飛ばし クレーターの壁へ叩きつける、魔力で岩を凝固しているせいか 見かけ以上に凄まじく重かった…が、重いとは武器にもなるが 投げられれば自らにも傷がいく諸刃の刃

事実勢いよく投げ飛ばされたペーは凄まじい威力で壁に激突し、ガラガラとクレーターを更に広げていく

「今のは流石に効いたろ?」

虚空に呟く、確かに今のでダメージは与えられた…それは事実だ、実際 投げ飛ばされたペーの巨大な石の体は壁に刺さったままガラガラと崩れていく

が…足りない、倒すまでには至ってない…だってほら、崩れた体の中からペーが現れる、未だに立ったまま

「えへへぇ、うん 痛かった…痛かったぁ、久しぶりだ痛いのなんて…この組織に入って以来だなァ、流石はラグナ アタシが目をつけた男だぁ」

「そりゃどうも、俺もお前くらい強い奴とやるのは初めてだよ」

「そう?、初めてじゃないはずだよ?」

「ああ?」

ペーはダラリと体を揺らしながら笑う、砕けた岩の体を踏み潰しながら牙を見せる 

「アタシがお前に目をつけたのはねぇ、お前がアタシのゴーレムをぶっ壊したって聞いたからだよ」

「はぁ?、俺が?…俺こんな強いゴーレムとやるのなん初め…て……」

じゃ ない、ゴーレムと戦う機会なんてのは中々ない、事実ここまでのゴーレム使いは世界にも片手で数えられるくらいしかないから

だから、俺が今まで戦ったことがあるゴーレムなんて あの入学試験の時に戦った奴 それだけだと思ってた、ついさっきまで

こいつの笑い顔を見るまでは

「まさか、お前なのか…ジャガーノートを作ったのは…!!」

「ひひひぃ、懐かしい名前だなぁ あの時は気に入ってたけど、今思い返してみりゃ大したことない作品だったなぁ?」

こいつなのか…こいつが、ラクレス兄様を狂わせる一因となった 超兵器ジャガーノート それを作った人間は

確かに考えてみれば筋は通る、ラクレス兄様に接触した黒服は戦車のヘットだ、ヘット…ペーとは同じ組織に所属する間柄だ、もしヘットが作戦に使うゴーレムのコアを作らせるなら誰に作らせる?

とびきり強力な奴を作れる人間は、さっきも言ったが片手で数える程度しかいない、そして恐らく ヘットの親指に上がったのは…この女

「ヘットがアタシのゴーレムを計画に使いたいっていうから 何かと思ってたらさぁ、まさかアルクカースの王様誑かすのに使うなんてねぇ!、巡り巡ってラクレスのところに行くなんてアタシもビックリぃ!いひひひひひ!」

「お前が…ジャガーノートを」

兄様はあの超兵器を使い アルクカースに永遠の争乱を齎そうとした、それはラクレス兄様の罪だ、そこは兄様が悪い…本人だってそう思ってる

けど、戦いを愛する兄様の気持ちを利用したこいつらもこいつらで、許せない存在だ…その一因たるゴーレムを作ったこいつにも、…謂わば借りはある

「あははははは!でもさぁ、アルクカースの王子様って割にはラクレスもバカだよねぇ、あんなゴーレム一体で 世界をどうこう出来るわけないじゃんねぇ?」

「その気にさせたのはお前らだろ?、兄様はあれでも アルクカース人のことは考えてた、まぁ やり方はあれだったけどさ」

「だよねぇ、それに 世界をどうこうするならさ…このくらい用意しないと、『ゴーレムクラフト』」

そう唱えながらペーはゆっくりと地面を触る、ゴーレムを作っているんだ…彼女の周囲の岩達は徐々に人の形を作っていく

いつもと同じだ、ただ いつも以上にデカイことを除けば…、先ほどのペーの体よりもなおデカイ岩の巨人が五体 六体 七体と姿を露わにしていく、…しかもこいつら

見たことがある、こいつの姿は忘れない 流石に…

「ひゃははは!完成!量産型ジャガーノート!、今ならこのくらいポンポン作れるよぉ?全部君にあげちゃう!、お兄さんと分けっこしてねぇ!!」

ジャガーノートだ、あの時 アルクカースで見たものと寸分違わぬそれが 七体、俺の目の前で動き出し 眼下の俺を見下ろす、壮観だな…そして懐かしい

あの時、俺はあまりに弱かった…エリスを守れず 一人では何にも立ち向かえなかった、コイツは俺にとって あの弱き日の象徴だ、あの日の俺ではこいつをなんとも出来なかった

それが再び、こうしてまた顔を見せてくれるとは

「嬉しいねぇ…、お陰であの日の借りが返せそうだよ」

「なぁに?ビビってんの?ビビってのぉ!?」

「ビビっちゃねぇ、これはな」

体が震える、歓喜に 闘志に、盛る 盛り滾る、湧いてくる力を抑えられない…、この状態を言葉で表すなら…そう

「燃えてんだよ!!!」

「じゃあ燃え尽きろや!!!」

咆哮に突き動かされるラグナとジャガーノート、あの時の俺今の俺は乗り越える、コイツを…ジャガーノートを、ペーをぶっ飛ばして!

