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誓い
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それからヴィンセント皇子は立ち上がった。
ベッドで座っているあたしの方へ身体をかがめて来る。
皇子の顔が近づくので、あたしは今度こそ目を閉じた。
皇子の唇は薄くて、冷たかった。
冷たい唇があたしから離れると皇子は咳払いをひとつして、椅子を持ってきて側に座った。
「マリア、君が襲われた経緯が」
「犯人はリベルタ王妃ですわ。魔力の回復の為に乙女の肉体と血を奪う、とか何とか言ってました」
「魔力の回復?」
「ええ」
「顔をはっきり見たのか?」
「いいえ、フードマントを被ってましたから。でも……リベルタに違いないでしょう?」
「そうだな、第一容疑者には違いない。だが証拠がなければ断罪も出来ない」
「証拠かぁ……」
「マリア、危ない事はするなよ」
と皇子も果梨奈先輩と同じような事を言い出した。
「でも多少の危険は承知でやらないと……そういえばヴィンセント様、私の危機がどうしておわかりになりましたの?」
果梨奈先輩から聞いてるけど、皇子から具体的に聞きたかった。
「ああ、それは……グレイが」
「グレイ騎士?」
「そうだ、突然、母上の言葉が降りてきたと言って。マリアの危機だからすぐに行くようにと。グレイは人が違ったようだった。まるで、本当に母上の言葉のように話すのだ。酷く慌ててな。私はその時、まだ薔薇園にいて、君の事を考えていた。グレイは騎士一個団を引き連れてから驚いた」
「そうだったんですか」
「母上はまだこの城にいたのだな……長い間、ずっと一人でここにいたのかもしれない」
そうだよ。リベルタに殺されて、ずっと一人でいたんだよ。
一瞬、全て皇子に話してしまおうか、とも思った。
だけど、やっぱり確証がないと駄目だろうな。
それに最初の目的はローレンス皇子が王位を継承しないようにする事だった。
その為にはやっぱりリベルタの悪事をきちんと明るみに出さなければならないんだ。
「それにしてもマリアが襲われたのは何故だ? 突然すぎる気がする」
「あー、それは……実はリベルタにカマをかけたのですわ」
「カマ?」
「ええ、今日の昼にカリナ様のお部屋を掃除した際、カリナ様直筆の冊子を見つけた、と」
「マリア、何てことを!」
「カリナ様の書き残した冊子に何か具合の悪い事でも書かれていたらと思ったのでしょうね。多分、食事の間に私の部屋は捜索済みでしょう。でも何も見つからなかった。まあ、囮ですからね。それでいっそ私を、と思ったのかもしれませんわ」
皇子は深いため息をついた。
「何て事だ」
「でもこれで、リベルタ王妃がカリナ様の死に関係があるという事が分かりましたわね」
「そうだ。だが、君を危ない目に遭わせてまで母上の死の真相を探る気はない。そんな事をしても母上は喜ばないと思う」
と言うヴィンセント皇子の後ろで腕組みをしてうんうんとうなずいているのは果梨奈先輩だ。
「引き下がる気はありませんことよ」
「マリア!!」
「売られた喧嘩は買うのがモットーですの。例え刺し違いになってもこのケリはつけさせていただきますわ」
「マリア、そんなことはさせられない」
「ヴィンセント様は私を守って下さいな。それとも自信ありませんか? グリンデル騎士団で一番の遣い手なのでしょう?」
あたしは皇子を見つめた。
(やれやれだ。もめ事好きなのは変わらないね)
とため息とともに果梨奈先輩のつぶやきが聞こえてきた。
「分かった。私の命に代えても君を守る事を誓おう」
と皇子が言った。
ベッドで座っているあたしの方へ身体をかがめて来る。
皇子の顔が近づくので、あたしは今度こそ目を閉じた。
皇子の唇は薄くて、冷たかった。
冷たい唇があたしから離れると皇子は咳払いをひとつして、椅子を持ってきて側に座った。
「マリア、君が襲われた経緯が」
「犯人はリベルタ王妃ですわ。魔力の回復の為に乙女の肉体と血を奪う、とか何とか言ってました」
「魔力の回復?」
「ええ」
「顔をはっきり見たのか?」
「いいえ、フードマントを被ってましたから。でも……リベルタに違いないでしょう?」
「そうだな、第一容疑者には違いない。だが証拠がなければ断罪も出来ない」
「証拠かぁ……」
「マリア、危ない事はするなよ」
と皇子も果梨奈先輩と同じような事を言い出した。
「でも多少の危険は承知でやらないと……そういえばヴィンセント様、私の危機がどうしておわかりになりましたの?」
果梨奈先輩から聞いてるけど、皇子から具体的に聞きたかった。
「ああ、それは……グレイが」
「グレイ騎士?」
「そうだ、突然、母上の言葉が降りてきたと言って。マリアの危機だからすぐに行くようにと。グレイは人が違ったようだった。まるで、本当に母上の言葉のように話すのだ。酷く慌ててな。私はその時、まだ薔薇園にいて、君の事を考えていた。グレイは騎士一個団を引き連れてから驚いた」
「そうだったんですか」
「母上はまだこの城にいたのだな……長い間、ずっと一人でここにいたのかもしれない」
そうだよ。リベルタに殺されて、ずっと一人でいたんだよ。
一瞬、全て皇子に話してしまおうか、とも思った。
だけど、やっぱり確証がないと駄目だろうな。
それに最初の目的はローレンス皇子が王位を継承しないようにする事だった。
その為にはやっぱりリベルタの悪事をきちんと明るみに出さなければならないんだ。
「それにしてもマリアが襲われたのは何故だ? 突然すぎる気がする」
「あー、それは……実はリベルタにカマをかけたのですわ」
「カマ?」
「ええ、今日の昼にカリナ様のお部屋を掃除した際、カリナ様直筆の冊子を見つけた、と」
「マリア、何てことを!」
「カリナ様の書き残した冊子に何か具合の悪い事でも書かれていたらと思ったのでしょうね。多分、食事の間に私の部屋は捜索済みでしょう。でも何も見つからなかった。まあ、囮ですからね。それでいっそ私を、と思ったのかもしれませんわ」
皇子は深いため息をついた。
「何て事だ」
「でもこれで、リベルタ王妃がカリナ様の死に関係があるという事が分かりましたわね」
「そうだ。だが、君を危ない目に遭わせてまで母上の死の真相を探る気はない。そんな事をしても母上は喜ばないと思う」
と言うヴィンセント皇子の後ろで腕組みをしてうんうんとうなずいているのは果梨奈先輩だ。
「引き下がる気はありませんことよ」
「マリア!!」
「売られた喧嘩は買うのがモットーですの。例え刺し違いになってもこのケリはつけさせていただきますわ」
「マリア、そんなことはさせられない」
「ヴィンセント様は私を守って下さいな。それとも自信ありませんか? グリンデル騎士団で一番の遣い手なのでしょう?」
あたしは皇子を見つめた。
(やれやれだ。もめ事好きなのは変わらないね)
とため息とともに果梨奈先輩のつぶやきが聞こえてきた。
「分かった。私の命に代えても君を守る事を誓おう」
と皇子が言った。
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