孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

164.対決エリスVS悪魔のアイン

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ヴィスペルティリオ東側、この魔女の弟子対大いなるアルカナ達の決戦、全ての行方を託された戦いの舞台

残された最後の穴 一際大量に魔獣犇く空間に、ただ一人の王は憂げに魔獣の頭の上でため息を吐く

「…穴から入ってくる魔獣の量が増えた、まさか 他の穴が閉じられた?サメフやヌン…ペーまでもが敗れたのか」

魔獣達の王の名はアイン、悪魔のアインは開けた穴の側に待機させていた同志達の不甲斐なさに舌打ちをする、見立てでは勝てる予定だったと

やはり人間は信用ならない、その場その場によって発揮するコンディションに差があり過ぎる、絶対強者が時として弱く落ちぶれる瞬間があり 底辺の弱者が巨大な魔獣の首元に迫る事もある

いや、そういう意味では魔獣も同じか、下手に知能を持つと生物とは油断する、こんなことならヌンやサメフの思考も脳ごと奪っておくのだった、ペーは…アイツ脳みそなさそうだしな

「朗報だ、君の仲間は上手く穴を閉じたようだよ」

アインは魔獣の頭の上から眼下の敵を見下ろす、魔獣だらけのこの空間の中 唯一の敵 唯一の人間を

「当然です、エリスの友達ですから」

満身創痍、そんな言葉しか出てこないほどにズタボロになりながらも頬を伝う血を汗と共に拭うエリスはニタリと笑う、未だに希望を捨てないか

ここまでアインに一つとして手傷を与えられずただただ闇雲に消耗したというのに

「分からないな、何故笑うんだい?君が窮地であることは変わらないだろう?、それとも仲間の救援を待っているのかい?」

「いいえそんなんじゃありません、ただ 仲間が無事勝利した それが嬉しいんです」

仲間が無事ね…、ククク 思わず笑みがこぼれてしまう

「クク…アハハハハ、無事?無事ねぇ…もうすぐこの学園の迎撃システムは僕の手によって破壊される、もう穴を塞いでも間に合わない、なんとかするには魔獣の指揮をとる僕を倒すしかない、と言うのにこの段階に至って君は僕に指の一本さえ触れていない…分かるかな、その意味が」

「………………っ」

「無事で居られるのも今だけさ、どうせ あの学園と共にみんな蹂躙される定めにある、みんな死ぬんだよ みんなね、僕の魔獣よって」

「させるわけがないでしょうが、その為にエリスはここに来たんですから!」

「やれやれ、そうかい」

魔獣の頭の上を歩けば 別の魔獣が更に頭を寄せアインの足場になる、まるで悠々と空中を散歩するように魔獣の上を歩きながらアインは宣う

「威勢がいいのは結構だけど、今君は勝ち負け以前に生きるか死ぬか 瀬戸際にいることを忘れてはいけないよ、…というかもう 死んでくれ」

「死にませんし負けません、まだまだ これからです」

ズラリと巨大な魔獣達が頭を並べる状況の中 強かにも立ち拳を握るエリス、学園の行く末を決定づける最後の戦いの幕が切って落とされる

……………………………………………………

右を見ても左を見ても魔獣魔獣魔獣、まるで獣の世界に迷い込んだような地獄絵図、しかもそいつらが全て牙を剥き爪を立てこちらに襲いかかってくるのだから手に負えない

エリスは今 ヴィスペルティリオ東側の穴を塞ぐ為、学園にいるこの街の人たちを救う為、悪魔のアインとの決戦を迎えていた

アイン…アレクセイを名乗っていた彼との戦いは既に20分の長期戦となっている

奴の戦い方は非常に厄介だった、徹底して回避に専念しながら攻撃を魔獣に任せる戦法、アインはひたすら魔獣の頭の上を移動して回り その隙に数十体の魔獣を特攻させる、いくら魔獣を倒してもすぐに追加が入る

まるで水を殴りつけているようだ、水を殴って飛ばしてもすぐに塞がりまた元どおり、そんな光景をもう20分近く眺めている

せめての救いはアイン自身にはそれほどの攻撃力がないのか 全く手を出してこないことだ、まぁ 攻めて来ないから近寄っても来ないし ずっとエリスの手の届かないところにいるんですけどね

故に千日手、逃げ回るアレクセイを前にエリスは削られるように身を傷つけていった

「『旋風圏跳』!」

森のようにズラリと並ぶ魔獣達の足の下をくぐりながらアレクセイを追う、奴は今虫型の魔獣の上に乗り魔獣達に指揮を与えているんだ、なんとか打撃を与えたいが…撃ち墜とそうにもアインの周辺にも鳥型や虫型など数多くの魔獣が飛んでいる

それに

「ギガントボア、下だよ」

「ブモォオオオオオオオオ!!!」

そうアインが呟けば 山のように巨大なイノシシ型の魔獣 ギガントボアが大地を振り荒らしながら地を這うエリス目掛け突っ込んでくる、恐ろしいことに他の魔獣も轢き殺されるのを覚悟でエリスの道を阻むのだ

「チッ…大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ、荒れ狂う怒号 叫び上げる風切 、その暴威を 代弁する事を ここに誓わん『颶神風刻大槍』」

蛇型の魔獣やゴブリンなどがエリスに組みつきギガントボアの餌食にしようと動く中、放つは竜巻 大いなる風を己中心に吹き荒らし全て吹き飛ばす、低ランクの魔獣程度ならこれで潰せる…そして

「焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』!!!」

邪魔する者がいなくなった瞬間を見計らいギガントボアを正面に捉え、火雷招を放つ
手加減をする余裕はない、全霊で一撃 熱雷を放ちギガントボアの頭へ目掛け…

「ボギャァッ!?」

火雷招はギガントボアに着弾すると共に弾け 熱と雷 炎と電を周囲に解き放ちながら辺り一帯の魔獣ごとそれらを消し去る、魔獣を倒すだけなら倒せるが…ほら見てみろ あんなに消し飛ばしたのにすぐ穴から補充がやってきて直ぐに元どおり

一応穴は塞いでみようと試みはしたが、やはりというかなんというか 穴を塞ごうとするとアインが全力で止めに入るのだ、先にこちらの相手をしろとね…やり辛い

「相変わらず恐ろしいね、君一人で一国の軍くらいなら滅ぼせる、それだけの火力をこんな少女に与えるんだから魔女は恐ろしいよね」

「師匠は同時に力の使い方も教えてくれました、無闇に人を殺す 貴方に言われたくありません」

「君だって無闇に魔獣を殺してるじゃないか、同じだろ…それとも魔獣は君の慈悲の対象外かな?」

「ええ、そうです」

最初は魔獣を殺すことに抵抗はあった、魔獣だって生き物だ その命を奪うのは少し気が引けたし、最初は少なからずショックを受けた

けど、それも昔の話 今はもうそんなこと言わない、だって 魔獣は人を殺す、悪人に更生の余地はあるが魔獣にはない、殺すしかないんだ 殺されない…殺させないためには

「というかアインさん、貴方は何故そうも魔獣の側の肩を持つのですか、貴方も人でしょう」

「君はさぁ、ほんと …一度自分で信じた物を疑うことを知らないよねぇ!」

アインが手を払う、それを合図に魔獣が一斉に蠢き エリス一人を取り囲む、どいつもこいつもアインの言いなり…いや アインに完全に支配されている

まずこいつらをどうにかしない限りアインに対して何かを仕掛けるのは無理だ、…ならどうするか

考える、先程からフル稼働させている極限集中を以ってして何か逆転の一手はないか考える、というか考えている

「ブルギャァァァアアア!!!」

「ゴシャアアアアア!!!」

「ええい、やかましい!」

吠える魔獣 走り出す魔獣、こちらに向けて牙を向け突っ込んでくる魑魅魍魎を前にエリスもまた戦闘態勢を取る

風を手足に纏わせる疾風韋駄天の型を使い、速度を底上げしながら大きく そして小刻みにステップを踏み…

「グルルァァアアア!!」

「せいやっ!!」

牙を剣のように煌めかせながら噛みつきにかかるアークウルフの一撃を上体反らしで避けると共に、その拳を振り上げ顎に一撃を加え脳天をかち割る

まだ来る、まだまだ来る、そろそろ魔力の温存も考えていかないいけないくらい消耗してるんだが…!