「ぅぅおらぁぁぁぁぁっっ!!!!」

ぶつかり合う、振り下ろされるジャガーノートの拳と振り上げるラグナの拳、ただ一度ぶつかり合うだけでジャガーノートの腕は木っ端微塵に吹き飛ぶ

そりゃ、今戦ってる個体がアルクカースの物と…ラクレス兄様が持ってきたものと同格でないことは分かる

あのジャガーノートはアルクカースの一級品の鋼鉄を使って作られた上に付与魔術さえ付与されていた、ラクレス兄様の育てた奴の方が強いんだろう、そこは嬉しくもあり やはりあの時のあいつとはもう戦えないんだという悲しさが湧いてくる

まぁ、それはそれとして…

「テメェの顔は見てるだけで胸糞悪いんだよ!!!」

爆発するような連打をジャガーノートに叩き込みぶち壊していく、あの日の無力感を打ち崩しように!、俺は…俺は強くなれているんだ!あの時とは違うんだ、それを感じながら無数のジャガーノートの中 ラグナは踊るように戦う

………………………………………………………………


そんな、ラグナの戦いを後方から眺めるは 塔のペー、世界でも五本の指に入るゴーレム使いにしてカストリア大陸側の最強のアルカナたる彼女は 巨大なジャガーノート達と戦うラグナを見て口を開けている

「あはぁ?…ラグナぁぁ……」

牙をぎらりと見せた口をパックリ開けながらペーは考える、強くなってる…ラグナの奴 

明らかに戦い始めた時よりも強くなってる、急に力が強くなったり早くなったり魔力が高まったりしてるわけじゃない、でも強くなってる それは分かる

人間というものはそう簡単に強くなりはしない、岩と同じだ 何もしなければ岩はただの岩石であり放置してもそれは変わらない

叩いて削るという工程 つまり修行という工程を踏まなければ変化は起こらない、そこはペーも理解している

けれども同時に思うのだ、確か…昔、どこか忘れたけど 会ったことのある人が言ってた

なんて名前だっけ?、なんか『売却するつもり』みたいな名前だった筈…ああ ウルキだ

マレウス・マレフィカルム本部で出会ったウルキと名乗る女は言っていた

『人間にはいくつかの段階が存在する、大体の人間は段階の壁を破れずその生を終えるが、時たまに居るんですよね、その壁をここ一番で超えてくる奴が』

段階とか壁とかはよく分からなかったしここ一番というのも理解できなかったが、そのあと続けたウルキの言葉は今でも覚えている

『そういうここ大一番で開花できる奴ってのは、今後もデカくなり続ける奴です…味方なら重宝して、敵なら……』


殺せ 何が何でも、放置すれば必ず強大な敵になる 殺せるうちに殺せと言われた、ウルキが何者で敵か味方かも分からなかったけど多分本部にいたから味方だ

そいつが言うんだからきっとそうなんだろう、というか今実際目にして思う

「ラグナぁ、お前…強くなってるねぇ…ここ大一番で」

ジャガーノートを一撃で叩き伏せ粉々にするラグナを見てペーは初めて、上へ釣り上がる笑みをやめ 口角を下に下げる

やっぱアタシが目をつけただけはある、アイツは危険だ 敵になる、アタシたちの敵になる、ここで逃し生かしておけばラグナはどんどん強くなる

もしかしたらシンやダヴ…、いや 下手をするとアタシ達のボスより強くなるかもしれない、アタシが絶対に敵わないと戦うことさえ諦めた あの絶対強者達の領域へコイツは踏み込むかもしれない

