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40.共鳴痛
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しかし、あの少年に自分の身分の事がバレてしまい、一方的にフラれたようなもの。きっぱりそう言われた方が諦めもつくので、皇太子としてはこれでよかったと思っている。いつだって国を優先し、一時の熱病に流されてはいけない。小さい頃からそういう教えだった。
だから、そろそろ世継ぎの事を考えなければならない。気は進まないが、今まで無視していた縁談の話を受けようと思う。希望する相手は、あまり自分に関わってくる事がない女を適当に選んでもらおうか。どれを選んでもどうせパスカル以上に好きになる事などないのだから、仮面夫婦で構わない。
好きでもない女と結婚する。それが皇族と貴族のさだめなら、無理とはわかっていてもこの初恋は忘れなければならない。皇太子としての責務を全うしなければならない。
それなのに。それなのに仕事の合間にパスカルの事を思い出しては胸を痛める日々だ。公務中に幻影すら見えてしまう始末。
(パスカル……オレは……やっぱり君じゃないと……)
痛む胸を押さえながら愛おしい存在に思いを馳せる。
だけど、もう逢えない。逢えやしない。どんなに愛おしいと思っても、逢いたいと願っても、もう二度とその姿を見つけても声を掛ける事などできない。
(パスカル……パスカル……)
もはや精神が病んでしまいそうなほど、あの愛おしい存在が日に日に大きくなっては心の全てを独り占めしていく。
(こんなにも愛してるのに……そばにいられない辛さが苦しい……)
失意のどん底な気持ちと、紛らわそうと必死な自分がひどく痛々しかった。
「殿下……やはりどこか具合が悪いのでは」
「昨日、検査を受けたがどこも異常はなかっただろう。神経痛なだけかもしれない」
「しかし、異常がないのに突然の胸の痛みはおかしいです。考えられるとすれば……もしかして共鳴痛ではないでしょうか?」
医療に携わる別の部下がとある疾患名を口にした。
「共鳴痛……?」
「はい。自分の半身のように想う存在に危機が迫っていたり、その存在が心のどこかで助けを求めている時に、虫の知らせを痛みで知らせてくれるものです。特に血の繋がりが濃い相手や、運命の番相手には起こりやすく、見えない運命線で繋がっているのでその共鳴痛を感じやすい傾向にあります。迷信じみた話ではありますが、何度かその事例を目撃した事があるのであながち迷信とも言えません」
「運命の番……」
どきりとした。ひょっとしたらと思っていたが、考えすぎだと思っていた。
「殿下、もしかして運命の番とどこかで出会っていたのではないでしょうか……?」
考えてみれば、初めてあった時からどこか親近感を感じたし、漂う甘い香りは心地が良くて知らず知らずのうちに追い求めていた。波長が合い、そばにいると半身のように居心地がよく感じて、知らず知らずのうちにその淵にはまっていた。
だからこそ、もしパスカルが運命の番ならば……
妙にそれがすとんと胸に入ってきて収まる感覚がした。
「セバスチャン……っ!明日の朝一にヴァユ国へ向かう」
「殿下!お相手に心当たりがあるのですね!?」
「たぶん……そうだと思う。いや、きっとそうだ」
あの漂う香りは、運命の番にだけわかる特殊なフェロモンだろうと察する。毎回微かな香りだったので、大したものではないと思い込んでいた。
「なぜ……気づかなかったんだろうな……。自分が情けなく思う」
「殿下、運命の番は初対面で気づく者もいれば、後々になって気づく者もいらっしゃいます。初対面で気づく者は、だいたいがオメガ側がヒートを何度も経験している場合。気づかない場合はオメガがヒートを経験していない場合。つまり、ヒートの経験差によって漂わせるフェロモンの濃度が違うようなのです。殿下のお相手は出会った当初はヒートがきていなかったか、ヒートの経験が浅かったからなのでしょう。微かな香り程度ではわからないのも無理はありませんよ」
それでも微量にパスカルからいい香りがしていたのに、気づかなかった自分が情けないと思う。
「もし、殿下が運命の番と出会ったのならこれは一大事ですな。国を挙げての祝宴になりますぞ。じいはうれしゅうございます。あの仕事ばかりの殿下がっ」
「運命の番とは……やっぱり普通の番とは違うものだな」
「ええ。それはもう。運命の番は切っても切れない運命の絆で繋がった者同士。たとえ皇族と平民の番同士であっても、誰も引き離す事は絶対にできないと言われています。さすがの陛下や権力重視な貴族連中達も、運命の番が殿下の相手となるならば文句は言えないでしょう。それほど神により決められた関係と言いますか……大きな存在というわけです。殿下の妃にと縁談を持ちかけようとする悪辣な貴族共にうんざりしていましたので、殿下が本当に運命の番を見つけていたならこれで終止符が打たれるはずです」
「なるほど。運命の番の言い伝えは数千年前のあの歴史から物語っているな」
「ええ。そのおかげで運命の番は誰も引き離せないのです」
