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第1章

手紙

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 高校生活を満喫していたある夏の日の平日だった。いつも毎朝の学校への登校では電車登校で学校の最寄り駅までにまいかと途中の駅で合流して一緒に登校していた。学校へ着くと自分の上靴がある靴箱へ向かい、靴箱の扉を開けると一通の手紙が自分の上靴の上に置いてあった。私は驚き、声は出なかったものの眠気が一気に吹っ飛んだ。この朝の時間帯と一通の手紙ということはどう考えても〈告白〉の2文字しか思い浮かばない。その手紙を取って見ると、封筒のどこにも差出人は書いていなかった。しばらくするとまいかが私の方にやって来た。それに気づき思わず自分のボストンバッグに手紙を突っ込んだ。


「涼~、手持ち扇風機持ってない?めっちゃ暑いんだけどって、なんでそんな歩き方ぎこちないの?」
「いやいやっ!別にっ!なにもないよ~、、」


 まいかが私の方にジーッと見つめた。その目線が気まずくて、まいかの目から逸らした。私はあまりああいう手紙とかでまいかからしばしばおちょくられるなので目立ちたくなく、反射神経ですぐ隠したくなる。まいかとよく知っている仲とも言えども、恥ずかしいとかそういう感情はもちろんあるし、恋愛面の方ではプライベートだから秘密にしていたい。これは過去の恋愛で培ってしまった性格で、恋愛は誰からも干渉されずに静かに過ごしたいというのが本音だ。だけど、明らかに私の相槌とかが不自然すぎたからまいかは私が何か隠しているとすぐにわかったようで口をとがらせて拗ねてしまった。私はまいかにすぐ謝り、不自然な行動をとってしまった理由を教えると私の予想通りにまいかはニマニマした顔でおちょくってきた。予想していたにしろ、やはり教えても私の心の底から顔にかけて体温が高くなり顔が暑くなったのは誰が見てもわかるくらいになった。おちょくられている最中にたまたま治と颯汰に会った。2人はバスケ部の朝練終わりらしく、服装がまだ部活着のままだった。


「あれ、まいまいと涼だ。いつもならここにいないのにどしたん?」
「ほんとだな、2人ならこの時間帯は教室にいる頃だろ?てか、涼の顔も赤いし」
「ねぇ!2人とも聞いてよー!涼がさー、んぐっ!?」


 まいかが手紙が入っていたことを2人に伝えようとしたので、私はすぐにまいかの口を手で覆った。さすがに友達でも異性の2人に知られたくないと咄嗟に動いてしまった。2人は私のとった行動に驚き口を開いたままだったが、`またねっ!´と言ってまいかを連れて教室に向かった。すれ違う人は私がまいかの口を覆って早歩きで進んでいるから不審な顔をしていたと思う。だけど、私はそんなことも気にする余裕もなくとりあえずあの2人から離れたい一心だった。ある程度の距離まで来ると私はまいかの口から手を退けた。するとまいかは大きく深呼吸をしてから`なにするの!死んじゃうかと思った!´と注意された。私は気が気じゃなかったからまたすぐ謝った。まいかはフンっと顔をそっぽ向けた後にジュースを奢ることで仲直りの条件に出してきて、私はすぐ快諾した。そうするとまいかはいつも通りの笑顔になり、一緒に教室に向かった。
 教室について私は席に着いて、手紙を取りだして早速開いた。手紙の内容は`今日の昼休憩に体育館裏に来て欲しい´とのことだった。ちゃんとした手紙にこの1行の文章は小さく思えるが、この文章に何かしらの感情が篭っているのを感じた。私はこの手の呼び方は中学生以来だったため手紙を持っていた両手が少し震えた。私がこそこそ読んでいたのを見てまいかが来た。私はさっきのように拗ねさせてはならないと思ってまいかにも手紙の内容を見せるとまいかはまたニマニマした顔で何回も私をちらちら見てきた。


「、、そんなにニマニマしてこっち見ないでよ」
「えぇ~、してないよぉ~」
「その顔しててよく言うよ」
「それで?昼休憩に体育館裏行くの?」
「まぁ、手紙を入れてくれてたから差出人の人はいつもより早く学校に来てたって事でしょ?行かないと申し訳ないしね」
「涼はそういうとこ律儀だよねぇ」
「そんなことないよ~」


 そう話していたら教室にいた数人の女子がざわつき、男子もコソコソ話し始めた。なんだろって思って教室の入口を見ると治と颯汰がいた。さっき会った時に来ていた部活着ではなく、学ランに着替えていたから部活が終わった後にそのまま私とまいかのクラスまで来てくれたようだ。治と颯汰は真っ先に私たちの方に来て話しかけてきた。クラスの女子の視線が一気にこっちに向いているのがわかったが、気になったら負けなのでいつも4人で集まっている時のテンションで話し始めた。


「2人ともどうしたの?こっちに来るの珍しいね」
「朝からまいまいが思いっきり涼に口を覆われてるのを見たら、普通に気になっちゃうでしょ」
「そんで俺も治も気になって仕方がないから涼の隠してることなんだろうな?ってなってここまで来たんだよ。それで?まいかには言えて俺たちには言えないことなんてあるんだ?」
「え!?いや、、その、、まぁーね?」

