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第ニ章:新たな侵略者、【魔界貴族】編

第32話:教え子達の成長に脱帽する話

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 私はダルバート王国でエリスと共に、【シャックス侯爵】率いる悪魔の集団を撃破した。
そして、エリスの命によりボルメルン帝国に救援に向かっているターニャ達との合流を目指した。

――ボルメルン帝国、国境付近の荒野――

 ターニャ達が10体ほどの悪魔の集団と戦闘中のようだ。
赤色の悪魔は大悪魔か……。
大きな剣を持っているな、あれは厄介だろう……。
見たところ幹部級は居ないようだ。

ルーシー→紫悪魔
【魔法使いスキル発動】

 中級雷系魔法

 ルーシーは強力な電撃を紫色の悪魔に浴びせる。
いつの間に、炎系以外の中級魔法を会得したんだ。
優勝してからも鍛錬は積んでいたんだな。

マリア→大悪魔
【武闘家スキル発動】

 大声砲弾

 赤色の悪魔は不意に放たれた声の砲弾の直撃を受けて硬直する。
決勝戦で見たときよりも遥かに技の精度が上がっているな。
マリアもちゃんと特訓していたのか……。

ターニャ
【勇者スキル発動】

 閃舞光衣

――キュィィィン

 ターニャの体が黄金に輝いた。
どうやら、光系の魔法力を体全体に覆っているみたいだな。
それで、仙術以上に身体能力を高めている……。
おそらく、攻撃も防御も速さも平常時の2倍以上になっているな。
ターニャは自分に合ったスキルを貰えたみたいだ。

ターニャ→大悪魔
【仙人スキル発動】

 閃光流水乱舞

 黄金に輝くターニャの乱打が悪魔の体にめり込んだ。
身体能力の上昇の甲斐あって、弱点だったパワー不足が補われているな。
必殺と呼んで良い威力になっている。

 しかし、赤色の大悪魔も負けてない。
【バルバトスの館】にいた奴ほどの戦闘力はないみたいだが、すぐに動けるようになってターニャに鋭い剣撃を繰り出そうとしているな。

――スカッ、スッ、スカッ

 さすがと言うべきか、読みの鋭さのレベルが上がっているのか、大悪魔の剣が掠りすらしない。
更に、得意のカウンターか……。
容赦ないな……。

――ドゴォ、メキメキ、バキャアンッ

 怒涛のラッシュの攻撃力は凄まじく、並の【勇者】レベルでは歯が立たないぐらいの強さを誇っていた大悪魔は体中から血を吹き出して絶命した。

 やっぱり、コイツの才能だけは底がしれない。【勇者】になった影響で潜在能力が覚醒したのもあるが、たったの一週間ほどで、決勝戦の時のグレイスよりも強くなっているぞ。

 私が割って入るスキもなく、ターニャ達は悪魔の集団を片付けてしまった。
良かった、優勝を経験して彼女達は中堅の【勇者】パーティー以上のポテンシャルを手に入れてるぞ。
指導した私としては嬉しい限りだ。

 しかし………、大きな力の気配を感じる……。
やっぱりコレだけじゃ終わらんみたいだな。

――ドゴォォォォォン

 突如、土の中から5メートルぐらいの巨大な白色の悪魔が出てきた。
上半身裸で、筋肉質の如何にもパワー自慢という感じだ。
恐らく、【魔界貴族】の幹部だろう。

 ふむ、見た目によらず早いな……、出てくるなり右腕を伸ばしてターニャを捉えようとしている。
ターニャが不意打ちを受けそうだな。
そろそろ、行くか……。

ルシア→白悪魔
【魔法使いスキル、剣士スキル同時発動】

 中級炎系魔法+竜神斬り=神焔一閃(カミホムラノイッセン)

――ズバンッッッ

 私の剣技が白色の悪魔の右腕を切り裂いた。
ちっ、思ったより浅かったか。
だが、動きを止めるのには十分だったな。

「ぐばぁぁぁぁっ」
 傷口が燃え上がり、苦悶の表情を白色の悪魔は浮かべた。

「ターニャ、ルーシー、マリア、ちょっと見ない内に強くなったな」
 私は教え子達の顔を見てそう言った。

「ルシア先生! どこ行ってたんだよー。エリス様は教えてくれないし」
 ルーシーは口を尖らせて文句を言った。
すまん、色々あってな。

「もう、心配しましたよ。そうこうしている内に国外に救援に行くことになりまして、凄く不安でしたし」
 マリアは少し涙ぐんでいる。
本当に悪かった、反省している。

「……これで、楽ができるな」
 ターニャはサボる気満々だった。
コラ、お前は【勇者】になったんだから自覚を持て!

