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うちの隊長がやたらと城の中をうろちょろする姿が今からでも想像が容易い意外に単純な人です

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 ワインの年代を言うには珍しい言い回しに一瞬今から十年前って何だっけとまだ留学先にいたよなと頭を捻りながらその年の事を思い出すよりも先にクラウゼ伯の弾む声。

「十年前となると当たり年だったか?!
 これは期待できるな」
「そんな好天気に恵まれた年でしたか?」

 ワインが美味しくなる条件の一つに天候を上げるが、あら?とソフィアが頬に手を添えて首をかしげる。

「ひょっとしてヴォーグが成人した年ではありません?」
「さすが奥様。
 きっと ブロムクヴィスト伯もそう言った事も合わせてヴォーグ殿にお渡ししたのでしょう」
「うわぁ、俺全然気づかなかった」
「不器用なあの方らしいな」

 ワイン造りに総てを捧げた男の判りにくい感謝の形は忘れかけた頃に思い出せさせる。
 遠回しの言葉が今になってガツンと心にぶち当たる様に今頃になって届いた。
 誰もがただ一人の人間として祝ってくれなかった成人の儀が今になって嬉しい物に変わった。

「落ち着いたら挨拶に行かないとな」
「そうだな。 
 だが今の君と合わせたらまた心配させてしまうだろう」

 そんな言葉の言い回しに含む物を感じて
 
「ひょっとして交流でも?」

 聞くも

「あの日あの後で声をかけてもらった。
 それ以来ソフィアと共に奥の部屋でディナーを楽しませてもらってる」

 なるほどと、奥の部屋と言うのは伯爵達が住む離れの事だろう。
 随分と気を許しているのだなと職人気質のじいさんとよく話し合う物だと感心すれば

「どうやらうちの庭にも興味をお持ちでカレヴァに庭を案内させたんだが、彼らはヴォーグに指示を受けて庭を面倒見てるにすぎないと一点張りでな。
 伯は私よりもカレヴァと仲良くなりたいのが本音だそうだ」
「さすが草食系と言うべきか。
 知識の共有と言う事で行ったり来たりするのも良いかと思います」
「既にしてるよ」

 くすくす笑うソフィア様に人間嫌いなカレヴァの謎の行動力を垣間見た俺も呆れるしかない。

「カレヴァについては雷華達からどうか行動を制限しないでくれと乞われてな。
 最低限のマナーさえ守ってくれればとこちらも了承している」
「はい、緑の手を持つカレヴァは常に草木達に訴え続けられるから。
 それを制限されると彼はそれだけで苦しむ事になるからね。
 得た力の大きさの代償だ」
 
「まぁ、カレヴァは緑の手の持ち主なの?」

 驚く夫妻の視線にそう言えば黙ってたんだという事を思い出して冷や汗が溢れだした。
 緑の手のせいでホーリーと二人手を取り合って親兄弟を捨てて生まれた地から逃げ出し海を越えてやっとたどり着いた安住の地だ。
 何とかして守ってやらないとと考えながらぐびぐびとワインをあおってしまえば苦笑紛れのハイラがワイングラスになみなみと注いでくれた物をまた一気に煽る。
 これで立派な酔っ払いだと、酔っぱらいの戯言にしてしまえばさすがクラウゼ伯とその妻。
 この事は簡単に口に出してはいけない事と察して同じようにワインを貰っていた。

「ほんと今日のワインは格別だ。
 ヴォーグ君の生まれ年の記念ワインの開封の場に居合わせてもらった事は父として喜びの限りだ。
 後で息子達にも飲ませてやらねばな」

 無理やり変えた話しにソフィアも便乗して、何故かヴォーグもみんなにワインをふるまうようにとハイラに言えば給仕についていた執事達にもワインを飲み始めていた。
 まるで一種の制約のようにワインを飲みながら誰もが

「ヴォーグさん疲れてますね」
「疲れすぎてうっかりしすぎでしょう」
「アレクシス様が戻っても誤魔化しますので泊まって行ってください」
「クラウゼ家使用人すべてが協力しますので」
 
 そんな援護に俺はワインが回ったのか笑いが止まらなくなるも

「今日は城に戻るって言ってあるから。
 向こうでも少し話をしなくちゃいけないからね」
「こんな遅くに?」

 訪問も来客を招く時間でもない。
 ましてや城の最奥の場所にヴォーグの屋敷はあるのだ。
 そんな時間に誰が来るのかと聞けば

「この時間じゃないと国王はゆっくり休めもしないんだってさ」

 肩を竦めるヴォーグに改めて彼は特別なのだと思いださせられるも、ここはその特別を忘れさせる場所。
 すっかりリラックスしすぎてうっかりしすぎて口を滑らせてしまう危険な場所でもあるが、そんなヴォーグを温かく受け入れてくれて守ってくれるクラウゼ家にヴォーグは最後のデザートまでゆったりとした気持ちで食べ終える事が出来た。
 食後の紅茶の時間にも苦々しい食事にしてしまった魔石の話しをして注意を促しながら時々この家にした事を思い出して、話の流れで勝手にすみませんと謝るのだった。
 黙ってこの家の魔石をヴォーグが持つ質の良い物とこっそりと取り変えていた事はハイラにとっくにばれており、今白状するまで黙ってくれていた伯爵夫妻とその下僕達はまるで悪戯が成功した子供のような顔でヴォーグを逆に驚かせたのだった。




「では暫くの間ハイラをお願いします」

 食事を終えて玄関まで見送ってくれた夫妻とハイラ達に頭を下げる。
 
「副隊長には暫く城に居ないといけない事があってアルホルンを封鎖する間お預かりをお願いしているとでも言ってください」
「君がこちらに戻ってきているのに会えないとなるとラグナーが寂しがるな」
「運が良ければ城で会えましょう」

 居住区画はすれ違うような場所でもない。
 伯爵も判っていながらも言わずにはいられない。

「それは楽しみだな」
「はい」

 そう言ってしまうのはこれからの三か月間を悩ます事になるだろう息子達を見守る事しか出来ない立場に何か一つでもいい事があればと願ってしまうからであって。
 では、そう言って近道を作って去って行く後姿に質問攻めになるだろうハイラは早速頭を悩ませるのだった。
 
















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