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うちの隊長は甘やかす為なら大概の要求さえ受け入れてしまいました……
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容赦なく侵入してきた舌にどうぞこちらにと招く様に舌を伸ばして向かい入れる。
話しをしておきたい事はいっぱいあるのに頭の中はもうすでにとろっとろに融かされて何が聞きたいのか既にどうでもよくなっていた。
いや、ダメだけど……
とにかく早くヴォーグが欲しくて、欲しくて、欲しくて。
ヴォーグをまたぎながら二人がかりで俺の服を脱がしていた。
幾つものボタンをはずしてシャツを脱げばヴォーグは既にくつろいでいて、目の前にさらけ出したモノを見て早く欲しいとしゃぶりながらズボンを脱いだ。
なんでこう、もっと脱がすのも楽しむ余裕はないのかなと思うも既に残された時間は短い。
事の最中でも容赦なくやってくるだろうあの二人に申し訳なくて見せる事なんて出来ない。
そして前は見られてもへっちゃらだと思っていた俺だが、今はもうヴォーグ以外とシたくはない。
ヴォーグはどうせへっちゃらでユハ達とするかもしれないが、こいつだって貴族の端くれだ。
公爵家の当主なら愛人や側室、妾なんて山ほど抱えているのだろう……
あ、なんだか悲しくなってきた……
そりゃそう言うのを抱えて子孫を残すのがこいつの貴族としての義務なのだろうが、アルホルン大公となった今その責務から解放されてはいる。
だけどヴォーグはこいつの家の後継を残さないといけなくて……
「ラグナー、急にどうしたの?
悲しい顔してる……
嫌だった?」
違うと頭を横に振っても後ろを解している指がぴたりと止まっていた。
中に入ってはいるが、もうは片方の手で俺の顔をそっとなでてどうしたのと言うようについばむような優しいキスが顔中に降って来た。
くすぐったくて手をヴォーグの首に回して唇にと要求してしまう。
「なに、お前に愛人が居ても軽蔑しないって言うか……」
そんな妄想だと笑って見せるもヴォーグの顔は引き攣っていた。
と言うか、これは……
「やっぱりいるんだ……」
「すみません。拒絶できない贈り物だったので……」
愛人がプレゼントなんて聞いた事も無い、いやさすが貴族と言うべきか……
「祖母達からの贈り物で不特定多数に手を出してはいけない、せめて特定多数にしなさいと……」
「さすが王族の女だ。
言ってる事がわけわからん……」
「ええ、さすがに俺もおかしい事に気づきましたが、長い事放って置いたら相手が自殺未遂ですが計りまして……」
「逃げられなかったと……」
「はい。
ラグナーが嫌ならすぐに誰かに結婚させてもいいのですが、わけありの人で……」
「なんか聞きたくないな」
「ええ、我が家と言うか俺と因縁のある家からの人質と言うか……」
「それは、どうしようもないな……」
言いながらもすっかり萎えだしたヴォーグに本当にこの件に関しては頭の痛い問題だったのだろう。
「まぁ、俺としては向こうからちょっかいを出されなければ別に構わないけどな……」
と言うしかない問題に俺まで萎えてきた。
「一応釘を刺しておきましたが、向こうはラグナーを知っていて密かに騎士として憧れていたようなのでたぶん大丈夫かと思います」
「そう願うな。
だが、そいつ一人なのか?」
ほんとはもっといるだろうと半眼で睨んでしまうも
「早々にアルホルンの後継として祖母達の中で決まっていたので、祖母達が却下してくれました。
欲しければ何人でも見繕ってくるとは言ってたけど、その言い方が怖くて俺も断りましたね」
「確かに怖い。
怖いが、そいつ一人がずっとお前の相手をしてきたというのは妬けるな」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
途端にご機嫌になったヴォーグは俺の中の指をイイ所にこすり付けてきた。
素直に勃ち上がる躰の構造を恨めしいと思いつつも、今更こいつの手癖の悪さをどうこう言うのもなと、確実に俺を一番に考えてくれるだけで満足しておく事にする。
独占はしたい。
だけど俺はユハのように縋りつくなんて出来なくて、その愛人のように命をかける事も出来ない俺が独占したいなんてどの口が言えるのだと自分を軽蔑する。
お前の愛情はそんな物かと……
「ねえラグナー、愛人の事とか言ってなくて怒ってるかもしれないけど今は俺だけを見ていて。
他の事なんて考えなくて今は俺だけを考えて」
そんなヴォーグに俺は笑みを浮かべる。
「ったく、お前はずるい。
だけどそんなお前に惚れた俺はそれを許すんだから性質が悪い」
キョトンとするヴォーグはまさかこんなにもあっさりと許してもらえると思っていなかったという顔の唇を撫でながら
「お前にはお前の都合だってあるんだろ?
