孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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九章 夢見の魔女リゲル

278.魔女の弟子と仲間と友達

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メグさんが消えた、朝起きたら何処にも居なかった それと同時にオライオンに戻るための穴が消えて、エリス達は帝国のマルミドワズの街中に取り残されてしまった、二カ月かけて進んだ距離が 全て消えた

それはエリス達の平静さを消しとばすに足るだけの衝撃であった

「メグさん…メグさん何処に行ったんですか」

頭を掻き毟り意味もなくダイニングに戻ってきた、何処に行ったんだメグさん…なんで居なくなったんだ、まるで分からない 何が起こってるんだ、混乱するばかりで答えがまるで出てこない

「おいエリス、メグは何処に行ったんだ…」

「分かりません」

「俺達はこれからどうすりゃいいんだ」

「分かりません…!」

「俺達は一体…!」

「アマルトさん!、エリスも何も分からないんですよ!」

慌てて混乱するアマルトさんに当たってしまう、…彼だって慌てているんだ 混乱しているんだ、それは分かる 分かるけど今は待ってくれ…

「…悪い、そうだよな キョドッて悪かった」

「いえ、エリスも…エリスも辛く当たりすぎました、よし 落ち着きましょう、アマルトさん」

「お おう!」

取り敢えず椅子を引いてその上に座る、バタバタ暴れても仕方ない 今はこの緊急事態に対する対策を考えなければ、こう言う時に必要なのは冷静な思考だ、それを得るためにはまず座らないと…立ったままじゃあ落ち着けない

「……消えたメグさんと時界門、この二つが無関係なわけありません、メグさんが消えたから 時界門が消えたと見るべきでしょう」  

「時界門が消える条件ってのは分かるか?」

「詳しくは分かりませんが、メグさんが寝ている最中も時界門は開き続けていたようなので意識を失ってもあの穴は開き続けます、だから恐らくメグさんが意図的に閉じたか…或いは、メグさんの命が……」

「ありえねぇだろ、どっちも」

硬い声が響く、そうですね 両方あり得ないです、ですけどそのあり得ない事態が起こってるからやばいんです

考えるならメグさんが消えたのは時界門の向こう、つまり空白平野にメグさんは向かったと思われる、アマルトさんが起きる前には居なかったようなのでエリス達が寝ている間に向かったと見ていい、理由は分からないが

そしてこれまた理由は分からないがメグさんはその時界門を閉じてエリスとアマルトさんを置いて行ってしまったのだろう、そう見ればこの状況の説明もつく、一番分からないのはその動機だ…

「なんでですか、メグさん…」

置いていかれたのか?、でもなんで…最近様子がおかしかった事と何か関係が?、エリスの声のかけ方が良くなかったのか?、分からない 分からない

「おいエリス、落ち着けよ、お前が言ったんだろ」

「落ち着いてますよ、とっても…」

「いいや落ち着いてないね、深呼吸深呼吸…、今はメグがどうして消えたかよりもこれからどうするべきかを考えるべきじゃね?、アイツが空白平野に消えたのは明白なんだから、そこに向かう方法を考えよう」

「それもそうですね…」

と行ってもこちらも難題、メグさんが空白平野に居るとしてもそこに行く手立てがない、今からアマルトさんとエリスで死ぬ気でオライオンに向かって空白平野に辿り着くまでにどれだけの時間がかかる?

メグさんを見つける頃には世界が終わってそうだな…

「ああ、…どう考えても八方塞りです、メグさんはきっと空白平野に居る、だから空白平野に行く必要があるのに 空白平野に行くにはメグさんが必要、こんなのどうすればいいんですか…」

「問題がループしてるな、どっちかの尻尾を掴むためにはどちらかの頭が必要ってか…、んー なんとかメグの時界門をもう一度使えればいいんだが…、ああそうだ!この国には転移魔力機構があったよな!、それで空白平野に向かえないか?」

「無理ですよ、そんな狙ったポイントに向かえる転移なんてありません、それに何もない空白平野のど真ん中に向かうなんてそれこそ古式時空魔術でもない限り……あ!」

椅子が倒れる エリスが立つ、静かな室内に音が響き この暗澹とした空気が引き裂かれる、そうだ!時空魔術を使えればいいんだ!、古式時空魔術さえ使えれば!

確かに空白平野に向かうにはメグさんの時空魔術が必要、けれどメグさんが居ない今 その道は閉ざされたように見えるが…、居るじゃないか!このマルミドワズにも時空魔術の使い手が!、それもメグさんを遥かに上回る使い手が!

「カノープス様です!、カノープス様を頼りましょう!」

「おお!そっか!カノープス様ならメグ以上に時界門を扱えるじゃねぇか!、って…皇帝陛下を動かせるか…?」

「動かすんです!テコでも!、でなけりゃエリス達の旅はここで終わりですから!、行きますよアマルトさん!、急いで!」

「分かったよ!」 

二人で弾かれるように防寒具を手にメグさんの屋敷を出て、居住エリアを駆け抜けて一気に向かうのは大帝宮殿だ、メグさんに何があったかは分からないが 急がなくてはいけないような気がして、そんな予感に突き動かされエリスは足を加速させる

もはや歩き慣れた居住エリア、一度はエリスが暴れて壊してしまったこの街も既に大部分が復旧しており、そこを抜けて各エリアを繋ぐ回廊を越えれば、見えてくるのは巨大な空中宮殿…

「ん?、おや?エリス殿?」

「あれぇ?、エリスさんじゃん オライオンに居るんじゃなかったっけ?」

大帝宮殿まで辿り着くと丁度入り口から出てくる軍服の男達 ラインハルトさんとフリードリヒさんに出くわし、二人とも目を丸くしてキョトンとしている、そりゃあこの間オライオンに出かけたエリス達が血相変えて大帝宮殿を走り回ってりゃ驚きもするか

久しぶりの再会だが今挨拶している暇はない

「ラインハルトさん!フリードリヒさん!、カノープス様は今何処に!?」

「え?皇帝陛下?…俺知らねぇ、ラインハルト?」

「貴様なぁ…師団長なら把握しておけ、陛下は今宮殿の最上展望テラスにて他の魔女様達と茶会の最中だ」

「ありがとうございます!、アマルトさん階段で向かうのも面倒です!捕まって!」

「捕まってってお前一体どうやって上に…」

「『旋風圏跳』!」

「あ!ちょっ!?うぎゃぁぁぁぁあああああ!?!?!?」

アマルトさんの服の裾を掴んで真上に飛ぶ、空の彼方まで飛び上がり 一気に展望テラスを空から目指す、嫌な予感が増幅する…早く向かわないと…


「どうしたんだろうエリスさん、すげー急いでたけど」

「さぁ…」

アマルトの悲鳴木霊する中 取り残されたラインハルトとフリードリヒはポカンと空を見上げる、よく分からないが 急いでるなら変に関わるのはやめておこう…

「暇なら飲みに誘おうかと思ってたんだけど、暇じゃなさそうだな、仕方ねぇや ラインハルト?どうだ?これから一杯」

「今から仕事だ、俺もお前な」

「そっか、頑張れよ」

「お前も仕事だって言ってるだろうが!、来い!」

「ひぃーん…」

…………………………………………………………

天裂き 青空を突き、大帝宮殿を飛び越えその頂上…世界最高地点に存在する展望テラス 『世降の庭園』へと風を纏って一気にアマルトさんと共に飛び込み、そこに居るであろうカノープス様に声を飛ばす

「カノープス様!」

「優しく降してッ!」

掴んでいたアマルトさんをその辺に捨てて駆け抜ける、展望テラスの中央に置かれた小さな丸テーブルを囲む影は突如現れたエリス達に驚くこともなく、紅茶を啜り

「ようやく来たか、エリスよ」

そう言うのだ、まるでその影は…いいや?世を見下していた皇帝カノープス様にはこの件が予見出来ていたかのような余裕ぶりだ、とはいその顔に笑みはない…寧ろかなり険しいぞ、今のエリスはよほど不甲斐ないだろう

でも怯んでなんかいられるか!

「カノープス様!メグさんが消えました!多分空白平野に居ると思います!」

「…………メグが、な」

ふむと口を閉ざすカノープス様は答えず、代わりにその隣に居る者が茶菓子を食べながら口を開く

「ああ?空白平野?、何処だあそりゃ」

「空鏡湖アルナスルのことだよアルク、あそこは厄災後に世界一の寒冷地帯になったからね、底まで凍ってしまったのさ」

「アルナスル?…ああ、サジテール王国のクソデカ湖のことか、ふぅん ザウラクのババアの墓標が今はそんな風に、世の無常ってか?」

「寧ろザウラク様らしいとボクは思うかなぁ、自分の土地を永遠に見守る…とても彼女らしい」

「自分のモンを誰にも渡したくねぇだけだろ、それが例え自分が崇めてる星女神が相手でもな、アイツ ケチババアだし」

カノープス様の隣で挟むように茶を嗜むプロキオン様 アルクトゥルス様は共に何やら懐かしむように目を伏せこちらを見ない、対するカノープス様は難しそうに口を紡ぎ

「知り得ている、ここから見ていた 我が愛弟子は今空白平野にてリゲルの手駒と戦っておる、いや 今はシリウスの操り人形か」

「リゲル様の…ってもしかして神聖軍ですか!なんで!」

なんで今あそこで神聖軍と!?いやまさか…、っ!そこはいい!なおの事早く向かわねばならない理由が増えただけだ!