「ギギギギギィィ!!」

「ズシャァァアアアア!」

巨大な虫型の魔獣 マーブルスコロペンドラ、空を泳ぐ怪魚 ブルベリアラージャ、どいつもこいつもCランクやBランクの大物ばかり、こいつら相手に節約している暇がない、わらわらいるからって 決して弱いわけじゃないんだ

マーブルスコロペンドラの鋏のような口を掴み風の勢いのまま振り回してブルベリアラージャを叩き落とす、それと共に掴みかかってきたゴブリンを蹴り砕き 突っ込んでくるチャリオットファラリスの角を掴み へし折りながら魔獣の群れへと投げ飛ばす

「意味を持ち形を現し影を這い意義を為せ『蛇鞭戒鎖』!」

作り出すは魔力の縄、絶対に千切れず エリスの意思で伸び縮みする縄を作り出し…もう一つ、魔術を頭の中で 記憶を頼りに組み立てる

(『黒雷招』!)

合わせる、二つの魔術を同時に再現し 二つを一つに…合体魔術を用いる

作り出された縄は漆黒の雷を纏う…雷の鞭だ、名付けるならば

「名付けるならば!『黒嵐烈雷鞭』!です!」

振るう、魔力によって作られた縄は電撃を纏い エリスの意思で無限に伸び周囲の魔獣の頭を 足を吹き飛ばす、鞭は絶対に切れる事なくエリスの意思のまま敵を撃滅し 漆黒の雷は鞭に破壊力を与える

一度振るえば突っ込んでくる魔獣を吹き飛ばし 二度振るえば待機している魔獣さえも叩き 三度振るえばと…、魔獣の群れを相手に立ち回るエリスの頭上に声が響く

「やり方を考えなよ!、相手は一人だろ?どれだけ死んでもいいから 仕留めることを考えろ」

アインの声だ、無慈悲な指揮官の声に魔獣は従い どれだけ被害を出しても良い方法へ切り替える

どんな方法か?決まっている、肉盾だ

「プシャァァァアアア!!!」

体の大きな魔獣を前に出し、それを他の魔獣で押しながらジリジリとこちらに迫ってくる、エリッソ山で見せた戦術、やはりあれは裏でアインが指揮をしてたんだ

「くっ!…」

肉の盾は優秀だ、鞭は相手を攻撃することには向いているが、盾が出ると途端に無力だ、前面に押し出されている魔獣を殺すことはできるが、盾を排除することが出来ない、ダメ元で鞭で弾き飛ばそうとするが…ダメだな そこまでのパワーは出ない

どうする、このままでは圧殺される…けど、この肉盾戦法の打開策は未だに練れていない

どうする…どうする…どうすればいい

壁、盾、超えられない、防御、…突破…、…っ!そうだ いいこと思いついてしまった!

「すぅー…水界写す閑雅たる水面鏡に、我が意によって降り注ぐ驟雨の如く眼前を打ち立て流麗なる怒濤の力を指し示す『水旋狂濤白浪』」

鞭をしまい、続けざまに作り出すのは水大量の水、津波とも言っていいほどの大瀑布をエリスを中心に生み出す

水、それ自体には破壊力はあれど攻撃力自体はあまり高くない、水をこのままぶつけても効果は薄い、けど…

「ほほう、水で魔獣を押し流すかい…けど そんなことしても問題の先送りにしかならないと思うけれどね」

流す、洗い流す 目の前で盾を使う魔獣達を一気にまとめて水で流す、肉盾を押し出す魔獣達もとめどなく溢れる水に体を押され 足をすくわれ次々と波に飲まれていく

こうすれば水は目の前の魔獣を排除してくれる、けど 結局同じこと、どれだけ流しても魔獣は生きている限り再び戻ってきてエリスを再び囲む、アインの言う通り問題の先送りになる

けどな、あんまりエリスの閃きを甘く見ない方がいいですよ

「水よ!意のままに!」

この水も元を正せばエリスの魔力、ある程度の自由は効く、ここら一帯に蔓延る魔獣全てを水で使え、一点に押し流す…何処に?、そりゃ一つしかないだろ

「水で魔獣を集めて…まさか!」

そのまさかですよ、魔獣を集めた水は一箇所に集う、穴だ 魔獣達の入ってくる大穴、そこに向けて、 水は殺到する…

塵の沢山の浮かんだバケツの底に 穴を開けたらどうなるか?、言わなくても分かる、魔獣達は水に流され次々と穴へと放り込まれる、入ってこようとする魔獣と穴に流される魔獣で渋滞が起こり、いつしか穴は魔獣達によって堰き止められ完全に埋まってしまう

ほんでもって!

「我が吐息は凍露齎し、輝ける氷礫は命すらも凍み氷る『氷々白息』」

ふぅーっと息を吐きかける、氷の息 絶対零度の吐息を、水で濡れた魔獣の体はたちまちのうちに氷、穴には氷漬けの魔獣の壁が生まれ、塞がった

周囲の魔獣も相当出来て おまけに穴も塞げる、一石二鳥の最高の策!あっはっはっ!笑いが止まらん

「アイン?、これで 残すはあなただけになりましたよ」

「………………」

残すところ とは、幹部で と言う意味でも この場における敵 と言う意味でも、解決しなければいけない問題 と言う意味でも、どの意味でとってもらっても構わない

どの道、後はアインを片付けるだけだ

「…はぁ、まさかねぇ 魔獣で穴を塞ぐとは」

地上の魔獣は粗方片付けた、そりゃ自ら逃れたのはいるが さっきの大軍勢に比べりゃ可愛いもんだ、他の穴から入ってきた魔獣はいるにはいるだろうが…ここに駆けつけるまでには時間がかかる

アインは今、魔獣という名の剣も盾も失った、丸腰の丸裸

「聞くには聞いていたけれど、君 土壇場に強いんだね…」

「はい、エリスの戦いはいつもギリギリです、そして そのギリギリを乗り越えて 今ここにいるんです、瀬戸際だろうがなんだろうが 軽く踏み越えて貴方を倒しますよ」

「倒すねぇ、並べてた雑魚消したくらいでいい気になって…本当に人という生き物は愚かしい」

「だから…貴方も人でしょう!!」

飛び立つ、旋風圏跳を纏い 空高く跳ぶ魔獣の背に乗るアイン目掛け一直線に飛び立つ、後はアインだけだ!あいつを叩き落として魔獣の指揮を奪って!それで終わらせる!

「させないよ、レッドリザード!アーミーホーネット!彼女を八つ裂きにしろ!」

「ブブブブブブ!」

「グゴゴゴゴゴ!」

空を飛ぶ赤竜とその側を舞う巨大な蜂達はアインの指揮を受けようやく攻撃姿勢をとる、が こんなもん!さっきまでに比べりゃいないも同然だ!