そんな事も知らずに、そして今も全部を聞けない情けない俺が出来るのはヴォーグを抱きしめてやるくらいなんだ。
そんな程度の俺でよければ早く一つになりたいな?」
とりあえず反省会は後回しにしよう。
その結果また大怪我をするかもしれないが、今はヴォーグをたっぷりと甘えさせて疲れ果てた心に英気を養わせる事が俺の出来る事だ。
そして数か月後の社交界の開催まで暫くある時間を埋める大切な逢瀬。
次第に明るくなる室内で肉のぶつかる音と卑猥な水音と甲高い俺の甘ったるい悲鳴が響き渡る。
たっぷりとヴォーグの総てを体の最奥で受け止めて、更に奥にも残すように体を抉られる。
あまりに深くて失神しそうなくらい気持ちよくって、もうすぐ迎えのくる時間だというのに俺の体はヴォーグを離さないというように結合した部分が呑み込む様にうねるのが判って、でももう何も考えられないくらいにヴォーグがはじける直前のあの硬さにおかしくされっぱなしで、だけど、熱が弾けた瞬間、総てを呑み込もうとするように俺も弾けて……
お互いが密着するように肌と肌の隙間を埋める精液をヴォーグは無造作にシーツで拭ってくれた。
なんだか恥ずかしいけど、こいつはもっと恥ずかしい事を要求する。
床に散らばったシャツを俺に着せながら
「お願い、今日はこのまま俺の匂いを付けて帰って」
うっとりと見上げる視線にこれは何と言う変態プレイの要求なのだろうかと思うも無意識にコクンと頷いていた。
頭の中ではさすがにダメだろうと判っているのに、後ろは処理できる程度は処理すると言うように掻き出してくれたけど後から溢れるのは目に見えている。
たぶんこのタイミングが悪いんだろうなと諦める俺も大概だが……
「何てマーキングなんだって叱らないといけないんだろうがな……」
「嫌?」
「そう言われると断れない俺が憎い」
言えば嬉しそうについばむようなキスを繰り返して来た時にノックの音が聞こえた。
「アルホルン大公、シーヴォラ隊長お目覚めでしょうか?」
タイムリミットだった。
「起きてる。今準備してるから」
「下に朝食の準備が出来てます」
「今行くよ」
逢瀬の終わりの時間だった。
ヴォーグは昨日とは違う襟と袖に黒い糸で刺繍の入った品の良いサーコートを、俺は着なれた隊服を。
部屋の扉を開ける前にヴォーグは俺を強く抱きしめてキスを繰り返した。
生々しいほどに余韻の残る躰はすぐに力が抜けてヴォーグに縋りついてしまう。
ヴォーグも体と扉の間に俺を挟み込んで何度もキスを繰り返して
「何とかしてまた時間を作るから」
「期待はしないで待ってる」
素直に待ってるとだけ言えない自分を悲しく思うも、ヴォーグに負担をこれ以上かける事は出来ない。
繋いでいた手は食堂の扉を開けるまで、離れた手に急に寂しさを覚える。
ここから先は突然の幸運は終わりだというように切り替える様に深呼吸をすれば、ヴォーグは俺の呼吸が整うのを待って扉を開けさせた。
