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最終話
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「君も察しているだろう? 僕は性格が悪い。自己中心的で目的の為なら割と手段は選ばない。これでも帝王学は一通り学んできたからね。人心掌握はそれなりに得意なんだ」
「わ、私は性格が悪いなんてことは――」
「無理しなくていいさ。王族って立場は良い人でいることが出来ないから、どうしても歪んでしまう。だが、ガーランドは良い奴だぞ。こんな僕とも友人でいてくれるからな。君のことを真剣に愛していた。だからこそ、ローザとは間違いは起こさなかったし、初心で真面目だからこそ、あの程度のことで君への不義理を働いたと思い詰めて婚約を解消したんだ」
ガーランドが私と婚約を解消したのは妹に誘惑されて間違いを犯しかけたと言っていましたが……。
彼の表情から察するにかなり際どいことシタのだと思っていたのですが……。
ローザに手を出していないのなら、婚約を解消しようとまで言わないでしょうし。
「手は出してないと思うぞ。だが、あの男は妙に潔癖なところがあるからな。僕が聞いたのはローザに手を握られた程度のことだった」
「それで婚約破棄しようとしますか?」
いやいや、それはないでしょう。手を握られたから婚約を止めるって聞いたことがありません。
とは思ったのですが、あの方はそういえば私とも手を握ったことがなかったような気がします。
そういった免疫がまるでない方なら、ローザの行動は刺激が強くて私に不義理を働いたと感じるのかもしれません。
「僕も同じようなリアクションをとった。あり得ないし、考え直せとね。ガーランドは頑固だし僕とは別方向で変に拗らせているからさ。説得するのに半年もかかってしまったよ」
「説得……?」
「だから、君にもう一度求婚するようにって。お前を誑かしたバカ妹は僕が引き取って遠ざけてやるからって言っても中々覚悟を決めないんだもんなー。実はこっちの方が苦労したんだ」
何ということでしょうか。
ダミアン殿下は水面下でガーランドと私の仲を取り持つように動いていたと言うのです。
この方に取って彼は余程大事な友人なのでしょう。
何から何まで踊らされていたみたいですね……。
「クソ真面目の馬鹿な男だが、もう一度だけチャンスをやって欲しい。あいつと幸せになってくれないか?」
「……考えてみます」
私はガーランドを許せるか直ぐには答えを出せませんでした。
もちろん、私とダミアン殿下はこの場で婚約を解消。もうこれ以上の茶番は必要ないので当然です。
そして彼はさっさと妹を引き取る準備を進めていきました。
◆ ◆ ◆
「あの子が居なくなって、一年経ちますか……」
「寂しいのかい?」
「いいえ、ちっとも。一つだけ不満があるとすれば、ローザが居なくなった途端に両親がやたらと私にすり寄って来ていることですかね」
「君のことは僕が守るよ。もう絶対に離さないから」
ダミアン殿下と婚約を破棄して、直ぐに彼はローザと共に辺境の荒廃した田舎町に向かう準備をしました。
ローザは最初こそダミアン殿下が私を捨てて自分を選んだと言うことを喜んでいましたが、辺境に行って二度と王都には戻れないかもしれないことを知ると目に見えて元気が無くなります。
『もうこっちに戻れないのは嫌ですが……ダミアン様に捨てられたらゴミ以下の価値しかない私は死ぬしか選択肢がありません……』
生気を失った目をした妹はダミアン殿下の操り人形になっていました。
依存の対象が完全に私から彼に移っており、私に対する興味は既に失われています。
ですから、結局不安と不満を抱えてもダミアン殿下から離れることが出来ませんでした。
「明日、いよいよ私たちは夫婦になりますね」
「僕のせいで随分と遠回りさせてしまった。許してくれた君の広い心にはずっと感謝するだろう」
「いいえ。私ももっと貴方を信じれば良かったのです。もっと強引にあのとき引き止めれば……。失った時間はあるかもしれませんが、共に歩む時間はそれでも十分にございます」
「そうだな。一緒に幸せになって欲しい」
「はい。お互いに足りない部分を補って、未来へと足を進めて行きましょう。それが夫婦なのですから」
私とガーランドはお互いに手を握り、これから先の明るい未来を見据えました。
あの日、私は全てが嫌になりました。何もかもが奪われて、この先も搾取される暗い未来しか見ることが出来なかったからです。
結局、ダミアン殿下に踊らされただけだったということは今でも釈然としない部分がありますが、後ろを向いても仕方ないと開き直って前向きに生きようと思います。
ローザ、私は幸せになりますから――。あとはご自由に……。
妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた
~完~
◇ ◇ ◇
あとがき
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
最初はタイトル通り、もっと普通の『ざまぁ作品』を目指して書いていたのですが、どうしてこうなった?