「いや …そんなことはいいんです、でも…早く向かわないと!、メグさん最近寝不足で体調が悪いんです!、早く行って助けないと!」

「寝不足?…なんの話だ?」

「慣れない旅と追われる恐怖でメグさん最近寝れて無くて…、それでこの間も倒れて!」

「ハッ…ハハハ!」

笑った エリスの話を聞いてカノープスは滑稽極まりないと頬杖をついて笑う、何がおかしいんだ 自分の弟子が苦しんでるのに!、まるで…まるでエリスが見当違いのことを言って居るような、そ そんな視線で…どうして笑って

「貴様その話を信じたのか?」

「え…ええ」

「ふむ、だが我にはどうにも信じられんな、今まで一度として顔色を崩さず任務に殉じ 如何なる事態にも揺るがぬ鋼の精神を持つメグが、ただ追われて居ると言うだけでそこまで精神をすり減らすとは…どうにもな?」

「ッッ……!?!?!?」

確かに、確かにそうだ…メグさんがその程度のことでストレスを抱えるほど繊細か?、彼女の図太さは天下一品だ、牢屋の中でだって鼻歌を歌い 犯罪者だらけの街で趣味に興じる天性の精神力を持つ彼女が…それだけで寝不足になる程抱え込むか?

抱え込まない、なら あの疲れには別の意味が…

「全く…、呆れたものよ」

「っ…」

エリスの姿にカノープス様は呆れのため息を吐く、そりゃそうだ 折角任せてくれたと言うのにこうして頼っている上メグさんの不調の理由さえ見抜けないのだから呆れられて当然だ…!、不甲斐ない!

「すみません、あまりに間抜けでした…!」

「何を謝っている、我が呆れているのは我が弟子のメイド根性ぶりだ」

「へ?…」

「見たところ、彼奴は時界門を乱用したのだろう?、今までにない頻度で今までにない程の距離を超えて」

乱用…はしていたが、距離?頻度?それが何か関係があるのか?…、だが確かに メグさんの時界門使用は今までない頻度で かつ 今までに無い程の距離を超えている、何せオライオンから帝国の首都にまでだ、その距離は魔女大国一個分程…凄まじい距離だ

「何か、あるのですか?…距離や頻度に関係が」

「いや何、お前には関係のないことだ…今の事態にも特に関係はない、だが もしメグに次会えたのなら言っておけ」

何をだ、今の事態には関係ない ならその話は後にするべきなのだろうけど、カノープス様のこの話は聞かなければならない気がして…口を閉ざして居ると

伝えられる、その事実は

「『時界門は超える距離が大きければ大きいほど術者に負荷が増える、移動させる物の質量が増えれば負荷が増える、そのような無茶は体を破壊しているのと同義だ』…とな、全く そのような事いの一番に教えて、奴自身も身に染みてわかって居るだろうに…何故乱用したのか…お前は分かるか?エリス、我には分からん」

「ッ……!?」

やれやれと惚けるよな口調でエリス達を責めるカノープス様の前に崩れ落ちる…、何をバカな幻想を抱いていたんだ

時界門を使えばいくらでも安全に旅が出来る?、その皺寄せは存在しないとでも思っていたのか?、誰も 苦しんでいないと?

魔術は万能だが全能ではない、強い力には見返りを求める一面がある、強力な魔術を使おうと思えば思うほど 体にかかる負荷は大きくなる、そんなの知って居るだろう!エリスは!、ならばメグさんはどうだ!

オライオンから帝国へ、凄まじい距離の転移を何度も何度も何度も何度も繰り返し続けた彼女の体には 言い知れないほどの疲れが疲労が溜まっていたんじゃないのか!、それでも彼女はエリス達を思ってそれを口にせず 最後まで我慢するつもりで…!

「くっ!」

これか!これだったのか!ラグナが時界門に難色を示していたのは、いや時界門そのものにではない それを乱用して居る空気感に難色を示していたんだ!、気がついていたんだ メグさんの負荷を朧げながら感じていたんだ!

なのに!バカか!エリスは!、どこまでバカなんだ!メグさんの事を思うなら時界門そのもののデメリットに目を向けるべきだっただろう!

「そっか、…だから監獄じゃあ元気だったのか、あそこは良くも悪くも時界門使えなかったし…」

アマルトさんは地面に転がったままポツリと口にする、そうだ 監獄では時界門を使えなかったから それがむしろプラスに働いていたんだ、そしてそこを出てからは一日に何度もオライオンと帝国を行き来した その回数は明らかに異常であったことは記憶して居る…!

「ふむ…ようやく察したか、、奴が使って居る倉庫は半ば我の支配下にあるが故にそこに繋げた際の消耗はほぼ無いに等しい、だが それ以外の場所…例えば奴の屋敷などに転移しようとした場合 転移先の距離が目的地から離れていればいるほど術者にかかる負担は倍増していくのだ」

「そんな…」

「奴が倒れる寸前まで消耗していたのは 我の支配下にある倉庫では無く、屋敷に何度も転移したからだろうな、奴の時界門の技量は未だ発展途上…それでいて何度も乱用すれば、倒れもする、…我が側に居たら 止めただろうな」

「くっ…!」

思わず顔を押さえる、でなけりゃ叫び出しそうだったから あまりの悔しさに、自分の間抜けさに

目が行っていた!時界門の有用性に!その時点で彼女自身への負荷が目に行ってなかった!、これでどうして友達を名乗れようか!どうして助け合おうなんて口に出来ようか!

口先だけじゃないか!、彼女に無理ばかりさせて!エリスは!、くぅっ!もう一人エリスが欲しい…もう一人エリスが居たらめちゃくちゃに殴り倒せるのに!!

「メグはな、相手に尽くすことで己の愛を証明する不器用な子だ、…それ故にお前達さえ良ければそれで良しと 負担を飲み込む選択をしたようだな…」

「……エリス達を」

思いやり と言う奴だろうか、それとも彼女なりの不器用だから友情か…だが、それで自分が倒れてちゃ意味がないんだ、想いとは一方通行では無く向けた相手からも向けられる物、…貴方が苦しんでも別にいいと割り切るような人間に見えるんですか…エリスが

「助けに行きたいです…、メグさんを…」

「ほう、助けに行きたいと?、だが今メグが神聖軍と戦って居るのも お前達のための様にも見えるぞ、時界門の件と変わらぬではないか」

「ええそうですよ!だからその件も含めて纏めて解決してきます!、だからカノープス様!お願いします!、貴方のお力をお貸しください!時界門にてエリス達を空白平野に連れて行ってください!」

両手を地面について頭を下げる、額を地面に擦り付けて頼み込む、助けに行かせてくれ 友達を、不器用でどこまでもエリス達のことしか考えていない愛おしい友達を助けに行かせてください…

「お願いします、助けに行きたいんです…メグさんを…」

「助けに…か、ならば特例として一度だけ我自ら魔術を行使してやろう、何処にでも一瞬で連れて行ってやる」

「ッ!なら…」

「しかし!」

ビクリと肩が揺れる、顔を上げて見つめたカノープス様の目は 未だに恐ろしく尖って居る、しかし と…今この現状では聞きたくないワードが飛び出たかと思うと、カノープス様は頬杖をつき直すと

「条件として、行く場所はお前が選べ…」

「え?、エリスがですか?」

それが条件?なら行く場所なんて一つしか…

「空白平野でもエノシガリオスでも 何処でも選ぶがいい」

「ッッ!?!?!?」

この人は 知って居るんだろうか、エリスとラグナが交わした約束を…

エノシガリオスに辿り着く事だけを考えて もし逸れても逸れたまま進もう、助けには向かわなくていい、最速でたどり着けるなら…、そんな密約を彼と交わしたエリスの選択を カノープス様は知って居るのだろうかと思わず思ってしまう残酷な選択肢だった

いける カノープス様の力なら一瞬でいける、この人はメグさんと違ってセントエルモの楔の様な道具などなくとも世界の端から端まで移動させられる、その射程には当然 エノシガリオスも収まって居るのだ

行けてしまう ここでメグさんを見捨てたら、全てを飛ばして一気に目的地に…師匠のところに

「………………」

ラグナと交わした約束に従うなら、ここはメグさんに任せて エリス達は先にエノシガリオスに向かう選択をするべきなのだろう、でなければエリスはラグナにこんなお願いなんてしていない

けど、けどだ…間抜けなエリスは今になってようやく悟る

この約束は あまりに酷だったんじゃないか?、自分が捕まる側なら別にいい だがもし逆だったら?、ラグナが捕まる側だったら エリスは何事もなく先に進めていたか?

今 メグさんを前に迫られて居る選択をエリスはラグナに押し付けたんじゃないのか?…これは あまりにも身勝手だっだのではないか と

「…おいエリス」

「わかってますよ、アマルトさん」 

励ます様に肩に手を置いてくれるアマルトさんの手を取り…、目を閉じ選択する、どうするべきなのかを

それは…

「…空白平野に行かせてください」

空白平野…メグさんだ、そうだとも エリスは何処までも自分勝手だ、けど 今痛いほど分かりました、友達を見捨てさせる選択肢を取らせることの残酷さを…、幾ら状況が状況でも 捨てちゃいけない一線というのはあるんだ

…エリスは師匠を助けたい、それと同じくらい友達も助けたい、もしシリウスを倒すことが出来て 世界の破滅を回避できたとしても、この先も続いていく世界に誰かが居ないってのはあり得ないんだ

エリスが救いたい世界は 『みんながいる世界』なんだ、そこに誰も居ないんじゃ意味がない!

