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うちの隊長は本日クラウゼ家方面は鬼門なので近づかない事にしております

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 ラグナー達は城の北側、貧民街のスラムに近い場所を担当する事になった。
 歩いていた場所を見渡して、なるほど。貴族の坊っちゃん達は来たがらないわけだと思うも自分が今では伯爵と言う爵位持ちなのを棚に上げてそっと溜息を吐くのだった。
 街を見回れば住人達が珍しい顔ぶれだというようにじろじろと無遠慮に眺めてきた。
 俺もアレクも気にしないというように適当な店で菓子を買ったり果物を買ったりして食べていればゴルディーニはそんなもの食べて大丈夫なのかというような心配そうな顔をしながらも呆れていた。
 だけどレドフォードは店の人にお金を支払いながら何か会話を楽しんでいて、移動しようと声を掛けるまで話をしていた。

「さすがシーヴォラ隊の方は女性とのおしゃべりを心得てますね」

 妙齢の女の人であったけど仲良くしゃべっていた光景をからかい交じりに冷やかせば

「ああ、さっきの人ヴォーグの患者さんだった人なんですよ。
 最近見ないからどうしたって心配しててね、一応親が危篤だからその身一つで大急ぎで国に帰ったって事を教えておいたんですよ。
 帰って来るかどうかも分からないから……
 何時までも待つ身も可哀想だし、期待し続けるのも哀れだから」

 この話は今日中にスラム中に広まるだろう。
 そしてあっという間にヴォーグの事は忘れ去られるのだろう。
 改めて寂しいなとレドフォードは呟き

「隊長達も食べます?
 木の実の焼き菓子ですが」
「折角だから貰おうかな」

 言ってひょいとつまみ上げて口へと躊躇いなく運ぶのをゴルディーニはもうちょっと警戒しなさいと言葉無く眺めていれば

「ああ、この味。
 あの店だったのか」
「隊長も知ってましたか?」
「よくお土産に買ってきてた」

 少しだけ懐かしそうな、少しだけ泣きだしそうな顔で食べ終えればそのまままた歩き出して周囲の様子を伺う。
 そんなラグナーの後ろを見てか先ほどの菓子屋の女の人がレドフォードの横に並び

「あまり大きな声じゃ言えないけど、最近冒険者崩れがこの辺をうろうろしてる。
 ボヤ騒ぎもやたらと多いしあたし達もみんな警戒してる。
 もし何か起きた時はあたし達の事は自分で何とかするから、あいつらを捕まえてくれよ」

 頼んだよ

 その言葉を残してまた店番に戻る姿を見てゴルディーニは関心をする。

「とてもじゃないが我々では得られない情報だ」
「ヴォーグの奴が繋いでくれた縁ですから」

 俺達の功績じゃないとだけ伝え、少し距離の離れたラグナーとアレクの姿を追いかける様に急ぎ足で合流して城壁まで足を運ぶ事にするのだった。





 

「それにしても見事なお庭ですわねぇ」
「ええ、庭を変えられて三月ほどたったとお聞きしたのに。
 庭師も替えられてどうなるかと思いましたが、冬だというのにこんなにも見事にバラを咲かせるなんて素敵ですわ」
「ほんとにそうですわぁ。
 この季節と言えばあまりお花を愛でる事のお庭が無く、お花が咲いてても寂しそうなお花ばかりでガーデンパーティは不向きな季節なのに」
「ほんと見事と言うしかないですわねぇ。
 皆さまもそう思いません?」

 ほほほと朗らかな話し声と絶えない笑い声の響く一角とは別に冬に相応しい形相の者達の居る一角もあった。

 ガーデンパーティーとはいえどもガラス張りのサロンはそのまま庭へと続く温室のような場所。
 陽射しも良い為に暖炉の火も必要のないサロンは籐のカウチや涼しげなガラス張りのテーブルにかけられたレースのクロスが季節関係なく良く似合っていた。
 そして暖かな湯気の立つパイの隣に添えられたアイスクリームの溶けるさまや焼き鏝を押された冷たいプディングもこんな季節だというのにその余韻すら楽しめる優雅な茶会はクラウゼ家の女主人と初めてこの屋敷を伺う事になったエーンルート侯の奥方とブルフォード家前当主の奥方が仕切っていた。