「どいてください!邪魔です!」

針を突き出し突っ込んでくる巨蜂の攻撃を避け、足場にするように蹴り抜きながら進む、矢の雨の如く降り注ぐ蜂達の波状攻撃、その中を進む 進む 進んで進んで進み尽くし…

「グゴァァァァアアア!!!」

その瞬間放たれる火炎、翼を生やし頭の上にアインを乗せた巨竜は大きく それこそ口が縦に割れるほどに開き 喉奥から燃え盛る業火を放つ、初めから蜂達の攻撃など陽動に過ぎない、本命はこちら

街一つ焼き尽くす竜の吐息、受ければ死 間違いない…だから

「(複合魔術…『二連 旋風圏跳』!)

合体魔術の要領で旋風圏跳を重ねがけし急加速と共に火炎を避ける、竜の口は大きく 放たれる火炎もまた広大、されど炎を吐いている間は竜の動きも鈍くなる…見てからの回避など余裕だ

「はぁっ!!!」

大きく迂回し助走をつけると共に側面から竜の顎を蹴り抜く、いくら魔獣とはいえ生き物としての急所は同じ、顎に一撃もらえば意識が混濁することに変わりはなく、ぐらりと竜の瞳が揺れ 口から放たれる炎が途切れる

「振るうは神の一薙ぎ、阻む物須らく打ち倒し滅ぼし、大地にその号を轟かせん、『薙倶太刀陣風・神千切』!!」

意識が揺れ 動きの鈍くなった竜の首に一閃、風の斬撃が飛ぶ

「ぐ…ご…」

竜の鱗は硬く 肉も硬く 当然首も硬い、されど風を一点に集め魔力を高め放たれるその一筋の鎌鼬は容易に首を切り裂き、ゴロリと巨大な頭蓋が胴体を離れ 空を飛ぶ竜の体は力を失い徐々に落下を始める

が、逃さない!ここまできたら逃さない!、竜の頭の上で未だ立つアインを 追う

「アインッッッ!!!」

「くっ、…まさかここまでやるとは…!」

自由落下する竜の首に旋風圏跳の加速で追いつき、追い縋り 頭の上でこちらを見る無防備なアインの顔に向け 己の全てを込めて 乗せて…拳を握る

「バーバラさんを!エリスの友達を傷つけた報いを!今!晴らします!」

落下と体重と速度と力と積年の恨み 全てを乗せた拳が今 アインの頬をぶち抜き…

「ぐぅっ!?」

殴り抜いた、アインの体に 初めてエリスの手が触れ 攻撃が当たる、トップスピードの乗った旋風圏跳での一撃、それはアインの体を吹き飛ばし 竜の頭蓋よりも早く地面へと叩きつける 陥没させる

当たった!アインに攻撃が!、そして 決めた…ギリギリのところで!

「っと!」

そして竜の頭蓋が砂埃を上げて地面に落下する頃、エリスもまた地面へと着地する…、穴は塞ぎ アインは倒した、これで全て終わりだ…終わり…

「アイン、…いえ アレクセイさん、貴方の事 少なくともエリスは、友達だと思ってましたよ」

砂埃をあげ陥没した地面にめり込むアインに歩み寄り、その姿を見下ろす…見下ろ…

「えっっ!!??」

思わず口元を手で覆ってしまう、倒れるアインの姿を見た驚きでだ 

だって、倒れるアインの アレクセイさんの頭が、ありえない方向に曲がっていた…首が折れて血を吐いて…死んでいた

「ぁ……う」

やり過ぎたか、如何に敵とはいえ…エリスは人を殺してしまった、そんな現実が急激にエリスを冷静にする、怒りのままに叩きつけた一撃 確かに相当な威力があった

けど、ヘットもコフもあのレベルの攻撃を食らっても生きていた…いや、普通に考えてみたらあんな攻撃食らったら人は普通に死ぬ、あの二人以上の実力者と思い つい本気でやってしまったが…

…殺してしまったのか…、かつて友だと信じてきた男の無残な死体を見て、唇を噛む

これをエリスがやった…、怒りのまま暴走することを恐れていたエリスが 今度は正気のまま人を怒りのまま殺してしまった、今 超えてはいけない一線を超えた気がして…

…敵を倒したのに、どうしようもない後悔が…

「後悔しているね?エリス」

「ッッッ!?」

声がした、この場にエリス以外の人間はいないはずなのに 声がした、男の声が…エリスの下から、アインの口から

見れば 首が折れ血を吐き倒れ、死んだはずのアインの目が こちらを見て、ニヤリと笑っている

「生きて…るんですか?」

「いや、アレクセイは既に死んでいる…ああ勘違いしないでくれよ、君が殺すよりも以前から …そうさな 十年くらい前から死んでいた」

「なに…言ってるんですか」

アインは折れた首をゴキリと元に戻しながら何事もなかったかのように立ち上がる、痛がる素振りもなければ 死んでいる様子もない、おまけにアレクセイは死んでいたと しかも十年も前から死んでいたと言うのだ

どういう事なんだ…じゃあ一体

「一体貴方は何者なんですか」

「言ったろ、アイン…悪魔のアイン、いや?僕の本名の話か…うーん、まぁいいか 僕に一撃入れたご褒美に色々話してあげよう、せっかくの対面だからね」

そういうと折れて歪んだ体を無理やり治しながらアインはゆっくり陥没した地面から這い出て、こう語る

「アレクセイはカストリア大陸の南東にある小国、その海沿いに面する小さな村の出身だったんだ、親にも友にも恵まれた優しいいい子でね、ただ ちょっと好奇心が強いのがアレだったけど、それでも慎ましやかに生きていた」

なんの話をしているんだと思わず口を挟みそうになったが、出来なかった…アインの語り口は異様で、引き込まれるというより…引きずりこまれる

「ただアレクセイが15歳になったある日、事件は起こる というより起こしてしまう、海沿いでこんな小さな結晶を拾ったんだ 、不思議な結晶でさ 何かの宝石かと思って村に持ち帰ったんだ、持ち前の好奇心からくる行動だね…でもさ、それが良くなかった」

アレクセイさんの村は昔滅びたと、以前その口から聞かされたが…まさか、その時の話か?

「村に持ち帰ったのはコアだったんだ、とある魔獣の千四百あるコアのうちの一つ それがたまたま海に流れ着いて 偶々アレクセイが拾って持ち帰った、そして…当然ながらその魔獣がコアを取り戻しに村にやってきたんだ…」

「まさか…その村って」

「ああ、滅びたって村さ、十年も前にね…まぁそれはいい、ただやってきた魔獣ってのがこれまた悪いやつでさ?、人間のことがとにかく嫌いだったんだ、みんな死ねばいいと思ってるくらい残酷なやつだったからさ 殺したんだよね、現れるなりいきなり村ごと飲み込んでソコソコの規模の村を一つあっという間にこの世から消した 村人ごとさ」

「村が丸々一つ 消えたんですか?、そりゃあ…」

流石に規模がデカすぎる、Aランクの魔獣なら小さな村くらいなら崩壊させられる、だが一瞬で消し去るなんて真似出来る筈がない、…魔獣達の最高ランクのAランクでさえ不可能、なら それを可能とする魔獣は少なくとも Aランクより上…

「一番可哀想なのはアレクセイだよね、いや ある意味幸せかな?自分のせいで僕を引き寄せたとも知らずに逝けたんだから…、僕も感謝しているよ アレクセイには、丁度人の体が欲しかったところだしね」

「もしかして…、いや もう明らかですね、貴方がのその村を襲った魔獣ですか?、でも…貴方どこからどう見ても人間ですよ、魔獣にはどうやっても見えません」

こいつが魔獣なのは明らかだが、見てくれは完璧に人間だ、ここまで完璧に人間を模倣する種は存在しない、していたら人間はもっと甚大な被害を受けているから

しかもこの口調、どう考えても人間か…あるいは一般的なそれを凌駕する知能を持っている、そんな魔獣がいるか?居るはずがない 居て欲しくない…

が、アインは無情にも答える、エリスが頭の片隅に浮かべ すぐに否定したその答えと寸分違わぬ答えを

「おや、存外見る目がないんだね…なら こうすればちょっとは魔獣らしく見えるかな」

べぇ とアインは舌を大きく外に出す、すると大きく開かれた口から現れるのは…

ドロリとした無色透明な液体…否 あれは、スライムだ しかもいつぞや見た物、これ …これは!二年前ヨッドの体の中から現れたスライム…、もしかして!こいつ!