スカッとした展開を期待していた方には申し訳なかったと思っています。
特にダミアン殿下のような、ちょっとサイコパスなキャラクターは好き嫌いが分かれると思いますので合わない人には合わないだろうなぁっと。
個人的には好き勝手書けたおかげでかなり気に入った作品になってくれました。
今月、来月と何本か短編や長編を投稿出来ればいいなーって、思っていますので、既存の作品共々よろしくお願いします。
「わ、私は性格が悪いなんてことは――」
「無理しなくていいさ。王族って立場は良い人でいることが出来ないから、どうしても歪んでしまう。だが、ガーランドは良い奴だぞ。こんな僕とも友人でいてくれるからな。君のことを真剣に愛していた。だからこそ、ローザとは間違いは起こさなかったし、初心で真面目だからこそ、あの程度のことで君への不義理を働いたと思い詰めて婚約を解消したんだ」
ガーランドが私と婚約を解消したのは妹に誘惑されて間違いを犯しかけたと言っていましたが……。
彼の表情から察するにかなり際どいことシタのだと思っていたのですが……。
ローザに手を出していないのなら、婚約を解消しようとまで言わないでしょうし。
「手は出してないと思うぞ。だが、あの男は妙に潔癖なところがあるからな。僕が聞いたのはローザに手を握られた程度のことだった」
「それで婚約破棄しようとしますか?」
いやいや、それはないでしょう。手を握られたから婚約を止めるって聞いたことがありません。
とは思ったのですが、あの方はそういえば私とも手を握ったことがなかったような気がします。
そういった免疫がまるでない方なら、ローザの行動は刺激が強くて私に不義理を働いたと感じるのかもしれません。
「僕も同じようなリアクションをとった。あり得ないし、考え直せとね。ガーランドは頑固だし僕とは別方向で変に拗らせているからさ。説得するのに半年もかかってしまったよ」
「説得……?」
「だから、君にもう一度求婚するようにって。お前を誑かしたバカ妹は僕が引き取って遠ざけてやるからって言っても中々覚悟を決めないんだもんなー。実はこっちの方が苦労したんだ」
何ということでしょうか。
ダミアン殿下は水面下でガーランドと私の仲を取り持つように動いていたと言うのです。
この方に取って彼は余程大事な友人なのでしょう。
何から何まで踊らされていたみたいですね……。
「クソ真面目の馬鹿な男だが、もう一度だけチャンスをやって欲しい。あいつと幸せになってくれないか?」
「……考えてみます」
私はガーランドを許せるか直ぐには答えを出せませんでした。
もちろん、私とダミアン殿下はこの場で婚約を解消。もうこれ以上の茶番は必要ないので当然です。
そして彼はさっさと妹を引き取る準備を進めていきました。
◆ ◆ ◆
「あの子が居なくなって、一年経ちますか……」
「寂しいのかい?」
「いいえ、ちっとも。一つだけ不満があるとすれば、ローザが居なくなった途端に両親がやたらと私にすり寄って来ていることですかね」
「君のことは僕が守るよ。もう絶対に離さないから」
ダミアン殿下と婚約を破棄して、直ぐに彼はローザと共に辺境の荒廃した田舎町に向かう準備をしました。
ローザは最初こそダミアン殿下が私を捨てて自分を選んだと言うことを喜んでいましたが、辺境に行って二度と王都には戻れないかもしれないことを知ると目に見えて元気が無くなります。
『もうこっちに戻れないのは嫌ですが……ダミアン様に捨てられたらゴミ以下の価値しかない私は死ぬしか選択肢がありません……』
生気を失った目をした妹はダミアン殿下の操り人形になっていました。
依存の対象が完全に私から彼に移っており、私に対する興味は既に失われています。
ですから、結局不安と不満を抱えてもダミアン殿下から離れることが出来ませんでした。
「明日、いよいよ私たちは夫婦になりますね」
「僕のせいで随分と遠回りさせてしまった。許してくれた君の広い心にはずっと感謝するだろう」
「いいえ。私ももっと貴方を信じれば良かったのです。もっと強引にあのとき引き止めれば……。失った時間はあるかもしれませんが、共に歩む時間はそれでも十分にございます」
「そうだな。一緒に幸せになって欲しい」
「はい。お互いに足りない部分を補って、未来へと足を進めて行きましょう。それが夫婦なのですから」
私とガーランドはお互いに手を握り、これから先の明るい未来を見据えました。
あの日、私は全てが嫌になりました。何もかもが奪われて、この先も搾取される暗い未来しか見ることが出来なかったからです。
結局、ダミアン殿下に踊らされただけだったということは今でも釈然としない部分がありますが、後ろを向いても仕方ないと開き直って前向きに生きようと思います。
ローザ、私は幸せになりますから――。あとはご自由に……。
妹が私から何でも奪おうとするので、敢えて傲慢な悪徳王子と婚約してみた
~完~
◇ ◇ ◇
あとがき
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
最初はタイトル通り、もっと普通の『ざまぁ作品』を目指して書いていたのですが、どうしてこうなった?
スカッとした展開を期待していた方には申し訳なかったと思っています。
特にダミアン殿下のような、ちょっとサイコパスなキャラクターは好き嫌いが分かれると思いますので合わない人には合わないだろうなぁっと。
個人的には好き勝手書けたおかげでかなり気に入った作品になってくれました。
今月、来月と何本か短編や長編を投稿出来ればいいなーって、思っていますので、既存の作品共々よろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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悪魔の子と同じ名前のダミアン殿下…
嫌いじゃないです、このお方w
むしろ姉妹どちらも選べないって言っちやってた元婚約者は…うーん、選べないって事は妹にも惹かれてたって事で心は浮気してますよね。
手は出さなかったけど、強気に押し倒されてたら分からなかったんじゃないかなーと。
今後もちょっと心配な人ですw
それと、妹だけ溺愛してた両親に何かざまぁが欲しかった!!毒親だ!!!!
一応ハッピーエンド?
元婚約者も、結婚の面倒を回避できそうな隠れ蓑が欲しいだけな気がします。 いわゆる、研究の邪魔をされるのを嫌がる専門バカ。 茶飲み友達のような穏やかな結婚生活になりそうですね。
両親とは、結婚を機に縁を切ることを勧めたいですね。
殿下と妹は、愛情どころか感情でさえない、需要と供給の関係ですね。 だからこそ、関係は変わらないままで ずっと続いていきそう。。。
完結お疲れさまです。
楽しかったです。