「いいのか?、お前の目的地だろう?」

「はい、でも目的そのものではないので、エリスはみんなとこの先も生きていきたいだけなんです…、友達は誰も見捨てたくありません」

ラグナには悪い事をした、もう二度とこの様な身勝手は言うまい、エノシガリオスに辿り着いて 彼と再会できたら謝ろう、その為にも 誰も死なせないよう進もう…、エリスの目的を果たす為に、みんなとこれからも生きていく為に

「…わかった、では空白平野に送ろう、ただしなるべくメグの近くに送るが 我が力を持ってしても多数の神聖軍に追われるメグと寸分違わぬ座標というわけには行かぬ、その先はお前達で探すのだ」

「分かりました、策はあります」

「ならば良い、…寄り道はこのくらいにするのだぞ エリスよ」

「はい!、カノープス様!ありがとうございます!」

「良い、我が愛弟子を救ってやってくれ」

その言葉と共にカノープス様はやや微笑み、その手を前に翳す、ただそれだけで空間が歪み…

「『時界門』」 

開く 再び空白平野への道が…!、これで行ける!メグさんの所に!

「エリスよ」

「っとと!!?まだ何か!?」

さぁ時界門の中に飛び込もうとしたしゅんかん、止められる…再びカノープス様に、まだ何かあるのだろうか…

「いや、単なる定時連絡だ、エノシガリオスに着いたら直ぐに行動せず我らの連絡を待て、やや状況が変わりつつある、向こうに着いたらアンタレスから連絡が行くと思うから…それを待て」

「アンタレス様の…、分かりました」

シリウスとて銅像じゃない、事の趨勢を見て動きもする、その状況確認も兼ねて一度アンタレス様から連絡を受け取っておいたほうがいいだろう、取り敢えずエノシガリオスに着いたら一旦待機…よし、覚えた

「それだけだ、さぁ行け!魔女の弟子達!次は誤るなよ!」

「はい!行きましょうアマルトさん!」

「おうよ!、ぜってぇ助けるぞ!」

駆け出す、二人で メグさんを助けにいく為に、カノープス様の開いた空間の歪みに身を投げ込み 進む、今度こそ 間違えないように……



「若いな…」

そして、空間の穴の中に消えたエリス達を見送ったカノープスは、一人溜息を吐いて微笑みと共に椅子に座り込む、これで良い…これで

「おいカノープス、ちょっと今のは意地が悪かったんじゃねぇか?」

そうやって我を責めるのはアルクトゥルスだ、ジトリと目をこちらに向けて カップを繊細に持ちながら見せるその顔は結構不機嫌なものだ、意地悪…意地悪か、確かにな 今の我はかなり意地悪だった、だが

「何を言う、今のは必要な行程だった」  

「はぁ?、…そうか?」

「ああ、…以前言ったな このオライオンでの戦いは弟子達に任せるべき運命にあると、我はその定めの意味とその運命の真意が漸く理解出来た」

弟子達は今運命の道の最中にいる、そこに下手に介入するべきではない と我はエリス達に全てを任せ、こうしてここにて時を待って居る…、だが 今その選択が過ちではなかったと悟ることが出来た、エリスのあの瞳を見てな

「と言うと?、どう言うことかな ボク達にも分かるように説明を頼むよ」

「何、簡単なことだ…、この旅は弟子達にとって必要な段階だったのだ」

何事にも順序がある、段階を踏まず慌てて結果だけを求めても 物事はうまく行かない、一段一段登って行かねば 目的たる地点まで行くことは出来ない、近道は無く 回り道もない、あるのは必要な行程、それだけだ

そして、この旅はエリス達にとって必要な行程だったのだ、あの子供達が立派に一人前になる為に…、シリウスという巨悪に挑む資格を得る為のな

「アルクよ、お前はここまで魔女の弟子達の旅を見てどう思った?」

「あ?、ンなもん決まってんだろ…迂闊過ぎだ、計画の立て方も杜撰で稚拙 オマケに行き当たりばったりで運と根性頼み、奇跡に救われた場面も何度もあったし…見ていてヒヤヒヤする、許されるなら今すぐ彼処に飛んでいって指導をつけてやりたいくらいだぜ」

「ああ、その通りだ …だが仕方ないことでもある、エリス達は今回が初めてなのだ」

魔女のいない戦いと 後のない戦い、そして 同年代の魔女の弟子達と協力して戦うという場面が初めてだ、誰かが引っ張るのでは無く 誰もが皆の手を取り前に進ませて行かなくてはいけないのだ

その経験があまりに不足している、誰かを過度に信頼し過ぎている 誰かを過度に庇護し過ぎている、それではダメだ…ダメなんだ

「仲間と共に戦う、仲間と共に進む、この意味を真に理解しなければ シリウスの前には立てない、それを知る為のある種の修行になると我は思っている」

「こんな時にも修行かよ、ンなもん後でオレ様達が教えてやれば…」

「我らは、そうやって仲間との戦いを知ったか?、我らも八人揃って旅路を共にすることで 理解出来たことじゃないのか?」

「…………まぁ、な」

まだこの大陸が二つに分かたれる前、あの広大な大地を八人で歩き回り 色んな国を見て色んな敵と戦い、その最中 何度も危機を味わった、あの時の我らはエリス達以上に強かったが それ以上に色んな所が雑だったしな

「それと同じだ、エリス達は今 我らと同じ段階に立つ為のスタートラインに立ったのだ、それを 師として見守ってやろうではないか」

「道中死ぬかもしれないぜ?」

「死なんさ、その為に今日まで修行をつけたのだから」

何百何千と重ねた修行の日々は今この時、結実の時を迎えている…、エリス達はこの旅で羽化出来るかどうか それが世界の命運を分けるのだ、故に進め…仲間と共に

「はぁ~、お前にそう言われちゃ オレ様達も茶々を入れるわけにはいかねぇな」

「そうだねアルク、でも心苦しいのはボクも同じさ、…何か ボク達に出来ることでもあれば、と思ったが…」

「うぅむ、シリウスの奴 殊の外上手く隠れておるな」

我らも出来ることがないかの思案していたのだが、シリウスの気配は依然として知れない、奴の隠密術の高さは相変わらずのようだ

だが、それでもオライオン中に奴の魔力が張り巡らされているあたり 彼処に居るのは間違いないのだがな

「でも多分エノシガリオスに居るんだろう?、…シリウスが、ならボク達でそこを先に抑える とか…そういうのはダメかな」

そうプロキオンが問う、まぁそこは我もそう思う、シリウスはきっとエノシガリオスに居る、最悪そこに我が転移して時間を稼ぐのもアリと考えたが

「いいや、その線はナシだ」

そこを否定するのはアルクだ、アルクは徐にカップを置いて ギロリとオライオンを睨む…

「シリウスはオレ様達の視線から隠れている だから見つけられない、だが言い換えればオレ様達がここで見張っているから奴はエノシガリオスから動けないんだ、…謂わばオレ様達の存在がシリウスに対する抑止力になっている今 その役目を放棄し動くのは危険だ」

シリウスが動かないのは我らがここで控えているから、ここで控えるのをやめればシリウスは縦横無尽にオライオンを駆け回るだろう、オライオンという国にどれだけの被害を出しても奴は目的を達成しにかかる…それはあまりにも危険なのだ

エリス達がエノシガリオスに辿り着き、シリウスの注意が我らからエリス達に移りでもしない限り、ここから動くことは出来ないだろう

「それに、まだアイツは 真の肉体の保管場所を見つけてないみたいだしな」

「え?、エノシガリオスにあるんじゃないのかい?ボクはてっきり彼処にある物と…」

「バァカ…プロキオン、エノシガリオスに肉体があるならもうシリウスの目的は達成されてるだろ?、彼処にないからシリウスはオレ様達から隠れながら魔力を国内全域に伸ばしてチマチマ探す なんてバカみたいな一手打ってんだろうが」

「あ、そうだね…でも、なら リゲルは一体どこに隠したんだい?」

「それを知ってるのはリゲル…と、こいつだけだ」

ジロリとアルクの視線がこちらを向く、ああ そうだとも 我は知っている、リゲルがシリウスにも我ら魔女にも内密で肉体の保管場所を数百年前に移しているのを観測している

やや頼りない場所と感じたが、リゲルの策が上手くいって今この猶予が生まれていると思えば 流石と言わざるを得ないな

「カノープス…知ってるの?」

「まぁな、…守りは薄いが 取りに行こうと思えば苦労するうえ目立つ場所だ、シリウスが在り処に気がついても防衛に向かえる場所、そして…」

「そして?」

「…………」

カノープスは語ることなく口を閉ざしてエノシガリオスを見遣る、何と数奇な運命か…、エリス達が目指している街に ネレイドの他にもう一人魔女の弟子が居るとは…

ウルキ…お前はそこで何をするつもりだ?、何を考えている、まぁ お前が何をするつもりでも、若き芽吹きの邪魔は決してさせぬからな

「さて、ではその見張りの役目…任せたぞ」

「ん?どうしたの?カノープス、どこへ行くんだい?」

シリウスが一手を打ち始めたからな、こちらも一度盤面を動かす必要があるだろう、弟子達が頑張っているのに師匠達がここで呑気にお茶だけ飲んでました…は格好がつかん、故に立つ

「なに、ちょっとした布石をな」

「布石?、いや君が行くくらいなら僕が…」

「いやプロキオン、行かせてやれ…カノープスの考えは何となくわかる、いい手だとオレ様は思うぜ?」

我らの戦略家アルクトゥルスからお墨付きを貰えるとは、我の戦略性も捨てたものではないらしいな

「だが早く戻ってこいよ、シリウスの次の一手を打つ時までに」

「ああ、任せろ…」

アルクは油断なくシリウスを見据えながら呟く、分かってる…直ぐに戻るさ、それだけ言い残しは我は動く、この戦いに勝利するために

…………………………………………………………………………

「はっ…はっ…はっ…はっ」

走る 走る走る、とにかく走る、舞い上がる吹雪の中を メグは一心不乱に駆け抜ける、既にアイアンデッドヒートの姿は見えない、あと頼れるのは己の肉体のみ、これだけでどうにかこの窮地を切り抜けなければ…

「神の敵!討ち取ったりッ!」

「くっ!」

刹那、視界を塞ぐ吹雪を切り裂き邪教執行官が剣を携え飛びかかってくる、この雪の猛威さえも物ともせずに突っ込んでくるとは!