「やぁ、こうして顔をつき合わせるとやはり照れるね」

口からスライムを伸ばすアインはがくりと項垂れ白眼を剥き 死んだように動かなくなり、代わりに中から出てきたスライムが喋り出す、アインと同じ口調 同じ声 同じ気配で…

違う!こいつだ!このスライムこそがアインなんだ!アレクセイとアインは別なんだ!、アレクセイはあくまでアインの外殻、その中にいるこいつこそが

悪魔のアイン!そのもの!、アインの正体が あのスライムなんだ!!

「では 改めて挨拶しよう、大いなるアルカナ No.15 悪魔のアイン、そして その本来の名を…」

スライムは喋る、村一つ飲み込む強大な力 人と同程度かそれ以上の知能、そして魔獣を意のままに操る力、ヒントは出揃った もう明らかだ、こいつは…

こいつの名を!エリスは知っている!、最悪の魔獣として 記憶している!

「本来の名をアクロマティック、変幻無遍のアクロマティック…授業で僕の名前聞いたろ?」

アクロマティック…確かに聞いた、それは魔獣の名 それもただの魔獣ではない

討伐どころか触れることも 調べることも禁忌とされる世界最強の五体の魔獣、五大魔獣の一角、正体不明の巨大スライムと伝わる 最悪の獣、魔獣達にとっての魔女とさえ言われる絶対存在

それが アクロマティック…、それが アイン 悪魔のアインの正体

「なっ…アクロマティック…って、貴方 でも…実在すら不確かで」

「人間にとって不確かなだけ、僕は確かにここにいる…僕達魔獣の始祖 魔獣王タマオノが死の間際残した五匹の獣、魔獣王亡き後の世を任された五匹の皇子 それが僕さ」

いや…流石に大物過ぎる、だって魔獣王は八千年前師匠達が直々に打ち倒したとさえ言われる存在、その直系たる五匹の魔獣のうちの一体なんて、エリスにどうこう出来るわけがない

けど、合点がいった、魔獣達がああも大人しく従っていたのは魔術による力ではない、こいつが アクロマティックが魔獣達にとって 王の息子、皇子だからだ 

ただそれだけでアクロマティック…アインは魔獣に対する絶対的な命令権を持つんだ

「な なんで…、なんで魔獣がマレフィカルムに 大いなるアルカナに属してるんですか!、貴方達人間の敵じゃないんですか!?」

「うん、まぁ敵だよ?アルカナに属してるっていってもアルカナは僕の味方じゃないし僕もアルカナの味方じゃない、ただ共通の敵を持ってるから共闘しているのさ」

「共通の敵?…」

「僕達魔獣だってね、親の仇を討ちたいと思うんだよ?」

するとアクロマティックは…アインはゴクリとアレクセイの体の中に戻り、その瞳に再び色が灯る、本当にアレクセイの体は入れ物でしかないのか…

つまり、外側のアレクセイにどれだけダメージを与えても 意味がないってことか…


「魔女を殺すつもりですか」

「ああ、魔女を殺せば …役目を果たした皇子は魔獣王の後継者となり、新生魔獣王となり 再びシリウス様にお仕えすることが出来るのさ」

「えっ!?ちょっ!!なんでそこでシリウスの名前が出てくるんですか!?」

「もう知ってるくせに、僕達魔獣がなんなのか…何の為に存在するか…さぁ?」

するとアインはゆっくりと ゆったりと、緩慢な動作で指を一本立ててこちらに向ける、エリスに指を指している?違う、これは

……攻撃!?

「っっ!?!?」

ぶわりと湧く冷や汗に突き動かされるままに、咄嗟の判断を信じエリスは後ろへ仰け反る、手が背後の地面につくほど深く ブリッジの姿勢を取りアインの指の射線上から体を退かす

その瞬間

「ほう、いい判断だ…」

エリスの鼻の上を何かが掠めた…アインは何かを飛ばしたのだ 指先から、…いやそんなことはどうでもいいか、だって 今エリスが目にしている光景からすれば瑣末なことだ

だって、アインの指の射線上…エリスの頭がさっきまであった場所、…そこからずーっと後ろに目をやれば、遺跡群が見える 背後の遺跡群、堅牢な石で作られた遺跡達

それが、アインの指の直線状にある全てに 穴が開いていた、真っ直ぐ 遥か先まで真っ直ぐ、一つの穴が…

指先から飛ばした何かが 彼の目の前にある何もかもを貫通し 地平線の彼方まで消えたのだ、まるで光線…あんなもの食らってたら死んでいたぞ…

「何…ですか、これ…」

「君さぁ、僕が魔獣を操るばかりで 本体は弱いとか勘違いしてないかい?」

湯気を一つゆらゆらと放つ指先にフッと息を吹きかけるアインは笑う、僕が弱いと思っていたかと、…思っていた さっきまで

「僕は全ての魔獣の頂点に立つ 魔獣王の寵児だよ?、そこらの魔獣なんかとは比べ物になるわけないだろ、雑魚相手に手を汚したくなかっただけだ、…まぁ 臣下が敗れた以上、王が出向くのも仕方ないのかもね」

凄まじい殺気を身体中から放つアインの…いや、アレクセイの肉体があちこち裂けて 中から無色透明なスライム アクロマティックがウネウネと触手を伸ばす、もはや正体を隠す必要はないとばかりにアインは 魔獣の王子としての力を解放する

「さぁて、魔女の落胤と魔獣王の寵児…どちらが強いか、はっきりさせようか」

そして、エリスとアインの戦いは 第二ラウンド…いや ここから本当の戦いに突入する

………………………………………………………………

五大魔獣 アクロマティックとしての正体を露わにし力を解放したアインと エリスの戦いは更に苛烈な物へと変化する

先程までアインは戦いの全てを魔獣に任せ自分は高みの見物…傍観を決め込んでいた、雪崩のように押し寄せる魔獣は脅威だったが 今なら言える、あれの方が何百倍もマシだったと

「あははは、久しぶりの戦いだ…上手く出来るかなぁ」

そういうなりアインは体を不気味にゴキリゴキリと動かすと共に、無数の傷口から伸びる幾多のアクロマティックの触手を動かす、海藻のようにゆっくり揺らめく透明な触手は アインの鋭い眼光に連動し…


刹那、消えた

「ぐぅっ!?!?」

いや違う、振るったんだ 超高速でスライム状の触手を刃のように 鞭のように振るったんだ、正直見えなかったが 次の瞬間エリスの身体中に刻まれる裂傷が証明する破壊力

防御もクソもない、速すぎる!