「ペー!、お前いつまでそこで見てるつもりだよ!」

最後のジャガーノートを叩き壊し、その残骸の上で立つラグナの姿が目に入る、その赤髪は燃えるように赤い輝きを秘めている、…アイツは今壁を越えようとしている

なら、ここで何がなんでも殺さないと…

「あぁ、うん…分かったよ…お前は絶対殺さなきゃいけない存在だってのが、よ~く」

もう遊びはやめよう、マジ…いや ここからは、本気でアイツを殺す


「『ゴーレムクラフト』…」

拳を握りしめながらペーは呟く、その狂気は今 殺意へと変わる

………………………………………………………………

「はぁ…はぁ…はぁ」

ジャガーノートを全て倒し終わり肩で息をするラグナは、内心冷や汗を流す

体力の限界が近づいている、長く使えるわけじゃない付与魔術を全霊で使い戦ったからか、思ったよりも体力の消耗が激しい

さっきのジャガーノートも弱くはなかった、 倒すのに時間がかかってしまった、けどペーは消耗している様子もない 、アイツはあのくらいならいくらでも作れると言っていた

あれをだ、なんだかんだ言ってもジャガーノートは強い…今度大量に出された負ける、ペー自身も強いのに 間に立ち塞がるゴーレムもいちいち強いのが厄介だ

もし、ペーが全力で逃げ回りながらゴーレムを量産してきたら、勝ち目がないかもしれない

だから賭けに出る、ペーを挑発して 一騎打ちで早々に決めるつもりで声をかけた、すると 奴もそのつもりだったのか、或いは別の理由か

前へ出てきた、今度はゴーレムを嗾けるつもりはないらしく 再びその身に岩の鎧を身にまとい始める

またあのアホみたいにデカいマッスルマンボディで挑んでくるのかと思いきや…、様子が違う

「『ゴーレムクラフト』…」

浮かび上がる岩はペーの拳と腕にくっつき 凝縮されて鉄のように固く 黒鉄のごとく漆黒に染まり寄りあつまる

ペーの手足だけに岩が集まる、様子が違う…さっきまで感じた何処かおちょくった態度が消えている

口先だけの本気じゃない、正真正銘のカストリア大陸最強のアルカナ幹部の 最強たる所以、その姿を作り出していく

「これこそアタシの最高傑作…武王阿修羅肩羽織、アタシがアタシで居られる最強の姿、アタシが一番だっていう理由」

ペーの手足が筋肉質な黒鉄の彫刻に包まれる、自分の手足だけをゴーレムで強化したのだ…いやそれだけじゃない、彼女の背からは彼女の腕よりも一回り大きな腕が四本伸びている、六臂の黒鉄の魔神 それが今のペーの姿

結局 ゴーレム出して敵を圧殺するとか どデカイアーマーで踏み潰すとか、そういうのは遊びでしかなかったんだ、そこで本気を出しても遊びの範疇をでない

あれこそがペーの闘争における本気、あれがペーの真の姿

…参ったな、やっぱあれより上があったか…こりゃ 体力が切れる寸前の俺にはちょっとキツイかも

「いくよぉ、ラグナぁ…アタシが一番だって 分からせて、ぶっ殺す!」

来る 本気のペーが、突撃してくる 足と背中の腕で地面を叩き すっ飛ぶようにして向かってくる、キツかろうが厳しかろうが コイツを倒すことに変わりはない!

「やってみろ、言っとくが俺はしぶといぞ!」

「オラオラオラぁっ!死ねや死ねや死ねやぁぁぁあ!!!」

肉薄するペーとラグナ、再び零距離での高速乱打戦に突入する、が…!

「ぐっ!?がはっ!?」

打ち負ける、打ち合うまでもなく打ち負ける 当然だ向こうにゃ腕が六本もあるんだ、向こうはこちらの三倍の手数で攻めてくる、腕が一本一本別の動きをする

攻撃 防御 フェイント 妨害 それをそれぞれの腕が同時に行う、腕が多いってのは単純ながらこの乱打戦において絶対的なアドバンテージを持つ

しかも

「がはぁっ…」

無駄な部分を削りに削ったデティールはペーの有り余るパワーを十全に発揮させる、さっきまでの巨大なゴーレムはただ動かすだけで相応のエネルギーを必要としたが

小さくまとまったこの姿は、その分のエネルギーをパワーとスピードに回せる、さっきまで存在した弱点が全てなくなる、いや そもそもこれ 死角がない!

「くそっ、…お腕六本も用意するとか卑怯じゃないか?」

「あれれ!?ラグナ腕二本しかないの!?足りない足りない足りないよぉ!アタシの相手したいなら同じくらい用意しないとぉ!」

ペーの両手が俺の両手を掴む、普通こうすればお互い出せる手がなくなり膠着状態に陥るが、今は違う 両手で俺の手を掴んでも、向こうにゃお釣りが四本もある

「やべっ…」

腕を掴まれた 捕まった、そう感じるよりも早いか …、残る四本の腕は容赦なく俺の体を打ち据える 滅多打ちのタコ殴りにする、先程よりも大幅に上がったパワーで スピードで 黒鉄の拳が振るわれる、掴まれてるから逃げようがない