「取らせません!」

「ぁぐっ!?」

しかしその程度の不意打ちで敗れる私ではありません、いくら本調子でなくとも 体は動くのです、飛びかかる斬撃をするりと避けると共にその腕に組みつき押し倒し、オライオン人特有の太くたくましい首に腕を回す

「ほいっ!」

「ぅげぇっ!?」

ゴキリ と音を立て男の首が捻じ曲がる、まぁ意識を奪っただけですかね 骨は折ってません、私は陛下との誓いは破らないので…

しかし、参りましたね


「逃すなァッ!死んでも逃すな!、執行官の名に懸けて!」

「追え!吹雪などに臆するな!、死番衆の誇りを見せろ!」

「執行官と死番衆がダブルで攻めてくるとは…、最悪極まりない…」

タラリと拭われる汗は疲労からか、或いは彼女に迫る危機感からか、冷たい汗は通った側から凍って行く、そんな吹雪の中メグは今 迫る神聖軍から逃げている

追っているのは邪教執行官と死番衆の二つの部隊、神聖軍のエリート部隊が二つまとめて攻めてきたのだ…、そんな最悪の状況を前にメグは一人で戦っている エリス様もアマルト様もいない、一人でだ…

何故こんなことになってしまったか、その始まりは昨日の夜のことだ…





エリス様に気を使われベッドに押し込まれた私は、皆様が寝静まった頃 静かにベッドから出て二階の倉庫…開けっ放しにしていた時界門へと向かった

忘れていたのだ、アイアンデッドヒートのカムフラージュを、時界門自体のカムフラージュはしてるあるから侵入はされないだろうが…

あの船が氷のど真ん中に放置はマズい、普段は発見防止の為 何かしらのカムフラージュを施してこちらにきていたのだが、今回はそんな暇がなかったのでね

まぁそれにしても思い出すのに時間がかかってしまった…、やはり この身に募った疲労が原因か…、この疲労の正体は分かっている 長距離転移の乱用が原因だ そんな事は分かっていました最初から

陛下の魔力の支配下にある無限の空間を持つ倉庫に時界門を繋げて道具を取り出す分には何ともないのですが、どうにもそれ以外の場所に時界門を繋ぎ物体を移動させると距離に応じて負荷が増えていくようなのです

本来距離とは時間をかけて削っていくもの、その法則を捻じ曲げての瞬間移動…世界から何の咎めもないわけがない、一度帝国に転移するだけでもドッと疲れが体にのしかかるのだ、それを一日に何度も連続して行えば…、いくら私と言えども耐えられない

だが、エリス様達の平穏な旅のため従事できるなら体なんて…、そう考えていたが どうやら今日限界が来て倒れてしまったようなのだ

最近ミスが増えているのも疲れのせいで集中力を欠いているから…、けど やめるわけにはいかなかった、エリス様達に打ち明けるわけにはいかなかった…

あの人達と友達でいるためには 私の全てを差し出さなければいけない、先日敵対していた私が真なる意味で味方として 仲間として 友として信頼を勝ち得るにはそれしかなかったから

…なのに、不甲斐ない… せめて足だけでも引っ張らないようにしないと、そう疲れがのしかかる体を引きずって私は二階の倉庫の扉を開けて、その場に固定しておいた時界門を通って空白平野に…


「あ……」

「あ…」

「あぁ…」

何もないはずの空白平野、なのに私がそこに辿り着いた時 既に私の視界は遮られていた

溢れ返る人人人人人、全員が全員神聖軍の鎧の上に特殊な外套を羽織っている…絞首刑に処される髑髏のマークと槍を突き立てられた髑髏のマーク

邪教執行官と死番衆だ、それがアイアンデッドヒートを不思議そうに囲み…ふと現れた私を見て口を開けていたんだ

直ぐに察しが行きましたよ、だって集団の中に見たことのある顔がいくつかあったからです

邪教執行官を束ねるベンテシキュメと、プルトンディースにいた死番衆三隊長 スカルモルド達、恐らく監獄から私達を追ってきたスカルモルド達は何処かで邪教執行官達と合流し 軍勢を率いて私たちを追跡してきていたのだ

そして私は迂闊にもアイアンデッドヒートを放置して、それを発見されて、しかもそこに乗り出して…

「こいつだ!、神敵の…!」

スカルモルドが口を開き こちらを指差した瞬間、咄嗟に背後の時界門消し去る、今ここで私が囚われればそのまま時界門を利用される、侵入防止用のカムフラージュを消してここに来てしまった以上 今時界門は誰でも利用できる状態にあった

利用されるわけにはいかない、今エリス様達はみんな寝ているのだ、そこにこいつらが押し寄せたら瞬く間に私達は全滅、私のミスで皆さんを危険に晒すわけにはいかない、だからせめて…時界門だけでも

「何しやがったテメェ!」

「グッッ!!??」

しかし、この緊迫した場面で 時界門を消すという行動にワンアクションを使ったのはまずかったかもしれない、即座に反応したのはベンテシキュメだ、神将たる彼女の反応は常軌を逸しており 時界門が消えた瞬間私が何かをしたと判断して即座に肉薄し私の体をまるでボールのように遥か彼方に蹴り飛ばしたのだ

「ぁがっ!?」

地面を転がりなが感じるのは激痛、なんて脚力だ…咄嗟に放った蹴りでこの威力、マズい 消耗した私じゃ勝てない!、逃げないと!

「っ!…」

「おい!逃げたぞ!追え!」

ナイフを振るって執行官の包囲をなんとか切り抜け走る 走る、とにかく走ってこの場を脱出する事だけを考える、こいつらを振り切って どこか安全な場所に身を隠して、それでまた時開門を作って屋敷に戻らないと!

私が戻らないとエリス様達が旅を再開出来ない、だから…だから!





「はぁ…はぁ…はぁ…」

「あっちに逃げたぞ!」

「くっ…!」

なぁんて、あれから夜が明けるまで逃げたというのにまるで撒ける気配がしない、どこまで逃げても追ってくる 追いついてくる、その都度攻撃を仕掛けられ体は傷だらけ 体力も底をつき、足を引きずるように吹雪を中を逃げ回る…

見立てが甘かった、この空白平野に逃げ込める場所も隠れられる場所もないのだった、このままでは…殺される…!

「見つけたぞ!神的!」

「チッ!」

また来た!、また吹雪を掻い潜って私を見つけて…!、くそ!死ねるか!こんなところで!

「展開!『時界門』!、メグセレクション…」

手を突き出し 魔術を展開しようとするが…、出ない 出せない、もうそんなに消耗して…!

「ちぇぇぇえい!」

「っ!ナメないでいただけますか!」

振り下ろされる剣を平手で弾き着地点を逸らすと共にクルリと足を上げて回転し…

「はっ!」

「グッ!?」

首元に一撃 蹴りを叩き込む、これでも元ですが暗殺者です…、素手一つで相手を伸す事なんかわけないんです!、わけないんですけども…

「くっ…、ああ ダメです、頭クラクラしてきました」

倒れる追っ手と共に膝をつく、力が入らない…!

ダメだ、死ぬわけにはいかない、こんなところで終わるわけにはいかない、私はエリス様達を迎えに行く役目がある、私はエリス様達の友達なんだ…友達にしてもらえたんだ、だから 諦めるわけにはいかないんだよ!

「うぅっ!、立て!立て私!、殺すな!己を!、私はもう…誰も殺さないんじゃないのか!」

立て 立つんだ、立って逃げそれで私は…、そう夢想するように何度も唱えて立ち上がる、さぁ逃げろ!ここから…ん?

「あれ?、…家が見える」

家だ…吹雪の向こうにあるはずのない家が見える、何だあれ…あんなところに家屋なんてあったか?、いやあるわけないのに、見える…幻覚?もうそんなに消耗しているのか?…

いや!いやいい!、幻覚でも何でも!

「っ!ぜぇぜぇ!、何でもいい!何でも!隠れられるなら!」

滑るような 転がるような姿勢で必死に走り目の前の雪のカーテンに映し出された家屋のシルエットに向かう、これが私の見た最後の幻覚と言うのならそれはそれで良し、もし幻覚でないのなら

「ふぅー…ふぅー…、実態がある?ちゃんとした家、か…鍵かかってる」

家はあった あるにはあったが窓を手で引っ張っても開かない、当たり前だ、この吹雪なら戸締まりされている…

「フッ!」

叩き割り内側から鍵をこじ開ける、とにかく一息つく為 神聖軍から逃げる為 なりふり構っていられない私は違法にさえ手を染め窓を開け、中に転がり込む…、吹雪がない…まさか本当に家屋があったとは

「ふぅ…ふぅ…ふぅ」

息を整え落ち着く、木製の床に座り込み落ち着く事だけを考える、失われた酸素を取り戻し体力を補充しまた動けるよう回復する、この後どうするかは回復した後だ

「しかし…どうしましょう」

私は今どこにいるのかも分からない、吹雪の中を闇雲に走ったせいでどこに来てしまったかも分からない、周囲には神聖軍 それも邪教執行官と死番衆、奴らは絶対に諦めず私を殺しに来る、ここもいつか見つかる…そうなった時、今の私でどこまで対抗出来る…

「展開…『時界門』」

手をかざし 発動させる魔術は私に答えず、空間をやや捻るも穴を開けるには至らず そのまま霧散してしまう、…ダメか

ここまで何度も魔術を乱用してきたツケがここに来て回ってきたか、…魔術は万能であって全能ではない、その見返りは今度は我が命を要求するか…

「ふぅ…エリス様、申し訳ありません」

パタリと腕を下ろす、諦めるつもりはないが最後の瞬間 詫びる時間もないかもしれないから、今のうちに謝っておく

不甲斐ない私でごめんなさい、信じてくれたのに答えられなくてごめんなさい、あなたの師匠を助けられなくてごめんなさい、ごめんなさい…

「ごめんなさい…」

その一言を待っていたかのように この小屋の扉が勢いよく開け放たれ 外の吹雪と共に雪を切り裂き人影が踏み込む

「ここにいたか、神敵メグ…!」 

現れたのは烈剣のスカルモルド 震動のスヴェイズ 黙殺のソグン、誰が呼んだか死番衆三人娘だ…、よりにもよって…こいつらか!