まるでタイミングを見ていたかのような絶妙なタイミングで開いた扉の向こうには二人分の食事と給仕の待機をする侍女達。
そして護衛はクリフとフリップの他にメルヴィン・エンライトとジェムソン・ホールズワースが居た。
「今日はメルとジェームスか、よろしく」
「「おはようございます」」
「こちら本日の予定となっております」
「あー、昨日挨拶に行けなかったから朝食後直ぐにか……」
「あちらも何とか空けた時間なので」
「この時間しか開いてない、しょうがないか。
だがそれ以降の面会はキャンセルだ。
そんなつもりでこちらに来たわけではないから、その後はフレッドを回収に行く」
「承りました」
どうやら誰かと約束してたらしいがいきなりの爆睡にキャンセルになった流れに枕となった俺は申し訳なく思ってしまう。
その合間にも今日のスケジュールを確認するのは通称メルとジェームス。
宮廷騎士の間柄幼い頃からの幼馴染ばかりで家名よりも愛称で呼び合う事の方が多い。
もちろん公の場では家名で呼び合うが、意外にもフレンドリーな間柄に驚いたのはアレクもレドも同じのようだ。
とはいってもヴォーグはほぼ顔と名前が一致してると言うだけの間柄。
やっぱりアルホルンで一緒に生活をしている強みはずるいよなと思ってしまうのは仕方がないだろう。
「とりあえず紅茶が欲しい。ラグナーは?」
「同じものを……
あー、できたらニルギリとダージリンとアールグレイを3:1:1:で」
「ラグナーはそれ好きだな」
「昨日久しぶりに飲んだんだけど。
ちなみに城の侍女の人が淹れてくれるとなるとどんなになるんだろうと言う楽しみが」
「俺が淹れようか?」
「お前のは美味しいって決まってるから次会った時に淹れてくれ」
「了解」
二人用のあまり大きくないテーブルでの食事は侍女達に気を使ってもらったり宮廷騎士に見守られたりとレストランだと思えば落ち着く状況で食べる朝食は随分と長い時間になるも、やはり時間厳守と言うように宮廷騎士が声をかけてくれた所で終わりを告げた。
城に向かう途中だからと俺を隊舎まで送るというヴォーグに俺を含めて遠回りするなと言おうとする所だったが意外な事にクリフがせっかくだから送ってもらえと真っ先に声を上げてくれた為に俺はヴォーグに隊舎まで送ってもらう事になった。
レドフォードの言葉で意識改革が出来ればいいなと思うも、朝のこの一番賑わう時間に少しだけ浮かれている俺達は注目を浴びるのは仕方がなかった。
隊舎ではすでに全員そろっていてヴォーグの姿を見るなり久しぶりとマリン小隊長があかるい声であいさつをしてくれたのをきっかけにいろいろ声をかけていた。
中でもイリスティーナが
「ヴォーグ!あなたいい仕事してくれたわ!
貴方が相手って言うのはこの際些細な問題だけど素晴らしい仕上げよ!
大丈夫!私の脳内変換は完ぺきよ!
これで私達の活動に拍車がかかるわ!」
「なんかすごく失礼な言葉を聞いてる気がするけど、あまり調子に乗らないでね?」
「当然でしょ!