サンドバック状態で打たれる 打たれる 打たれる、ド突き回される

「こはっ…」

死ぬ そんな気持ちさえ過る、薄れる意識 消えていく命の炎、明確な死がすぐそこに見える、このまま死ぬまで打たれ続けるのか…

…死ぬまで?、じゃあ永遠に打たれるな…だって俺、死ぬつもり 全然ねぇからな

「ヒャハハハハハハハ!手も足も出ねぇだろうぉぉおおうう?ラグ…ぐへっ!?」

「いやぁ…足は出るぜ」

笑い叫ぶペーの顔に 掴まれていない俺の足が突き刺さる…、ただ殴られ続けるなんざゴメンだね

「…ら…ぐ…な…テメェ、てめぇぇぇぇぃぃぃいぃぇぇぇぇぇえええ!!!!」

その一撃が逆鱗に触れたか 俺の腕を掴手に更に力が篭る、ペーの顔は真っ赤だ 髪は逆立ち本物の鬼のようだ

「人が気持ちよく 、気持ちよぉぉぉく殴ってる時にぃぃぃいいいい!!殺す殺すぅぁ!」

「それは最初から知って…ぐがぁっ!?」

六本の腕で俺の手を掴んだまま振り回す、地面に叩きつけ振り回して叩きつけ、それを何度も繰り返す 怒りのままに暴れ狂い、投げ飛ばす

と 共に

「『ゴーレムクラフト』!!」

ペーが足で地面に を叩くと同時に、投げ飛ばされ地面を転がる俺の周辺に何か現れる、ゴーレムか? いやこれ…

「極式爆裂岩石ダイダラぁ!」

現れたのは黒い鉄球のような何か、いや 確かダイダラ…って、メルクさんがあの舞踏会の場で見た、城一つ吹き飛ばすとかいう爆弾…

あれもこいつが作ったのかよ、というか…その城一つ吹き飛ばす爆弾が 俺の周辺にグルリと十数個転がる

これは流石に…!、血の気が引いて慌てて回避に移ろうと手を突き立てる 足を踏み縛る…が、ダメだ そこまでやって力が入らない、手が滑る 膝が笑う

ダメージが累積している、いくら強がっても体は正直だ…口には出さないが言っている、『もう無理だ、動けない』と、くそっ…こんな時に逆らいやがって 不孝モンが……




溢れる赤は熱、広がる白は破壊の象徴、爆音は地の果てまで届き黒煙は炸裂と共に天に昇る

メラメラと大地は燃え盛り、モウモウと黒色の砂煙辺り一面に立ち込める

一発あれば城を根本からひっくり返せる 三発あればこの街を囲む壁に穴を開けられる、十発ありゃ人間一人消し飛ばせる

「クヒヒヒヒヒ…流石に生きてねぇだろぉ?、やっっぱりアタシが一番んぅ~ん」

六つの腕で勝利のダブルバイセップス…否セプタプルバイセップスにて力を誇示するペー、勝った 勝っただろ これは勝った、本気を出してしまえばこの程度だ

ペーの実力はNo.17以降に与えられる特別な称号を持つ最強の五人『アリエ』とほぼ同格
つまり、そもそもペーはカストリア大陸 なんて限定しなくともアルカナ最強の人間の一人なんだ、如何に強くとも発展途上の弟子が敵う存在ではない

ラグナは向こうの最高戦力、とくりゃ 残りも高が知れる、サメフやヌン辺りは負けるかもしれないが この分じゃアインを倒すのは無理だな、魔獣を集めきったアインはペーでさえ手を焼くし、何よりアインが本気を出せばペーも勝てるか怪しい