「メグ…!?、私はメグではありません、メグの双子の妹のモグでございます、姉さんは一体どこに…!あなた達はメグ姉さんの居場所を知っているのですか!?」   

「今更そんな三文芝居に騙されるか!」

ダメか…名演だったつもりなんだが、仕方ないと立ち上がる 腰に差した最後のナイフを手に取る…

「で?、何の用で?」

「フッ、覚悟を決めたか…だが減刑は無いぞ、トリトン様は酷く立腹されている、ダンカン副監獄長を苦しめた 神敵メグを殺せと…我らは仰せつかっている」

「あらまぁ、あの豚の件ですか?、情けない…ただ香辛料を頭から掛けただけなのに」

「人が気絶する代物を調味料とは呼ばん!、ともあれ神敵メグ!ここで貴様を殺し トリトン様にその首を捧げてやろう!」

「まぁ怖い…ですが、殺せますかね」

「無論だ!『イグニッションバースト』!!」

轟音と共に振るわれる炎烈剣、炎を纏った刃はただ何も捉える事なく空を切るだけで衝撃波と共に熱波を叩き出しこの狭苦しい小屋の中で猛威を振るう

「くぅっ!!」

接近が出来ない、炎を纏った剣を振るうスカルモルドの攻撃はそのまま圧倒的面での防御に変化する、こうして叩きつけられる火炎をなんとか捌くだけで精一杯なのでは勝ち目がない…!

(ここは引くしか…)

幸い私が割って入った窓がまだフリー…、となれば…!そこから脱出しよう!

前へ進むフリをしてクルリと振り向き窓を目指…

「『シャドウマリオネット』…、無為…悲しいほどに」

「あ…!」

立ち塞がっていた、背後には既に刺客が…、両手に鎌を持ち仁王立ちする黙殺のソグン…の影が魔術によって操られ平面から立体に変化し私の前に立ち塞がっていた、取られた 唯一の脱出経路…、これは まず…

「影牙双螺旋…!、切り刻まれなさい!」

連動し動くのは本物のソグンと影のソグン、二人は私を挟み打つ形で鎌を横に伏せ、体ごとクルクルと回転しながら迫ってきたのだ、まるでミキサーのような刃の雨 ナイフ一本の私では防ぎようが…!?

「きゃっ!?」

ナイフを弾かれる、死番衆隊長格のソグンの全霊の攻撃を受けられる程の装備も体力もない私の手からナイフからポロリと落ちると共に思い切り体を引かれ地面に引き倒される…

「なんだよ全然弱いじゃん!、監獄の外に出たらある程度の力を発揮するかと思ってたら…こんなもん?」

拍子抜け~とケタケタ笑いながら大槌を肩に背負ったスヴェイズがズシンとその重苦しい足を我が胴体に乗せ逃すまいと地面に縫い付ける、…くぅ…振りほどけない

「さぁて、それじゃあ…潰すか 頭」

「うぅ…」

頭の上に重厚なハンマーが乗せられゴリゴリと音を立て押し付けられる、魔術を使えない今 私にはこの状況を打開する術が無い…諦めよう、なんて 私の殺し屋の部分が囁く、いや違う 囁いているのは…

ジズだ



『マーガレット、殺し屋が一番最初に殺すのは何か分かるかな?』

あの屋敷に閉じ込められ 毎日のように殺しの技術を教わっていたあの頃、ジズは私の肩を掴んで微笑む

もう八十を超えた老父とは思えないほど若々しいその瞳に生気はない、正気もない、そんな混沌とした光を孕んだ瞳に睨まれれば 誰しもが竦んで声をあげられなくなる

怯えて何も言えない私に、ジズは優しく…そして狂うようにこう言うのだ

『自分だ、自分の心と自分への執着を殺すのだ、自分を屍人に変えてこそ 一流の殺し屋さ』

なんて、誰よりも自分に執着している男がそう言うんだから 説得力も皆無だった、それで私の心にはその言葉が刻み込まれた

いざとなったら自分を容易く諦めよう、死にたくないなんて思っちゃいけない、それが私の…いいや殺し屋の全てだ

こんな状況に陥れば 殺し屋はすぐに諦めて、情報の漏洩を防ぐために自刃するべきなのだろう

だが…だが

(私は…殺さない、それが陛下との約束だから…恩人への誓いだから…、だから)

私は私を諦めない、絶対に諦めない…!、死んでたまるか!死んでたまるか!

私は…私はエリス様達のところに戻るんだ!、絶対に!…絶対!

「っ!ぐぅぅうう!!!」

「ああ?抵抗のつもりか?…無様だね」

「無様でも…、私は死ぬわけにはいかないのです!、友達を…迎えにいかないと!、でないと…!私は あの人達の友達で居られなくなる!、私はまだ あの人達の本当の友達になれていないから!!」

ハンマーを退けようと無理な姿勢で腕に力を込める、ビクともしないけど 諦めない、諦められない、エリス様達の役に立たなければならない ならこんなところで死ねない!、一度裏切った私を温かく迎えてくれたエリス様を もう一度裏切れない!

「ぅぐがぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!!」

「あーあー、うるさいなぁ! 神に祈る時間でもくれてやろうかと思ったけど…もういい」

フッと私の頭からハンマーが消える、違う 振り上げられたのだ スヴェイズの腕によりハンマーが高く高く掲げられ…

「死ね…!!」

「あ……」

鬼のような瞳を輝かせるスヴェイズの頭の上にハンマーが鈍色に光る、殺意が私の体を貫く、殺される…殺される…!


嗚呼、エリス様…アマルト様…、すみません…やはり 声に出して謝罪する時間はないようです、せめて 貴方達の旅路が上手く行くように…天から見守るとします

…申し訳ありません……








「何やっとんじゃぁっっっ!!!」

一陣の風が吹き荒ぶ、外から入り込む吹雪と共に 声が響く、怒りに満ちた声は扉を蹴破り死番衆達の動きを止める、この行動を咎める人間が…現れて

「あ?…お前は……!!」

「あ…アマルト様!?」

「ぐぅー!ふぅー!クッッソさみぃ!、おいゴリラ女!テメェな!ソイツは俺のツレなんだよ!、押し倒して乱暴な真似すんのはやめてもらえねぇかなぁ!」

アマルト様だ、防寒具は凍りつき 涙と鼻水が氷柱になる程に凍えながら 、目を血走らせ咳き込むように白い息を吐きながら扉の前で激昂していた

何故だ、何故彼がここに…、アガスティヤに居るはずの彼がここに居るわけがない、そもそも居たとしても闇雲に逃げ回った私を発見出来るわけがない

幻覚だ…幻覚のはずだ、なのに …どうして、涙が…

「アマルト様…どうやって…」

「話は後だ!、一旦落ち着ける場所に行ってから…このクソどもぶちのめしてからにしようや!」

ドンドンと木の床を叩くように踏み込んでくるアマルト様、しかし そんな彼の道を阻む影が一つ

「行かせると思いますか、貴方もまた我らが追いかける標的の一人なのですから」

ソグンだ、その両手に持った鎌を素早く構え アマルト様の首を掻き切ろうと動き…

「グギャァッッ!!」

「んなっ!?なんですか!?」

刹那、アマルト様の足元から影が飛び出して  獣のような咆哮を響かせながらソグンに飛びかかり喰らい付き逆に押し倒したのだ

「ぐっ!?これは…猟犬!?」

「グルルルルル!!」

ソグンの腕に食らいついた影…それは金毛を輝かせる獰猛な猟犬であった、唸る声は人を竦みあがらせる猛獣のそれであり まるで矢のようにソグンの腕に刺さった牙は今にも腕を食い千切らんと益々力が込められる

なんだ、あの犬… 見たことない、あんな犬 …一体どこから

「チッ、させるか…!」

「邪魔すんなよ、お呼びじゃねぇのが分かんねぇか!」

ソグンがやられた そう見たスカルモルドは即座に剣を振り抜き アマルト様に襲いかかる、迎え撃つアマルト様も血を纏わせた黒剣を振るい、両者の剣がぶつかり……

「なんてなっと!」

「なっ!?」

消えた、剣がぶつかる直前でアマルト様の姿が消えた、違う 剣を振るうフリをして飛んだのだ、姿勢を低く カエルのように低空を這うように、スカルモルドの炎の下を潜ってその向こうにいる私目掛けて飛んできたんだ

当然、迎え撃つ気満々で剣を振るったスカルモルドの剣は空を切ってヨタヨタと姿勢を崩す…

「おら退けや!俺のダチいつまで踏んでだお前は!!」

「は…テメェ…ぐぇっ!?」

その低空飛行はそのままタックルとなり 私の上でハンマーを振り上げるスヴェイズを弾き飛ばし私の体を解放する、助かった…いや 助けられた…、でも…なんで

「無事…じゃなそうだが、生きてるな?メグ」

「あ アマルト様…でも、どうやって…」

「だから後だ、こいつら抜けてくぞ!」

立てるか?と優しく私を引き起こし肩を貸してくれるアマルト様、その体は芯まで冷え切っており 吹雪の中を何もかもを無視して走り抜けたであろうことが容易に想像出来る、何故こんな無茶を…

「逃すわけがねぇだろうが!、死ねや!」

しかし、それを許さないのが死番衆の仕事、叩き倒されたスヴェイズは即座に立ち上がると共に無防備となったアマルト様の頭を狙う、今 アマルト様は私を起こすのに両手を使い踏ん張るのに両足を使っている、出来ない 回避も防御も

だ ダメ!私のために死ぬなんてそんな…!