「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を  『旋風圏跳』!」

故に逃げる、今のままでは的にされると風を纏い アインの目を撹乱するように四方八方へ縦横無尽に飛び回り アインの触手による攻撃を回避する

「あはは、ほらほら逃げろ逃げろ、さもないと捕まっちゃうよ?」

アインが軽く目を動かせばそれに連動し彼の体から生える触手がブレる、するとそれに伴い不可視の斬撃が飛んでくるのだ、高速で飛び回るエリスに追いつくように その周囲の地面や遺跡の壁がスパスパ切れていく様は壮観であり 恐怖でもある


恐らく これは触手を…アクロマティックの水状の液体を超高速で射出し斬撃として飛ばしているんだ、さっきの指先から放たれたのも同じ 水状の体を高速で噴射しまるで光線のように放ったんだろう

水とは圧倒的た出力で放てば時として鉄さえ両断する刃になるという、それと同じ原理だ、アインはあのスライムの体を生かし 水状の己の体を高速で噴出しているんだろう

(単純なようでいて、隙がない…)

ビュンビュン音を立てて高速で振るわれる水鞭、威力と速度も厄介だが 何より透明なのがキツい、だって見えないんだ 光の反射でなんとか見えるだけで輪郭を捉えるのだけでさえ苦労する

それが高速で振るわれたら 見えるわけがない、これは動体視力の問題ではない 物理的に無理なのだ

故に多分ここに攻撃してくるだろうという予想だけで今エリスは命を繋いでいる、もし何か間違いアインの水鞭がエリスの首を捉えれば、それで終わりだ 

「ほぅら、今度はこんな事をしてしまうぞ?」

必死に透明な水鞭を避けるエリスに向けてアインは手を振るい何かを飛ばしてくる、なんだ …あれは水滴か?、一粒二粒の小さな水滴がエリスに向けて飛ばされる

あれが攻撃?いや攻撃に決まってる、あいつは人智を超越する怪物!何をしてる分かったものでは…

「どかーん」

バッ!とアインが右手をまるで爆発を表現するように開く、それと共に飛ばされた水滴が蠢き…爆発した

「なぁっ!?ぐぁっっ!?」

あまりの出来事に反応の一つもできず水滴の爆発に巻き込まれる吹き飛ばされる、凄まじい勢いの爆発にエリスの体は遺跡の壁を突き抜け更に向こうの遺跡の壁にめり込む

水滴だ、水滴がいきなり爆発…違う爆発的に増えたんだ、一粒の水滴が湖レベルの大瀑布へと増加し その勢いで吹き飛ばされたんだ

「変幻無偏のアクロマティック…人間は良い名をつけるねぇ、変幻無偏…一つの形を持たず 自在に形と在り方を変える、高くも低くもなり 小さくも大きくもなる…」

形も量も自由自在ってか…、こと攻撃力に関しては部類の強さだな

だが…

「やられてばかりなわけがないでしょう…!、焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『火雷招』!!!」

めり込む体を引き起こしつつ、拳から放つのは火炎の電撃 、確かにアクロマティックは強い、けど だからって勝負を投げるエリスではありません、ましてやこいつがいる限り学園の危機は過ぎ去らない

ここでエリスがこいつを倒さないといけないんだ!

「ほほう、頑張るねぇ!」

全てを消し飛ばす熱雷を前にアインは笑う、余裕 そんな二文字が浮かび上がる程の狂笑で答えると共に…口を開く、すると

「おぼぅぇええええええ!!!!」

吐いた、吐き出した 口からアクロマティック本体をゲロゲロと吐き出し、外に出されたスライムは火雷招を前に聳えたち壁を成す

するとどうだ、アクロマティックの無色透明な水の体はエリスの火雷招をドプリと受け止め 飲み込み 雷を…エリスの魔術をまるごとその水の体の中に収めてしまったではないか

「うそ…」

思わず顔が引きつる、火雷招を防がれることはままあったが、まさか飲み込んで防ぐ奴がいるなんて…

アクロマティックは体内で荒れ狂う雷を押し潰す、熱と電撃でやや蒸発し体積が減るものの、それもまたすぐに再生する、無敵の防御だ 何をしても減ることも摩滅することもない、無敵の防御

そして

「僕ばかり貰っても悪いからね、おかえしだ」

指だ 指が一本 エリスの方を向く、まず……

「グッ…ぃぃい?!」

刹那 高速で射出される水の弾丸がエリスの肩を貫通し 背後の遺跡を崩す、全身に痺れるような激痛が走ったその時ようやく アインの一撃がエリスを貫いたことを理解する

痛い…左肩に風穴が開き 骨さえも砕け 動くだけで笑っちゃうくらいの痛みが体を縛る

「あぐぅぅぅぅぅああああ!!!」

「あはははは!いい声で泣く…やはり魔女の弟子も、痛み悶える声というのは同じなんだねぇ」

「あ…アイン、ぐっ…ぅぐぅ…」

痛みが走る 左腕が動かない、ジタバタ地面を転がり悶え苦しむエリスを嘲笑うようにアインがこちらに歩いてくる、水の触手をユラユラと揺らしながら…

強い…強い!、こんなにも強かったのか アイン!、高速不可視にして当たれば致命傷の無敵の攻撃と火雷招さえ飲み込み無効化する無敵の防御を持つ男…こんなのどうやって攻略すればいいんだ

弱点なんかあるのか、この男に…!

「やはり人間はそうでなくては、魔獣に襲われ 悲鳴をあげて、痛みと苦しみに悶えて死ぬ…それが世の摂理だ、それなのに君達はいらぬ力と知恵をつけて魔獣に争い 剰えこの世の支配者を気取るなんてね」

アインの足が 倒れふすエリスの左肩、穴の空いたそこを蹴りつけるように踏みつける、傷が広がる 折れた骨が肉を切り裂く…エリスの口が

「あぁぁぁああああぁっっ!!!!」

悲痛な悲鳴をあげる、今まで多くの傷を負って来たが…だからって痛みに強くなることはない、いつまでたっても痛いもんは痛い、脳の裏側が痺れる 考えがまとまらない

ああくそ、こいつを倒さないといけないのに…体が動かない…!

「ふぅー…ふぅー…」

「ん?、何かな 君もしかしてまだ諦めてないのかな?、あはははは…はぁ、ホント人間ってのは嫌な生き物だね、地表に広がる苔と同じ存在の癖をしてさぁ、ええ?」

「ぐぅぅぅ…っっっっつ!!」

傷口をグリグリと踏み締められ思わず悲鳴をあげそうになるのを下唇を噛んで我慢する、悲鳴をあげたらこいつを楽しませるだけだ、今エリスにできる抵抗があるとしたら 悲鳴をあげず堪えることだけ

「……ふぅーん」

そんなエリスの決意を感じ取ったのかアインは面白くなさそうに足を退ける、…その顔は 心底残酷で 冷淡な目をしており

「シリウス様はさ、君の体を欲しているんだ…だからさ、実を言うと殺しちゃいけないんだよね」

「シリウスはまだ…エリスの体を諦めてないんですか!」

「君はこの八千年で漸く生まれた全ての項目をクリアする逸材らしいからね、どーしても必要なんだってさ、面白くないよねぇ シリウス様が結局最後に頼りにするのは人間なんだから」