つまり 私に負ける奴より弱い連中が勝てるわけがない

「さぁ~て、ラグナも殺したしぃ?もうここには興味ないなぁ~、でも魔獣があの学園潰すまでここにいろってアインに言われちゃったしぃ~めんどーだなー」

ペーの方がアインよりも強い、強いけどアインの言うことは聞かないといけない、アインは私のことを馬鹿にするけど側に置いてくれる、絶対にアタシを捨てない

他の人達はみんなアタシを爪弾きにしたけどアインだけはアタシを裏切らない、だからアタシもアインは裏切らない、だからアインがいうならやる…

「ああ、そうだぁ アタシがあの学園潰せばいいじゃあん、弟子もアタシが皆殺しにすりゃ全部解決サクッと終わるしぃ、ぎひひ アインだってアタシを褒めるはずだぁ~」

じゃあ殺しに行こう 、壊しに行こう この穴を塞ぐ奴は居なくなったわけだし、ここ離れても問題ないし、よし 行こう


「がぼがぁっ…」

刹那、吹き飛ぶ…歩き始めようとしたペーの体が後ろに逸れて、鼻血を垂らしながら大きく仰け反る

飛んできた、不意に石が ペーの顔面に向けて

「がぶっ…お前、おまえぇぇぇぇえええええええ!!!」

怒髪天を穿ちペーが叫ぶ、目の前の黒煙を 否…その中を歩む影を睨みつける

「ラグナ…お前、なんで生きてんだよ、どうやって!」

「ふぅー…ふぅーっ、言ったろ しぶといってよ」

血まみれになり手足は焦げ 死に体になりながらも、その顔は 未だ勝利を信じていた

……………………………………………………

『ああ?、オレ様の強さの秘訣ぅ?』

いつだか そんな事をアルクトゥルス師範に聞いたことがあったのを、ラグナは不意に思い出していた

師範は強い、人類が鍛えられる限界点を超え臨界点を踏み越え 遥かな高みにあるその強さ、正直この人の強さは俺の目標であり憧れだ

だから、ダメ元で聞いてみたことがある、すると師範は何を気をよくしたのかニヤニヤ笑い こう言った

『強さってのは 結局負けねぇことにある、つまり強さの秘訣ってのはどんな戦いでも勝てる必勝法ってなわけだ』

どんな戦いでも?なんて首を傾げだだろうな俺は、だって どんな戦いにも勝てるんなら勝ってる、それが出来ないから聞いてるのに

『まぁ聞け、勝負の趨勢…特に互角の相手や格上との戦いの趨勢で一番の鍵を握るのは物の捉え方だ、要は考えようだな』

指を一本立てる師範はこう続けた

『オレ様はいつも都合のいい方に考えている』

ああ、だからそんなわがままで無茶苦茶なんですね なんて言ったモンだから次の瞬間には殴られた 、ほら無茶苦茶

『いいこと言うから大人しく聞け、オレ様の言う都合のいい方ってのは 自分にとってじゃない、戦況にとってだ…』

後ろ手を組みながら師範は空を仰ぐ、かつて経験した壮絶な戦い 一度だって楽な戦いはなかった、何度も死にかけ何度も負けそうになり、その都度師範は考えていた

『戦いってのは都合のいい方に進んだ奴が勝つ、だから自分の都合押し付け合うために殴り合うわけだが、戦いってのはままならねぇ、どんだけ強くても都合よく進まないもんだ』

だからこそ人は戦うのだ、やってみなくちゃわからない要素が山とあるからこそ人は争うのだ、もし数値化された力だけで全てが決まってしまうなら人はそもそも拳を握ることさえしないだろう

 『だからな、どんな状況にあってもこう思うのさ 『これは負けてない、オレ様のシナリオ通りだ』ってな?』

いやそうはならないだろ、シナリオ通りって 負けてるのにか?

『だから負けてねぇって、殴られてるんじゃなくて殴らせてやってるんだ、ズタボロでもう力が出ないんじゃなくて無駄な力が入らなくなっただけだって、そう考えを巡らせてるうちに、案外何とかなるもんだぜ?』

少なくともそう考えてる間は諦める なんてクソみてぇな考え浮かんでこないはずだぜ? と不敵に笑う師範の顔を、俺は爆弾に囲まれた瞬間思い出した

こんな状況でも自分にとってこれは都合がいいって虚勢で乗り切れってか?、だが 師範の教えってのはこう言う瞬間においてなによりも太い心の支えになる

やる、やってやる!

(俺は今動けないんじゃなくて動かなくてもいい状態にあるんだ…なら!)

殆ど動かない体で目の前の爆弾達を一斉に撫でながら 叫ぶ

「『三重付与魔術・頑健属性三連付与!』」

爆弾の外殻を固めその爆風を弱め…

「天主天帝…武神光来、我が手の先に敵はあり 我が手の中に未来あり、武を以て守り 武を以て成す、我が五体よ 神を宿せ」

力は出ない、体力も切れる寸前 限界だ…限界だが、よく言うだろ?

限界は越えるためにある、限界なんて言葉は踏み越えるための通過点でしかない、そこを超え歩き続けた人間を俺は一人知っている、誰よりも尊敬できるその人が限界を超えて高みにいるから

俺もまた限界の先へと身を投げ出すのだ

「『二十八武天・釈提桓因神王鎧』!」

付与魔術をさらに強力なものに切り替える、別に今まで温存していたわけではない、ただリスクとリターンを考えた時 あれより強力な付与魔術に手を出す気にはなれなかっただけ

だがもう、リスクもリターンも関係ない、俺が求めるのは一つ

勝利 その二文字だけ


付与魔術で全身を硬化し爆発を防ぎ…、そして


「ラグナ…お前、なんで生きてんだよ、どうやって!」

「ふぅー…ふぅーっ、言ったろ しぶといってよ」

爆発を乗り切り俺は再びペーと相対する、全身は焼け焦げ 手足なんか酷い有様…付与魔術の恩恵で無理矢理体を動かしてる状態だ、付与魔術が切れたら俺はもう動けないだろう

この付与魔術だって、長くは持たない それまでの間に、俺は今度こそペーを倒す必要がある

だから

「やろうぜ、ペー…お前の言う一番ってやつを 決めよう」

歩み出す、ペーの目の前へ 六の腕を持つ漆黒の魔神に相対する、何か勝算が浮かんだわけじゃない、ただ漠然とあるのは一つ

殴り合って、勝つしかない…

ペーがもしここで俺が虫の息であることに気がついたら、また大量にゴーレムを出して逃げ回るかもしれない、そうなったらもう打つ手なしだ、ペーが俺の挑戦に乗って 殴打戦に応じてくれなければ、その時点で勝敗は決する