 まさか2人にも聞かれると思わなかったから必然的に言葉を濁してしまった。やはり友達と言えど、異性の友達が目の前にいると言おうとしても恥ずかしすぎて言えない。まいかの口から覆っていた手を下げて、無意識に私は両手を後ろに組んだ。そうすると2人はさっきより私を疑うような目を向けた。

「うわぁ、その反応は見るからに怪しいな」
「さっき学校着いて、涼が靴箱開けたら手紙入ってたんだよー。今どき珍しいよね~」

 私は自分自身で両手を後ろに組んだことを気づいておらず、まいかの口は今だ、という時に開いていた。私はハッとしてまいかの方に目を向けた。


「ちょっ!まいかさん!?」
「ほぇー、すごいじゃん。涼のモテ期到来じゃん」
「そんなんじゃないってばっ!」
「って言ってますけど颯汰くんどう思います?」
「明らかに告白だろ」


 私は知られたくなかった2人に知られて恥ずかしくなり、自分の顔を覆うことしかできなかった。まいかは面白いかのように2人に`だいせいかーい!´と喜んでいたけれど私はそれどころではなく、本当に穴があったら入りたいってこういうことなんだなと初めて実感した。私が恥ずかしがっていると颯汰が話し始めた。


「涼はもう手紙の内容を見たんだろ?どうすんの?受け入れるの?」
「、、いや、差出人が誰かわからないから、とりあえず行かなくちゃって感じです」
「ふーーん、、あっそ」
「、、、?」
「なにぃ、その意味ありげな返事はぁー」
「相変わらず俺より反応が薄いんだからぁ」


 私は颯汰の反応に戸惑ってしまったけれど、治とまいかがなんとかその場を凌いでくれたから雰囲気は明るいままだったけれど、颯汰と治が帰っていった後に私は颯汰を怒らせてしまったかもしれないと頭から離れなかった。けれど何も思い当たるところがなかったから頭の中の思考がぐるぐるになっていた。
 とりあえず私は1限から4限まで授業をなんとか集中して受けて、昼休憩に突入のチャイムが鳴ると私は手紙で呼ばれた通りに体育館裏に向かった。

 体育館裏に着くとまだ誰もいなくて体育館の壁にもたれて手紙の差出人が来るまで待っていた。高校は少し高めの丘にあり、体育館裏からはちょうど綺麗な海が見えるはずだが今日は天気が曇りなので海面が太陽の反射でキラキラ光ることもなく、深い青色が波たっていた。その海を眺めていると誰かの足音がした。その方向を見ると見かけたことはあるが名前やクラスはわからない男子がいた。手紙の差出人だろう。
 私の男子に対する第一印象は一般的にモテると思われる男子だった。私は頭の中で誰かわからず困惑で思考を巡らしているとその男子が私の方を見つめた。どちらかが最初に話しかけないと始まらないような気がしたので私から話しかけた。


「えっと、今日靴箱に手紙を入れてくれた人かな?」


 そういうと男子の頬がほんのり赤くなったのがわかった。その男子は少し慌てている様子なのでもしかしたら告白をしたのは人生で初めてなのかもしれない。初めて慣れないことをしたものだから目線が私と一切合わない。私も話しかけたというもののどうしたらいいかわからず、ただ男子の返答を待っていた。

 返答こそしなかったが、彼はこくりと頷いた。やはり差出人の本人だった。さっきまで目線が合わなかったのが今ははっきり男子の目に私が映っている。
 意を決したような目だった。その目が私には眩しくて、私とは程遠い青春の目をしていてちょっぴり羨ましいと思いつつ男子の返答を聞き始めた。


「俺は1年の時から永井さんのことが気になっててっ、、!その、俺と付き合ってくれませんか!」

 どうやらこの男子は私と同学年らしい。彼の上靴のサンダルを見るに私と同じ緑色だった。
 
 やはり告白だった。
 中学2年生から高校1年生の春頃までに実は彼氏がいたことがあった。だけど涼の熱しやすく冷めやすい性格のせいで、相手から告白されて付き合ったのに相手から振られてしまったのだ。顔しか見かけたことがない男子と付き合っても歴代の彼氏達のように別れることになるだろう。歴代の彼氏たちは私と付き合うことで学生生活の〈勝ち組〉になれると意気込んでいたに違いない。けれど、私の性格上その期待を壊してきた。私はこの男子が去年から気になっていたと聞いて9割は私の見た目の印象で恋が芽生えたのかもしれない。もしそうだったなら付き合うよりかは断ってあげた方がこの男子にとって優しい判断なのかもしれない。いや、絶対そうだ。私は、恋愛には向かない性格なのだから断らないと。私は手紙をくれた男子に断ることしか頭になかった。


「ごめんなさい。私はあなたのことをあまり知らないし、多分すれ違ったことはあると思う。けれど、ごめんなさい」


 そういって私は後ろを向いて教室に戻ろうとするとまた男子が話し始めた。


「俺は佐藤っ!佐藤 康平っ!2年7組で出席番号は13番!あと俺はサッカー部で、、!」

 
 私は彼が名前、クラス、出席番号、部活とその他いっぱい必死に彼の情報を伝えようとしている初心で帰らせまいとしている少し強情なところに私の心が緩みくすくすと微笑んだ。けれど、佐藤くんのために私は断らないといけないことには変わらない。
 彼がまだまだ言い続けようとしていたが私は`ごめんね´と謝ってまた彼に背中を向けて教室に帰った。彼はもう一度、私を呼び止めることなく、断られたことを受け入れたようだった。







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