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うちの隊長は逃げ出します
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今シーズンの社交界に何度顔を出しただろうか。
伯爵となっての顔繋ぎや改めての紹介、後見となってるクラウゼ家と付き合いのある家との繋ぎ、いつもながらそれを総てにこやかにこなすクラウゼ夫妻を凄いと思う。
騎士団の隊長で出席していた間は疲れた、後は任せると言ってこの場をアレクに任せて後にしてた。
今回は俺が伯爵としてこの場から動けない為にアレクが隊を動かしている。
レドフォードも何とか様になる様になってきたし、レーン小隊長のバックアップと意外な事にノラスがいい仕事をするようになっていたのだ。
もともと頭はいい奴だったから教えればすぐに呑み込めてたがここにきての急成長に何があったのかと思えば
「隊長には言いづらいのですが、ヴォーグさんが居た時にいろいろ仕事の仕方を教えてもらって、ようやく判かってきたのです……」
ものすごく言い難そうに言うノラスにランダー達は
「何で新人に仕事の仕方を教えてもらってるのよ!」
なんて怒られていたが、アレクが俺の書類の仕事を一通り教えていたのだ。
ノラスに教えれるレベルにはなるよなとあの量を思えば、あいつの仕事は完ぺきだった事を今になって残された書類の山達が教えてくれた。
ヴォーグの書いた書類を見ては懐かしさに泣きたくなる。
だけど、そんな姿を見せるわけにもいかず誤魔化すように別の書類をとりだしてきをまぎらわせていた。
失恋のショックは今も引きずっているが、どう考えても釣り合わない関係。
ヴォーグは俺には釣り合わないと言っていたが実際は俺の方が身の程をわきまえろと言わんばかりの身分差だ。
冷静に考えれば考えるほどこの想いは実るわけがない事を思い知らされて、溜息が自然と零れ落ちた。
「ラグナー、今日は少しはもう少しましな顔をしろ」
入場する前、正面にアレクが立っていて最後の身だしなみを整えてくれた。
エスコートする相手もいないしされる相手も居ないので一人での入場と言う目立つことこの上ないものだが、今日の為にと新たに誂えられた淡い青を含むシルバーにも似た正装した姿をランダーは褒め称えてくれるも怒涛の言葉の羅列の賛美は右の耳から左の耳に抜けて行って何を言っていたかはもう覚えてない。
その後でこのアレクの眉間にしわを寄せた顔を見て
「生まれつきの顔をこれ以上どうすればいい」
呆れて言うも彼は顔を顰めるだけ。
「今日はヴォーグも出席の予定になってる」
ひょっとしたら話が出来るぞと言いたいのだろうが
「これ以上期待したくない……」
アレクの肩に手をトンと叩いて
「相手は大公でバックストロムの剣でこの国を守護する精霊だ。
俺にこれ以上どうしろと言う……」
言葉にすればするほどみじめになる。
自分の出自以上に差がある事など考えた事も無かったが、こればかりはこれ以上踏み込めなかった。
「男同士とかそんなのどうでもいいって思ってたのに、せめて王族程度なら足掻いたかもしれないが、相手は物語の伝説の人だ。
俺一人がどうこうできる存在じゃない」
肩に置いた手で押して距離を取る。
「遠くから眺める事が出来ればとは思っている」
もう隣に並ぶ事も、あの腕に中に閉じ込められる事も無い関係だ。
「とりあえず元気か見てくる」
そう言って一人だけ名前を呼ばれて入城すれば、すぐに見知った顔が、先に入場していたクラウゼ夫妻と合流し、夫妻の友人達が集まってきて一人の入場を誤魔化すかのように賑やかに騒ぐのだった。
やがて入場時間も過ぎ楽団の演奏に色々なうわさが飛び交う時間もピークとなる頃、その喧騒を打ち消すかのように今宵の主催者が顔を表した。
国王が王妃の手を引いて姿を現せば誰もが頭を下げて登場に敬意を払う。
その後に王太子殿下が現れるが、その前に王太子殿下が一人の手を引いて現われた。