「また殴り合うのぉ?、懲りないねぇ…さっき まるで敵わなかったの、覚えてないの?」

「ああ、俺は記憶力が良くないんだ…、都合の悪いことは忘れた」

「じゃあ思い出させたげる」

六つの手が拳骨を握り、俺の前で構えを取る

ああそうだ、こいつは俺より強い 俺よりもずっと強い、けど…強さだけで勝敗が決まるわけじゃない と師範も言っていた

こいつより今強くなる必要はない こいつに勝てれば、それで…

ラグナが拳を握った瞬間、 一瞬だけ 世界に静寂が訪れる

荒野となった一面に砂埃が漂う風が吹く、一陣の風が

今、開戦の合図となり 火蓋を切り落とす 学園の未来 無辜の人々の命 ラグナとペー その勝敗を決する 大一番の……

「ぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」

「ヒャァァァァァアああああ!!!」

爆裂するが如く二人の間で衝撃が飛ぶ、連打 殴打 拳と拳、ラグナの鉄拳とペー鋼拳が幾度とぶつかる、ただ相手を最短で殴り倒す その思考だけがこの場には存在している

「ぐぅっ!!!!」

しかしラグナの拳は届かない、向こうは腕が六本、こちらには二本 向こうは攻撃も防御も出来る、そもそも対等な戦いではない そんなことわかっていた

けど

「まだまだ、打ってこい!」

「そのつもりだよぉぉぉぁぁあああ!!!」

俺はエリスじゃない、こういう時咄嗟のひらめきで相手の弱点を突くなんて真似は出来ない、俺はパワー馬鹿だ だから、馬鹿は馬鹿なりの戦い方しかできない

正面からぶつかり続ける、ただそれだけしか

「くっ…」

力が抜ける、殴られ叩かれ 体力がガラガラと崩れるように失われ身に纏う付与魔術も瓦解し始める、ここまで そんな考えも浮かぶ、が その都度否定する ここからだと

「ラグナぁぁ!、アンタ 何でそんなに戦えんだよ!アタシもうアンタのこと十回は殺してるはずなのに!」

いや 十五回は死んでるよ、けど死なない 死んでない、だから戦うんだ

だって他の仲間はまだ戦ってるから、俺が引くわけにはいかない

俺は、守る為に強くなったんだ!その為に戦ってんだ!、仲間を!何よりも大切な人達を!、その為なんだ!だから一歩も引けるかぁっ!!!!

「はぁ…はぁ!」

「早く死ねよもう!早く!早く!、でないと…!」

ペーの様子がおかしい、向こうが押しているのに焦っている、まるで何かを押さえ込むように俺に手を出している

向こうも必死なんだ、いや 向こうは…か

(冷えていく、頭が…こんなに滾るように戦ってるのに、恐ろしく平静だ、もしかしてもう死ぬ寸前なのか?俺は)

殴られ 殴り返すその殴打の豪雨の中ラグナは思う、冷静だ あんまりにも冷静だ、闘争に身を委ねいる時 ここまで冷静になったのは、まるで 広がる炎が 内へと収束するような感覚

内側に全てが集まり 内側から何かを開けようとしている…ああ、そうか  なんとなく分かったぞ

いやこの状況がじゃない、こんな時になんだが 全然関係ない話なんだ

…なんとなく、ベオセルク兄様の 家族を守ろうとする心が、ちょっとだけ 分かったき気がした


「開く…開いてしまうッ!?」

「はぁ、ペー…お前 さっきから何言ってんだよ」

拮抗した、今 初めてラグナの拳とペーの拳が 完全に拮抗し、ぶつかり合ったまま静止する

「お前は早く殺さないといけないんだ!でないと でないと!、壁を越える!お前は!」

「壁とか 開くとか、相変わらずわけわかんねー奴だな、けど 言っておく」

否 拮抗ではない、ラグナの手が押しているのに もう殆ど付与魔術の切れた体でペーの漆黒の拳を押している

「俺は死なない 殺されない 負けない 倒れない、俺の手には仲間の未来がかかってんだよ、仲間の未来背負ってるんだよ、仲間の信頼を受けて戦ってんだよ、それを守る為に戦ってんだよ!」

「仲間ぁ?この…くだらない…」

「かもな!お前にとっては!、けど悪い やっぱそれ 俺にとっては全てなんだわ!」

言葉にしてようやく定まる、戦う意味… それを再確認した瞬間、俺の体に滾る魔力が胸の内へと消え、そして

代わりに開ける、俺の胸の内あった 魂の奥底で閉じられた箱が 弾けるように、開く

「ぐぅぅっっ!?!?」

ペーの顔色が変わる、何故か? 悟ったからだ

…ラグナは、今この戦いの最中において強くなっていた、戦いの最中に強くなるなんてそんなお伽話みたいなことあるわけがない、実際は強くなっていたのではない、身を結んでいた