そんな言葉が漏れそうになった瞬間、私は見る アマルト様の瞳を…

『問題ねぇよ』と笑う、そんな余裕の瞳を

「ハッ!?」

止まった スヴェイズのハンマーが、虚空で止まった…止められたのだ 何処からともなく伸びてきた手によって

ヌルリと伸びた白い腕 その持ち主を見て、あのスヴェイズが冷や汗を流している、鬼か悪魔に出会ったしまった子供のように、ガクガクと震え ブルブルと怯え…口も手も動かすことも出来ずに瞳だけがそれを見つめている

何が…何が現れたのだと、腕をなぞるように視線を動かして 見る、見てしまう、そこにいる物を…

それは

「ふぅー…!ふぅー!…」

怪物がいた、吹雪の立ち込める部屋の中 鼻と口から蒸気の様な息を吐き出し 口元から血を滴らせる獰猛な怪物が、闇の中 瞳を白銀に光らせスヴェイズのハンマーを片手で受け止めているのだ

「な 何者だ!お前!」
 
「何者か?だと…?、知ってるはずだろ…知ってて手を出してんだろ…!」

「ヒッ!?」

グイッとハンマーを掴む手がスヴェイズごと引き寄せる、こちらに来いとばかりに招かれる引力に逆らうことが出来ないスヴェイズは一瞬足をズルズルと動かした後 吸い込まれる様に影へと引き込まれる

そんな刹那の抵抗の間に、怪物は拳を握り おおきく振りかぶっており…、咆哮する 天を割くが如く勢いで、大きく大きく こう叫ぶ

「『煌王火雷掌』ッッ!!!」

一閃、拳の形をした炎雷は瞬きの暇さえ与えずスヴェイズの顔面へと落ち、霹靂が響き渡り
 
瞬けば既に、スヴェイズの体は炎に巻かれ 雷に打たれ、悲鳴を雷鳴に掻き消され 真っ直ぐ吹き飛んでいく、窓に向けて 壁に向けて、いやそれさえも彼女の道行きを邪魔するには至らない、その全てを粉砕し 飛んでいく彼女は、やがて吹雪の中に消え…

「ぐぎゃぁぁぁあぁぁ…………」

「エリスはエリスです!、孤独の魔女の弟子のエリスです!、今更喧嘩相手が誰か分かりませんでしたは通用しないんですよ!」

吠えたのはエリス様だ、壁を引き裂き 口元から血を流し、拳を振るったのはエリス様だ…何故彼女まで、何故彼女がここに、何故口から血が、というより何処から現れた?そんな疑問よりも先に浮かんでくるのは

「エリス様!何故服を着てないんですか!?」

全裸だ、全裸…服を着ていない、引き締まった筋肉と無数の古傷が刻まれた彼女の玉肌が今外気に晒されている、別に彼女の裸を見るのが初めてとか 見るのが恥ずかしいとかそういう話ではない、この寒い空間で 何故に裸!?と

すると、エリス様は鋭い目つきでアマルトさんを睨むと

「アマルトさん、服を」

「イエッサー!」

「アマルトさんの呪術は便利ですが、服を着れないのは若干不便ですね」

もぞもぞとアマルト様のの取り出した服を着込むエリス様が語る、呪術…と、そこでまたと気がつきソグンに目を向ける、先程 謎の犬に噛まれ倒されたソグンの手元には…さっきまでいた犬の姿がない

アマルト様の呪術の中には人を動物に変えるものがある、エリス様の出現と同時に消えた犬、そして あの犬の体毛はエリス様の髪の毛と同じ綺麗な金…、そこから導き出される答えとは

「なんと珍妙な…、犬が人になったとは…」

「逆です、人が犬になってたんですよ、アマルトさんの呪術には人を動物に変えるものがあるのです…、お陰で直ぐに居場所が分かりましたよ、流石は帝国一の軍用犬の力…吹雪の中にいてもすぐに分かりました」

そうか、使ったんだ ギャラクシー君の力を、アマルト様は変化する相手の体毛が一本でもあればその姿に変化出来る、そして昨晩食事を共にした時 アマルト様の服がズボンに付着していたのだろう

それを使い エリス様を犬に変化させた、帝国一の鼻を持つギャラクシー君の力を継承し全ての匂いを記憶した史上最強の猟犬となったエリス様の先導で 私を追跡し見つけたのだ…

けど、それは彼女帝国にいるはずの彼女達がここにいる理由にならない、況してや危険を冒して…私を助けにくる理由が、役に立てず 足を引っ張り またも期待を裏切った私を助ける理由になんて…

「貴方達よくもやってくれましたね…、エリスの大切な大切な友達をこうも傷つけて…、明日真っ当に固形のご飯食べられると思わない方がいいですよ!」

「やってくれたはこちらのセリフだ…!、死ね…!神敵!」

着替え終わったエリス様の目の前には既に烈火の剣を振りかぶるスカルモルドの姿がある

ここで貴様を切り刻む、そうありありと伝えるような瞳は刃光となってより一層炎の温度を高める

『斬られる』、そう 直感で感じた瞬間…私の体が、アマルト様に支えられる私の体が フワリと支えを失って空に浮き…

「遅えよ…、或いは 正直過ぎたな」

「な……」

スカルモルドは動きを止める、動きを止めた、動きを止められた、背後から聞こえる声に いつのまに間にか、黒剣を振り抜き スカルモルドの背後に立つアマルト様の言葉によってようやく悟る

斬ったのは自分ではない、斬られたのが自分であることを……

「カハッ…!」

肩から腰まで一直線に入る赤き線は鮮血を噴き出させスカルモルドから力を奪う、余りに早き神速の太刀 炎では決して追いつけない領域の太刀を浴びせられ アマルト様とスカルモルドの瞬きの立ち会いは決着する

「ふぅー、落ち着いたな」

黒剣を一振りし 付着したスカルモルドの血を払い、ニッと振り向くアマルト様の言葉に自然と肩の力が抜ける、…終わったのか?助かったのか?私は…

無いと勝手に思っていた助けによって…、エリス様達の登場によって…私は……

「メグさん、無事ですか?」

「え エリス様…どうして……」

「皇帝陛下に頼んで空白平野に飛ばしてもらいました、その後 ギャラクシー君の毛を借りて犬に変身して…ここまで追いかけてきたんです、道中吹雪に巻かれるわ神聖軍に囲まれるわで大変でしたが、いやぁ 間に合って良かった」

えへへ と笑いながら手を差し伸べるエリス様の姿に、混乱する…

違う 違う違う、そうじゃ無い そうじゃ無いんだ…

「違います、どうして私を助けたのですか?」

「へ?どうしてって?」

心底不思議そうにする彼女に私は言葉を詰まらせながら…

「だって!私は…役に立ててないのに、皆さんを窮地に追いやって 危うく旅の再会が出来ないような危機に陥れたのに」

「陥れたって、それはエリス達が貴方を頼りすぎたからですし、何より再開出来たわけですしいいじゃないですか」

「でも!、でも…!…私は、私は…貴方の期待を…また裏切ったのに…、本当の意味で 仲間になれてないのに!」

「メグさん…、そう言うことだったんですね…、なら」

刹那、冷え切った私の体に温もりが走る、エリス様が私を抱きしめたのだ…、ギュッと抱きしめて 耳元に暖かい息を吹きかけ、そして

「エリスは、メグさんに働いて欲しくて一緒に来てもらったんじゃ無いんです、そりゃあ旅の最中助けてもらったてとっても助かりました、でもエリスが貴方と一緒に居たかったのは…貴方がエリスの友達で 仲間だからです、そこに打算はありません 失望も何もありません」

「エリス…様?」

「役にたつから仲間なんじゃありません、仲間だから助け合うんです、助けて 助けられて 支えて 支えられて、偶に情けないところを見せて 偶にカッコいいところを見せて、そうやって一緒に戦うから仲間なんだと思います、友達なんだと…思うんです」

だから 自分一人で誰かを助けて自分一人でカッコいいところを見せないでください、エリス達にも助けさせてくださいよ メグさん…

そんな事を言われたら嬉しさよりも先に申し訳なさが湧き出てくる、ここまで思ってくれる事に恐縮してしまう、ただ一つ 言えることがあるとするなら、どうやら私は 心配をかけたようだ

そりゃあそうだ、エリス様が心配しないわけがない この道中でもずっと心配をかけさせていたじゃないか…、それでいいと私は思っていたのか?エリス様はもっと頼って欲しかったんじゃないのか?