妹だろうか、それとも婚約者だろうか。
長い間婚約者が決まっていなかっただけに会場中に緊張が走るも、現れたのは……
「ヴォーグ……」
会場がざわめいた。
数か月前に魔族との祝勝会を散々にした者が王太子よりも早くあらわれ、今も王と王妃によってエスコートされるように王を中心に王妃の反対側に位置どった立ち位置に会場内のざわつきは止まらない。
だけどその隣を王太子が並び、にこやかに何か話しかければヴォーグもにこやかに返す様子に仲がいいと言うアピールは十分伝わる。
誰も信じようとしてないが、それでもそう言うアピールなのだから表立ってはそう言う物だと受け止めなければいけない貴族のめんどくささにいつの間にか隣に立っていてくれたクラウゼ伯は
「貴族とはそう言う物だ」
呆れ混じりの呟きになるほどと頷くだけにしておいた。
やがて王の挨拶から始まりパーティーの開催宣言、そしてダンスタイムとスケジュールは動いて行く。
ヴォーグは王族が並ぶ場所から動くことなくずっとエリオットと国王達と話をするばかり。
時々背後に並ぶ宮廷騎士達から飲み物を貰って談笑しているが、こちら側には降りて来る事はせず、やがて国王に丁寧に頭を下げて下がって行ってしまった……
「早々に退出してしまったようだね」
何時の間にそばにいたのかエーンルート侯が隣にいた。
「ですが、元気そうな顔を見れて少し安心しました」
本音が漏れた。
一目会いたかった……
女みたいな気持ちなんてないと思っていたものの、実際遠目にでも合う事が出来ればほっとした自分が居てエーンルート侯から視線をそらせてしまった。
「君もこれだけの大きなパーティーはまだ慣れないだろう。
外で空気を吸ってくるといい。
水路のあるガゼボを私はお薦めするよ。
君には仕事柄良く知ってる場所かもしれないが、この時間はまだ人も少ない。
時間を潰すにはちょうどいい」
ポンと背中を押され、庭に降りるテラスへと足を向ける事になった。
少し悩んだもののまあいいかとそのまま警備上まだ警邏も回ってこない時間帯の静かなガゼボへと足を向ければ人影が既にあった。
「先客がいたか……」
どうするかと思うも月明かりに映し出された顔に思わず呼吸が止まってしまった。
思考も止まり、気が付けばすぐそばまで足を運んでいて……
「パーティはまだ始まったばかりです。
御加減でもよろしくないのでしょうか?」
警邏の時に声を掛ける時の言葉で声を掛ければ、ベンチに座り疲れていたかのように俯いていた頭が弾いたように上がり、視線が合った。
驚きに見開く瞳に映る俺は悪戯が成功した子供のように笑っていた。
最近笑ってなかったな……
上手く笑えているだろうかと思うも、驚いて言葉を出せないでいる先客の隣に立って
「隣をよろしいでしょうか?」
聞いて座ろうとするも
「まって、汚れるから……」
ポケットから取り出したハンカチを俺の座る場所へと敷いてくれた。
「別に女じゃないんだが……」
思わぬ扱いに睨んでしまうも
「その色の服だと汚れが目立つ」
「そう言うお前の服も汚れが目立つな」
深い深い夜の藍を含む色には白い大理石でできたベンチは大敵だ。
「俺はもう引っ込む予定だったからいいんです。
ですが、ラグナーはそう言う分けにはいかないでしょう?」
久しぶりに名前を呼ばれて心臓が跳ね上がる。
踊りまくってるかもしれない。
「俺はどうとでもなるからいいんだよ」
誤魔化すように言いながら敷いてくれたハンカチに座れば不意に触れた腕と腕に緊張が伝わりませんようにと願ってしまい、なんとなく会話が途切れてしまうも
「前も思ったけど、良く似合ってる。
髪型も普段と違って、瞳が良く見えて、綺麗だ……」
うっとりと見つめられれば生娘のように俺は俯いてしまい、そのままコテンと肩の上に頭を預ける。
「少しこのままで、肩を貸してくれヴォーグ……」
「いつまでも……」