今まで真面目に積み重ねて来た鍛錬が バラバラだった修練が、今一つの芽を咲かせ、そしてペーはその芽に水を与えてしまったのだ

窮地と強敵、芽が育つには絶好の環境と水…それを受けラグナは今芽吹く、今 一つの烈火として

「あ…あぁ…、ぐぅぅぁあああああああ!!!」

ペーは叫ぶ 雄叫びをあげ目の前のラグナに向けて、六本の腕をフル稼働させ殴りつける

がしかし、効果がない…効いてないんじゃない、当たらなくなった 急に、全て避けられるようになった

未だ瀕死の体でありながらラグナはよろけるようにフラフラとペーの拳撃を避けていく、まるで陽炎…否 炎そのものだ、そこに見えるのに そこで鮮烈なまでに輝いているのに触れられない

そして手を伸ばせば炎は

「ぎゃぶっ!?」

激烈な熱で答える、拳撃の間を縫って ラグナの拳がペーの顔面を射抜いたのだ、さっきまで死にかけていたのに 今まで受けたどの拳よりも痛く 重い、ありえない 死にかけた人間が急に元気になるなんて、そんなバカな話…

「ペー…、感謝する」

「ああ?…」

「俺、また強くなれたよ、お前のおかげで」

ラグナの体から吹き出るのは、まるで熱無き炎、暁の如きそれが揺らめくように彼の体が溢れている、ペーはこれを見たことがある 感じたことがある 受けたことがある

だからこそ恐れていた、コイツがその領域に足を踏み入れるのを…

(魔力覚醒…!、シンやタヴ…アリエ達と同じ…!)

魔力覚醒、究極の高みに登った人間だけがたどり着ける領域 、ペーがアルカナ最強の五人アリエ達と同格と言われ尚 彼女がアリエに数えらない理由

ペーでは 踏み込めなかった限界の先、そこに ラグナは先に足を踏み入れたんだ

今生んでしまった、ペーの手で アルカナの…マレフィカルムにとっての、最強の敵を!

「ぐぅぉぁあああああああ!!!吐かせぇぇぇぇええええ!!!殺す殺す殺す殺す殺す!!」

叫ぶように暴れるようにペーは拳を振るう、今までの人生にない程に彼女は全力で目の前の存在を消し去ろうと戦っている、のに 

(届かない!!)

ペーの拳をヒラリとその場で躱すラグナは赤い軌道を食うに残しながらその場でステップを踏む

「お前は確かに強い!、正直言うと俺が今まで戦った敵の中で一番って言ってもいい!」

ラグナの豪炎の如き拳がペーの腕を一本 叩き砕く、ペーの出せる最高硬度で固めた腕が、最高傑作が 初めてラグナの拳で砕かれた

「お前の弱点を探り 油断に漬け込み、それでやっと対等に渡り合える程だ、確かに お前は一番強い!」

「ぐぁぁあああああ!!!うるせぇぇぇええええ!!!」

砕けた腕を捨てる、ラグナの顔面に自暴自棄に拳を放つ そのうるさい口を黙らせて永遠に息できないまでボコボコにしてやると 腕を放てば

「…え?」

当たった、ラグナに拳が 顔面に拳が当たって、ははははは!そりゃそうだ!もう死にかけなんだ!動くのもやっとだったんだ!、急に強くなったように見えただけ 実際は強くなんてなってない!

何が守るだ何が仲間のためだ、聞き触りのいい言葉ばっかり並べやがって!、啖呵切って勝てりゃわけないんだ!


「ああ、確かに強いさ…だがな」

「なっ!?」

拳の向こうでラグナが呟く、拳を受けてなお立ち続けるラグナは言う、ペーの拳を押し退かし 額から滴る血をそのまま 鬼神の如き目でラグナは睨み

「突きのやり方がなってねぇ」

「ひっ!?」

初めて 恐怖した、死にかけのこの男にペーは恐怖した、恐ろしく思い後退りもした、それ程にラグナの威圧に気圧された、今ペーは ラグナを前に一歩引いたんだ

「ぐっ、ぅぐぅうううう!!」

ペーは内心叫び散らす、こんなんじゃダメだ もっとパワーがいる もっともっともっともっともっともっと凄い凄い凄い凄いパワーが!力が!あの領域にラグナが立ち入ったならアタシもそこへ行く!

「『ゴーレムクラフト』ォォォオオオ!!!」

腕を集める、右手に残った腕を重ねて更に腕を作り 右腕に貼り付ける、作り上げるのは大いなる腕 神の腕、ペーの芸術性と持てる力全てを結集した強さの具現

「巨巌修羅王鬼神腕…!」

右腕に全てを結集し、ただ叩きつける これ以上はない これ以上の力はない これ以上の破壊力はない、一番のアタシが出せる一番の力、これは避けられまい これは受け止められまい これは死んだ 勝った 超えた!