頼って頼られて 支え合う関係こそを彼女は望んでいたんだ、ただ一方的に支える従者の役も支えられる主人の役も…彼女は望んでいない、誰も望んでいない

欲しているのは横並びの関係…ただそれだけだったのだ……

「だから、仲間になれてないとか言わないでください、友達じゃないとか…次言われたらエリス、泣いてしまいますからね」

「はい……」

「まぁ!何にしても一件落着!また合流できて良かったぜ」

「ありがとうございます、アマルト様」

二人の手を取り立ち上がる、やや足はふらつくが 不思議と倒れる気がしない、それはきっと両隣に二人が居てくれるから、隣に誰かが居てくれるから、私は倒れないんだろう…精神的にも

「フフ…フフフフフ、終わったつもりですか?神敵ぃ」

「あ、そういえばまだ残ってました」

なんて感動の再会を邪魔する無粋者が一人 部屋の奥でユラユラと立っている、黙殺のソグンだ 犬となったエリス様の牙により押し倒されていた彼女が再び立ち上がり 鎌を持って笑っている

「よくもスカルモルドとスヴェイズを倒してくれましたね、ですがそれは私にとっても好都合というもの、二人は私も含めて三人同列の実力と考えているようなのでね それに合わせるとなると私も真の力を発揮しにくいのですよ、そう 今までの力は私の半分以下の物、分かりますか?半分の力で死番衆の隊長を務める私の本気は 即ち神将にも匹敵するという事を、貴方達は決して開けてはならぬ地獄の底に繋がる蓋を自らの手で開けてしまったという事を、フフフ 今更泣き喚いても遅いですよ?私は既に貴方達を射程圏内に捉えています、いの一番に私を倒さなかった事をあの世で後悔しなさい」

「黙殺って呼ばれてる割にこいつめっちゃ喋るな…、一人だと饒舌になるタイプか?」

「そうですね、あー…アマルトさん…」

「ん?ああ、なるほど 任せな」

「フフフフフ、私の影を操るシャドウマリオネットは闇の中でこそ真の力を発揮する、私が操れる影が私の物だけと思わない方が良いですよ、影とは万民に与えられた咎にも似た天の烙印、それを操る私こそが真の神の怒りの代弁者と言えるでしょう、私がこれから与える罰はつまり神の与える罰であり 神罰とは絶対であり…」

クククと一人になって存分に戦えると喜びニタニタと笑うソグン、しかし…彼女は気がつかない、一人で喋り倒すソグンを放って動き出すエリス様とアマルト様の動きに…

「さぁこれからら始まるのは神の裁定、何人たりとも逃れることの出来ない究極の罰、その身でしかと受け止めてあの世に…」

「……よっし!取ったぞ!エリス!」

「え?はぁっ!?」

刹那、ソグンの背後を取ってその両手を羽交い締めにし拘束するアマルト様の声に 漸くソグンは気がつく、お喋りに夢中になりすぎていた事を

「は 離しなさい!離しなさい!ちょっと!卑怯ですよ!」

「うるせぇ!、エリス!今だ!タコ殴れ!」

「あいあい!」

「ちょっ!?それは本当に卑怯ですって!せめて真面目に戦って…」

「おりゃぁっ!」

「ぐへぇっ!?」

アマルト様によって両手を押さえられたソグンをボカボカとタコ殴りにするエリス様…、まぁ そりゃあ多勢に無勢ならそうなるな と思えるような勝負の顛末にやや眉をヒクつかせる、まるでチンピラの戦い方だ…

「おりゃおりゃ!よくも!メグさんを!」

「ぅげっ!?げふっ!?、ちょっ!タンマ!タン…はごぉっ!?」

「やれやれエリス!やっちまえ!」

「恥ずかしくないんですかー!せめて!せめて正々堂々戦ってくださいよー!ぎゃっ!?」
 
「やれ!やっちまえ!金玉蹴れ金玉!」

「この人にはないですよ!」

最初に三対一を仕掛けてきた方がよく言いますね…、ちょっと可哀想になりますが…

「ふぅ…」

今は休ませてもらう、これが終わったら 神聖軍の追跡を振り撒いて一気にエノシガリオスを目指す強行軍が始まる、その時に少しでも助力出来るように休ませてもらう

ここは助けられよう、みんなは友達だから

そして次は助けよう、みんなは友達だから

私はメイドとしてみんなと一緒にいるんじゃない、そんな暖かな心地を胸…私はボコボコにされるソグンを見ながら横になる

ありがとうございます、私の友達

…………………………………………………………

「ぐぇー!、卑怯なりー!」

「お喋りに夢中な方が悪い」

「一人でいる方が悪い」

パンパンと手を払い 倒れ伏すソグンを前にエリスは一息つく、よし こいつらはなんとかなったな…、魔術が使えりゃ死番衆なんぞ何するものぞ ってわけですよ

何よりメグさんを無事確保できたことが喜ばしい、カノープス様の時界門で空白平野に移動したはいいがメグさんの痕跡は見つけられず…近くにメグさんがいる様子もなかった

故にエリスはアマルトさんの呪術により 帝国一の鼻を持つギャラクシー君の体毛を使い、エリスは帝国一の鼻と世界一の記憶力を持つ猟犬に変身…メグさんの微かな匂いを辿って追跡してみたらまぁ大変

神聖軍…それも何故か執行官と死番衆がダブルでメグさんを追い立てているではないか、おまけに視界を塞ぐような吹雪まで吹きすさんで…、まぁおかげで神聖軍にエリス達の存在を知られずこうして接近出来たからいいんですけどね

「さて、メグさん 大丈夫ですか?」

「はい、休ませていただいたので…、なので今は一旦帝国の方に戻りませんか?、そこで態勢を立て直して…」

「いえ、それはしばらくやめておきましょう、カノープス様から聞きましたよ?、その長距離転移 物凄い負担がかかるんですよね」

「う……」

やはりか、それを隠していたのも 全てはエリス達を思ってのこと、それはさっき確認したから良い、だが

「その結果 メグさんが苦しんで危ない目に合うのは許容出来ません、なので 今後はそれは封印しましょう、本気でやばい時は帝国に逃げることもあるでしょうけど 今後は今までみたいに安易には使わない…約束してくれますか?」

「……分かりました、エリス様達に迷惑や心配はかけたくないので」

分かってくれたならよし、今後はもう少し自分を大切にしてほしい、まぁ エリス達もメグさん救出の為無理した手前 強くは言えませんがね

「でもよエリス?、今帝国に戻るくらいはいいんじゃねぇか?、だってその本当にやばい状況ってのは今みたいな状況を言うと思うぜ?俺はさ」

う?アマルトさんの言葉も最もだ、確かに外には邪教執行官と死番衆の包囲網が敷かれている、やばいといえば確かにやばい…だが、なおのこと今帝国に戻って休憩を挟むわけにはいかないんだ

「いえ、逃げるなら今しかありません、この吹雪がエリス達を隠す銀のカーテンとなっている今なら 神聖軍達の包囲網もそれほど意味を成しませんから」

これでもし帝国に戻ってしばらくの休養を挟んだら、吹雪は止み 視界は明瞭になり 神聖軍はバッチリの包囲でエリス達を迎え撃つだろう、そうなったら突破は難しい…だから今しかない、今 この包囲を抜ける必要があるのだ

「ってことは、この吹雪を抜けていく必要がある…か」

「アイアンデッドヒートが回収出来ればそれでいいですが…」

「…ちょっと難しいですね、アイアンデッドヒートが安置してある地点のセントエルモの楔は破壊されてしまったので」

「そうですか…」

となるとアイアンデッドヒートまで徒歩で向かわねばならないことになる、となると緊急の別の移動手段が…と思案していると

「ですが、別の魔装でなら移動も出来るかもしれません…『時界門」!」

「ちょっと!?メグさん!?」

いきなり時界門を展開し始める彼女に思わず驚愕の声を上げてしまう、いやいや 何してるんですか!?さっきの約束は!?

「ご安心を、私が繋いだ先は私の無限倉庫、あそこは陛下によって時間と空間を捻じ曲げられておりますので 彼処に繋いだ際の負荷は殆どありません、それに 先程の休憩で十分回復しましたから このくらいは可能です」

そういえばカノープス様もそう言ってましたね、あそこの倉庫はカノープス様の手により無限の空間を持つといいます、無限倉庫にエリス達が移動しようと思えば話は別でしょうが そこから物品をいくつか取り出す程度なら負荷はないものと思ってもいいらしい

ならば良いかと胸を撫で下ろしていると メグさんは空間に開いた穴からスルスルと何かを取り出す

ゴトン と音を立て床に撒かれたのは、エリス達三人が乗れるくらいの大きさの鉄の板と 縄と…鉄の鳥?なんだこれ

「メグセレクション  No.43 『高速偵察型魔装 ロケットアエトス』、空を飛び 超高速で敵方を視察する事に長けた魔装でございます、これに縄を括り付けて この鉄板を引かせましょう」

「随分無茶な移動法ですね」

「今実現し得る最高速の移動法でございます、ただし エリス様の言う通り安全性はなく、ロケットアエトス内部に搭載された魔力タンクが空になったら失速します、…なのでこれは 一回限りの大博打になります…」

「博打、いいですね!勝てばいいだけですし!」

それで行こう、勝ちか負けかの二択なら勝てばいいだけだ、ならばこれ以外あるまいよ

「随分な自信だなエリス、お前博打得意なのか?」

「いえ?、そう言う賭け事で勝ったことはありません」

「ほーほーなるほど、別の方法でいかねぇ!?」

今更何を言っても他の選択肢なんかありませんよ、この吹雪の中トコトコ歩いて移動したら、そもそも勝負にさえならないんです、勝負の土俵に上がるには 無茶も上等 無理も承知で挑まねばならないのだ

「よしっ!、固定出来ました!」

「ではエリスが遠方の迎撃を行います、アマルトさんは近場の敵を切り払ってください」

「仕方ねぇか…覚悟決めるよもう!、だから任せな!ここまで来たんだ!リタイアはごめんだぜ!」

鉄の鷹を縄で括り付け 鉄の板と結びつける、その様はまるで簡易的な馬車のようにも見える、その板の上に三人で乗り込み 息を整える

…はぁー、外の敵は何人いるのか…執行官がいると言うことは恐らくだがベンテシキュメも居るだろう、トリトンもいるのかは分からないが 相手がこの国の精鋭中の精鋭である事に変わりはない…

吹雪という振りにも有利にも働くこのフィールドをフルに使わねば生還は不可能…、突破の難易度はこの国の戦いの中で最も厳しいものになるだろう

だが、ここさえ超えれば!エノシガリオスなんだ!師匠はもう目の前なんだ!、行くしかない!