これは崇高なる意志を持っての活動なのだから!」
イリスティーナのわけのわからん副職をヴォーグは知っているのかたじたじになりながらも注意を促すあたり理解があるのだろうと思っておく。
ちなみに俺は知りたくないからこの件に関しては放置を決めつけている。
騎士としては優秀なイリスティーナなのだ。
些細な問題位気にしないと知らなければ害はないという方針をこの件に関しては貫いている。
「それではクラウゼ副隊長、ラグナーを家までよろしくお願いします」
「ヴォーグもあまり無茶をするな。
ラグナーが心配しすぎて仕事を放棄するから」
「ははは……
ほどほどにします……」
「あとたまにはうちに遊びに来い。
母が寂しがってる」
「ええ、今度また遊びに行くとお伝えください」
とても大公殿下と一騎士の会話とは思えないが、宮廷騎士とはできないような気軽さの会話はヴォーグをリラックスさせて笑みさえ浮かべる余裕を与えていた。
話しをしておきたい事はいっぱいあるのに頭の中はもうすでにとろっとろに融かされて何が聞きたいのか既にどうでもよくなっていた。
いや、ダメだけど……
とにかく早くヴォーグが欲しくて、欲しくて、欲しくて。
ヴォーグをまたぎながら二人がかりで俺の服を脱がしていた。
幾つものボタンをはずしてシャツを脱げばヴォーグは既にくつろいでいて、目の前にさらけ出したモノを見て早く欲しいとしゃぶりながらズボンを脱いだ。
なんでこう、もっと脱がすのも楽しむ余裕はないのかなと思うも既に残された時間は短い。
事の最中でも容赦なくやってくるだろうあの二人に申し訳なくて見せる事なんて出来ない。
そして前は見られてもへっちゃらだと思っていた俺だが、今はもうヴォーグ以外とシたくはない。
ヴォーグはどうせへっちゃらでユハ達とするかもしれないが、こいつだって貴族の端くれだ。
公爵家の当主なら愛人や側室、妾なんて山ほど抱えているのだろう……
あ、なんだか悲しくなってきた……
そりゃそう言うのを抱えて子孫を残すのがこいつの貴族としての義務なのだろうが、アルホルン大公となった今その責務から解放されてはいる。
だけどヴォーグはこいつの家の後継を残さないといけなくて……
「ラグナー、急にどうしたの?
悲しい顔してる……
嫌だった?」
違うと頭を横に振っても後ろを解している指がぴたりと止まっていた。
中に入ってはいるが、もうは片方の手で俺の顔をそっとなでてどうしたのと言うようについばむような優しいキスが顔中に降って来た。
くすぐったくて手をヴォーグの首に回して唇にと要求してしまう。
「なに、お前に愛人が居ても軽蔑しないって言うか……」
そんな妄想だと笑って見せるもヴォーグの顔は引き攣っていた。
と言うか、これは……
「やっぱりいるんだ……」
「すみません。拒絶できない贈り物だったので……」
愛人がプレゼントなんて聞いた事も無い、いやさすが貴族と言うべきか……
「祖母達からの贈り物で不特定多数に手を出してはいけない、せめて特定多数にしなさいと……」
「さすが王族の女だ。
言ってる事がわけわからん……」
「ええ、さすがに俺もおかしい事に気づきましたが、長い事放って置いたら相手が自殺未遂ですが計りまして……」
「逃げられなかったと……」
「はい。
ラグナーが嫌ならすぐに誰かに結婚させてもいいのですが、わけありの人で……」
「なんか聞きたくないな」
「ええ、我が家と言うか俺と因縁のある家からの人質と言うか……」
「それは、どうしようもないな……」
言いながらもすっかり萎えだしたヴォーグに本当にこの件に関しては頭の痛い問題だったのだろう。
「まぁ、俺としては向こうからちょっかいを出されなければ別に構わないけどな……」
と言うしかない問題に俺まで萎えてきた。
「一応釘を刺しておきましたが、向こうはラグナーを知っていて密かに騎士として憧れていたようなのでたぶん大丈夫かと思います」
「そう願うな。
だが、そいつ一人なのか?」
ほんとはもっといるだろうと半眼で睨んでしまうも
「早々にアルホルンの後継として祖母達の中で決まっていたので、祖母達が却下してくれました。
欲しければ何人でも見繕ってくるとは言ってたけど、その言い方が怖くて俺も断りましたね」
「確かに怖い。
怖いが、そいつ一人がずっとお前の相手をしてきたというのは妬けるな」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
途端にご機嫌になったヴォーグは俺の中の指をイイ所にこすり付けてきた。
素直に勃ち上がる躰の構造を恨めしいと思いつつも、今更こいつの手癖の悪さをどうこう言うのもなと、確実に俺を一番に考えてくれるだけで満足しておく事にする。
独占はしたい。
だけど俺はユハのように縋りつくなんて出来なくて、その愛人のように命をかける事も出来ない俺が独占したいなんてどの口が言えるのだと自分を軽蔑する。
お前の愛情はそんな物かと……
「ねえラグナー、愛人の事とか言ってなくて怒ってるかもしれないけど今は俺だけを見ていて。
他の事なんて考えなくて今は俺だけを考えて」
そんなヴォーグに俺は笑みを浮かべる。
「ったく、お前はずるい。
だけどそんなお前に惚れた俺はそれを許すんだから性質が悪い」
キョトンとするヴォーグはまさかこんなにもあっさりと許してもらえると思っていなかったという顔の唇を撫でながら
「お前にはお前の都合だってあるんだろ?
