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51層 トニョの力の一端とテオの拾い物 前編

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「ん? なんかすっげー硬いのにぶつかった」

 氷を地道に削り続けた先に51層へと続く扉があった。扉は頑丈であり、テオの力でも傷一つつかない。どういう原理か、常に水に触れているはずなのに錆びもしていなかった。

「本当にこんな水底にあるのか……凍ってて助かったぜ」

 ロビンは歩いてきたトンネルを振り返る。
 もしも正規ルートで泳いだ場合5分以上は息を止めて潜らなくてはいけなかった。水面とはそれほどの距離が離れていた。

「凍らせる以外にも水中生物を使役テイムしたり、もっと荒業なら炎魔法で干上がらせるなんてのも手かもしれませんね」

 笑えない冗談をトニョは飛ばす。

「こんな水量を干上がらせる魔法使いなんて伝説の不滅の魔女くらいのものだわ」

 専門家のマチルドはあきれ果てる。

「でも……本当トニョとここで合流出来て幸運だったわね……じゃなきゃずいぶんと長い時間足踏みでしょうね」

 凍らせることも使役も干上がらせることもできない。魔法使いとしてまるで立つ瀬がない。

「足踏み? 詰みの間違いではありませんか? タンクも魔法使いもヒーラーも何もできずに危うく全滅するところでしたし」

 またも笑えない正論をぶちかます。

「あんがとな、トニョ! 助かったぜ!」

 全員が押し黙る中、テオだけは元気に明るくお礼を言う。

「急いできた甲斐がありましたね。それでは立ち話してないで次へ進むとしましょう」

 扉の向こうを探知し安全を確認した一行は51層へと踏み入る。
 比較的人工物に囲まれた遺跡エリア。地面には水の線が走っていた。

「これはクラーゲンの跡かしら」
「少なからず魔力を探知できます。そうですね、先ほど逃したクラーゲンに違いありません」

 追跡するとどういうトリックか、水の線は途切れてしまう。
 それも左右、二手に分かれる道の前で。

「ここの分かれ道、前にも来たので覚えています」

 そう言って前に出たのがトニョ。彼にとってはここはすでに通った道であり通過点だ。

「一方が全く魔物が出ない安全ルート、一方が魔物が大量に襲い掛かってくる面倒ルートです」
「お前ほどの実力者だと安全の対義語が面倒になるんだな……つうか、その記憶は確かなのかよ」

 ロビンは特に理由もなく訝しむ。

「この別れた道は52層の入り口の前で合流するのですがその時にジャックが死にかけててうるさかったのでよく覚えています」
「面倒ルート選んだのあいつかよ……らしいっちゃらしいか」
「それで選ぶ方向なのですが運良くクラーゲンが面倒ルートに迷い込んでいればいいのですが」
「それ運が良いのか?」
「経験値稼ぎにもってこいです。僕と一緒にいれば皆さんをすぐにlv70にまではキャリーできますよ」
「お前の力を頼るのは癪だが……魔王ぶっ殺すためだ、仕方ねえ!」

 ビクトリアが魔力探知を始めると違和感に気付く。

「ん……? どちらの道からも複数の魔力が感知できるんだけど」
「おや? しかも上手く自分の魔力を偽装してますね」
「魔物と言ってもクラゲだよな? 自分の魔力を偽装なんてできるのかよ」
「ロビン君。ダンジョン素人とはいえ考えが甘すぎます」
「ろ、ロビン君……?」

 まさかの君付けに面食らうロビン。

「そもそも魔法とは魔物が先輩なのですよ。マナの塊なのですから魔法に長けて当然です。人類はそこから魔法の技術を盗んで発展したのです」
「……それくらいの魔法の基本の歴史は狩人の俺でも知ってるしよ」
「……クラゲであるにも関わらず地上で活動している時点でもはやクラゲとは見ない。普通であればそういう考えに至ると思いますがね」
「そ、そうかよ……」

 トニョはロビンにだけはやけに当たりが強かった。最年長の男にあたるからか、それとも……。

「私の考えとしましてはクラーゲン討伐を優先するべきかと。この魔物はダンジョン内でもイレギュラーです。僕の初めて見る魔物ですし、階層を跨いで移動する魔物、そして階層のボスすらも倒す強敵……放置する理由がありません。ですがこれはあくまで僕個人の考え。皆さんのお考えはどうですか?」

 ロビンは肩をすくめる。

「どうもこうも……うちの決め方はいつも一つさ」

 そう言ってロビンは、それに倣ってマチルドもビクトリアも、とある少年を見る。

「よっしゃあ! クラーゲン、リベンジマッチだ!」

 このパーティのリーダーはいつだってテオ。彼の決断と覚悟から始まる。
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