「シリウスだって…あれでも人間です」

「いいやあの人は人間じゃない!、あの人は…星の意思だ この世界が誕生した理由だ、人間なんて矮小な存在に入れていいものじゃ断じてない!」

「人間ですよ、…だからあんなに残酷なんです…」

「チッ、クソわけわかんねぇ事言いやがって…自分が殺されないとわかった瞬間大口叩くかい?、でもね 結局生きてさえいればいいんだ…その体と心がどうなってようとね」

するとアインはその触手で無抵抗のエリスの体を持ち上げ始める、特に 負傷した左腕を重点的に絡めながら

「ぐっ……」

「だから先に心と体を折っておこう、大丈夫 今度は…ちゃんとやるよ、約束する」

…今度は?、何言ってるんだアインは…

そうエリスの顔から血の気が引いた瞬間 アインに掴まれた左腕がスライムに包まれ、そして

「いぎっっっっ!?」

捻れた、エリスの左腕を包むスライムがぐるりぐるりと回転するように捻れ、その内にあるエリスの腕も…肉も 骨も…

「ぁ…がぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁああ!!!!」

ズタズタに捻られる左腕、そこから生じる激痛に狂うように叫ぶ、もはや 叫ぶことしかできない

「あはははははは!どうだい?痛いかい?人間の体は不便だねぇ!、折っても捻っても千切っても痛いんだからさぁ!」

「ぎっ…がぁぁぁぁ!!」

口からなんか出るんじゃないかと思うほどに叫ぶ、ダメだ 死ぬ…殺される、嬲られて殺される、スライムの掴む力は強く 引抜こうにも下手に引っこ抜いたら腕ごと抜けそうだ…!

痛い 痛い、折れる 腕はとっくに折れてるが、このままでは…心まで…………


「はははっ、結局バーバラの心は折れなかったけどさ、今度はきちんと 念入りに 粉々にするよ!君の心を!!」


痛みの中 薄れる意識の中、確かに聞いた…バーバラさんの心は折れなかった?、ふと 捻じ曲がるエリスの腕を見る、この傷つき方…バーバラさんの手足に受けた傷と同じ傷だ

まさか…まさかこいつ、バーバラさんを襲った時…同じことを…、同じことをして…っ!!!

「っっっ!!!」

唇を噛む、噛みちぎらん程の勢いで噛み 叫び声を我慢する、こいつ…この野郎!エリスの友達にこんなことして!ただエリスを陥れるためだけに!こんなにも痛い目に合わせて!

許さない、許さない許さない!絶対許さない!、ぶっ潰してやる!!

「なっ、なんだよ!その目は…!」

「許しません、絶対絶対!バーバラさんをこんな目に合わせたあなたを!許しません!!」

「はっ、何を言うかと思えば…なら、やってみなよ!君もバーバラと同じに四肢を引き裂いて地獄に送ってあげるからさぁ!!」

「っっーーー!!!」

より一層捻られる腕、エリスの心を圧し折ろうと力を込めるアイン…だけどね、今更もっと捻られたところで痛みなんか大して変わらないんですよ!、頭に登った血はエリスから痛みを奪う、代わりに与える 奴を倒せ と言う確たる激情を

「ぐぅぅうゔぅ!!」

だからこそ、突っ込む 右腕も捻られる水の中に そして

起きろ紅炎、燃ゆる瞋恚は万界を焼き尽くし尚飽く事なく烈日と共に全てを苛む、立ち上る火柱は暁角となり、我が怒り…体現せよ『眩耀灼炎火法』!」

燃える 燃やす魔力を高め左腕から紅蓮の炎を放つ、スライムの中で炎を放つ、空気のないところで火は燃えない 故に水でいるスライムの中で火は燃えない

けど、それは普通の火だったらの話だ、魔力を糧に燃える炎はアクロマティックの中で燃え盛る

ただ……

「ぐぉぉお!?捨て身か!貴様!逃げ場のない我が体の中で炎なんぞ燃やそうものなら 僕よりも先にお前の腕が炭になるぞ!?」

「ぅぅぅぅううううう!!」

炎はエリスの腕を中心に燃える、そりゃそうだ水の中で燃えないってことはエリスの腕だけが火炎を纏う状態になるのは必然、薪木のように燃えるエリスの腕 当然激痛を催す

痛い 痛いさ、辛いし苦しいし今すぐやめたい、でなければ死ぬ…死んでしまう、死にたくない 死にたくないけど

死にたくないけど、それ以上に こいつには負けたくない

「ぅああああああああ!!!!!燃えろォッ!!!」

「うぐっ!こ このイカれ女が!」

ボコボコとアクロマティックが泡立ち沸騰しその体積を縮めていく、いやそれだけじゃない 熱を帯びて沸騰したからか、アクロマティックを通じてアインの体内のスライムも熱を帯び、彼の皮膚がボコボコ泡を浮かせ爛れ始める

やはり、やはりそうか…!このスライムは…アクロマティックは…!、アインの武器であり防具であり 本体であり 弱点なんだ!

「死ぬなら一人で死になよ!」

「くっ!?」

エリスを掴むスライムが流動し燃えるエリスの腕ごと体を投げ飛ばし反対側の遺跡の外壁に叩きつけられる、膝をつく…ったいなぁもう!、でも抜け出せた!あの地獄から!

っ…!左腕は!、よし!ついてる!、焼け焦げ捻れて原型はないが一応ついてる!

「ならば…!」

ポーチの中に腕を突っ込み取り出す瓶の中には深緑、蓋に指をかけ弾き飛ばすと共に中身を左腕に引っ掛けながらついでに残りを飲み干す

「ゴクッ…ゴクッ…プハーッ」

「なんだいそれは…いや見たことがある、確かスピカ…いやあれより少し薄い…、レグルスのポーションか、そんな切り札を隠していたとはね」

師匠から預かっていたポーションをゴクリと飲み干し瓶を捨てる、ガラスの瓶が弾ける頃に治癒が始まる

左肩の肉は塞がり骨は繋がり、捻れた腕や指はクルクルと逆回転し元に戻り、焼けた肌も健康的な肌色に、確かめるようにギュッと拳を握れば

「復活!」

治った!全部治った!、相変わらず凄まじい治癒力だ、アインの言う通り まさに切り札とも言える威力のポーション、ただ 数が少ない…というかあの一本しかない

つまり あれが本当の本当に奥の手の奥の手、下手なところでは使えない手札だった

「復活かい、確かに腕は治り 君は僕の拘束を抜け出した、けれど ただ振り出しに戻っただけ、迎撃システムの突破はもうすぐ終わる」

アインが学園の方に目を向ける、どうやら残った魔獣がアインの指示で迎撃システム達を崩しているらしく、遺跡中に設置された砲台や自立兵器達はもう殆ど残っていない、魔獣の大群が学園に迫る

このままアインを倒せなければ アインの指揮の下統率された魔獣の軍団が学園へ突入するのは時間の問題、もうどうにかするにはアインを倒すしかない、しかし

「迎撃システムの突破…学園への突入完了 虐殺の開始 その幕開けは、そうだね 僕の目算にはなるけど 後2~3分ってところかなぁ、あの学園にも兵士達はいるみたいだけれど 僕の指揮があれば人間を殺しつくすなんてわけない、その時間を数秒でも過ぎれば まぁ死人は出るね」