「ソフィア様はほんと羨ましい。
 このお庭はもちろんエントランスのお花も見事で、このように美しいお花に囲まれて私も旦那様に久しぶりにおねだりしたくなりましたわ」
「ですが、おねだりしてこのような見事な庭を管理できる庭師なんて早々手配できないですわ。
 こちらの花も初めて見ます。
 さぞ希少な品なのでしょう?」
「本当にそこはどうしようもないですけど、それにしても羨ましいですわ。
 このような濃い翡翠色を持つ蘭なんて、ぜひ我が家にも分けて戴けたいですわ」
「まぁ、奥様。蘭は株分けしてもうまく咲かせる事が出来るか難しくてよ?」
「そうなのよ。
 ですが、あちらのオールドローズなら分けて戴きたいわ。
 知っておいででしょう?
 私オールドローズのコレクターなのよ?
 なのにこちらのオールドローズはどれも初めて見る物ばかり。
 何てすてきなのでしょう!」

 話し相手どころか他にも数人いる奥方を置いてきぼりのエーンルート侯の奥方の怒涛の会話にクラウゼ家当主の妻ソフィアはひたすらほほほと笑うばかりであった。
 何せ本日並べられた花達は総てカレヴァ達にお任せで頼んだのだからソフィアはこんな展開になるなんて予測もしなかったのだから……女主人としては失格だ。

 このような時期に茶会何てしなくてはいけないのはこの社交シーズンの恒例行事だ。
 貴族同士の繋がり、情報交換、政治などお家の為にどれだけ噂や情報を集めれるか妻の仕事だが、ここ数日の不穏な事件が多発していた為に取りやめた家だってあったというのに、このクラウゼ家の茶会は家人の意志を無視して実行されることになったのだから、飛び入りの応援に正直助けられたと思っているもこのような展開になるとはさすがに予想はつかなかった。 
 なぜ強引にも茶会が開催された理由は過日の庭師騒動が一端に在った。
 庭師で同盟を組んでクラウゼ家の誘いをボイコットした話は当然社交界でも密かに話題になった。
 陰湿な、じめじめとした噂話とからかいはクラウゼ夫妻の心をひどく動揺させた物の、元冒険者と言う庭師を入れた事で更に話題を振りまく事になり、ついに面白半分からかいついでに茶会を要求され、新しい庭をお披露目しなくてはならなくなってしまった。
 すぐに夫であるクラウゼ伯と家令、執事と庭師全員をかき集めて作戦会議に入れば誰もが頭を痛める中

「承知した。
 場所はサンルームで一足早い春の催しでいいのか?」

 ぶっきらぼうな口調は変らない物のそこは既にクラウゼ家は慣れてしまっていたものの

「せめて何点かでいいの。
 バラを準備出来ないかしら?
 四季咲きの小さなものでいいわ。
 冬場でも十分華やかになるから……」

 かつてあとある家の茶会に用意されたバラが奥方の心を射止めていた事を思い出して、まだ庭として完成されてない様子に華やかになればとリクエストをした。
 二株三株の数点でよかった。
 なのに実際はエントランスにバラをメインにされた華やかな花達が出迎えをし、このサンルームにも季節感が狂わんばかりの大輪のバラが咲き乱れていた。
 季節は何時だろうかと思わんばかりに部屋中どころか屋敷中からバラの匂いが広がり、顔つなぎの為に、あわよくばクラウゼ家の嫡男とその友人に会いたいという娘を連れてきた奥様方はともかく娘達の方は余剰のバラで作られたジャムで紅茶を楽しんだり、さらにお土産にとバラが用意されていた。
 予想した物とは明らかに違う季節感の狂った華やかな茶会になってしまったが、バラマニアを喜ばせ、夫婦仲が良くなりそうならよいのではと気持ちを切り替えて笑みを浮かべて世情の話しを交わすのだった。











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