そんな事も知らずに、そして今も全部を聞けない情けない俺が出来るのはヴォーグを抱きしめてやるくらいなんだ。
そんな程度の俺でよければ早く一つになりたいな?」
とりあえず反省会は後回しにしよう。
その結果また大怪我をするかもしれないが、今はヴォーグをたっぷりと甘えさせて疲れ果てた心に英気を養わせる事が俺の出来る事だ。
そして数か月後の社交界の開催まで暫くある時間を埋める大切な逢瀬。
次第に明るくなる室内で肉のぶつかる音と卑猥な水音と甲高い俺の甘ったるい悲鳴が響き渡る。
たっぷりとヴォーグの総てを体の最奥で受け止めて、更に奥にも残すように体を抉られる。
あまりに深くて失神しそうなくらい気持ちよくって、もうすぐ迎えのくる時間だというのに俺の体はヴォーグを離さないというように結合した部分が呑み込む様にうねるのが判って、でももう何も考えられないくらいにヴォーグがはじける直前のあの硬さにおかしくされっぱなしで、だけど、熱が弾けた瞬間、総てを呑み込もうとするように俺も弾けて……
お互いが密着するように肌と肌の隙間を埋める精液をヴォーグは無造作にシーツで拭ってくれた。
なんだか恥ずかしいけど、こいつはもっと恥ずかしい事を要求する。
床に散らばったシャツを俺に着せながら
「お願い、今日はこのまま俺の匂いを付けて帰って」
うっとりと見上げる視線にこれは何と言う変態プレイの要求なのだろうかと思うも無意識にコクンと頷いていた。
頭の中ではさすがにダメだろうと判っているのに、後ろは処理できる程度は処理すると言うように掻き出してくれたけど後から溢れるのは目に見えている。
たぶんこのタイミングが悪いんだろうなと諦める俺も大概だが……
「何てマーキングなんだって叱らないといけないんだろうがな……」
「嫌?」
「そう言われると断れない俺が憎い」
言えば嬉しそうについばむようなキスを繰り返して来た時にノックの音が聞こえた。
「アルホルン大公、シーヴォラ隊長お目覚めでしょうか?」
タイムリミットだった。
「起きてる。今準備してるから」
「下に朝食の準備が出来てます」
「今行くよ」
逢瀬の終わりの時間だった。
ヴォーグは昨日とは違う襟と袖に黒い糸で刺繍の入った品の良いサーコートを、俺は着なれた隊服を。
部屋の扉を開ける前にヴォーグは俺を強く抱きしめてキスを繰り返した。
生々しいほどに余韻の残る躰はすぐに力が抜けてヴォーグに縋りついてしまう。
ヴォーグも体と扉の間に俺を挟み込んで何度もキスを繰り返して
「何とかしてまた時間を作るから」
「期待はしないで待ってる」
素直に待ってるとだけ言えない自分を悲しく思うも、ヴォーグに負担をこれ以上かける事は出来ない。
繋いでいた手は食堂の扉を開けるまで、離れた手に急に寂しさを覚える。
ここから先は突然の幸運は終わりだというように切り替える様に深呼吸をすれば、ヴォーグは俺の呼吸が整うのを待って扉を開けさせた。
まるでタイミングを見ていたかのような絶妙なタイミングで開いた扉の向こうには二人分の食事と給仕の待機をする侍女達。
そして護衛はクリフとフリップの他にメルヴィン・エンライトとジェムソン・ホールズワースが居た。
「今日はメルとジェームスか、よろしく」
「「おはようございます」」
「こちら本日の予定となっております」
「あー、昨日挨拶に行けなかったから朝食後直ぐにか……」
「あちらも何とか空けた時間なので」