心の内で笑うペーは巨大な腕を振りかぶる、だが 気づいていない…彼女は今ラグナよりも先に底を見せた

「それがお前の底だな…!」

対するラグナは巨腕を前に静かに構える、体の内から吹き出る異様なまでの力に突き動かされながら 静かに静かに腰だめに拳を構える

ここが俺の大一番、超えられるかどうかが要…こう言うとき 師範なら言うだろう、小難しい事は後にして 取り敢えず一番の大技ぶつけてみろって

なんで力が湧いてきたかなんで俺は立ててるのか、なんでどうして 疑問は後だ、少なくとも分かるのは 今のこの状態ならば…行ける、師範より授かった 秘奥!

「はぁ…すぅ、第一の奥義」

アルクトゥルス師範が使う武術は今は亡き古式武術『無縫化身流拳術』と呼ばれる武術らしい、故に当然俺が師範より授かった技は全てこの化身流拳術に入るわけだが

その無縫化身流には十大奥義と呼ばれる奥義が存在するらしい、あの師範が締めに用いる程の決め技、あのシリウスにさえ手傷を負わせたと言われる大技

…今まで俺がいくら努力してもこの十大奥義 その第一奥義さえ取得出来なかった…と言うか今も出来てない、けど 今なら行ける 根拠はない 、だが今出来なければ一体いつ出来るようになるんだ

左手を静かに前へ出す、成るは風 模倣するは大風 巻き起こすは風天…、十大奥義 その第一の奥義、師範の言う武の究極段階、殴らずして殴る

「死ねぇっ!死んで!アタシにその場所を!一番を!返せぇぇぇぇええええ!!!」

迫る岩拳、それを前に左手を引き代わりに右腕を前へ 拳を前へ、俺の出せる全てをそこに!

第一奥義 名を

「風天 終壊烈神拳」

それは所謂拳風、手を振るえば風が出る それはみんなそうだと思う、が これはその究極形

放たれる拳の風圧で全てを吹き飛ばし叩き砕く、触らずして相手を殴り飛ばす、正直デタラメな技だと思う、けど 師範はこれが出来る、なら その弟子である 争乱の魔女の弟子である俺もまた…!!

「ぃぇぐぉっ!?」

ペーの拳が ラグナの手を前にし止まった、ぶつかるよりも前に まるで壁に…いやもっと強固で巨大で絶対的な何かに阻まれたように止まる、いや止まってるんじゃない これは

(押し…返されてる!?!?)

渾身の打撃を放ってなお拳を止められ押し返されるペー、なんとか なんとかラグナに一撃をと全霊で踏み込むが

「ぅ…ああぁああぁあぁぁぁぁああああ!!!」

ダメ、押し返せない ペーの叫びは虚しく木霊して最高傑作と思われた巨大な腕がみるみるうちに壊れていく、ラグナの拳に触れてもないのに 殴られてないのに殴られた!?

「あぁっ!?」

そしてついに、壊れた ペーの最大の作品が ゴーレムが叩き割られ跡形もなく壊れ、ペーの無防備な生身の体が露わになる

「アタシの…一番が…!」

「ペー!!」

「っっ!?!?」

腕を崩され呆然とするペーの目の前にラグナが現れる、拳を握り 構えてこちらを見るラグナの顔が見える、もう打つ手がない もう出来ることがない 何をしてもラグナを倒せない!、アタシはもう 一番じゃ…!!

「悪いな、一番 もらってくぜ?」

「らぐ…らぐな…ラグナぁぁぁぁああああ!!!!!」

交差する二人の拳、いや ペーの手より先にラグナの拳が今、ペーを捉え その全てを、打ち砕く


「がぼがぁっ!?!?」

血を吹き 吹き飛び白目を剥くペーはラグナの手によって殴り飛ばされ、遥か後方に存在する壁の穴、その上方へ激突し壁を砕く

打ち砕かれた壁はガラガラと崩れ 穴を瓦礫で塞ぐ、ペーの体と共に

「あた…た…し…は…、いち…いちば…ん……」

瓦礫の中に下半身が埋まり ぐったりとした体を上に投げ出したペーはがっくりと倒れる

今、カストリア大陸最強のアルカナは 打ち倒された

「よし…よしっ!、よっっしゃぁぁあああ!!!」

青空の下 勝利の雄叫びをあげながら背後に倒れる男に、最強の魔女の弟子によって


ペーは倒した!壁も塞いだ!、きっとメルクさんやデティもきっと勝ってる!、だが魔獣の動きが収まらない所を見るに まだアインは健在だ

…あとはエリス、お前が決めろ…お前なら勝てる、勝てるさ!

体から吹き出る力が収まり 彼を包む炎の如き揺らめきは消え、意識も薄くなる…、後はエリスに託す、彼女ならきっと やってくれるから………
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