そんなわけはいかないのにと判っているのに、だけどそれがなんだかおかしくて二人してこの心地よい時間が流れるのを邪魔しないように静かに笑っていた。
伯爵となっての顔繋ぎや改めての紹介、後見となってるクラウゼ家と付き合いのある家との繋ぎ、いつもながらそれを総てにこやかにこなすクラウゼ夫妻を凄いと思う。
騎士団の隊長で出席していた間は疲れた、後は任せると言ってこの場をアレクに任せて後にしてた。
今回は俺が伯爵としてこの場から動けない為にアレクが隊を動かしている。
レドフォードも何とか様になる様になってきたし、レーン小隊長のバックアップと意外な事にノラスがいい仕事をするようになっていたのだ。
もともと頭はいい奴だったから教えればすぐに呑み込めてたがここにきての急成長に何があったのかと思えば
「隊長には言いづらいのですが、ヴォーグさんが居た時にいろいろ仕事の仕方を教えてもらって、ようやく判かってきたのです……」
ものすごく言い難そうに言うノラスにランダー達は
「何で新人に仕事の仕方を教えてもらってるのよ!」
なんて怒られていたが、アレクが俺の書類の仕事を一通り教えていたのだ。
ノラスに教えれるレベルにはなるよなとあの量を思えば、あいつの仕事は完ぺきだった事を今になって残された書類の山達が教えてくれた。
ヴォーグの書いた書類を見ては懐かしさに泣きたくなる。
だけど、そんな姿を見せるわけにもいかず誤魔化すように別の書類をとりだしてきをまぎらわせていた。
失恋のショックは今も引きずっているが、どう考えても釣り合わない関係。
ヴォーグは俺には釣り合わないと言っていたが実際は俺の方が身の程をわきまえろと言わんばかりの身分差だ。
冷静に考えれば考えるほどこの想いは実るわけがない事を思い知らされて、溜息が自然と零れ落ちた。
「ラグナー、今日は少しはもう少しましな顔をしろ」
入場する前、正面にアレクが立っていて最後の身だしなみを整えてくれた。
エスコートする相手もいないしされる相手も居ないので一人での入場と言う目立つことこの上ないものだが、今日の為にと新たに誂えられた淡い青を含むシルバーにも似た正装した姿をランダーは褒め称えてくれるも怒涛の言葉の羅列の賛美は右の耳から左の耳に抜けて行って何を言っていたかはもう覚えてない。
その後でこのアレクの眉間にしわを寄せた顔を見て
「生まれつきの顔をこれ以上どうすればいい」
呆れて言うも彼は顔を顰めるだけ。
「今日はヴォーグも出席の予定になってる」
ひょっとしたら話が出来るぞと言いたいのだろうが
「これ以上期待したくない……」
アレクの肩に手をトンと叩いて
「相手は大公でバックストロムの剣でこの国を守護する精霊だ。
俺にこれ以上どうしろと言う……」
言葉にすればするほどみじめになる。
自分の出自以上に差がある事など考えた事も無かったが、こればかりはこれ以上踏み込めなかった。
「男同士とかそんなのどうでもいいって思ってたのに、せめて王族程度なら足掻いたかもしれないが、相手は物語の伝説の人だ。
俺一人がどうこうできる存在じゃない」
肩に置いた手で押して距離を取る。
「遠くから眺める事が出来ればとは思っている」
もう隣に並ぶ事も、あの腕に中に閉じ込められる事も無い関係だ。
「とりあえず元気か見てくる」
そう言って一人だけ名前を呼ばれて入城すれば、すぐに見知った顔が、先に入場していたクラウゼ夫妻と合流し、夫妻の友人達が集まってきて一人の入場を誤魔化すかのように賑やかに騒ぐのだった。
やがて入場時間も過ぎ楽団の演奏に色々なうわさが飛び交う時間もピークとなる頃、その喧騒を打ち消すかのように今宵の主催者が顔を表した。
国王が王妃の手を引いて姿を現せば誰もが頭を下げて登場に敬意を払う。
その後に王太子殿下が現れるが、その前に王太子殿下が一人の手を引いて現われた。
妹だろうか、それとも婚約者だろうか。
長い間婚約者が決まっていなかっただけに会場中に緊張が走るも、現れたのは……
「ヴォーグ……」
会場がざわめいた。