「この時間しか開いてない、しょうがないか。
だがそれ以降の面会はキャンセルだ。
そんなつもりでこちらに来たわけではないから、その後はフレッドを回収に行く」
「承りました」
どうやら誰かと約束してたらしいがいきなりの爆睡にキャンセルになった流れに枕となった俺は申し訳なく思ってしまう。
その合間にも今日のスケジュールを確認するのは通称メルとジェームス。
宮廷騎士の間柄幼い頃からの幼馴染ばかりで家名よりも愛称で呼び合う事の方が多い。
もちろん公の場では家名で呼び合うが、意外にもフレンドリーな間柄に驚いたのはアレクもレドも同じのようだ。
とはいってもヴォーグはほぼ顔と名前が一致してると言うだけの間柄。
やっぱりアルホルンで一緒に生活をしている強みはずるいよなと思ってしまうのは仕方がないだろう。
「とりあえず紅茶が欲しい。ラグナーは?」
「同じものを……
あー、できたらニルギリとダージリンとアールグレイを3:1:1:で」
「ラグナーはそれ好きだな」
「昨日久しぶりに飲んだんだけど。
ちなみに城の侍女の人が淹れてくれるとなるとどんなになるんだろうと言う楽しみが」
「俺が淹れようか?」
「お前のは美味しいって決まってるから次会った時に淹れてくれ」
「了解」
二人用のあまり大きくないテーブルでの食事は侍女達に気を使ってもらったり宮廷騎士に見守られたりとレストランだと思えば落ち着く状況で食べる朝食は随分と長い時間になるも、やはり時間厳守と言うように宮廷騎士が声をかけてくれた所で終わりを告げた。
城に向かう途中だからと俺を隊舎まで送るというヴォーグに俺を含めて遠回りするなと言おうとする所だったが意外な事にクリフがせっかくだから送ってもらえと真っ先に声を上げてくれた為に俺はヴォーグに隊舎まで送ってもらう事になった。
レドフォードの言葉で意識改革が出来ればいいなと思うも、朝のこの一番賑わう時間に少しだけ浮かれている俺達は注目を浴びるのは仕方がなかった。
隊舎ではすでに全員そろっていてヴォーグの姿を見るなり久しぶりとマリン小隊長があかるい声であいさつをしてくれたのをきっかけにいろいろ声をかけていた。
中でもイリスティーナが
「ヴォーグ!あなたいい仕事してくれたわ!
貴方が相手って言うのはこの際些細な問題だけど素晴らしい仕上げよ!
大丈夫!私の脳内変換は完ぺきよ!
これで私達の活動に拍車がかかるわ!」
「なんかすごく失礼な言葉を聞いてる気がするけど、あまり調子に乗らないでね?」
「当然でしょ!
これは崇高なる意志を持っての活動なのだから!」
イリスティーナのわけのわからん副職をヴォーグは知っているのかたじたじになりながらも注意を促すあたり理解があるのだろうと思っておく。
ちなみに俺は知りたくないからこの件に関しては放置を決めつけている。
騎士としては優秀なイリスティーナなのだ。
些細な問題位気にしないと知らなければ害はないという方針をこの件に関しては貫いている。
「それではクラウゼ副隊長、ラグナーを家までよろしくお願いします」
「ヴォーグもあまり無茶をするな。
ラグナーが心配しすぎて仕事を放棄するから」
「ははは……
ほどほどにします……」
「あとたまにはうちに遊びに来い。
母が寂しがってる」
「ええ、今度また遊びに行くとお伝えください」
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