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46、マッチン宰相の息子イワン

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「長男という理由だけで、王位につくのはおかしい。
 オレはただ思った事を言っただけ。
 それをすぐに革命に結びつけるなんて、オヤジは短絡すぎる」

 夜目にもスラリとしてイケメンぽく見える男は、どうやらマッチン宰相の息子のようだ。

 そう言えば、いつか宰相が自慢してたわね。

「今は地方に住んでいる、法律家の優秀な息子がいる」って。

  名前はえーと、イワンだったはず。

 私とレオンはかなり2人の近くに来ているのに、それに気がつかないぐらい2人は話に熱中していた。

   なんだか途中で話の腰を折るのも悪いような気がして、私達は黙って親子の会話に耳をすませる。
(盗み聞きの方がもっと悪いかな、エヘヘ)

「それはじゃな。
 昨日、地方に送りこんだ影の報告を聞いたばかりじゃからだ」

「その報告のほとんどが、リオン王に対する不満ばかりだった?」

「ほとんどじゃない。全部だ。
 魔獣や瘴気にやられて村は貧しくなる一方なのに、リオン王は贅沢な暮らしをやめない。
 そんな王はいらない、という声ばかりでな。
 今朝の貴族議会でも、このような危険思想を持つ者の取り締まりを強める、と決まったばかりじゃ」

「なら、1番に捕まるのはオヤジだ。
 『リオン様は顔だけのカス男じゃ。王の器じゃない。それよりも王にふさわしいのは弟のレオン様だ』
って、家でいつもわめいているからな。
 アハハハ」

「こら!イワン。
 こんな所で大声で言うもんじゃない。
 それにだな。
 最近この国にも聖女が現れて、今、王命であちこちの結界の補修にとりかかっている。
 これで王への反発もおさまり、ワシの首もつながる。
 メデタシ、メデタシじゃ」

「けど、それは聖女の力でリオン王とは無関係だろ」

「うーん。どーだろうか。
 『聖女は時の王と結婚すること』という法律もあるしな」
と胸の前で腕をくみ、禿げ頭を傾げる宰相にイワンを声をはった。

「オヤジ! だからそんな法律がおかしいんだって!
 聖女は国民の宝であっても、王家の私物じゃないだろ」

「およよよ。そっかな。
 大昔からある掟なんで、ワシは1ミリも疑ったこともないが」

 イワンの気迫におされた宰相がジリジリと後ずらしを始めたと同時に、私はまるで野ウサギのように茂みからピョーンと飛び出して、イワンの所へ駆けてゆく。

「ありがとう! 
 アナタの言う通りよ」

「へ? 失礼ですがあなたは誰ですか」

 突然目の前に現れた見知らぬ女にイワンはとまどいの色をうかべていたが、すぐに「ははーん」と男らしい美声でつぶやいた。

「ひょっとしたら、そちらは聖女様ですか」

「大正解よ。私はポポ。
 さっきお父様が言われていた聖女よ」

「初めまして。
 私はマッチン宰相の長男でイワンと申します。
 しかし、これは驚いたな。
 こんな可愛い方が聖女様とは」

 イワンはそう言うと、ポッと頬を赤く染める。

 クールで知的そうな男の人に「可愛い」だなんて言われると、一瞬そうだと錯覚してしまうわ。

 ただの社交辞令なのにね。

「聖女様だなんて。
 これからは私の事はポポと呼んでね。
 私もイワンと呼ばせてもらうから。
 でね。イワン。
 さっきの聖女と王の結婚の件だけど。
 なんとかならないかしら。
 ここだけの話、私はリオン王を見ただけで蕁麻疹ができるのよ。
 お父様に聞いたわ。
 イワンは法律家なんでしょ」

「すぐには難しいけれど、少しずつでも、古臭いしきたりを変えていかなければならない、と思っています」

「ありがとう。これからよろしくお願いね」
とイワンに手を差し伸べると、イワンは前よりももっと真っ赤になって私の手に自分の手を重ねた。

 その時だった。

「イワン、久しぶりだな。
 オレの顔を覚えているか」
とレオンが現れたのは。

「オマエ、死んだんじゃなかったのか!」

「いや。色々と事情があってな。
 しばらく、オレのポポの家に姿を隠していただけだ」

 レオンとイワンはそう言うと、肩を抱き合って再会を喜びあっていた。

 その後もレオンが「オレのポポ」を繰り返すのには笑ったけど。

(ひょとして、イワンに嫉妬してるのかな。案外、レオンはやきもち焼きみたい。でも、そこがまた可愛い!)

 あとでわかったことなんだけど。

 レオンとイワンは貴族学園の同級で、よき友、よきライバルだったらしいの。

 そして今は。

 新しいシュメール国をつくろうとする、同志なのだ。

 
 
 
 



 








 

 
 
 
 

 
 

 


 
 

 
 
 

 

 

 
 
 


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