セバスチャンや他の部下達が早くも祝福ムードに包まれている。運命の番というものは周りによい影響を与えるものだと知っていたが、パスカルが運命の番なら自分にとってもこれ以上に嬉しい事はないだろう。
明日、もらいに行く。嫌だと言っても、納得させてオレのものにする……。
だから、そろそろ世継ぎの事を考えなければならない。気は進まないが、今まで無視していた縁談の話を受けようと思う。希望する相手は、あまり自分に関わってくる事がない女を適当に選んでもらおうか。どれを選んでもどうせパスカル以上に好きになる事などないのだから、仮面夫婦で構わない。
好きでもない女と結婚する。それが皇族と貴族のさだめなら、無理とはわかっていてもこの初恋は忘れなければならない。皇太子としての責務を全うしなければならない。
それなのに。それなのに仕事の合間にパスカルの事を思い出しては胸を痛める日々だ。公務中に幻影すら見えてしまう始末。
(パスカル……オレは……やっぱり君じゃないと……)
痛む胸を押さえながら愛おしい存在に思いを馳せる。
だけど、もう逢えない。逢えやしない。どんなに愛おしいと思っても、逢いたいと願っても、もう二度とその姿を見つけても声を掛ける事などできない。
(パスカル……パスカル……)
もはや精神が病んでしまいそうなほど、あの愛おしい存在が日に日に大きくなっては心の全てを独り占めしていく。
(こんなにも愛してるのに……そばにいられない辛さが苦しい……)
失意のどん底な気持ちと、紛らわそうと必死な自分がひどく痛々しかった。
「殿下……やはりどこか具合が悪いのでは」
「昨日、検査を受けたがどこも異常はなかっただろう。神経痛なだけかもしれない」
「しかし、異常がないのに突然の胸の痛みはおかしいです。考えられるとすれば……もしかして共鳴痛ではないでしょうか?」
医療に携わる別の部下がとある疾患名を口にした。
「共鳴痛……?」
「はい。自分の半身のように想う存在に危機が迫っていたり、その存在が心のどこかで助けを求めている時に、虫の知らせを痛みで知らせてくれるものです。特に血の繋がりが濃い相手や、運命の番相手には起こりやすく、見えない運命線で繋がっているのでその共鳴痛を感じやすい傾向にあります。迷信じみた話ではありますが、何度かその事例を目撃した事があるのであながち迷信とも言えません」
「運命の番……」
どきりとした。ひょっとしたらと思っていたが、考えすぎだと思っていた。
「殿下、もしかして運命の番とどこかで出会っていたのではないでしょうか……?」
考えてみれば、初めてあった時からどこか親近感を感じたし、漂う甘い香りは心地が良くて知らず知らずのうちに追い求めていた。波長が合い、そばにいると半身のように居心地がよく感じて、知らず知らずのうちにその淵にはまっていた。
だからこそ、もしパスカルが運命の番ならば……
妙にそれがすとんと胸に入ってきて収まる感覚がした。
「セバスチャン……っ!明日の朝一にヴァユ国へ向かう」
「殿下!お相手に心当たりがあるのですね!?」
「たぶん……そうだと思う。いや、きっとそうだ」
あの漂う香りは、運命の番にだけわかる特殊なフェロモンだろうと察する。毎回微かな香りだったので、大したものではないと思い込んでいた。
「なぜ……気づかなかったんだろうな……。自分が情けなく思う」
「殿下、運命の番は初対面で気づく者もいれば、後々になって気づく者もいらっしゃいます。初対面で気づく者は、だいたいがオメガ側がヒートを何度も経験している場合。気づかない場合はオメガがヒートを経験していない場合。つまり、ヒートの経験差によって漂わせるフェロモンの濃度が違うようなのです。殿下のお相手は出会った当初はヒートがきていなかったか、ヒートの経験が浅かったからなのでしょう。微かな香り程度ではわからないのも無理はありませんよ」
それでも微量にパスカルからいい香りがしていたのに、気づかなかった自分が情けないと思う。
「もし、殿下が運命の番と出会ったのならこれは一大事ですな。国を挙げての祝宴になりますぞ。じいはうれしゅうございます。あの仕事ばかりの殿下がっ」
「運命の番とは……やっぱり普通の番とは違うものだな」
「ええ。それはもう。運命の番は切っても切れない運命の絆で繋がった者同士。たとえ皇族と平民の番同士であっても、誰も引き離す事は絶対にできないと言われています。さすがの陛下や権力重視な貴族連中達も、運命の番が殿下の相手となるならば文句は言えないでしょう。それほど神により決められた関係と言いますか……大きな存在というわけです。殿下の妃にと縁談を持ちかけようとする悪辣な貴族共にうんざりしていましたので、殿下が本当に運命の番を見つけていたならこれで終止符が打たれるはずです」
「なるほど。運命の番の言い伝えは数千年前のあの歴史から物語っているな」
「ええ。そのおかげで運命の番は誰も引き離せないのです」
セバスチャンや他の部下達が早くも祝福ムードに包まれている。運命の番というものは周りによい影響を与えるものだと知っていたが、パスカルが運命の番なら自分にとってもこれ以上に嬉しい事はないだろう。
明日、もらいに行く。嫌だと言っても、納得させてオレのものにする……。
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