 私達は再会を喜んだが、積もる話はもう少し後の方が良さそうだった。

「ごのぉ、人間風情が【ヴォラク男爵】の腕を! 八つ裂きにしてやるぞぉぉぉぉ!!」
 【ヴォラク男爵】と名乗った悪魔は右腕を押さえながら激昂した。

「ターニャ、コンビネーションを合わせられるか? スピードで撹乱して……」
「……大きいのを叩きつけるのだな。わかった」
 全部言わなくても伝わるか……、流石だ。 
私とターニャは、ヴォラクに突撃した。

ルシア、ターニャ
【仙人スキル発動】

仙舞影歩

 互いに無数の残像を幾重にも織り交ぜながら、ヴォラクを撹乱させる。

「ぐがぁぁぁっ! チョロチョロと邪魔くせえ!! 【ヴォラク男爵】の最大の…………」
「悪いが、その技は見れそうにないや……」

ルシア→【ヴォラク男爵】
【勇者スキル発動】

 初級無属性消滅魔法

――カッ

 私の右手から放たれた銀色の光の弾丸はヴォラクのガラ空きの胸を貫通した。
そして、銀色の淡い光がヴォラクの体を包み込む……。

「はぁぁぁぁ? 馬鹿なっ、この技はなんな………」
 ヴォラクの体は跡形も無く消え去った。
ふぅ、やっぱり魔力の消費が馬鹿でかい……。
こりゃあ、魔力が満タンの状態で3発が限界だ。

 3発だけかぁ、これはそこまで万能な力じゃないぞ。
体の中心の線からあまりにもズレると中途半端にしか消滅しないし、避けられたら目も当てられない。
【ベリアル公爵】クラスの相手には簡単に当てることは出来ないかも……。

 それより、嬉しい誤算が【ラミアの力】が与えてくれた副産物だ。
【シャックス侯爵】戦では自覚出来なかったが、今の戦いで確信した。
半端なく基本能力が強化されている。

 【加護の力】を受け取った【勇者】は自身の潜在能力が覚醒するらしいが、私にもまだ伸びる余地があったのだな。
ターニャが異常に強くなったように、私もかなりパワーアップしていた。
今なら精霊憑依(エレメンタルコネクト)を使っても平気な気がする。

「……ルシア先生」
 物思いに耽っているとターニャに声をかけられた。
ああ、お前の動きも見事だったぞ。
ん、どうした?

「……あの竜は下ろさなくても良いのか?」
 ターニャは上空を指さした。

「ルシアぁぁっ、いつまでグルグル回ってれば良いのよぉぉぉ!!」
「ルシア様ぁ、早く下ろしてくださいまし」
 あっ、まずいな、オリゲルトちゃんを地上に下ろすのを忘れていた。
すまない、ラミア、エリス様……。

 私はオリゲルトに着陸の指示を出した。
いやぁ、つい夢中になっちゃってさ。

「うぷっ……。もう、ちょっと酔っちゃったじゃない」
 エリスは気分の悪そうな顔をしていた。
本当に申し訳ありません。

「ルーシーさん、ターニャさん、マリアさん、すっごく逞しくなられてますわ。カッコよかったです」
 ラミアはターニャ達との再会を喜んでいた。
みんな、元気そうでなによりだ。

「これで、ダルバート王国チームが勢揃いね。【天武会】は終わったけど、今度は世界の平和の為に一丸となって戦いましょ!」
 エリスは私達にそう声をかけた。
よしっ、【魔界貴族】の連中に二度と侵攻をさせないくらいの大打撃を与えてやるぞ。

 私達はボルメルン帝国の領土内に入り、各国の救援者達が集まっているというザルバムの砦に向かった。

――ボルメルン帝国、ザルバムの砦――

 ボルメルン帝国の国境付近にあるザルバムの砦に着いた私達は、ボルメルンの兵士達に歓迎された。

「まさか、ダルバート王女のエリス様までいらしてくれるとは……。申し遅れました、私はボルメルン帝国兵士長のレイブンと申します」
 レイブンという屈強な肉体と立派な口髭をもつ黒髪の男性が挨拶に来た。

「困っている時はお互い様ですわ。戦況はどんな感じなのかしら………」
 エリスとレイブンは何やら話し込んでいる。

「長旅でお疲れでしょう、あちらに食堂があります。粗食しか用意できず申し訳ありませんが、是非召し上がってください」
 レイブンの傍らにいた兵士の一人が私達を奥に案内しようとしてくれた。

「私はエリス様を待っているから、みんなは先に行って、休んでなさい」
 私は指示を出した。

「「「はーい」」」
 ターニャ達は返事をして、兵士に連れられて奥に進んだ。

「わたくしは、ルシア様とエリス様をお待ちしますわ」
 ラミアは私にピタリとくっついた。
うん、ちょっと離れような。

「――――という感じですかな。はぁ、お恥ずかしい限りです」
「いえ、ダルバートが先に狙われていたら、ここまで持ち堪えられなかったかもしれませんわ」
 エリスと兵士長の話が終わった。

「あら、ルシアにラミア。待っていてくれたの? あんた達、変なところで義理堅いのね」
 私達はレイブンに案内されて食堂に向かった。
戦闘が続いていたからお腹空いたんだよなぁ。

「こちらが、食堂です。栄養素には拘って作らせております。どうぞ、召し上がってください」
 レイブンは頭を下げた。
そんなに畏まらなくてもいいのに……。

 おっ、ターニャ達はあっちか……、ん?
こっちを見ながら何か話しているぞ。
あれ、一緒に居るのってアレックス達?

「だーかーらー、ルシアール先生はルシア先生のことなんだって! ほらっ!」
 ルーシーが大声で私を指さした。
アレックス達は私を見た……。

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