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聖女の準備

7.迎える準備

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「同時期転移の可能性か…。」

「同時期転移ってなに?カインさんの腕にあるのは何?」

「兄さんの腕にあるのも、神官隊長の印だよ。
 違うのは、普通は左腕に出るんだ。
 右腕に出てくるのは特別な場合だけ。
 もうすでに今期の聖女がこちらに戻ってきているのに、
 さらに聖女が転移してくる可能性があるときに出るものだ。」

「さらに聖女が来るの?」

私以外にもう一人聖女が来る?
あの時代の同世代の子がもう一人来るかもしれない。

「それって、めずらしいこと?」

「過去に一度だけあったんだ。
 聖女の妹が後から聖女としてきた。
 その時の瘴気は過去にない大規模の発生になったから、
 一人では足りないと神が判断したのだと思われている。」

「…え?じゃあ、またそうなるかもしれないってこと?」

「その可能性もある。」

「そんな…。」

まだどうやって瘴気を消すのかとかわからないけれど、大変そうなのはわかる。
それが大規模になったとしたら、どのくらいひどいことになるのかな。
真剣な顔で話すキリルとカインさんの口調からは、
これは本当に異例の事態なんだと感じられた。

「というわけで、俺も神官宮にあがることになる。
 こういう時のために聖女用の部屋は二つ用意してあるし、
 そちらのほうにいるから…。

 それで…ユウリにお願いがあるんだ。
 新しい聖女が来たら説明する時に立ち会ってもらえないだろうか。
 同じ世界から来たユウリがいれば、安心すると思うんだ。」

それは確かに。
私の場合はこの世界に来てしまったことよりも、
律と一花が一緒に来てしまったことのほうがショックで、
助けてくれたキリルをそのまま信頼することができたけれど。

新しい聖女さんはこの世界に来て、たった一人で悲しむかもしれない。
帰れないことを知ったら…普通は落ち込むはず。
信じられなくてパニックになるかもしれない。いや、普通はそうだよね。
私がパニックにならなかったほうがおかしい。

「わかりました。
 役に立てるかはわからないけれど、そばに居て話を聞くことはできると思う。
 この世界に一人よりは、二人のほうが心強いと思うから。」

「良かった。ありがとう。
 右手の印が出たということは、もう来るのは確定のようなものだ。
 数日中には来ると思うんだけど…。」

三人が同時にびくっと反応した。
何が起こったのかわからないけれど、三人が驚いていることに驚いた。
誰かから連絡が来ている?

と思ったら、カインさんが無言で部屋から飛び出して行ってしまった。

「キリル兄様、私は聖女の部屋の用意をしてきます!」

「わかった、頼む!」

ジェシカさんもパタパタと慌ただしく部屋から出て行った。
あっという間に二人がいなくなってしまって…私とキリルだけが残された。

「何?どうしたの?」

「聖女の部屋が光り出した。来るんだ。」

「ええぇ!!」

もうきちゃうの!?聞いたばかりなのに、早くない?心の準備が~!


「大丈夫、とりあえず落ち着いて?
 俺たちがすぐに行くことは無いから。
 ほら、寄生しているのがついているかもしれないから、
 ユウリが聖女の部屋に行くのは安全を確認してから。

 また変なのがいて、暴れていたりすると困るからね。
 まぁそんなことはそうそうないとは思うけど、念のため。

 兄さんから大丈夫だって連絡が来たら向かうよ。
 それまで、お茶飲んで少し気持ちを落ちつかせてから、ね。」

「…うん。」

ぬるくなったミルクティはそれでもおいしかったけれど、
落ち着くのは難しくて…そわそわしながら連絡を待った。
落ち着かない私を心配したのか、キリルが髪や背中をゆっくりと撫でてくれる。
優しい手に少しだけ落ち着いてきた時、キリルが顔をあげた。


「連絡が来た。寄生は無かったみたいだ。行こう。」

「うん。」

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