「出してください!メグさん!」

「かしこまりました、『ロケットアエトス』!点火!」

刹那 鳥型の魔装は背面から炎を吹き出し大空へと飛び立とうと急加速を行う、本来なら悠々と空を飛んで見せるだけの力強い羽ばたきを見せるが その体に括り付けられた縄がそれを許さない

ピンと張った縄はそのままロケットアエトスの加速に引っ張られ 凄まじい勢いで前々へ進んでいく、急拵えにして突貫工事の推進力だがスピードは満点、そのまま鉄の板は引っ張られ ぐんぐん前進し エリス達は小屋から吹雪の中へと突っ込み進んでいく…

…そういえばこの小屋、なんだったんだろう…空白平野の真ん中にこんな小屋なんてあったかな…、まぁいいや!今は前だけを見よう!

「ぐぅっ!すげぇ加速!、吹雪の中をこの速度って…持つのか!?俺達!」

「持たせてください!アマルトさん…っ!前!前ですアマルトさん!」

猛烈に吹き付けるブリザードを叩きつけられ急激に冷えていく体、視界も殆ど効かない暴風の中 エリスは前を指す、この吹雪の中でも御構い無しに動き回り エリス達を探す追っ手の影が 前に!

「居たぞ!神敵だ!」

「真面目だねぇ、俺ならサボって帰ってるのに…」

神聖軍だ、それもあの外套…執行官だ!、この国で最も恐ろしいと言われる軍団が 一人二人じゃ効かない数で動き回っている、まるで筋肉の壁だ…

本来なら避けて通りたいが、生憎エリス達の乗ってる船は迂回も旋回も出来ない特急列車なんです、突き抜けていくしかない!

「けど、逃げるわけにはいかないよな、ダチがカッコつけたんだ!、俺も…いいとこ見せなきゃな!」

迫る筋肉の壁を前に ニヒルに笑うアマルトさんの手に握られた黒色の血剣、自傷によって溢れた血を魔術によって固めて生まれた剣をクルリと手元で回し…彼はゆっくりと構える

大きく振りかぶるような姿勢で、魔力を高めれば 彼の腕から溢れた血が更に強く 禍々しく紅く輝く

「人を呪わば穴二つ、この身敵を穿つ為ならば我が身穿つ事さえ厭わず『呪装・黒呪ノ血剣』…」

呪術の重ねがけ、既に形成された血剣の上に更に血が上塗りされるように一回り巨大になる、一振りの片刃の剣は ヌルリと生命体の如き蠢動を見せた後 馬さえも叩き切るような大剣…斬馬刀に変化し

「『鏖嵐赫閃之装』ッ!!」

白く塗りたくるような雪の嵐の間を這う 紅閃の光芒は粗い縫い物のように幾重にも重なりエリス達の周囲を走る

あれほどの長物を目にも留まらぬ速度で振るう妙技を見せるアマルトさん、彼の凄絶なる奥義は聳える筋肉の壁を容易く切り開き 神聖軍の悲鳴を奏で道を作り出す

「グギャッ!?」

「ふぅー…悪いな、あんたらが守りたい物があるように、こっちも譲れねぇもんがあんだわ」

「今のアマルト様、凄くカッコいいです」

「俺はいつもかっこいいと思うんだけどなぁ、っと!まだ来るな…!」

メグさんが空飛ぶ鉄の鷹を御する縄を全霊で掴み 軌道を無理矢理修正しながら進む中、それでも止めようとする神聖軍の壁は留まるところを知らない、吹き荒ぶ雪の中 一つ二つと次々現れる影を寄せ付けないよう アマルトさんもまた大太刀を振るう

二人とも全霊で戦っている、この窮地を脱するために…

「ッ…あれは」

そんな中 エリスは気がつく、背後から迫ってくる影が存在することを、この凄まじい加速についてくる影があることを…

「逃がさん!、これ以上聖都に近づけてなるものか!」

「神の従順なりし猟犬…、死番衆から逃げられると思うな!」

死番衆だ、標的を千里の彼方まで追いかけるオライオン屈指の追撃部隊が恐ろしい加速でこちらに迫る、見れば足の裏につけた刃で氷の上を滑り 疾走では得られないスピードを得ているのだ

速い、…このままでは追いつかれる…!ですが!

「悪いですが、監獄の時みたいに 真面目に相手してあげられませんよ…、今のエリス達を止めることは出来ません」

魔力を隆起させる、体内を循環する魂のカケラは 力となり大気に漏れ出て現象となる

それは可視化されるまでに高められ、ズシンと一つ 大地を揺らす

「っんな!?なんだあの魔力は!?」

「あれが…神敵の本来の力…!?、監獄にいた時とは比べものにならん…!」

「そりゃあそうですよ、エリス達を誰だと思ってんですか、魔女の弟子ですよ!魔女の!、貴方達にナメられるような領域にゃあ居ないんですよッッ!!」

バチバチと拳に電流が走る、監獄にいる時は封じられていた力 エリスが半生を掛けて極め抜いた力、これが魔女の弟子の本当の力なんです…、ナメてもらっちゃあ困りますよ!

「焔を纏い 迸れ俊雷 、我が号に応え飛来し眼前の敵を穿て赫炎 爆ぜよ灼炎、万火八雷 神炎顕現 抜山雷鳴、その威とその意が在る儘に、全てを灰燼とし 焼け付く魔の真髄を示せ 『真・火雷招』!!」

走る雷流は甲高い音を立てて後方に迫る死番衆に向かっていく、発せられる熱気は刹那の間 エリスの眼前から雪を 吹雪を 冷気を消し去り…

破裂する 爆裂する、紅に染まる世界 照らされる大地、燃える光は瞬く間に全てを焼き飛ばし 氷の大地すら融解させ 死番衆をその中へと消し去る

「追ってくる奴は全員吹き飛ばします」

「お前ホント味方になると頼もしいよなぁエリス」

「敵にした時の恐ろしさは凄いですがね…」

何を言いますやら、エリスからしてみれば 二人ほど頼もしく 恐ろしい人間はいませんよ、今こうして共に戦えていること自体 嬉しくてたまらないんですから

「えへへ、二人と友達になれて嬉しいですよ」

「敵と味方の温度差がすげぇ…」

「それよりアマルト様、集中してください、そろそろ包囲を抜けます… 最後の一踏ん張りでございます」

「お、そうかい?…なら 張り切るか!」

そう アマルトさんが剣を握る中 エリスは追っ手が無いか静かに視線を走らせる、この吹雪じゃどの肉眼での索敵は難しいが…、熱を見る熱視の魔眼なら 敵の存在を感知できるはずだ

そう思い魔眼を発動させながら周囲を見ていると、一つ 熱源がエリス達の側面から近づいてくるのが見える…、エリス達と同程度のスピードで並走しながら疾駆する影、また先程のような死番衆か?…とも思ったが

何かおかしい

(なんだあれ…、『熱すぎる』)

熱視で熱を見ればわかる、その影が纏う熱の量が常軌を逸しているのだ、とても人間が発しているとは思えない、まるで 火の玉が飛んでいるような熱の高さ…だがその形はまさに人型、こっちに来ているのは…人なのか?

「っ!エリス様!側面から!」

「気づいてます、なんですかあれ…」

「ああ?…って!?なんじゃありゃ!?金の火の玉が飛んでるぞ!」

熱視を閉肉眼で確認すれば それは吹雪の向こう側でも見えるほど強く輝いていた

吹雪の奥からでも分かる程猛々しく燃える金の炎、それが雪原を掛ける雪兎のような速度で揺らめきながら走っている…いや、あれは滑っている?

金の…炎の…兎…?、確か奴の異名は 『炎毛金爪の雪兎』…、まさかあれ!

「テェ~~メェ~~らぁ~~~!!!」

「うげっ!?あれ!」

吹雪を切り裂き 肉薄し現れる修羅は、怨嗟の如き怒りを響かせ現れる、ここまで近づいてもなお 人かどうかも判別出来ない程、溢れる殺意はエリス達を芯から震えさせる

風に揺れる髪は黄金の炎を纏い、足のように伸びる剣は地面を切り裂き 両足に取り付けた板で地面を滑る…、まさに黄金の炎兎 それが牙を剥き エリス達に狙いを定める

「来ましたか…!、ベンテシキュメ!」

「逃すかァッ!!、神敵がァッ!!!!!」

炎を纏う兎 罰神将ベンテシキュメが エリス達の逃走の行く手を阻む、彼女の出現は察していた、この軍団を率いているのが彼女である事は察していた、だからこそ覚悟していたこいつを超えない限り エリス達は聖都に向かえない事を…!

「いいですよ、相手してあげます…、エリス達は聖都に向かいますから だから!道を譲ってもらいますよ!」

故に越える、神将を!ここで!
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