「死人は一人も出させません、人は…死なせません」

「ははは、なら僕を倒さないと!でも、君にそれが出来るかな?今の今までロクに有効打を与えられていない君に!、たった数分で!僕を!」

厳しいさ、今までにないくらい厳しい…けど

「確かに厳しいですね、でも…無理じゃありません」

静かに腰を落とし、頬に血を指で拭う…無理じゃない、強がりでもない 

あと少しで見えそうなんだ、奴の防御を超えて アインを超える為の策が

「そうかそうか、無理じゃないか…なら 思い知らせようじゃないか!、人間が魔獣の王子たる僕に敵うわけがないってことを!!」

アインの傷口から水が吹き出る、無色透明な触手が揺蕩い…刹那、振るわれる

「『旋風圏跳』ッッ!!」

走る 風を纏って大地を駆け回り不可視の斬撃を潜り抜けただ走る、奴の隙を見つけるために

「君の四肢をズタズタにして、何も出来なくなった君の目の前で一人づつ生徒を殺そう!友達を殺そう!、そうして心折れて廃人になった君をシリウス様に捧げる!!」

飛ぶように走るエリスに向けてアインの両手の五指が突き立てられる、と共に光線の如き一助の水弾丸が風切音を立ててエリス連射される、不可視の斬撃 不可視の弾丸 それが壁を 床を切り裂き風穴を開ける

苛烈な攻め 鮮烈な攻撃、回復したエリスの体は瞬く間に傷を作りあちこちから血が噴き出る、相変わらず凄まじい攻勢だ このまま行けばさっきの再演、踏んでしまう 二の轍を

だから

「大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ、荒れ狂う怒号 叫び上げる風切 、その暴威を 代弁する事を ここに誓わん『颶神風刻大槍』!!」

攻撃を回避しながら拳から竜巻を放つ、アインの攻撃は凄まじいが所詮水、風には吹き飛ばされ 触手も弾丸もエリスの巻き起こす風に吹き飛ばされ 渦巻く槍は一直線にアインへ飛ぶ

「効かないって言ってんだろッッ!!!」

しかし、さっきと同じだ アインの体から吹き出る大量の水…スライムが壁となり風を受け止める、無限に近い質量を持つあの水は突破出来ない

風の槍はスライムによって受け止められ、その体に波紋を作るばかりでアインには届かない

…さぁ!考えろ!、あの防御を突破する方法を!

火は?ダメだ 確かに沸騰させられるがアインへのダメージは少ない、雷もダメだった 風も…、なら凍らせる?、通じるか? いや、凍らせてどうする、水の壁が氷の壁になるだけ

エリスがなんとかしたいのは壁ではなく、壁の先にいるアインなんだ

アクロマティックは無色透明なスライムだ、それ故に攻撃は見えづらい、そんな透明なスライムの向こうでアインが笑う…

ほら、結局無駄だ この壁は超えられないと…

ムカつく顔だ、透明だから奴の顔色がありありと見えて…見えて

見えるのか!向こうからもこちらが!、そうか!アクロマティックは無色透明!それはつまりガラスのように向こう側の景色を一切のボヤけもなく伝えるということで

見えた、勝機!


「降り注ぐ陽光は万物に齎される光の祝福、我が手の内より出ずる飛輪の寵児よ!」

「あん?まだ何るつもりかい?」

アインがニタリと笑いより一層スライムの壁を厚くし 資格もなく球体に広げて己を包む、けど無駄だ これは…これなら

そうだ、アクロマティックの体はレンズと同じで無色透明、それは即ち 一切の陰りもなく、向こう側の景色を見せる…つまり

「今その祝福の光の一端を 刃と変え我が眼前を走れ!『金鳥明束刃』」

「あ?…光?、…まさかッッ!!??」

光は届くんだ!向こう側に!

エリスの手から放たれた光は乱雑に飛び交い 、アインの元へ…一箇所に集まる、透明なアクロマティックでは光は防げない、球体に広げたアクロマティックによって アインは光に囲まれる

四方八方から照射される光は熱を持ちその体を焼いていく、アイン お前の防御じゃ これは防げない!

「ぐっ!ぎゃぁぁぁあああああああ!!!」

絶大な光量に照らされ焼けていくアインの体、本体が弱ったからか 周囲に展開されていた壁は消え去る、けど 壁が消えても関係ない、光はアインの体を焼き続ける

踠き暴れても、腕で体を守っても意味がない、そしてきっと こうやって追い詰められたら アインは…

「ゔっ!…ゔぉぇええええええええ!!!!」

苦しむアイン いやアレクセイは口からドロドロの液体を、否 本体であるアクロマティックが外へ飛び出してくる

そうだ、体があるから熱いんだ 、謂わば今のアインは超高温で熱された容器に入れられた水、なら体を捨てれば 透明なアインは光から逃げることが出来る

熱を持った体を捨てて スライムの体だけになったアインは、口から外へと吹き出て上空を舞う

逃げられる、このままでは

「くぅっ!、戯れで人間の体なんぞ使うんじゃなかった!、こうなったら僕本来の姿でエリスを!」

宙を舞う液体は一塊りになって蠢く、このまま放っておけば奴はそのまま戦うだろう、肉体を失ったからって弱くなるわけじゃない

けど、今 アインは気を取られている、体から出た瞬間…奴は己を守る肉体を失い、今宙を舞うあれがアインの アクロマティックの全て

だから!

「逃すかぁぁぁあああ!!!」

「なぁっ!?え エリス!?」

宙を舞うアインの目の前を既に飛ぶエリス、アインが体から逃げることなんか最初から読んでいた 、体を捨てればアインは本体だけになる

アインは肉体の重要性をあまり理解してないが、肉体がいる限りアインは無敵だった、何せアイン…アクロマティックは無限に再生する力を持つ、故にアクロマティックを倒すには肉体を含め周囲に漂う全ての体を消し去る必要があった

けど、今は違う、熱から逃げるためにそのスライムの体を肉体から出して一纏めにしてしまった、してくれた…だからあとは!

大技で仕留めるだけだ!

「逃がしませんよ!貴方だけは!絶対!」

「ま 待て!待ってくれエリス!」

アインも己の窮地に気がついたのか慌ててエリスの名を呼ぶ、そんな呼び声を無視してそのスライムの体に両腕を突っ込む

「待ちません、貴方は危険すぎます」

「な 何言ってるんだよエリス、同じ学園で生きた仲だろ?、一緒に授業受けて 一緒に通学して!バーバラ君と僕の三人で一緒にやっていこうって頑張ってた仲じゃないか!、君の守ろうとしている学園の生徒の中に!友達の中に!僕もいるはずだろう!」

この期に及んで…何を言いだすかと思えば、確かにエリスは数少ない友達として彼を認めていた、というか今も認めている

エリスは絶対に忘れません あの時のことを、だから今も友達だと思っている

「確かに友達ですね…」

「だ だろ、そんな僕を君が消すのかい…」

「ですが!、エリスとバーバラさんの友達はアレクセイさんです!、アイン!貴方じゃない!」

「なっ…!」

あの時 あの場で友達だったのは、確かなんだ あの時過ごした生活が嘘でエリスを嵌める為のものだったとしても

学園で笑いあったエリスとバーバラさんとアレクセイさんの三人の時間が全部なくなるわけじゃない

だから、終わらせる あの日の記憶を守るために、アレクセイさんの生きた学園を守るために!でアインを!終わらせる!!!