数か月前に魔族との祝勝会を散々にした者が王太子よりも早くあらわれ、今も王と王妃によってエスコートされるように王を中心に王妃の反対側に位置どった立ち位置に会場内のざわつきは止まらない。
だけどその隣を王太子が並び、にこやかに何か話しかければヴォーグもにこやかに返す様子に仲がいいと言うアピールは十分伝わる。
誰も信じようとしてないが、それでもそう言うアピールなのだから表立ってはそう言う物だと受け止めなければいけない貴族のめんどくささにいつの間にか隣に立っていてくれたクラウゼ伯は
「貴族とはそう言う物だ」
呆れ混じりの呟きになるほどと頷くだけにしておいた。
やがて王の挨拶から始まりパーティーの開催宣言、そしてダンスタイムとスケジュールは動いて行く。
ヴォーグは王族が並ぶ場所から動くことなくずっとエリオットと国王達と話をするばかり。
時々背後に並ぶ宮廷騎士達から飲み物を貰って談笑しているが、こちら側には降りて来る事はせず、やがて国王に丁寧に頭を下げて下がって行ってしまった……
「早々に退出してしまったようだね」
何時の間にそばにいたのかエーンルート侯が隣にいた。
「ですが、元気そうな顔を見れて少し安心しました」
本音が漏れた。
一目会いたかった……
女みたいな気持ちなんてないと思っていたものの、実際遠目にでも合う事が出来ればほっとした自分が居てエーンルート侯から視線をそらせてしまった。
「君もこれだけの大きなパーティーはまだ慣れないだろう。
外で空気を吸ってくるといい。
水路のあるガゼボを私はお薦めするよ。
君には仕事柄良く知ってる場所かもしれないが、この時間はまだ人も少ない。
時間を潰すにはちょうどいい」
ポンと背中を押され、庭に降りるテラスへと足を向ける事になった。
少し悩んだもののまあいいかとそのまま警備上まだ警邏も回ってこない時間帯の静かなガゼボへと足を向ければ人影が既にあった。
「先客がいたか……」
どうするかと思うも月明かりに映し出された顔に思わず呼吸が止まってしまった。
思考も止まり、気が付けばすぐそばまで足を運んでいて……
「パーティはまだ始まったばかりです。
御加減でもよろしくないのでしょうか?」
警邏の時に声を掛ける時の言葉で声を掛ければ、ベンチに座り疲れていたかのように俯いていた頭が弾いたように上がり、視線が合った。
驚きに見開く瞳に映る俺は悪戯が成功した子供のように笑っていた。
最近笑ってなかったな……
上手く笑えているだろうかと思うも、驚いて言葉を出せないでいる先客の隣に立って
「隣をよろしいでしょうか?」
聞いて座ろうとするも
「まって、汚れるから……」
ポケットから取り出したハンカチを俺の座る場所へと敷いてくれた。
「別に女じゃないんだが……」
思わぬ扱いに睨んでしまうも
「その色の服だと汚れが目立つ」
「そう言うお前の服も汚れが目立つな」
深い深い夜の藍を含む色には白い大理石でできたベンチは大敵だ。
「俺はもう引っ込む予定だったからいいんです。
ですが、ラグナーはそう言う分けにはいかないでしょう?」
久しぶりに名前を呼ばれて心臓が跳ね上がる。
踊りまくってるかもしれない。
「俺はどうとでもなるからいいんだよ」
誤魔化すように言いながら敷いてくれたハンカチに座れば不意に触れた腕と腕に緊張が伝わりませんようにと願ってしまい、なんとなく会話が途切れてしまうも
「前も思ったけど、良く似合ってる。
髪型も普段と違って、瞳が良く見えて、綺麗だ……」
うっとりと見つめられれば生娘のように俺は俯いてしまい、そのままコテンと肩の上に頭を預ける。
「少しこのままで、肩を貸してくれヴォーグ……」
「いつまでも……」
そんなわけはいかないのにと判っているのに、だけどそれがなんだかおかしくて二人してこの心地よい時間が流れるのを邪魔しないように静かに笑っていた。
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