「火天炎空よ、燦然たるその身 永遠たるその輝きを称え言祝ぎ 撃ち起こし、眼前の障壁を打ち払い、果ての明星の如き絶光を今」

「や やめろ!やめてくれ!、まだ終わるわけには行かないんだ!あの人の目の前で失態を演じるわけには行かないんだ!、僕は王子なんだ!魔獣王の後を継ぐんだ!それが僕の役目なのに…失敗したら、折角のチャンスが…何千年も待ったチャンスが!他の奴らを出し抜いて手に入れた 始めてのチャンスがぁぁあ!!!!」

アインの慟哭が轟き、せめてエリスを殺そうと触手を突き刺すが…今更止まらない、残念でしたね アイン…、貴方の目論見 これで潰えました


「『天元顕赫』…」

「あああ…ああああああ!!!、くそ!くそぉ!クソクソクソクソがぁ!!、人間が!人間がぁぁぁ!、エリス!覚えていろよ!今度はこんな分け身じゃなく 本体でお前を殺しに来るからな!、兄妹達全員連れて!人間の世界を全て滅ぼし尽くしてやるからなぁぁあああああ!!!」

放たれる赫の輝きは瞬く間に周囲に熱を放つ、アインの体の中から放たれる絶大な熱はあっという間に蒸発させ消滅させていく、恨み言だけを残し 抵抗さえ許さず瞬く間に 無色透明なスライムは虚空へと消えていく

…これで、終わりだ

「っと…」

着地すればこの手には何もない、スライムの気配も消えている…ふと、背後に目を向ければ 体を動かすもののなくなったアレクセイさんが、力なく倒れている

「アレクセイさん…」

彼はもう死んでいる、エリスと知り合うよりもずっと前にアインに いや、アクロマティックに殺されその遺体をずっと利用されていたんだ

死してなおずっと…

「もう終わりましたよ、アレクセイさん…もう 酷い事も、友達を傷つけることもしなくていいんです、後はゆっくり休んでください」

倒れるアレクセイさんの瞳を閉じて、祈るように呼びかける…エリスの友達に

「エリスは貴方の事を絶対に忘れませんから、貴方と出会えた この奇跡に、感謝します…ありがとう アレクセイ」

その緑の髪をゆっくりと撫でる、仕方ないこととはいえ 彼の体を傷つけてしまったことは少し後悔している…、出来るなら しっかり埋葬してあげたい、けど 今は出来ない

エリスは今、やらなきゃいけないことがあるから…

「魔獣の動きはどうなったでしょうか、早くみんなと合流して この状況を収めないと、アレクセイさん 後でちゃんと迎えに来るんで、待っててください」

そう立ち上がり、アレクセイさんを置いてエリスは走り出す、もうみんなは壁を塞ぎ終えたというし、急いで合流して 残った魔獣をなんとかしないと


「…………………………」

エリスが去った後、残されたアレクセイの遺体が 静寂の中横たわる

…だからこそ、誰も気がつかない…彼の体の中から一つの音が奏でられ始めたことに

その音を、例えるなら…まるで、鼓動の音色に似ていた


…………………………………………………………………………

「あっははははははは!よいのう!よいのう!、腕を上げたか?それとも鈍ったか?レグルスぅ!」

「喧しい!早くアンタレスの体を返せ亡霊が!」

ヴィスペルティリオの街から離れ、大国コルスコルピのある一角を占める巨大な森林

その木々の隙間を縫うように飛び交いぶつかり合う影は 高速で往き交いながら怒鳴りあう

「フフフ、久しぶりの体は良いのう…流石我が弟子アンタレスの体じゃ」

一際大きな大木の枝 それを揺らすことなくピタリと着地するのは 目つきの悪い見るからに不健康そうな長髪の女、探求の魔女アンタレス

ではなく、その体を乗っ取り高らかに笑う 原初の災厄 シリウスである

「アンタレスの体はアンタレスだけのもの、貴様がいいようにして良いものではない」

その対面にて木の上に立つ黒髪紅眼の魔女レグルスは牙を剥く、あれから アンタレスの体を奪ったシリウスと激闘を繰り広げている間にヴィスペルティリオから離されてしまった

エリス達が心配だが、シリウスが手強い…他人の体を遠隔で操っている状態にあるというのに、レグルスが攻めあぐねる程に強いのだ

いや、むしろこの程度で済んでるのは奇跡と言える…シリウスが本来の力を取り戻したなら、レグルス一人ではまるで太刀打ちできないだろうからな、こうやって互角に戦えているのは シリウスが未だ完全に復活を果たしていないからだろう

「ふむ、…しかし やや不便よのう、アンタレスは呪術しか使えん、ワシの使える魔術の殆どが封じられてしまうとは、ううむ やはりアンタレスではワシの器には不足か」

「貴様がアンタレスの体を使いこなせていないだけだ、アンタレスは 本当ならもっと強い」

「ごちゃごちゃうるさいのう、一々噛み付いてくるでないわ…およ?」

ふと、シリウスがレグルスから視線を外し 遥か彼方に目を向ける…どこを見ているんだ?、いや確かあの方角にヴィスペルティリオがあったはず…、まさかエリス達に何か!

「ほほう!、驚いた!エリスのやつ 分け身とはいえアクロマティックを倒しおったか!、流石はワシの器第一候補!」

「アクロマティック?」

「ん?知らんか?、今ヴィスペルティリオで魔獣達の指揮を取っておった魔獣の名じゃ、ほれ タマオノの息子の」

「ああ、いつぞやの…って!気安く話しかけるな!」

「えぇー!?、お前が話しかけてきたんじゃろうが!」

しかしアクロマティックだったか、てっきり私は魔獣王タマオノが復活したのかと思ったが 、あそこで魔獣を操っていたのはその息子の方だったか

八千年前 羅睺十悪星の一人としてシリウスに従っていた全ての魔獣の祖 魔獣王タマオノ、魔獣を無限に生み出し 生み出した魔獣に対する絶対命令権を持つまさしく魔獣達の王と呼べるあいつは、今現在アルクカースが存在する地でアルクトゥルスと戦い 命を落とした

アルクトゥルスによってトドメを刺される寸前 確か奴は五つの命を産み落とし自分の後継者にしたんだったか

「懐かしいのう、あの時タマオノによって生み出された子らが今魔獣達の王をやっておるんだ、時の流れを感じるのう…」

「あの時仕留め損なった奴らがいまだに生きているとはな」

「クカカカ、…生きておるさ 奴らはタマオノの後を継ぎ我の配下になる為に今も努力しておるのだ、奴らは魔獣を操る権利は持てど生み出す権利は持たんからな、それが欲しいんじゃろう…可愛いやつらめ」

「可愛いものか、またあんな恐ろしい存在 生み出してたまるか」

「恐ろしいか?、ワシは素晴らしい思うぞ…」

海を模して作られたトリエステ 

陸を模して作られたテラ・マガラニカ

 空を模して作られたカーマンライン

そして レグルス お前を模して作られたアクロマティックとワシを模して作られたソティス…どれも愛いものではないか

そうシリウスは笑う、アクロマティックといえば確か あの巨大なスライムだったか?、あれが私を模して作られただと?、すると かなり侮辱されている気がする

「…しかし、アクロマティックはしくじったか…まぁ 千四百あるコアのうちの一つだけではそんなものか、謂わば今のやつの実力は本来の千四百分の一…これでは目的達成は難しかったか」

「残念だったな、うちの弟子は優秀なんだ…もうあの学園憂いはない、後はお前を倒すだけだ」

「…くくく、果たして本当にそうか?」

ニヤリと口を割いて笑うシリウス、まるでその口ぶりはまだ絶望は…戦いは終わってない、しれこれからだと言わんばかりで

「今のアクロマティックでは目的の達成は難しいと読んでいたワシが何の手も打ってないと思ったか?、寧ろ アクロマティックが消えた今こそ 真の地獄の始まりじゃ!、エリス!ワシのプレゼント受け取っておくれよぉ!?」

ギャハハハハハハハと悪魔のように笑うシリウスを中心に空に暗雲が立ち込める、…エリス 悪いが私は助けに迎えそうに無い

だが、私このカストリア大陸でお前を鍛えに鍛えた、その時間と努力がある限り 負けはしないはずだ、だから 任せたぞ…そっちは!
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